2020/10/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティアフェルさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■ティアフェル > 富裕地区から一転して貧民地区――格差が極端な場所へ移動してしまえば、今日は多少身なりに気を遣ったので、この辺では少々浮きがちかもしれない。
けれど、そこをカモにしてくるような輩が湧いたところで「ニイサン、おねしゃす」と全振りしておけばどうとでもしてくれるし――そもそも結構有名人なので彼の顔を見た時点で逃げ出す輩もいる。
ガードとしては最強過ぎるので、油断しても安心安全で。とにかく安い酒場を当たる。
屋外の屋台形式がもっとも安上がりだが……さすがに最近夜半は少し冷えるので、屋根壁のある店を選び。
料金を比べて、落ち着いたのは飲み屋街の奥まった場所にある小さな酒場。カウンターとテーブル席がふたつだけの狭くて、小綺麗とはいえない、ドレスコード髭、みたいな大衆酒場だ。
場所が悪いのか低料金にしては客足も少ない方で、多少騒がしいところで文句を云われることもなさそうだ。
ここだ、と建付けの悪い扉を引いて今日のツレを引っ張っていくと、これまたちょっとガタつく小さなテーブル席に落ち着いて。
「お酒、お酒……あ、好きなの頼んでね。――わたしラム酒でー。あと適当に乾きものをー」
カフェバーとかで果実酒を傾ける普段だが。今日に限っては場末のおっさんのようなオーダー。食べるより呑むメインなので特に料理は必要ない。
ひたすら呑む、と肚を決めて安いが強くて甘い酒を頼んだ。
■クレス・ローベルク > 「(うわあ)」
うわあ、としか言いようがなかった。
何がうわあって、マジの貧民地区でマジの安酒場である。
例え何かの間違いで貧民地区でデートをする事になっても、男なら意地でも選ばぬであろう場所。
有名人とは言え、男も相当に派手な格好であり、つまり二人は現状、飛行船が如き浮きっぷりである。
「(まあ、此処まで来たら皿までだ。
その気になれば、此処に居る全員を殴り倒せばいい)」
と覚悟を決めて、男も注文する事にする。
自棄酒に付き合うからには、こちらもそれなりに呑まねばなるまい。
となると、度数が高かったり、幅のあるものは避けた方が良いだろう。
「俺はビール。ツマミは、干し肉をくれるかな?」
鉄板だが、しかしこれが一番多く量を飲める。
今日は、とことんまで飲むぞと、気合を入れる。
その内、店員(恐らく店主と兼任している)が酒や料理を運んできて、
「それじゃ、まずは乾杯から行こうか。
かんぱーい、っと。」
と言って、ジョッキを打ち付ける。
男友達のノリだが、気遣われるよりはこうして、ノリ良い雰囲気のほうが、色々と吐き出しやすかろうと。
■ティアフェル > よりによってまあまあお洒落した上で――こんな店に落ち着くのである。
くる店間違っちゃいないか、という顔をされるが。気にしない。浮くならとことん浮いてやろうじゃないかと、自棄酒しにくる奴はもう細かいことはお構いなしだ。
多分、昨今の変な客ベストワンはいただいた。
それから、飲み代は纏めないでいちいち払っておく。食い逃げ多発地域でもあるのでお互いの為である。
財布を取り出して注文と同時に会計も済ませてしまい。ラム酒はボトルで持ってきてもらうという本気っぷり。
手酌でとぷとぷと杯に注いで。
「あーい、厄日なクレスさんにかんぱーぁい」
厄日の元凶がとても軽い口調でのたまった。しょっぱなからビンタは食らうし愚痴に付き合わされるし挙句の果てにやけ酒のお共に駆り出されるのだから、凄く……ツイてない日だろう。嘆いていい。
にこにこしながら杯を合わせて、ぐーっといこうとしたが……蒸留酒でそんな真似はやっぱり不可能で、けほっと噎せて。
