2022/01/23 のログ
フセスラフ > 「はぇ…………。え、ぅ。あ…………はい。
わかり、ました。ティアさ…………て、て……ティア」

差別が嫌い。ミレー族の友達がいる。しかも呼び捨て。
そんな風な対応をされるのは、自分の上司以外では初めてだった。
他者の名前を呼ぶことに慣れていないのだろう。というより、抵抗が強かったのか。
しばらく困惑したように言葉にならない声を出したが、観念してついに呼び捨てで呼んでしまった。

「ん。いつもそうですよ?よくわかりましたね」
なんて、驚いたように言った後。弄られていくうちにだんだんと彼も気をよくしたようで。

「えへへ……いいですよ。どのあたりなんですか?
……おれいだなんて、いりませんよ。ぼくにとってはこれがふつうですから」

快く微笑みを浮かべてその要求を承諾して。
夜闇を歩くのに慣れているのか。街灯がない場所でもまったく関係なく歩み続ける。
その間、大きく揺れないように注意して、あまりデコボコの道は歩まない様に。

「ティアはどうしてこんなところにいたんですか?
よるにくるようなばしょじゃあないとおもいますけど……」

歩きながら、そういえば事情を聴いていなかったなと思いだして。

ティアフェル > 「はい、それでヨロシイ。よろしくねー」

 抵抗感を滲ませ、非常に呼びづらそうに口にする声に満足そうに肯いた。
 至って気軽ににこにこと笑みを浮かべながらそう告げて後ろからひらりと上機嫌そうに手を振って見せ。
 
「そんな人生で甘んじてちゃダメだよ……。
 まあ、あなたをそうしたのはこの世の中ってやつだけどさ。
 だけど、こんな行きずりの女に命令される謂れなんてひとっつもないんだから。ちゃんとイヤだって云わなきゃだよ」

 いつもそんな感じと肯定的な反応に肩を落として唸るように零し。
 それから嫌がる素振りもなく弄られてくれるので図に乗って存分に堪能させてもらう犬(※狼)耳。思いのほか肉厚な感触が気に入ったのか、耳孔に浅く指を沈ませてこしょこしょとくすぐり。

「平民地区の冒険者ギルドの近くなんだけど……。ごめんねー重たいのに。
 送ってもらったら、お礼をするのがわたしの普通な・の」

 夜目が利くのか至って平常にそして気遣って進んでくれるのに感謝しながら、彼が彼の普通を口にするならこちらの流儀もきっぱりと口にして。

「仕事の帰りだったの。今日はちょっと運悪く絡まれちゃってねー。
 チンピラにナメられてしまったわ」

 普段はどうにかこうにか回避しているものの、時折こんな運の悪い夜もあり。
 すっかりぼこぼこだ。とはいえ、魔力切れを起こしていたが、そろそろそれも回復して治療するための術も使えそうだと。

フセスラフ > 「はい……よ、よろしく……」

これで機嫌がよくなってくれるならまぁ、いいか。と思って。
それに、ここで不機嫌になられても嫌だし、断り方もわからないがゆえに。

「でも、それでやくにたってるっていうひともいますし。
…イヤだ。なんてことばを、いったことも、いうことをゆるされたこともないですから」

ははは、とこれ以上は何も言わずに。
そうこうしているうちに、耳孔に指を入れられれば、さすがに驚きつつも飛び上がる真似はせずに。
触ればこんな夜更けでも温かさを触っている手に伝わっていくだろう。
ぴょこぴょこと耳が意識的に動くのも彼女にとっては珍しいだろうか。

「んぅ……くすぐったいですよぅ……。
ん?いえいえ、おもくないですよ。ぜんぜん。むしろかるいぐらいですし。
……あー、へいみんちくの……ぼーけんしゃ?ぎるど?のちかくなんですね。
……それがふつうなら、わかりました……」

こりゃいっても聞かなそうだと諦めて。素直にその言葉を聞いておこう。
それはそうと冒険者ギルドとはなんだ…?どこにある?状態なのを見せつけながら平民地区へと向かい。

「そうだったんですね。なにかぬすまれたりしてませんか?
においからそのばしょをさがすことができますけど」

と、彼の特性故か。鼻が利くことを言いつつ、被害状況を確かめて。

ティアフェル >  よろしくと返される声に得心気味に首肯していたが、根っからの奴隷気質な意見を聞けば軽く眉をひそめて。

「――だけど、奴隷だって云ってもフセスラフさんはわたしの奴隷ではないのよ?
 主人の云うことには従うべきなんだろうけど、わたしなんかにまで強制されることはないの。だから、嫌な時はちゃんと嫌だって云って。でないと――もっと擽るぞー」

