2021/04/05 のログ
イスラ > ――どうしてか解らない、というのなら。出来ればそのままで在って欲しい。
氏素性よりも、また別の秘密を隠している。そんな後ろ暗い身としては。
それこそお天道様を真っ直ぐに見る事が出来そうにない心情だった。

意識されてしまっている、という事を意識してしまうと。それもそれで落ち着けない。
その他大勢の気配や視線が飛び交い、拡散せざるを得ない酒場の中。其方の方が落ち着くだろうという考えも。
入ったら入ったで、あまりマジマジと見つめられる事を避けるように。早い内に、夜食の一つにでもありついてしまおうと。
そんな焦りが、不注意を招いてしまったのだろうか。

「 まぁお陰様で。朝帰りを決め込んだとしても。またか、だなんて呆れられて。きっとそれでお終い。
仕事の無い日なんてそういう物だよ…大体ね。

…それはもう良いじゃないか。それより、さ。勿論経費として払うから…何か食べよう。夕方から歩き回ってお腹も空いて――」

ぶつかったらぶつかったで。…さて。ぶつかった相手によって色々と起きそうだ。
相手が普通の民間人なら。お互い謝って済む事が大半だろうが。
酒の入った、少々ガラの悪い輩にでも激突したのなら。間違い無く因縁を付けられる事だろう。
それを避けようという意味で。少年の動きは、護衛として適切だったに違い無い。

――ただ。

「 ―――― っ、 ぅわ…!?  っひゃっぅ――!」

引っ張られた、というより引き寄せられた。
雨に濡れたブーツと床とは、思った以上に滑りが良く。踏ん張りを利かせられず、容易に引き戻されてしまう。
一瞬前へとつんのめり。反動で彼の方へと、半ば倒れかかるようにして――受け止められれば。
否応なく、外套とシャツとを挟んだ間接的な物ではあるが。胸板と呼ぶには柔らかな、膨らみの存在する感触を。
受け止めた側の腕や胸へと。押し付けさせてしまう事になる筈だった。

おまけに。驚いて上げた声が高く跳ねすぎて。それはもうどうしようもなく…少年と、言えない物に
文字通り少女の悲鳴のように、ならざるを得なかった。

ブレイド > 彼の歩みは妙に焦りを感じるような。
それ以上になんというべきか、注意力が別のところに向いているというか。
そんな感じですらあった。
こんな雨の中だ、客が来ること自体はだれも気にしてはいない。
それが少年二人組であっても、その一方が貴族のような衣服をまとっていても変わらない。
だが、妙に早口に、それでいてさっさと行ってしまう彼は

貧民地区の場末の酒場、しかも、混み合っているそこでの歩き方を
失念していたとしか言いようがない。
だからこそ手を引いたのだが…

「うぉっ…!?っと…」

力がつよすぎたのか、それとも雨で滑ったせいか
彼はバランスを崩してしまい、自分はそれを受け止める。
そこで感じたのは…妙な柔らかさ。
それに悲鳴も高く、まるで少女のようなもの。
依頼主を受け止めた腕の中を見下ろせば、黙って見つめる。
顔立ちは……男にも女にも見える。ただ、ここまで整っていることを考えれば
どちらかと言えば女性っぽくも見えるだろうか。

「………ぇー…っと」

言葉に詰まる。なんといっていいものか。

イスラ > 基本的に。どんな者でも受け容れる、それが酒場という場所だろう。
それこそお天道様に反した者でも、顔を晒して表を歩けない者でもだ。
場にそぐわない身なりをしていたとしても。それが注文をして、金を払う、最低限のルールさえこなすなら。店側から文句は出て来ない筈だった。
但しそれは裏を返せば。金さえ払うのなら、どんな輩でも受け容れられるという事であり。
どれだけのロクデナシが混じっていても、営業妨害にさえならないのならばノータッチという事だ。
無防備な少女等が紛れ込んでしまい。悪目立ちした結果、破落戸共に連れ出されたり。逆に、宿泊部屋に連れ込まれたりしたとしても。
誰も止める事は無いのである。

幸い少年の動きが手早かった為に。
誰かとぶつかった拍子に因縁を付けられる、等というゴタゴタには至らなかった。
かといって、まるっきり何事も無く終わったという訳でもない。
思わず上げてしまった声は高く、女っぽい物となってしまった為に。周囲から向けられる訝しげな視線達の中には、きっと…
少年と同じく。声の主の性別を訝しみ、濡れて透ける肌を凝視して値踏みする。そんな物が着々と増えていく筈だ。

「 ――――ぁ…っ。ぁ、の、ぇぇと――――、 ―― ごめん っ!」

どうしたものか。どうすれば良いか。戸惑うのはこちらも同じ。
ただ、抱き止められた侭秒数が経過すればする程に。触れた場所から伝えてしまうのは、動転し高鳴っていく胸の音。
一度胸板に埋めてしまった顔を上げ、視線が交わり合ったなら。それはもう…ぐるぐると。目を回しかねない有り様で。
少年と抱き合い頬を染める、身なりの良い、性別不詳の誰かさん。
そんな光景が人々の好奇をますます集め。口笛を吹く者が居る。こちらに向けて手を伸ばし、尻でも確認しようという者も。
もう、いつ誰かが直接ちょっかいを出して来てもおかしくない。そんな雰囲気が高まって――

やにわ。赤面しきった侭少年の手を引いた。
店の奥。階段の方。…食事の為でも、酒を嗜む為でもない。
一晩休む――色々な意味で。そんな宿と呼んでも良いか否か、といった部屋が並ぶ階上へ。

ブレイド > 女?男のふりをしていたということだろうか?
それならば、最低限の自衛をしてここにやってきたということにはなる。
まぁ、それでも不足していたと言わざるを得ないが。
こっちが言葉につまっていると、周囲の視線も少しこちらに向いたようだ。
彼…いや、彼女?が悲鳴を上げてしまったのだからそれは仕方ない。
誂うような口笛に、少女に集まる視線は下卑たものがおおくなる。

とはいえ、この状況、どうしたものか。
こちらも男だと思っていたくらいだ。混乱だってしている。
彼女を連れて店から逃げるか?
とはいえ、雨はまだ続いている。
それどころか強くなる一方。
などと考えていると…

「んぉ!?ちょ、ちょ…まっ、まてって!!」

彼女に手を引かれれば、驚きに抵抗もできぬまま
上階の一室へと連れ込まれてしまう。
確かに、彼女が女だったとしてもこういうことであればなにも珍しいことではない。
周りの関心も、すぐに他に移っていくだろう。

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