こく…と行ける範囲で呷り。
「んぅ……。いうほどおいしくは……なぃ……」
頼んでおいて若干後悔に眉根を寄せて呟いた。
■クレス・ローベルク > まさか、ボトルで行くとは思わず、うっかりティアフェルの顔を見てしまった。
この店、ボトルキープとか出来るのか、流石に出来るよなと戦々恐々。
幾ら何でもボトル一本を無駄にするのは、安酒とは言えもったいないだろうし。
「厄日言ったよオイ。まあ、良い良い。取り敢えず飲んで飲んで……」
と、酒を煽るのを促すが、しかし噎せてしまった。
……まさか、と男は思いつつも見守っていたが、やがてティアフェルが呟き一つ。
おいしくない、と。
「……オッケー。解った。ちょっとそのジョッキ、貸して?」
とはいえ、不味い酒を呑ませてもしょうがない。
男は、ティアフェルから一回杯を取り上げると、店主の方に声をかけて、注文。
ライムジュースと角砂糖を一個持ってきてもらった。
「まだあんまり呑んでないから、量は少しだけど……」
そう言って、ライムジュースと角砂糖を入れて、再び渡す。
所謂、簡易的なカクテルと言ったところだ。マドラーすら使っていないので、味わいは劣るが、それでも大分飲みやすくはなったハズで。
■ティアフェル > 多分もう来ない店なので呑み切れなかったら持って帰って焼き菓子の時に使うことになる。……忘れてなければの話になるが。
今日はとことん場当たり的な迷惑な女は、ラム酒は普段呑んでいる酒と違って癖があってキツイ。
単に呑みにくい。手古摺りながら啜っていると。
「ん? はい……」
呑みかけの杯を求められて、首を傾げながら託すと、果汁と砂糖を足して飲みやすいカクテルを作ってもらった。
おぉ、と手元に帰って来た杯を覗き込んで目を丸くしながら、
「ありがとー……
うん、飲みやすい。これならいけるかもー」
酸味と甘みを追加され、ライムの爽やかな芳香も手伝って癖が抑えられ大分美味しくいただけるようになった。
わあ、と嬉し気に頬を明るませて、くいいい、と調子に乗って呷り。
ぷはぁぁ……と大きく息づき。
「ほんと気が利くぅー。飲み友達としても最高ねー。今日は付き合ってもらえてラッキー」
株が上がった。容易く上場できるほど上がった。上機嫌で、炒ったナッツを摘まみつつ杯を傾け。
「わたしの愚痴ばっかだと、アレなんで。クレスさんも愚痴とかないの? とことん聞くぞー」
■クレス・ローベルク > 「ほんと、ソフトドリンクがあってよかったよ……」
と、ため息をつく男。
角砂糖については本来メニュー外だったが、追加で幾らか払う事で解決とした。
そうしている内に、店主が角砂糖の方も箱で持ってきてくれた。
使った分だけ後で払う事になるが、まあそんなに高くないので予算範囲内だろう。
「わーい、全く嬉しくねー。でもまあ、いい具合に酔ってきたじゃん。その調子その調子」
何に対する調子なのかは自分も知らんが、しかしテンションが上ってるのは確かなので、このまま楽しく呑んでくれればと思う。
勿論、こちらもビールをぐい、と傾ける。
こちらは、元より酒精が薄い酒だ。
女の子も見てるからか、少しばかり傾ける角度が高めで、
「ぷはぁ。安酒って言っても、やっぱりビールは最高だ」
と言いしな、少女が何か愚痴を聞いてくれるモードになった。
ついさっき、自分語りしたばかりなのに良いのかしらんと思うが、まあ促されたならば応えるべきだろう。
とはいえ、愚痴、と言われても急に出てこないもので。
「んー、そうだな――最近、試合でも冒険者業でもなんだけど、妙に強い女性に会う事が多いんだよね」
と、思いついた事を思いついたままに言ってみる。
普段はもう少し話題を選ぶが、酒で多少浮ついた頭では、あまり難しい事を考えるのも難しい。
だから、心の中にある流れに乗るように、
「んで、当然負けたり、或いは痛み分けとかになるんだけど、何かそのたびに男としての根本的な自信を無くしたりするね……。