 ふさふさと毛の生えた柔らかい耳を好き勝手に弄り倒す指が、くすぐったいと訴える彼の耳の中にまで入り込んで人差し指でこしょこしょと擽りながら。

「ふふ、どうよ参ったか。君もうっかり妙な女を拾ってしまったものだね。
 おお……そこで軽いって答える辺り騎士道を分かっている。立派。
 道が分かんなかったらちゃんと指示するので。
 はい、ではきちんとお礼されちゃってください」

 頑固なのが速やかに見破られて諦められた。けれど当人はご満悦そうに笑い。
 道が分からないようなら、あっち、そっち、と指さして誘導し。

「貴重品は端から持ってこないようにしてるからへーきよ。
 小銭程度なら取られちゃったけど、まあ、落としたと思って諦めるわ。ありがとうね」

 なるほど鼻が利く、とはなかなか便利そうだと感じながら。別件で何か頼めることもありそうだと考慮し。
 そして、ちょっと失礼、と断りを入れてから背負われたまま、詠唱を始めた。
 冒険者ながらヒーラー。多少妙な体勢でも回復術を行使するに弊害はないらしく、集中し術式を編み上げると、自らに回復術を施し始めた。

 薄暗い貧民地区の一角にほんのりと光が生まれ、傷跡を包み込むと腫れを引かせ傷を塞いでゆき。

フセスラフ > 「それは、そうですけど……。しゅじんじゃないから、でもみんなみんなそうしてきましたし……。
あ、ちょ、やめて……ひぁっ!クゥ~ン!」

まるで本物の子犬のような声を上げながら、擽られると体を震わせて。

「はい!まいりました!だからもうやめてくだしゃい~!
はひ、ひぃ……みみがまだムズムズします……」

ジトーと文句を言いたげな視線を向けながら、誘導に従う。
とんでもない人を助けてしまったものだ。と思いながら、嫌な気持ちは不思議となかった。

「それなら、まぁわかりました。
なにか、だいじなものがほかにとられたらちゃんといってくださいね?さがせますから」

そう言いながら、詠唱を始めた彼女を不思議そうにしつつ、前を向いて歩く。
バランスを崩さないようにしつつ、背後から温かい光を感じた。

「えっと……いまの、まほうですか?」

ティアフェル > 「わたしは、そのみんなじゃない。
 ――っ……!」

 嫌なことは云えと告げて置きながら、なんだかんだ強要めいたことをやらかしている。
 耳をこしょこしょやっていたが、不意に犬っぽい声が漏れると、びく!と肩を震わせて思わず動きが停止。筋金入りの犬恐怖症の本能で犬的声にも反応してしまうも。それを悟られる訳にもいかず。
 ただ彼の懇願故に手を止めたという態を取り繕い。

「わ、分かればよろしーい。
 こんなに毛深い耳なのにやっぱり結構くすぐったいもんなのねえ」

 などとやはり感心したように云いながら、じっとりとした視線にごめんごめんと笑いながら、詫びるように頭をぽすぽすと撫でる。
 それは年上の青年に対してというよりも弟にしているような扱いで。

「うん、もし何か盗られちゃったらお願いするね。
 探し出して咬みついてやって」

 なんて軽く口にしていたが。詠唱に入ると恐らく聞きなれないような言語とも音階ともつかぬ発声で紡ぎ出し。
 自身に回復術を施すと、すっかり傷を負う前の状態に戻り。腫れも引いてしっかりと開く瞳で笑って。

「そう、わたしヒーラーなの。魔法は回復しか使えないけど。
 だからけがをしたらちゃんといってくださいね?なおせますから」

 彼の先ほどの口調を少し真似しながらそんなアピールをして。

フセスラフ > 「はい…そうですよね」

と、そこまで言って彼女が驚いたような反応をして、どうしたのだろうと思う。
なにか、自分は粗相をしてしまったのかと思って。
やはり嫌だといったのは間違いだったのだろうか……?

