2022/01/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ――カゴメに遭った。久し振りにズタボロだ。
荒れた路上に打ち棄てられたように転がる女。全身殴る蹴るで袋叩きにされて衣服は一部裂けて顔は腫れ、髪も乱れボロ雑巾状態になっていた、が。着衣の乱れなどはほぼなく、乱暴の痕はみられなかった。
この強姦大国に於いてその憂き目に遭ったことが未だないのはただ運が良いからとか、腕が立つから、という訳でもなく、単にそれを阻む技を習得していたからである。
要は、事に及ぼうとしたい相手を不能にしてしまうのだ。一時的にではあるが、使い物にならなくなり必然的に手出しができなくなる。
しかし――、そうなったからといって無傷で済ませてくれないケースも多々あるもので。腹癒せにボコボコに殴って憂さを晴らすというパターンは、さほど珍しくない。
特に数人いて退路が断たれるとTHE END
死なないだけマシと云うしかない。
「―――……っ、ぅ……」
都内でも街灯の数もまばらで、さらにそれが切れていても壊れていても放置されるような地域は、夜の深さも一層で、そこかしこに闇溜まりができていた。
その暗がりの中で冷たい路傍に傷だらけで放置され、苦し気に呻いて身体を折り。そこかしこを血で汚し、意識は朦朧。
当然のように投棄されたゴミに混じって、腫れた目にぼんやりと映る、建物に切り取られた星空。
冬の星座が冴え冴えと彩っていた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にフセスラフさんが現れました。
■フセスラフ > ジャラリ、という金属が擦れあう音がその場に響く。
そしてコツ、コツという足音が一歩ずつ、近づいていく音が走った。
その足音と共に、金属音がだんだんと近くまで響き始める。
足音と、その金属音だけ聞けば、まるで処刑人の足音のような恐ろしさを感じる。
ましてや、このような深い闇の中、その音は恐怖の足音にしか聞こえないだろう。
そして、音の主が街灯に照らされた。
浅黒い肌に、手入れされていないであろうぼさぼさの銀色の髪。
その首には鋼鉄の首輪がされ、そこから鎖が中途半端に伸びていた。隠しきれていないが、それを隠すように真紅のマフラーが巻かれている。
頭には狼のような耳……おそらく、ミレー族のモノ。
このような場所にいるミレー族など、ろくな存在じゃないことは明白だろう。
しかも、ボロボロの婦女子が目の前にいれば……。
非常に鋭い目付きで、ミレー族の青年は転がっている女へと近づく。
見下ろして、その腕を上げて……。
「だいじょうぶ、ですか?」
そう言うと、片膝をついて顔を覗き込んでくる。
立てそうか?とその手を差し伸べれば、そのミレーの青年が星空の光に照らされて、騎士服に身を包んでいるのがわかるだろうか。
■ティアフェル > 「―――……」
茫洋と気力も沸かずにただただ、路傍の石のように転がって見るでもなく夜空を双眸に映りこませていれば、不意に金属音が響いた。
奴隷の嵌められた枷のような音。
この区域ではおよそ珍しくはなく、奴隷なんて掃いて捨てるほどうろついている。
取り立てて奇異なものではないけれど、のそりと大儀そうに顔をそちらへ向けてみれば、そこそこ物騒な様相のミレー族。
一瞬ビク、と肩を揺らしたのはその偉容に対してではなく、頭頂部に生える耳の形に反射的に反応してしまう。
――犬恐怖症だからだ。けれども、ほぼ人の成り、といったミレー族程度ではその恐怖心を無暗に煽られることはないのだけれど、少しくらいはビクついてしまう。
そんな反応は、近づく彼にとっては暴力を受けて打ち捨てられてただ怯える女にしか見えなかっただろう。
「………はい?」
傍にきて腕を上げられた後、掛けられた声にきょとんと眼を瞬いた。
予想外の問い。気遣う言葉が意外だったかのように丸くした目を向けて。
それから、騎士の纏う軍服姿なのを確認すれば、納得して表情を緩め。
この有様で大丈夫か、との質問を投げかける生真面目な言葉が何故か少しおかしくて肩を揺らし。
「……ふ……、ここで、いえーい、元気~とか云われても信じられないでしょ?
