2020/05/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にシアさんが現れました。
■シア > 王都の中でも最も治安が悪い一画
少なくともふらふらと散歩で来るような場所ではないのは確か。
にもかかわらず、そんな場所を小柄な少女がひとり歩いていた。
着ている服は、富裕層が身に纏うそれと同じもの。
帽子だけはどこか別の場所で調達したのか、ちぐはぐな印象を受けるけれど。
そんな出で立ちの少女が、饐えた臭いの立ち込める裏路地にいれば、目立つことはこの上なく。
とはいえ、あまりに堂々と歩いているものだから、厄介ごとの匂いを感じてか突っかかってくるような輩もいない。
面倒臭そうに胡乱な視線を投げかけては来る者はいるものの、それ以上のちょっかいはなく。
少女がわざわざこんなところにまでやって来たのは、とある噂を小耳に挟んだから。
なんでもミレー族が国に大量に連行されているというもの。
助け出そうとか、そんな大層なことを考えているわけではないのだけれど。
それでも、そんな噂を聞けばもやっとしてしまう。
せめて事の真偽だけでもはっきりさせようと、足を運んだのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にタマモさんが現れました。
■タマモ > と、そんな少女の前、地面にがらんっ、と木片の一部が落ちた。
直撃をすれば、結構痛いかもしれない、そんな大きさの。
ぱっと見は良く分からないが、良く見れば、それは屋根の一部が剥がれ落ちたものと分かるだろう。
そして、それを気にして見上げたのならば…
屋根の上から、その通りを見下ろす人影が一つ。
見下ろしているからだろう、その時点では狐の耳をした近い年をした少女の姿。
今のところ、その見た目は同じミレー族のようにも見えるかもしれない。
少女を見付けて近付いて、と言う訳ではない。
屋根の上を移動していたところ、屋根の一部が壊れ、落ちてしまったのだ。
もしかして、誰かに当たったかもしれない。
それを気にして見下ろすのは、当然と言えば当然だろう。
■シア > 打ち捨てられたこの地区であれば、廃屋も多い。
雨風に晒され、いつ朽ちてもおかしくない建物であっても、取り壊すとなればお金がかかるもの。
そうであるのなら、放置して崩れるに任せてしまえという実にいい加減な処置。
降ってきた木材の一部も、きっとそんな建物の一部だったのだろう。
結構な音を立てて、これまたひび割れた石畳の上を転がるそれ。
直撃して痛いで済むかどうかは、直撃してみないことには分からないけれど。
たぶん昏倒くらいでは済まないだろうなぁ…とは、大男の腕くらいの太さはあるそれを見つめて思う。
「………誰?」
殺気みたいなものは感じなかった。
故意なのか事故なのかは、はっきりしないけれども、その人影の頭に耳のようなものが見えたのなら、また別の話。
身体強化を施して、ぐっとしゃがみ込むと、全身のバネを使って跳び上がる。
いくら強化をしたところで、一足飛びで2階の屋根にまでは届かない。
廃屋の壁を思いっきり蹴りつけて、二段跳び。
漆喰づくりの壁に大きな凹みが出来た気がするけれど、誰も住んでいないのだから気にしない方向で。
「………っと。こんにちは?」
相手がどういう出方をするかは分からない。
けれど少なくともこちらは敵対する気はないので、少し考えたのちにそんな挨拶を口にする。
たださっきのが故意であった可能性もあるから、腰に付けたナイフはいつでも抜けるようにしておき。
■タマモ > どうやら、落とした屋根の欠片は誰にも当たってないようだ。
見下ろした先に立つ少女と、少し前に落ちたそれを見て、ふむ、と頷いて。
………と、改めて見てみれば、感じるのは違和感。
いや、それは感じて当たり前だろう。
ここは貧民地区、そこに立つ少女の姿は、明らかにおかしい。
「しかし、まだ居るんじゃのぅ…
こんな場所に、あんな格好で居る…おおおおぉっ!?」
どうやら、相手もこちらに気付いたようで、視線を感じる。
軽く額に手を当て、その様子を眺めていたのだが…
その少女、地面を蹴ってこちらに向かい、跳び上がって来た。
さすがに吃驚だ、つい声を上げてしまう。
もっとも、ここまで一蹴で来れないところを見れば、その力は強化系だろうと予想出来る。
なるほど、目の前までやって来た少女に、納得気にぽんっ、と手を打った。
と、そこで相手の少女は気付くだろう。
下から見れば、ただのミレー族っぽい姿だったが、こうして対面すれば明らかに違うものだと。
何せ、その格好は異国風の着物だし、ゆらゆらと揺れる尻尾が九本あるのだから。
「ふむ、こんにちは、じゃろうか?