「え、あ、はい。けっこう、かんじちゃうんですよね。
たたかってるさいちゅうはぜんぜんかんじないんですけど、ふしぎですよね」

また笑って撫でられれば、杞憂だったのかと嬉しそうにこちらも笑って。
なんだか、とても温かく感じる。

「わかりました。そのときはきっちりこらしめますよ。
……ひーらー。やっぱり、まほうってすごいですね、きずもなおせるんですもの」

感心したように、というよりは羨むような声で。
自分には魔法を使う知識も、魔法に関する知識を学ぶこともなかった。
だから、こうして魔法を目の前で扱われると、自分も出来るようになりたいと思ってしまうものだ。
それがないものねだりだとわかっていても。

ティアフェル > 「そう、だから……やり過ぎたごめんね」

 犬声出るほどやってしまった。それは自分に責任であって無暗に怯えて良くもないのだが。
 それなりにびくびくしたのでもうやり過ぎないようにしようと自省。

「そりゃーアドレナリン分泌という現象だねえ。戦ってる最中は脳内物質ってものが出るから。
 痛みとかも飛ぶでしょ」

 うむうむ肯いて口にし。今その物質が出ている訳もないので、擽ったかろう。
 もう擽ったりしないが。その代わりなでなでなで。頭を撫でていると背負われているのに年下のように感じて。

「お願いします。どうかギタギタに。
 いうてもミレー族の方が魔力は高いでしょ? 全然使えないの?
 覚えれば使えるようになるかもよ?」

 羨望めいた声に少し不可思議そうに小首を傾げて。
 潜在的な能力値に於いては己よりも高いはずの相手にふとそんな魔法のすすめ。

フセスラフ > 「いえいえ、だいじょうぶですよ」

やり過ぎた。と言われても、別に気にしてなどいない。
むしろこちらとしては彼女になにか失礼なことをしていないかという心配の方が強い。

「アドレナリン…?なんか、むずかしいことばですけどかっこいいですね。
へぇ~、のーないぶっしつ……」

よくわからん。というのがありありとわかる顔で応えていく。
学がない以上は言葉だけではイマイチ分かりづらい。というか実際わからない。
こうしてオウム返しして単語を覚えることしかできなかった。

「ん-と、まったくつかってないわけじゃあないらしいんです。
でもきほん、どうつかってるかなんてかんかくでしかやってないので……。
けっきょく、じかくしてつかったことはないんですよね」

ティアフェル > 「でも、耳は結構くすぐったいんだね。尻尾とかも?」

 人間にはない器官ではあるからどんな感覚なのかは少々気になる。
 さすがに背負われてる状態では手が届かないが、当然のように生えている尻尾に目を落としながら尋ね。

「脳内麻薬と云えばいいのかしら。
 かーってなっちゃうと痛みをふっとばす薬がばーっと効いてくるのよ、確か」

 嚙み砕いて……と考慮して説明してみると、なんか余計わからん感じになったかも知れない。
 しかし、これで理解しただろうと勝手に自己満足しては、

「ふむ、無意識にかあ……。そうね、身体能力強化や戦闘の時になんか自然と発動させてたりするらしいわね。
 魔法、使ってみたりしたい?
 回復術なら多少教えられるかも知れないけど……でも、禁止されてたりするのかしら」

 奴隷の身分であれば安易に魔法を習得されては弊害がでると、主人によっては禁止されていたりしそうだ。
 無理にどうこうというつもりはないが、才能があるのに放置しておくのは少々もったいないようにも感じて。

フセスラフ > 「えぇ、しっぽのほうはくすぐったさはそんなにはないですが、それでもかんかくはあるので……」

ゆらゆらとゆれる尻尾は確かに神経が通っているようで。
自分の意志で動かせるというのは、確かに気になるものだろうか。

「なるほどー。そんなくすりがあたまのなかにあるなんて。
そういうのがいつでもだせるようになれたらいいのに」

納得はしたようだ。原理はよくわからないが、そういうものだと理解して。
同時に、それらを自由にコントロールしたいなどとぼやいて。

「そういうものなんですね……。
え?えぇ。つかってみたいですね。
いまのぼくのじょうしはとくにそういうのをきんししてないからだいじょうぶです。
でも、たんじゅんにじかんがないんですよね……」

騎士としての仕事がある以上、なかなか時間が取れない。
学ぶことを仕事にできればいいのだが、そうもいかないのが仕事というものだった。

ティアフェル > 「ふーん……手足と変わらない感じ? えーと、ちなみに……犬のなのかな……?」

 狼と犬の耳と尻尾の違いなんて普通は見分けられない。狼でも犬でもどっちでも怖いのだが。一応問うてみて。
 
「幸せだったり戦ったり、その時々に応じてなんか出るようになってるのよ。
 ほんとよねえ、コントロールできれば便利なんでしょうけど。それは自然の摂理ではないから」

 彼の云うことは誰もが考えることだろう。もっともであって、多分禁忌的なことなのだと頬に手を当てて。

「それこそ脳内物質みたいに、状況に応じて勝手に機能してるんでしょうねフセスラフさんの場合。
 そっかあ。騎士なんてしてるのなら回復術が使えれば役に立つことは多そうなんだけど。
 まあ、向き不向きもあるからなんとも云えないし。他にやることがあるなら……ってか、やることがあるのに、こんなのんびりわたしなんかに構ってて平気? 怒られない?」