特に、ほら、何時もやってることの逆をやられたりするとさあ」
何時もやってることの逆。つまり逆レイプである。
勿論、男は強さだけに自分の価値を置いている訳でもないが、しかし強さはやはり、大事だという思いもある。
剣闘士は勝たなくても良いが、勝てなきゃ駄目――というのは、先輩から教わった教訓の一つだ。
「何かこう、もう少し強さほしいなあって……」
と言って、またぐい、とジョッキを煽る。
やべ、ちょっとペースを上げすぎたと思うが、しかし愚痴を話すには酒精は必須。
なので、ペースは二杯目以降で調整とする。
■ティアフェル > 「おいしくなったー」
相変わらず小技の効いたスマートな男ですぜ、と感心しながら。要領は把握したので持ってきてもらった砂糖と果汁を適当に足して、マドラーも借りてぐるぐる掻き回しつつセルフで味を調節しながら呑み出して。
「そー云えば一緒にお酒呑むの初めてだねー。
なんかクレスさんは結構飲めそうな感じするけど、普段どーなの?」
いい飲みっぷり、と軽く拍手しながら、ビールを呷る様子に尋ねて。会話の端々に杯を傾けて自分の分を順調に減らしていくと、伴って頬に朱が差してくる。もう少し暑くなってきたところで上着も脱いで。
全体的にぐで、と弛緩しはじめ。
そしてイイ感じに気を抜きながら語られるリアル剣闘士お悩みごとに耳を傾け。
そこは茶化すこともなく真面目に相槌を打つ。
「なるほどねえ……。女は男より弱い、ってのはここいらで通じない常識とはいえ。
クレスさんって結構負けず嫌いだもんね。剣闘士として当たり前だけど……。
でも、判るよ。わたしだって……誰だってそうかも知れないけど、負けたくないもん。
悔しいのは嫌だし、次は絶対勝ちたいとか思う」
剣闘士のように対戦相手に勝つ、という勝負事での敗北ではないが、自分にだって当然負けたくない局面というのは存在するので深く首肯して。一層強くなりたいと零す言葉がなんだか酒の入った頭では妙に響いて。
「そーね……わたしは神様みたいに汝に強さを与えよう……なんてことは出来ないけど。
応援する。めっちゃがんばれーって、すごーく応援するよ。次は勝てるように祈るね」
女性の立場で安易に応援…と突っ込まれそうな剣闘士ではあるが……闘技場に出場するのだから、対戦相手とて納得尽くではあるのだ。間違っちゃいなかろ。
しかしそんなことを云っても、何も影響力はないだろうから自己満足の一環だ。
■クレス・ローベルク > 「(カクテルで強い酒を飲みやすくして女の子に振る舞うって、普通に狼の所業だよなあ)」
と苦笑いする男。
勿論、求められない限り手を出すつもりはないのだが――こうなると、ある意味貧民地区で良かったとも言える。
これが平民地区や富裕地区だと、あらぬ噂が立っていたかもしれない。
「俺はまあ、何時もは嗜む程度かな。
それなりに飲めはするんだけど、人気商売だからトラブル起こしたくないんだよねえ」
と、無難に言う。
尤も、他の理由として、『犯した相手に復讐される事があるので、その対策』というのもあるが、敢えて酒の場で言う必要はあるまい。
そして、こちらの愚痴を茶化さず聞いてくれているティアフェルを見ると、少しばかり嬉しそうに笑う。
別に、笑われるのが嫌いというわけでもないが――こういう、下世話な要素が混じった話をちゃんと聞いてくれるのは有り難い限りだ。
「ありがとね。君のようなかわいい女神様が祈ってくれるなら、験担ぎ的には百人力だ。
後は、実地の努力で勝負しよう」
と、冗談半分、つまり本気半分で言う男。
実際問題、身近に応援してくれる人がいるというのは、とても嬉しいことだ。
幾ら、男が悪役[ヒール]側に回りやすいポジションだと言っても、真面目に応援してくれる人が少ないのは寂しいものだ。
もう十分すぎるほど満足したので、男はジョッキを空にして、店主に二杯目を持ってこさせると、
