2022/02/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にバティスタさんが現れました。
バティスタ >  
舗装も禄にされていない荒れた道を華美な装飾の、大きな馬車が荷を揺らしながら通る
貧民の街にはいかにも不釣り合いなそれは、ガタガタと大きな音を立て、街に暮らす者の視線を惹いた

「──止めて」

小さな、それでもよく通る不可思議な少女の声が幌の中から発せられる
やがて馬車はその言葉に従うように歩みを止め…まずは甲冑に身を包んだ騎士らしき者が二人、降り立った

それから続くように、ゆっくりと
漆黒に身を包む一人の少女が、貧民地区の土へと足をつけた

降り立った少女は辺りを見回すように銀色の視線を巡らせて、何かを見つけると、ゆったりとした足取りで歩き出す
歩幅を合わせるようにして、二人の騎士もそれに続いた

バティスタ >  
場所は丁度拓けた、広場のようなエリア
少女が歩み向かった先は…物乞いの一団のいる一角だった

大人から子供まで、恥も外聞もなく恵みを求め掠れた声をあげていた
王都へ向かう荷馬車や商団などなら一切無視するであろう彼らをその瞳に収め、足を止めると少女は小さく微笑みながら

「大丈夫ですよ」

「神が救いを与えて下さいます」

まるで謳い上げるように言葉を紡ぎ、側に控える騎士へと小さく何かを命ずる
騎士は敬を以て頷き、踵を返すと馬車へと向かってゆく

「けれど、救いや恵みは常に与えられるものではありません」

「今日の日を懸命に生き、明日への糧となることを神は望まれます」

「諦めず、強く生き抜いてくださいね」

やがて馬車から数人の人間を連れて戻った騎士は
細々と食いつなげば数日分程度にはなろうかという食料を物乞い達へと分け与えてゆく

バティスタ >  
たかだか数日
食いつないだところで未来が変わるわけもなく
彼らに待っているのは過酷な明日に他ならない
大人だけなく、子供とて同じ
身を売るか、盗みを働くか…
何かしら荒んだ世界に足を踏み入れることになる

甘い言葉と甘い奉仕は、そんな地獄をひととき、忘れさせる
何も変わらぬ未来、生き地獄が延長されただけとも気づかぬ、憐れなる者達

「──怪我や病気を患っている方はいませんか?
 我らが神ヤルダバオートの御名の下、治癒の加護を授けましょう」

そして奇跡を目の当たりにすれば───新たな神の奴隷が生まれる

聖者を自称するこの少女は
聖堂騎士団を率いてこういった"戯れ"を繰り返していた

バティスタ >  
騎士はまっすぐに立ち、食料の奪い合いなどが起きぬよう監視をし
弱き立場である子供がそれらを奪われないよう、一団の解散までを見守る

「…それでは、皆の明日に神の恵みあらんことを」

胸元に手を置き、騎士達と共に一礼する
その後も、噂を聞きつけ現れた者達にも最低限の食料と水を分け与え、
馬車の積荷が随分と数を減らしたところで、少女の戯れは終了する

「──相変わらず、子供達も多いのね」

広場に散り散りとなった物乞い達を眺め、そう呟く
例えこの王国に悲観的な未来しかなくとも、未来の種は生まれ出る

「…ふふ」

彼らが今日手にしたものは、偽物の安息と偽物の充足
そして偽物の善意と…偽物の信仰

なんてこの国に相応しい子供達───

再び馬車へと乗り込み腰を落ち着けた少女の口元には、歪な笑みが浮かんでいた

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からバティスタさんが去りました。