 魔法使いにもそれぞれ向いたジャンルはある。教えるなんて軽々しく云ってしまったが必ず習得できるとは限らないし、ましてや教師でもないのだ。
 余計なお節介はしない代わり、礼代わりに怪我をしたらいつでも声をかけるように告げて。
 あと、気になっていた点を訊いてみた。

「そういえば、フセスラフさん。あんまり年上のお兄さんって感じがしないのだけど、おいくつなのかな?」

フセスラフ > 「ん-。みためだけならオオカミとはどうりょうにいわれましたね。でもぼくじしんはイヌっぽいって」

そんな風に思い出話をするように答えて。

「はぇ~。そうなんですね。
しぜんのせつり、かぁ……。まぁこのくににいるじてんで、せつりなんてきほんてきにむしされそうですけどね」

なんて、冗談を言うように言っているが、冗談ではなさそうなのがこの国の恐ろしいところだ。

「そうなんですかね?よくはわかりませんけど、そうかもしれません。
えぇ、それに、まほうならさむいところでもあたたかくすごせそうですし。
……ん?だいじょうぶですよ。いまはひまだからみまわりをしてただけですから」

そう言って、何でもない様に笑う。
気にしなくていいと伝えるように。

「えーと……わかりません。ひをかぞえることも、としをかぞえることも。
うまれたときからしたことがなかったですし、そういうしゅうかんもなかったです。
まぁ、たぶん24ぐらいだとみためからどうぞくのひとにはいわれましたね」

ティアフェル > 「んー…? 結局どっちなのかしら……」

 狼犬とかそんなどっちともつかないような種類もいるらしいが、そういうのだろうか。
 うん、でもどっちでも結局実物は等しく怖い。
 耳と尻尾だけで良かった。

「まー……自然の、というより人の理ってやつかもだけどね、崩壊しているのは」

 あはは、と笑う声はやや乾いていた。モラルという奴が健在ならば今日気軽にぼこぼこにされている訳もない。
 
「ミレーの魔力に関してはよく分からないんだけどね。多分。
 そうね、せっかく魔力があるんならね。活用できれば便利なんだけど。
 そう? じゃあ遠慮なく」

 なんてありがたく背負われながらお言葉に甘えて送ってもらっているところだが――それにしても、先ほど回復したもので。実はもう普通に歩けるので降ろしてもらって大丈夫だったりする。
 けれど、そこを突っ込むものがこの場に不在であり。
 彼が云わないのをいいことに楽々運搬してもらっているなかなか図々しい現状。

「そっかあ、年齢も分からないんだ。なんだかあんまり年上な感じがしないから、もしかしたら、本当は見た目よりずっと若いのかしらって思ったんだけど……」

 そういうことではなく、長い隷属期間で今のような人格になってしまったのだろうと理解するとなんだか悪いことを云ってしまったような気になって口をつぐんだ。

フセスラフ > 「まぁどっちでもいいんじゃないですか?気にする人はあんまりいないでしょうし」

なんて、軽く言って。考えるのが面倒になったともいう。
それが彼女にとっても救いになるといいのだが。

「なるほど……?そういうものなんですかね。ぼくにはりかいできません。
そういうのをかんじたこともないですしね」

モラルがあるならば自分のような存在などいないだろうと思って。

「まぁもしかしたらほかのひととはまったくまほうやまりょくのつかいかたがちがうかもしれませんしね。
えぇ。えんりょなんていりませんよ」

快くそう言って、彼女を運ぶ。こうして使われている事を、使われているという自覚にすらない。
これが当たり前で、これに喜びを感じてしまっている当たり筋金入り、というべきか。

「そうかもしれませんねぇ。まぁ、じっさいにかぞえたことがないからもしかしたらそうかもしれませんね。
だとしたら、ティアみたいなひとをおねえさんってよべて、よかったかもしれません」

ティアフェル > 「……個人的に微妙に気になる……」

 犬も狼も苦手なくせに。いや、だからこそかなんか気になる。
 いっそどっちも違っていたらものすごく助かるけれど。その可能性は低そうで微妙に暗い顔をした。

「あなたにね、モラルのなんたるかを教えずに鎖でつないで使役してるような社会は崩壊しているというのよね……
 だけどモラルを感じたことがない割にモラルがあると思うよあなたは」