いやはや、吃驚したぞ?まさか、ここまで上がって来るとは思わなかったからのぅ?」
挨拶を口にした少女に、ひらり、と手を振って返す。
ただ、その視線は、警戒によって意識する、そのナイフの方に向けられているが。
■シア > 屋根の上は、建物自体と同様に老朽化が激しく、足場に気を付けないと抜けてしまうかもしれない。
できるだけ衝撃を与えないようにと気を付けながら、その上へと着地した。
そうして先客に声を掛けたのだけれど。
「………尻尾が、いっぱい…?」
しかも、何だかもふもふっぽい。
耳は自分と近しい感じがするけれど、尻尾の雰囲気は全く違う。
そんな相手の正体はよく分からないのだけれど、挨拶を返してくれたのならすぐさま危険ということはないのだろうとナイフからは手を放す。
「うん……シアもびっくりした。急に目の前に木材が降ってくるんだもの。」
ミレー族でないのが分かれば、それで用事は済んだようなものなのだけれど。
強いて一言付け加えるのであれば、危ないことはメッ!といったところ。
人通りの少ない路地裏とはいえ、もしも誰かにぶつかっていたらたんこぶでは済まなかったかもしれない。
「えっと……ミレーじゃない…よね?」
それでも念のためといった感じで、帽子を取ってから問いかける。
空気の淀んだ路地裏とは違って、涼しげな風が少女の明るい色合いの髪と猫耳を揺らして抜けていき。
■タマモ > 少女のその反応には、もう慣れたものだ。
相手が人間でもミレー族でも、こうした反応を見せるのだから。
だからか、そんな呟きには軽く肩を竦めてみせるだけで。
それと共に、ナイフから離れた手に気付けば、視線はそこから離れた。
「おぉう…言うのぅ、シア、と言うのはお主の名か?
それならば、返すのが道理じゃろう。
妾の名はタマモじゃ、覚えるも忘れるも、お主の自由じゃ」
少女の言葉に、こう、つい視線を逸らしてしまう。
その様子は、少女の加え言いたい事に対し、誤魔化すかのように名乗っておいた。
大丈夫だったなら、それで良いじゃない、そんな雰囲気を感じるかもしれない。
「あー………まぁ、見ての通りじゃろうか?
言っても分からんじゃろうが、九尾狐、と言うものじゃ。
要するに、妖じゃよ」
帽子を取っての問い掛けに、なるほど、とある意味何かを納得。
この地での、この種族の扱いは知っている、同族かどうか気になるのは分からないでもないのだ。
同族と言っても良いが、まぁ、大丈夫だろうと、さらりと正体を明かす。
その名の通り、九本尻尾があるだろう?みたいな感じに、ゆらりと尻尾を少し大きく揺らしてみせながら。
■シア > 「うん。シアはシアだよ。
タマモ…だね。………覚えた。」
帽子を取って見せても、こちらに対する態度に変化は見られない。
見下してくるような相手の名前であれば覚えるような気はさらさらない。
けれど、そうではなくて、自由にしろと言われればきっちり記憶に刻み込む。
付け加えた一言に対しての返答はなかったものの、
謝ってほしかったわけでもないので、ちょこっともやっとはするけれど深くは追及しないでおく。
……相手も何だか目を逸らしているし。
「きゅーび? あやかし?