「さて、それじゃあ今日の主役のターンだ。
どんな事でも言ってみるといい――これでも、君よりは年長者なんだから」
と言って、話を聞く姿勢に入る。
とはいえ、これは何も女の子にいい人ぶりたいというだけじゃなく、実際に興味があった。
何時もは決して暗い所を表に出さないこの少女が、自棄酒まで決意するほどの事とは、どの様なものなのだろうと。
■ティアフェル > もともと潰れる為に呑んでいるのだし、ノータッチ確約は成立しているので簡易カクテルは気が利く行動であるだけだ。
話してみるまでは、ただのヤバイ剣闘士な人としか認識していなかったが。
接してみるとそのギャップに目が丸くなる。嗜む程度と聞いては、酒量は多くないのかと肯いて。
「人気ねえ……………」
例え多少酒乱だとしても影響しないような気もするが。人気商売というのは難しいものなのかと首を捻りつつ。
そして、応援して勝利を願うことくらいしか友人としてできることもないが、逆に友人としてできる最大限でもある。
「へへへ。じゃあ気合入れて応援するよ。
―――だーれも見てないところで我武者羅に努力するとことか見ちゃったら、素直にがんばれって思うよ。媚薬だって自分で研究してるし、今日だって休みなのに勉強しに来てるし……こうして話すまでは、『近寄ったら孕む…』って避けるべき人かと思ってたけど。大分見方が変わった」
誤解されそうだが揶揄する訳でもない。思ったまま正直に口にしては。こくりと傾ける甘くて酸っぱくて苦いカクテルにした蒸留酒。
ぷは、と息を吐きかけたところで、ターン制だった……と回って来たお鉢にぐっと詰まり。
「んんぅ……まあ、単純に……
前向き前向きって猛進してるのがちょいツライ。そろそろ全力で後ろに爆走したい。
元気なヤツだって云われたら反射的に「へへん」って強がる自分どーにかしたい。
ほんとはめっちゃめちゃ楽な方に転びたい……そんな感じかなー」
いってから本格的に愚痴ってしまった、と後頭部をかしかしと掻いて。聞いてくれる相手がいるだけで楽になるものなのは理解しつつ、心底有難く感じつつ。やっぱ素面じゃやってられないなとぐいぐいと噎せてしまうほど勢いよく満たした杯を呷って、案の定げほ、と咳き込み。
■クレス・ローベルク > 「第一印象最悪!?と言いたい所だけど、実際正しい認識ではあるね。
実際、戦って女の子を犯すのに嵌り過ぎて、強姦魔になる奴もいるし。俺は……まあ、そういう後味が悪くなるの嫌いだけど。本質的にはあんまり変わらないさ」
信用されてるとは思うが、しかしその信用はやや男には重いものであるのも確かだ。
こうして情が湧いたが故に、男は彼女を紳士的に守ってはいるが、出会い方が違えば、彼女が犯されていたケースもあったろう。
そんな男を全力で信用してくれているというのは、有り難いが、その重さは手に余るものがある。
だが、それら全てを含めて、
「(ほんと、何ていうか、なあ……)」
可愛い女の子なんだよなあ、と思う。
色々と言い訳はあるが、結局は可愛いから守りたいのだ。
勿論それは容姿もだが、その性格も同じことで。
と、そこまで思って、
「(っと、危ない危ない)」
今は、彼女の話を聞くべきところだ。
そして、聞いてみると、シンプルながら、中々重い悩みだった。
――楽になりたい、かあ。
男も、そう思うことは多々ある。
だが、男との比較ではなく、少女を見た時、男は一つ思ったことがある。
酒に酔った意識は、それをそのまま、ぽんと口にした。
「……別にいいんじゃない?それは」
と、男は思ったことを口にした。
これが、男が自分で思う分には打ち消してしまうのだが、少女に対しては明確な否定ができる。
何故なら、
「別に君、誰かに恨みを買ったりしてる訳じゃないっしょ。
だったら、偶には強がらないで、後ろ向きになったり、止まったりして……全力で甘えちゃっていいと思うよ?
