2020/04/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 貧民地区の通りを、一人の男が歩いていく。
すれ違う同業者には、軽く手を上げて挨拶したり。
娼婦の客引きには、軽薄そうな笑顔で誤魔化してみたり。
「ふぅいっ。やっぱりここなんだよなぁ」
貧民地区の空気というのは、男にとって不快ではなかった。
いや、むしろ好んでいる部分すらある。
冒険者としての情報を集めるなら、貧民地区にこだわる必要も無い。
色んな場所の、色んなギルドに行けばいい。
だが、どこか貧民地区の空気は……。
「特別馴染む、気がするんだよねぇ」
きっと寒村出身だからだ、貧しい出だからだ、とクスクスと笑いつつ。
男は、とりあえず通りを歩き、何か無いかな? と散歩をしていく。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にビョルンさんが現れました。
■ビョルン > 相手の前途、一軒の店舗がある。
看板こそは”料理旅館”ではあるが主としたサービスは料理や寝床の提供ではない、所謂売春宿や置屋の類。
玄関先でカツカツと火打石の打ち火で送り出される1人の若者は路地へ出て、ふうと息をつく。
そこで相手を見つければ。
「そちらは、冒険者だったか……」
世界会議で顔を合わせた男だ。
名前までは憶えておらぬからそこで言葉が切れ、相手の姿をじっと眺める。
今日はお供も護衛も居ない。
■セイン=ディバン > 「おや?」
目的もなく歩いていれば、目の前に若い男が現れた。
どうやら、お楽しみの後だったような様子というか雰囲気。
声をかけられたのなら、男は立ち止まり、深々と一礼をする。
「こりゃあどうも。まさかこんなところで出会うとはね。
しがない冒険者のセイン=ディバンと申します。
まぁ、興味が無ければ覚えなくてもいいですけど」
明らかに自分よりも年下の相手だろうに、男は珍しくも穏やかな口調で話しかける。
基本この男は、男性相手にこういった対応をしないのだが。
やはり、相手が一角の者となれば、敬いや恐れというものは持ち合わせるらしい。
……本当に。普段はまぁそんなものが品切れなことが多いのだが。
「護衛もつけずに、とは。
ちょっと軽率じゃないですか?」
相手の力量は未知数なので、とりあえずそう問う。
舐めているわけではないが、もしかしたらそうとられるかもしれない。
■ビョルン > 「ああ、そうだ。確かそんな名前だった
──名乗りは、不要かな」
目上の者に頭を下げられるのには慣れている。
構わぬ様子で、礼を返すように頷いた。
男との距離が十分ならば、ここで習慣のように耳裏へポッケから出したハーブウォーターを擦り込む。
そうして再び相手へ向き直る。
そうして続けられた相手の言葉には、ごく僅かに口元を上げる。2ミリほど。親しい者か観察眼のある者にはそれが笑顔だと知れようか。
「──自分の庭を歩くのに、鎧を纏う者がいるでしょうか。
此処ならばさしずめ外付けの厠を出て、母屋へ帰ろうという敷石の上のようなものですが」
問答するように言葉を返しながら、相手を値踏みするように見ている。
冒険者とはいえ、あの会議で発言などしていた者だ。油断はしない。
■セイン=ディバン > 「もちろん。有名人ですので」
相手の言葉に、くすりと笑う男。
偉ぶっている、でもない。
そう、堂々としている。それが相手の印象であった。
「だからこそ、っていうものもありますよ。
アナタは若いのに地位や権力を手にしている。
……恨みを持つ人間も多いんじゃないですか?
外にも。中にも」
これは完全なカマかけである。
目の前の相手が、組織の代表というレベルなのは知っている。
おおよそ若いと言っていい年齢であることも。
なので、そこを結びつけて、そんな、それっぽいことを口にしているだけなのだ。
男は細巻を咥え、ぷか、と煙を吐き。
「まぁでも。アナタに危害を加えようなんて愚か者は。
少なくともそうそういないでしょうなぁ」
特にこのエリアでは、と。そこは内心に留めておきつつ。
男は、笑顔のまま、相手を見ている。
■ビョルン > 会議には出席したがどれほど己の名が売れているかは自覚が薄く、頷くに留める。
己と比べれば相手は飄々としているというのだろうか。冒険者らしい身軽さがある。
それが一種、新鮮に思えるタイプである故に挨拶以上の言葉を重ねて今へ至っている次第。
「──外の人間には詳しいことは語れませんが。
……子に殺される親ならその程度の親、弟に出し抜かれるようならその程度の兄だったということです。
勿論、これはうちの一般論。
ですが、」
ついついと大股に歩いて相手の距離を詰めて。
「現在は、独り──ですが、私が一声上げればしかるべき場所へ報せに向かってくれる人間はこの区画だけで両手の指で足りないくらい常在している。
──滅多なことを、お考えでないよ?」
煙草の匂いと、つけたてのハーブウォーターの香りが混じる距離では相手の耳に届くだけの声量で返す。
ふっと、笑うような息を吐いて添えた。
■セイン=ディバン > 男の認識では、相手の名は売れているのは間違いない。