見ての通りズタボロ。満身創痍」
転がったまま腫れあがった顔だけそちらへ向けて微苦笑気味に答えた。
■フセスラフ > 近づけば近づくほどわかるひどい状態。しかし乱暴された様子がないのは、少々不可解だった。
決して見た目は醜いわけではない。むしろこの国で純粋に暴力だけというのは逆に珍しい。
彼女がよっぽどそういう悪い噂があるのか、単純にそういう気分じゃなかっただけなのか。
まぁそんなことを考えるよりは、今、こうして怯えている女性を助けるのが先決だろう。
自分が近づいただけでこうも怯えるのだ。一人にしては置けない。
「そう、でしょうね。ちかくのやどまで、あんないしますよ」
そう言うなり、彼女の体を無遠慮に掴んで、おんぶする。
こういう時に歩かせるぐらいなら、こうした方が彼女にも負担にならないだろうと思って。
……これでもしまた、怯える様子があれば。男性が苦手なのかなと思う。
単にこのイヌ科の耳のせいだなんて、誰が思うだろうか?少なくともこの青年は思わない。
「しんでなくてよかった。というべきでしょうか。
ともかく、もうぼくがいるからだいじょうぶですよ」
そう安心させるように、おそらく言葉に慣れていないのだろう口で、精一杯の優しさを見せる。
■ティアフェル > 全身痣だらけ。衣服には靴跡や泥が付着していて顔も晴れて無残。
――ここでそんな状態となれば散々に犯された後の始末なのが相場であるが。
そうはなっていないことを、不可解に感じているのがなんとなく分かるのか、に、と脈絡もなく少々不敵に口端を持ち上げて見せた。
追い打ちでどうこうしようというならば、受けて立つぞ、という意思表示か。それとも奇妙な状況だろう、と揶揄るかのような。意図は見受けた相手次第という笑い方。
それが、非力な女という印象を払拭しそうだけれど、その前に彼は不意に己の身体を持ち上げていて、気づけば背に軽々と負われていた。
「え、ちょ……、宿って……」
歩行が難しそうに見えたから背負ってみたという雰囲気は察した。けれどこの状況で背負って宿までと云われたら、その後何が起こるんですかと問い詰めるべきではなかろうか。
「え。えーと……うん、まあ……そう、ね…? 生きてりゃ何とでもなるわ。
だけど……あの……あなた誰なの……? 見ず知らずの人に宿に連れてくからと、大丈夫と云われてもですね?
『わあっ、そうなのね。一安心』って安堵する女って危機感なさすぎですよ?」
と云いながらも、安心させるように語り掛ける声も、気遣いから背負って移動するという行為も察せはして。
危険性は感じないけれど、そこで鵜呑みにするってアホじゃないのかと悩まし気に揺れるアホ毛。
■フセスラフ > 戸惑っている様子にどうしたんだろうと思う。
こういう時は近場の安全な場所まで届けるのが定石だと習ったが。
いや、自分がミレーだから信用できないのかな。だとしたら悲しいけど仕方ないな。
なんて見当違いな方向に思考が飛んでいくが、その思考のまま歩きつつ。
「あぁ。ぼくはフセスラフっていいます。きしです。だからだいじょうぶですよ」
傍から聞けばあまりにも不審な言葉だが、どうにも彼は本気でこれで通じていると思っているらしい。
現にまったく気にせずに宿まで歩んでいるのだから。
「やどにつけばとりあえずはだいじょうぶですよ。
あしたのあさになるまでいれば、もうあんしんですから。
…………ぼく、そんなにおかしなこといってますか…?」
思わず、不安そうに耳と尻尾を降ろしながらそう聞き返した。
■ティアフェル > 天 然。
彼とのやり取りでそんなに文字が大きく頭の中に浮かび上がる。