尻尾すごいね。ふかふかであったかそう!」
多種族に関する知識なんて得る機会がなかったから、妖と言われてもピンとは来ない。
分かることと言えば、ぎゅっと抱き着いてお昼寝したら、気持ち良さそうだということくらい。
じぃー…っと、獲物を狙う視線でその揺らめく尻尾の動きを追っていて。
「ミレーじゃないなら良いんだけど……
―――たくさん捕まってるって聞いたから。」
とは言え、初対面の見ず知らずの――名前は聞いたけれど――の相手に襲い掛かるつもりもない。
誘惑を振り切って、初志貫徹で此処に来た目的を思い出す。
相手がその話を知っているかどうか分からないけれど、訊くだけは訊いてみよう。
―――視線はやっぱり動く尻尾に釘付けだったけど。
■タマモ > 「………うむ、違ったら名乗り損と思っておったが…
合っておったようじゃ、良かった良かった。
そうか、まぁ、覚えると言うならば、それで良かろう」
うんうんと頷きながら、少女の言葉に、そう返して。
己にとって、種族なんてものは、何の区別にもならない。
したところで、何かある訳でもないし、ぶっちゃけ覚えるのが面倒なのだ。
…と、そんな考えまで伝えるのはあれなので、そこは伏せておこう。
別のところで、どうやらさっきの件は許されたのだろう、そう思う事にしておいた。
「まぁ、そうじゃろうな。
ほほぅ、そうじゃろうそうじゃろう、妾の尻尾の感触は極上のものよ。
暖かくもなるし、気持ちよくもなるし、言う事なしじゃ!」
種族に関しては、うん、分かってた、その反応。
しかし、その後の言葉に、己の反応が一転したのが分かるだろう。
明らかに機嫌が良くなり、自慢気に胸を張ってみせるのだから。
「………それを目的で来たのなら、これより先は進まん方が良い。
お主の目的のものかは知らんが、そんな場所、この先に幾らでもあるんじゃからのぅ?
それでも、進みたいと言うならば…」
が、少女の目的の言葉に、その雰囲気はがらりと変わる。
先程見た身体能力は、確かなものだが、それだけで切り抜けられる程に甘いものではない。
それを意識させるような、少し脅しを掛けるような、そんなもので。
一旦言葉を切れば、すぅっと瞳を細め、続き、こう伝えるのだ。
「相応の事を、今、ここで教え込む、それしかないじゃろうな?」
まぁ、実際に脅しているのだが。
名を知った者が更に奥へ行き、先に居るミレー族達と同じ運命を辿るのは、さすがにあれなのだ。
■シア > 「ふかふかもふもふの尻尾……いいなぁ……」
自分のそれも可愛いとは思うけれど、もふもふには僅差で負ける。
なのに、それが9つもあるのだから完敗といっても差し支えない。
がっくりと膝をついてしまうくらいには打ちのめされよう。
―――不安定な屋根の上でそんなことはしないけれど。
相手が急にご機嫌になった様子だから、余計に敗北感。
むぅーっと尻尾を逆立て、反論を考えてみるものの、
目の前で揺れるふかふかには勝てる要素が見付かない。
「――――何か知ってるの?」
自信満々のおちゃらけた雰囲気が急変する。
周囲の気温が下がり、空気が重たくも感じられる。
殺気ではないにしても、それはあからさまな威圧。
相手にとっては軽い脅しかもしれないけれど、
押し潰されてしまいそうな感覚に、下肢に力を込めてどうにか抗い。
「……知ってるなら教えて?
行くなって言うなら、行かないから。」
敵意も感じない。
なら、こちらの邪魔をするというよりは、行かせたくないだけなのだろう。
その理由までははっきりしないけれど、彼我の差は明確。
それに挑むほど自惚れてはおらず。
■タマモ > 「そんなに興味があるならば、この感触、味あわせてやっても良いぞ?
まぁ、公園やら行った時に会うの童達も、もふもふ言いながら抱きついてくるしのぅ。
するかしないかは、シア次第じゃが、どうする?」
その雰囲気から、視線から、更に言葉から、少女の気持ちは伝わってくるもので。
これもまた、いつもの事と思えば、ひらひら手を振って、問うてみるのだ。
もちろん、やるとしても、ここではないが。
どこか悔しそうに、言葉を選ぶ少女を前。
己は優越感に浸り、その姿を見詰めるのだった。
何だろう、お互いに見た目通りの子供とか、きっと第三者にはそう見えるのか。
「妾からすれば、この王都とて、もはや庭みたいなものじゃ。
どこにでも行くからこそ、それがあるかどうか、知っておるのは当然とも言えよう?」
あるのは知ってるが、普通に向かうと、道に迷うが。
と言うのは、今の雰囲気から、言わないでおこう。
そう答えながらも、それで引くような様子を見せぬ少女に、軽く視線を上げる。
「教えたら、いずれ、きっとお主は向かうじゃろう。
ゆえに、ある事はこうして教えてやるが、場所までは教えられん。
ただ、それを見せてやる事は出来るがのぅ?