勿論、信頼出来る友達とかに限って、だけど」
少女は男とは違う。
裏切りとか、後ろ暗いしがらみとか、そういうのとは無縁の生き方なのだ。
それを羨ましいとは思わない――そういうのを含めて、お互いが選んだ生き方だ。
だが、
「楽ができるならさ、楽しちゃおうよ。
大丈夫だって。君みたいな頑張ってる子に甘えられて、嬉しくない奴いないからさ」
他ならぬ、自分が言うのだから間違いない、とは言わないが。
それでも、それは堂々と、正面向いて言うことができた。
■ティアフェル > 「第一印象以前の問題だよねぇー。風評がスゴイんだもんこの人ってば。
ま、女子の中には強姦されて逆にそっちのが合ってるって趣向もあるからなー。全面的に悪いと云わないし、そこんとこはクレスさんのが解ってそーだけど」
自分よりよっぽど空気が読めそうな人だ。現に今だって空気読んで紳士的ポジに落ち着いてくれてるのだから、そこら辺の強姦魔とは一緒にできない。んーむ。正面に座る姿を右に左に首を傾げて観察。
個人的に悪い人じゃない。
自分にとって今いい友人で頼れる兄さんで愚痴相手。
楽になるようにと意識してくれてるのか素の科白か、彼の言葉は重たげなところを除去してくれるようで。
嫌な顔一つせずに優しい答えだったもので大分ほっとした。先ほどただ呷っただけで味がしなかった酒の味が戻ってきた。
小さく笑って肯き。
「はい、現在進行形で甘ったれてます。情けないけど助かる。ありがとう。
……ま、なんだかんだ甘えちゃってるし、今も弱音吐きまくりだし、強がりたくもあるけどできてないし」
意地を張るのもほどほどに、いいといって呉れる場合は甘えようと素直に首を縦にしてほっこりと笑みを広げた後。少し躊躇いがちに口を開いた。
「………ほんとは、魔法を使えるようにしてくれるって云ってもらってるんだ。
でも………交換条件で関係を持つっていうのがあって。それは……わたしには難しくて困ってるの。
もし、このままそれをした方が楽だからって選んじゃったら……わたしは頑張ってる子じゃなくなるよね……」
できない最大の楽。こうして真面目に話を聞いてくれて弱音を吐かせてもらっているものだから、調子に乗って甘えてしまい。かなり逡巡はしたが、ぽつぽつと、ちょっと前を見れずに杯に残った酒を見つめながら零した。
こんなこと聞いても困るだろうなあと少し後悔しつつも。
■クレス・ローベルク > 「まあ、人の性癖は色々だからねえ。
ただ、捕まってるミレーや、騙されて出場している選手相手でも同じことはするってのは、頭に入れておいてよ?」
と、一応忠告はしておく。この少女がその辺を解っていない訳がないので、これはただの照れ隠しだが。
或いは、自分はダーティな立場だと言う自己認識を崩さないための、自己防衛か。
「いやいや。こちらこそ、可愛い女の子とお酒が飲めてるんだし――」
と、礼に対して、こちらこそと笑った所で。
ふと、彼女が纏う空気が変わった。
何というか、躊躇っている様な。
そして、話されるのは、この街では珍しくない交換条件で。
「……成程」
一体、それがどのレベルの信ぴょう性がある話なのかは解らない。
魔法を使えるようにしてくれる、というのがそもそも嘘である可能性を考えないわけではない――が。
だが、少なくともティアフェルにとっては、その二択は信頼できるのだろう。
ならば、そこについて突っつくのは違う。
重要なのは、
「魔法の能力は取り戻したい。
でも、その為に関係を持ったら、自分は頑張ってる子じゃなくなる……か」
自己認識の問題と言えばそれまでだ。
彼女が、関係を持つことそのものについてどう思ってるかは解らないが、恐らく彼女にとってそれは短絡的な事なのだろう。
此処で、その論理を反証する事自体は出来るが、それだけでは、
「(ただ、彼女の考えを否定した、ってだけだよな)」
だから、男は彼女に返す事にした。
彼女がしてくれた事を、そっくりそのまま。
そのお返しの一番目として、男は笑顔で言う。
「んーとね、多分気付いてないから言うけどさ――
その悩み、めっちゃ馬鹿らしいと思うよ?」
これは、彼女の悩みの否定ではない。
寧ろ、逆。
彼女の悩みを全肯定するために、男は言葉を紡ぐ。
「だって、君今めっちゃ頑張って"悩んでる"じゃん。
ヒーラーとしてのプライドとか、お金の問題とか、患者さんの事とか、勿論自分の体や心の事とか――多分君のことだから、相当色々悩んで、答えを出そうとしてる筈だよ」