「きし棋士騎士……? そ。そっか……。フセス、ラフさん? 珍しいお名前ね。
えーと。わたし、それで一安心すべき局面なのかしら。ムズ……」
見てくれも自称も騎士ではあるらしいけれども。この国の、というならばそれはそれで何も信用おけないところ。
衛兵も何も基本仕事しないというより汚職にまみれているから傾国状態であり治安は地に落ちている。
むむ、と彼の背中で難しい顔をして思い悩んでいたが。
彼は彼の正道を往く、と云うように至極真っ当なことを云っている態で。
なんとなくこのタイプの人を疑うのは労力の無駄な気がした。
油断させるための演技で、これが芝居ならばたいした役者だ。
「っふ……ぁはは、うん……可笑しいっちゃおかしい。――第一この辺の宿なんて鍵はオンボロ、ドアはガタガタ、宿主も信用おけなければ客層だって最悪。
扉も錠も役立たずで侵入されてなんて日常茶飯事なのに、安心はちょっとムズイって。
――それとも、一晩中朝になるまであなたが守ってくれるの?」
軽口めいて云いながら、不安そうに垂れる耳を背負われたまま、手を伸ばして、わしゃ、と撫でてみながら。
■フセスラフ > 珍しい、と言われて首を傾げつつ。
「さんはいりません、よ?ほら、ぼくはミレーぞくですから。
みてのとおり、どれいできしなので。よびすてでだいじょうぶです」
騎士服は確かに正規品なのだろう。それも、新品に等しい肌触りだ。
本人はそれに着慣れていないのは、この言葉遣いから何となく察せられる。
同時に、彼にとっての騎士像は非常にわかりやすい。そういう汚職も、この分ではそもそも『通じない』だろう。
とても扱いやすく、愚かで、正直者だ。
この国で生きていくには辛いぐらいに。
「そう、ですね。でも、こんなところでよるをすごすよりはずっといいかと。
…あぁ、それでもぼくはいいですよ?ひゃっ!」
わしゃ、と撫でられて驚いたような声をするが、同時にどこか嬉しそうな声でもあった。
手入れはされていないが清潔にはしているようで、意外と撫で心地はよかった。
ちょっと硬い感触だが、それでも刺さるという程ではなく、十分柔らかいと言えるだろう。
「あう…………。ねずのばんは、いつもしてますからだいじょうぶです。
ひとばんじゅうおきてるぐらい、みっかみばんずっとはしりつづけるよりはらくですしね」
■ティアフェル > 「そんなのわたしには関係ないわ。
友達にもミレー族はいるし、差別は嫌いなのよ。フセスラフさん。
わたしはティアフェルっていうの。ティアでいいよ。わたしもさんはなくてよしです」
見たところ自分より年かさのようだ。それならば、助けてもらっている最中でもあることから、さん、ともう一度つけて呼ぶ。
地方育ちで偏見を持たない性質。
ミレーだからどうのは正直あまり好まない。
「そーね、あなたって、部屋の隅で立って警護しててって云えば律儀に一晩中でもそうしてくれてそう。
わあ……見た目より硬い感じなんだ……わたし犬の耳に触るの初めてなの。へえ、こんなんなんだー……ほー……」
嫌がっている気配はないのをいいことに、なかなか間近で接触する機会のないイヌ科の耳に触れて珍し気に両手で触れては弄り出して。
自分より年上で見た目はがっしりと偉丈夫なのにどこか幼げな言動が少し面白くなって、そろそろ警戒心もざっくり削れ。
「ふふふ、ほんと。面白い人だねー。
それじゃあ、一晩中起きて見張っていろとは云わないから、その代わりわたしのうちまで送ってくれる?
ここからだと少し歩くけど……お礼におもてなしますぜ」
この分だと不埒なことを警戒する必要もなさそうだと。
彼の人の良さに調子に乗りそんな要求を。