それで良いならば、妾が出来るのは、そこまでじゃ」
行かぬと言えば、まぁ、行かないだろう。
だが、その可能性はまったく無い訳ではない。
それに、気にし続けるようでは、またいずれ、同じように探し回ってしまうだろう。
だから、自分が出来る事として、それだけは問うてみる。
実際のところ、見せるとは言うが、己がそれを一緒に見てしまうのも余りよろしい訳でもないが。
■シア > 何それ、羨ましい。
抱き着いて良いものなら、抱き着いちゃうよ。とばかりに手をワキワキさせ。
実に心惹かれるお誘いに抗う術など、この世には存在しない。
今日でなくとも必ず抱き枕にすることを誓い。
―――それは兎も角。
「……もったいぶらないで。」
この広い王都が庭なのだとしても、それは自分には関係ないこと。
周りくどい言い方に、膨れっ面を見せて、先を促した。
「よく分からないけど……見せてくれるなら、お願い。
―――シアにできることなら、ちゃんとお礼はするから。」
場所は教えられないというから、目隠しでもして連れていくのだろうか。
相手が其処まで信用できるかどうかと言えば、それはまだ分からない。
ただそれは危険なことで、こちらの身を案じてくれているらしいことは伝わってくる。
なら、答えはシンプルで。
一歩。相手の方へと足を踏み出してお願いする。
その先に何があるのか、分からないままでは嫌だからと。
■タマモ > 己の言葉に対する答えは、少女の手の動きで何と無く分かる。
まぁ、すぐ動かないのは、現状を考えれば当然か。
また後にでも、その機会を作れれば、その時にでも、と考えて。
遠回しの言葉に、膨れっ面を浮かべる少女。
そうした言葉遊びは、違う時にしておこうか、と。
そして、少女の言葉に、ぴくん、と反応を見せた。
…が、それは何でなのかは、すぐには見せないでおこう。
「仕方無い、そこまで思うならば、見せてやろう。
………あぁ、シア?
お主のような可愛らしい女子が、余りそう言う事を言うものではないぞ?
今回は、そのお礼、しっかりと受け取るがのぅ」
己に歩み寄り、懇願する少女。
それに答えながらも、後に続くのは、そうしたお願いの仕方に対するちょっとした注意。
ちゃっかりと、今回それを受ける己が言っても、少々説得力に欠けるが。
ふぅ、と軽く溜息を吐けば、すっと手を伸ばす。
その手は、少女の頭へと添えられようとするのだが。
それを素直に受けるかどうかは、少女に任せよう。
とは言っても、それが出来ないと少々面倒ではあったりする。
■シア > どうやらお願いは通ったらしい。
ホッとしたように表情を綻ばせるけれど、何やらお小言が付いてくる。
「………??」
たぶん、それなりに無理なお願いをしている自覚はあるから、ちゃんとお礼を申し出たのだけれど。
何か問題があったらしい。
ただ、それが何なのかはよく分からず、首を傾げるしかない。
「えっと……ありがと。
でも、お礼はしなきゃ……だよね?
シアにできること……あんまりないけど。」
最近はお皿洗いも覚えたし、料理の下拵えも覚えたけれど。
家事全般が得意かと言われれば、決してそういうわけでもない。
多少のお給金は貰ってはいるけれど、お金を請求されたら多分足りない気がする。
そもそも相手が何を望むのかも分からないから、それ以上はどうにもできず。
「――――っ」
不意に頭へと手を伸ばされると、びくっと身を強張らせる。
避けられないことはない。けれどそれが見に行くのに必要なことなら大人しく受け入れる。
それに殴られる、ということはないはず。……たぶんだけれど。
■タマモ > 「あー………まぁ、うん、後で分かるじゃろう」
小言の意味が分かってない、そんな仕草だ。
どう言ったら良いのか、そんな感じに視線を彷徨わせ、そう伝えるのだった。
「いやいや、妾を満足するに足る事は、きっと出来るぞ?