 国民の全員が状況に甘んじている訳でもないはずで。だからと云って立ち上がるというほどの気概もない半端な派閥は嘆息交じりに。

「そうね、だからもしかしたら、教えられてはいないけどきちんと魔力を使って活用できているのかも知れない。
 うーん、非常にありがたいながら、わたしは何くれとなくエラソウながら実はひどくモラルハザードなのかも知れない」

 奴隷制度に賛成していないし、そこら辺のミレー族を好き勝手に使っていいなんて思っていない割に、今の現状とは。
 元気溌剌なのに楽だし背中の熱が伝わって暖もとれるものだから担いでもらっている。
 客観的に矛盾しかない。

「お姉ちゃんが欲しいのならなってあげるよ」

 年上の可能性が高いし、誰もそんなことは云っちゃいないが、冗談めかして云い出してにへ、と笑いかけた。

フセスラフ > 「ははは……」

あいまいに笑って、答えることはしなかった。
ここで応えても、分からない以上は嘘にしかならない故に。

「もらる……?
よくわかりませんけど、なかまがよかったんだとおもいます。
それにほら……ティアみたいなひとも、このくににはいますから」

ね?と浮かない顔をしている彼女を元気づけようと笑って。

「なるほどー。だとしたらぼくってすごいのかな?ははは。
もらるはざーど????なんですか、それ?」

本気でその意味が分からないと思い、素直にそう聞いて。
よくよく考えればこの人は聞いたことを答えてくれる。
なら、今のうちに彼女が知っていることを少しでも自分も知っておこう。

「ふふ……もし、ほんとうにかぞくがほしくなったらいいますね」

と、どこまで本当か、冗談かもわからない言葉を告げて。

ティアフェル > 「えーと、道徳……人の道? そっか、いい仲間がいるのね。あなた優しいもんね。
 やー……わたしみたいな人はいたところでな……」

 世の変革ができる訳でもなければ、国政に堂々と反発を表す訳でもない。
 し、今は文字通り背中の上のお荷物である。
 元気づけようとしてくれている様子に、微苦笑気味に、どうもと頬を掻き。

「そうかも。隠れた実力派かもよー?
 ………道徳心のない戯けものってことよ……」

 モラルハザードの意味を真っ向から問われて、その純粋な問いかけに言葉が詰まりそうになるが、いっそ自虐的に説明した。
 降りた方がいいかな、悪いかな、と常識的な自分がそろそろ囁きだしている。

「任しとけ」

 ぐ、と親指を立ててふざけた了解。弟たちからはゴリラ、ボス猿、姉怖い、と散々詰られているそんな姉をうっかり持たない方がいいに違いないが。

フセスラフ > 「やさしい、ですか?ふふふ、ありがとうございます。
でも、ティアみたいなひとがたくさんいれば、ぼくみたいなのもすこしはよくなってるでしょうし……。
まぁ、そんなことかんがえるよりは、いまをどうにかいきたほうがいいんですけどね」

少しだけ理想を語りつつ、今は現実を生きなければ、と。
どんな形であれ、彼女のような人と会えたのは本当に幸運だと思う。
同時に、彼女のような人を助ける事が出来たのも。

「かくれたじつりょく、かぁ。そうだとしたら、なんだかこころがおどっちゃいますね。
……どーとく、ですか。まぁたわけものではないとはおもいますよ、はい」

これはちょっと失礼なことを言ったかなと思い、あわててフォローはするが。
果たしてこのフォローがどこまで効くか。自分でもわからなかった。

そうこうしているうちに、誘導に従って彼女の家へとたどり着く。

「ここでよかったですか?」
と、聞きながら彼女を降ろして。
さて、どんなお礼をもらえるか、ちょっぴり期待しつつ。
そこから先はまた今度語るとしよう。
少なくとも、この夜はお互い、何事もなく過ごすことができたはずだろう、と……。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からフセスラフさんが去りました。
ティアフェル >  あれこれと話している内にいつのまにやら下宿のある建物に到着。

「ここ、ここ。どうもありがとう! 腕大丈夫 痺れてない?」

 貧民地区から平民地区まで、結局背負ったまま送ってもらってしまった厚顔な女。
 お礼はお茶やお菓子よりもがっつり肉とかのがいいだろうか、とあれこれ悩んで。
 好みなどを聞いて、担ぎ料、などとおどけつつなにかしらのもてなしをさせていただいたという。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からティアフェルさんが去りました。