男がオーバーワークで身体を痛めつけていた時もそうだった。
止めるだけじゃなくて、こちらの信念と向き合って、否定しないでいてくれた。
ただ止めるだけなら、それこそ医者として強引にドクターストップをかけてもいい状況で。
彼女は、そういう人間なのだ。
つまり、
「心配しなくても、君は頑張らずにはいられない人間だよ。
だから、観念して頑張って悩むと良い。
結果、どっちを選んでも、それは"頑張った結果"なんだから」
少なくとも、自分はそれを解っていると。
そんな事は照れくさくて言えやしないが――それでも、彼女が苦しんでいるなら、それを伝えたかった。
■ティアフェル > 「まーね、だけどそれって別に『騙くらかしてでも出させろ』ってクレスさんが云ってる訳でもないんじゃん。確かに社畜はいかがなもんかと思わないでもないけど」
そんな完璧100%善人とも思っていないから安心してちょうだい、と軽く笑ってひらひら手を振る。
自分にとっていい人かどうかだけで構わないのだと表情を緩め。
それから、悩んでいるのに疲れてちょっと安易に暴露してしまったかも知れない、すごーくどうでもいいことだったようなすみません、と心中で土下座傾向だったが。
「…………ぅ」
馬鹿らしいと云われて、一音唸り。ですよねと肯き掛けたが、続けられた言葉に、
「………………ぅ゛」
また唸ったが。さっきとニュアンスが変化していた。そこで下向き加減の顔を上げてそれから目が合うと。うぐ、と全力で反らして。
「だめ、もう。酒がばがば呑んだこの明け方の流れでそんなん云われたら――泣くでしょ、泣きじゃくるでしょ、嗚咽と慟哭の嵐でしょ……」
なんでそう適当に流さず心に響かせてしまうこと云い出すのか、勘弁してよと唇を噛み締めて目を反らしてふるふると小刻みに震え。
「……わたしは、やっぱり親しくなりたい人とは交換条件は持たないッ。そういうことでやっぱりイイ…! もう楽は楽じゃないッ。
―――魔法を諦めることになっても………。
別にそれでも取り敢えずここは今まで通り友達だよねッ? なんも変わらんよね…ッ?」
変わるのは他者との関係性でもないのだから、一番崩したくないところだけ守る、と揺れがちだったがキレ気味に決定。がしん、とテーブル越しに手を伸ばしてぎゅーと勝手に握手を極めよう。
がしがし握ってぶんぶん振り。
そして、
「ありがと! もう吹っ切った。わたし……もう……休むー……」
……死んだ。否。寝た。妙な緊張が切れて、ぱたん……とテーブルに突っ伏して酒と眠気が混ざり合ってほぼほの気絶。身勝手極まりない迷惑女は、友人を厄介な目に遭わすだけ合わせてぴくりとも動かなくなったのであった……。
その後意識を取り戻してどうにか帰宅したかどうか、それは不明だが、きっと死にはしないので大丈夫であろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からティアフェルさんが去りました。
■クレス・ローベルク > しまった、言い過ぎたか、と男は思う。
通したい意見がある時に、敢えて強めの言葉を使うのはある意味常套手段だが――度を越して、泣かせてしまったかと。
だが、違った。それは、哀しみの涙ではなかった。
「何で君はそう、微妙にシリアスになりきれないかな……」
涙自体は嘘ではなかろうが、しかし自分から言うものだから色々台無しである。
或いは、これも無自覚な強がりなのかも知れないが。
だが、その後に続く言葉には、うん、うんと頷く。
男は、彼女が交わした約束の中身自体は解らないが、それでも後半の言葉については、強く首肯する事ができた。
「当たり前だよ。君みたいな子と、友だちになれるなんて――そんな機会は、そうそう無い……っていうか強いなあ握手!?」
だから、何でこうシリアスになれないのかと。
そう思った時には、既にティアフェルは夢の中。
用心棒として連れてこられた男は、それを見て苦笑いして、
「全く。これで遠慮を覚えてくれたら、言うことなしなんだけどな」
と言って、ティアフェルを担いで、個室のある宿を探しに行く男。
勿論、起きた時の着衣の乱れも何もなく。
男はそつなく、用心棒役をこなしてみせたのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からクレス・ローベルクさんが去りました。