ともあれ、それは後じゃ、後。
それに、出来る事がないなんて言っておれば、出来よう事も出来なくなる。
そう考えるよりも、言われた事は何でもやってみせる!くらいは、言ってみんとな?」
どうしても、こうミレー族の者と言うのは、こうした者が多いものか。
そんな考えを浮かべながら、言葉と共に、伸ばされた手は、ぽん、と軽く少女の頭に触れた。
「………見たくなくなったならば、妾の手を払え。
それでは、ゆくぞ?」
そう伝えれば、ゆらりと手を伝い流れ込む力を、少女は感じ取れる事だろう。
いつもは、相手の思考を読み取る事に使う力。
それの応用で、逆に己の見た記憶を映像にし、少女の頭に浮かばせるのだ。
それは、その場所に居る相手に対し、気付かれぬような場所から眺めている光景。
見えるのは、この国でよくある事だが、奴隷市場であった、しかもミレー族ばかりを集めたもの。
何人もが檻に入れられ、その檻には値札が掛けられていたり。
ある者は、客達に対しての宣伝だろう、観衆面前で嬲られたり犯されたりしていたり。
中には調教中であろう者達の姿も、そこに見られるだろう。
そんな、好き放題にされる者達の姿が、流れる映像の中に次々と見えてゆく。
■シア > 「………?
やっぱり、よく分からないけど……うん、がんばる。」
できることなのだったら、ちゃんとお礼も出来るし、ひと安心。
それに、相手の言わんとすることは、確かにその通りではある気もする。
なので素直に頷いて。
ぽん、と頭をに手を置かれ。
殴られるわけでもなく、かといって撫でられるわけでもない。
何をされるのだろうと不思議に思ったのも束の間。
脳裏に何かが浮かんでくる。
「……………」
それは見覚えのある光景だった。
檻、首輪、値札、鞭、足枷、鎖………
やせぎすの自分でさえも、最終的に売られるまでにいろいろなことをさせられた。
そんな記憶と重なって、尻尾がぶわっと逆立ってしまう。
けれども、こんなことは百も承知のこと。
この国に限ったことなのかどうかまでは知らないけれど、こんな風に扱われるというのは、
ここでは最早常識と言ってもおかしくはない。
知りたいのは、捕まってしまったミレーたちがどこに連れていかれたのかということ。
それぞれが売られていくのは当然だけど、わざわざ国が買い集めるなんて不自然でしかない。
それがただの根も葉もない噂であれば、それで良いのだけれど――。
■タマモ > さて、この状態になれば、軽口を叩く余裕は無い。
集中が必要だし、それに、見ていて己も気分を悪くしたのは言うまでもなく。
しかし、知ったから助ける、なんて事は考えなかった。
この地では、それが当然となっており、下手な正義感は潰されるからだ。
それに、己には打破する力を持とうが、関与し過ぎてはいけない。
それだけは、式の一人に強く言われているからで。
映像はちゃんと見えているだろう、少女の反応で、それは分かる。
正直、このまま本当に見せ続けて良いのか、悩みどころではあるもの。
が、少女の意思に任せたのだ、どこまで見るかは任せよう。
少女の頭に浮かぶ映像は、それから先も続いている。
そんな光景の他には、売れて連れられて行くミレー族達もあった。
普通に扱われそうな買い手から、これから先、酷い目に合わされるだろう事が伺える買い手。
一人だけを連れて行く買い手から、何人もを連れて行く買い手も見られた事だろう。
その場所が、ある程度流れたら、また新たな奴隷市場の映像に切り替わる。
そこも、先程の場所と大して変わらないものであるのは、見ていて分かる筈だ。
まぁ、己も感じたのだが、少しばかりの違和感。
なぜか、どこも何人ものミレー族を連れて行く姿が見られているのだ。
短期間で、これだけを買い漁る、と言うのも不思議なもの。
もっとも、その行き先までは、さすがに確かめていないのが、少し痒いところではあるかもしれない。
■シア > 自分の知る奴隷商はたった一人。
もちろん、同業者がたくさんいるのは知ってはいる。
ただ実際には会ったこともなければ、名前も知らない。
けれど、今、脳裏には、そんな奴隷商が幾人も浮かんでは消え。
その奴隷商の数の十数倍のミレー族の姿が焼き付いていく。
その誰もが、笑顔で居るなんてことはなく。
みんな死んだような瞳をしているのが、わかる。
遣る瀬無さに、逆立っていた尻尾もいつしか萎んでしまい。
「……………ッ!」
それだけ奴隷の数が多いのだろう。
幾度となく場面は変わるのに、そのどれもが似たようなものばかり。
いい加減、鬱になりそうな気がしてきたところで、これまでになく大勢のミレー族を買い漁る場面が現れた。
彼らがどこに連れていかれるのか。それが見たいのに、場面はそこから動かない。
動いてしまえば、脳裏に浮かぶ映像さえも消えてしまいそうで、大人しくはしているけれど。
焦れているのが頭に触れた相手にも伝わるだろう。