冒険者などのある種の危険な仕事をしている人間。
あるいは貧民地区の人間なら、相手の名前か組織の名前は聞き覚えがあるだろう。
「おっと、これは失礼。
ちょっと詮索が過ぎましたか」
別段、そういう意図があったわけではないんですよ、なんて。
ははははは、と笑いながら。近づいてきた相手に、思わず軽く後ずさるのだが。
「……かははっ、そりゃあおっかない。
もちろん。そんなメリットの無いことは考えてませんよ。
……キミ、おっかないなぁ」
くくくっ、と喉を鳴らしつつ。男もまた、相手にぎりぎり聞こえるような声で囁き。
そこで、何かを思い出したように手を打ち。
「そういえば。以前ウチの腐れメイド……じゃなくって。
サボリメイド……でもなくって。
ネコのメイドミレーに優しく接してくださったっていうことで」
その節はご迷惑を、なんて言いつつ。頭を下げる男。
雇用しているメイドから話を聞いていた。
この相手が、メイドの身体を買いこそしなかったものの。
全うに対応をしてくれたということを。
■ビョルン > 「ええ、知りすぎていいことはない。
引き入れられるか消されるかです」
今は4月です、と言うのと同じ温度の声で手短に答える。
そうして詰めた距離で交わし合う言葉に言い添えて曰く、
「うちは人間の、不思議でもない力と不思議でもないやり方で人ひとり居なかったことにしてしまえます。
──それ以上は、『企業秘密』ですが。
あなたは人間でしょう、先日はただの人間ごときが──どうして平和を論じておられた?」。
思い返せば会議には十中参加、というよりも開始時刻に遅れた身。
既に何やら滔々と語っておったと思い出して問いかけ。
再び距離を空ければ己もシガレットケースから紙巻の薄荷糖を出して口へ。
それからメイドに話が及べば、
「さて、いつの誰だろうか──ああ、そう。卿の下女でしたか」
都にミレー族のハウスキーパーは数おれど、言葉を交わしたネコミレーと言えば記憶に新しい。
「優しくなどしていません。
──ええ」
己のしたことを思い出して口をつぐむ。沈黙は金。
■セイン=ディバン > 「違いない。……そもそも。
冒険者風情がちゃんとした組織に対して踏み込むのは、失礼以外の何物でもないでしょうしね」
ふぅ、と息を吐きつつ。男が肩を竦める。
冒険者など、あえて悪く言うのならゴロツキやチンピラと変わらないのだから。
……よく言えば、夢追い人とか、英雄候補とも言えるのだが。
「……うへぇぇ、本当におっかねぇ。
龍の尾を踏むようなマネはやめておきましょうかね。
……ただの人間だから、ですよ。
ただの人間なのに。魔王様なんて存在を妻にしちゃったから、です」
信じるも信じないも勝手ですが、と笑いながら。
男は自分の事情を素直に話す。
妻が魔王なので。ヘタに魔族との戦いとか激化すると困るんです、なんて。
ぷかぷか煙を吐き出しつつ、男は相手の言葉に苦笑い。
「の、はずなんですが。どうにも自分への敬いの足らぬメイドでして。
……おや、そうなのですか?
聞いた話では、下手したら蹴り殺されたかもしれなかったが。
その実、乱暴などもしない、紳士的な振る舞いだったと」
そう聞いていたのですが、と首を傾げる男。
かのメイドは冗談とウソは言うが。こと報告に関してはウソを吐いたことはなかったはずなので。
おや? だの。あれ? だのと納得していない様子。
■ビョルン > 「こちらこそ。
あくまで堅気の方へ泥を被せたくはない」
相手が肩を竦めると共感するように金糸の睫毛を伏せる。
もっとも、清も濁も混沌しきった王都では堅気だの何だのは意味もないのかもしれない。
そう思った矢先、告げられた言葉には驚きと、
「魔王、魔族を配偶者に──…ですか。
いや、私には到底ない価値観だ」
少しの侮蔑が混じる。
魔王とは初めて聞くが、人ならざるものを娶っては破滅したり価値観の破綻をきたした人間の話は聞き及んでいるからだ。
「──そうですか、でしたら。
卿の下女が私に紳士的に蹴り殺される状況でも推理して遊んでみるといい」
いずれも本当。繋ぎ合わせる場所で事実は容易く曲がる。
話しながら火のない紙巻きは、徐々に長さを縮めている。菓子ゆえに。
■セイン=ディバン > 「……堅気、ね……。
それは、主義ですかな? それとも血盟家の掟?」
冒険者のことを堅気と見るかどうか、となると。
これはちょっと難しい問題かもしれない。
冒険者は本当に、人物それぞれにスタイルとスタンスが違うので。
「……くあはははっ、正直ですなぁ。
いや、数年前の自分もそうでしたよ」
なるほど、そういう反応か、と男は声を上げて笑ってしまう。
普通の人間なら、この男の言葉など信じない。
まぁ、だからこそ男はそれを隠してもいないのだが。
「アイツの言葉に偽りなければ。
ずいぶんと馴れ馴れしく失礼に不躾な振る舞いで。
アナタに、買ってくれ、などと言ったんでしょう?」
雇っているメイドが、勤務時間の外で何をしようと男は干渉しない。
恐ろしい額の借金があることも知っているし。
その返済の為に娼婦の真似事をしているのも知っている。
性格だって、なかなかにぶっ飛んでいるので。
いつか誰かに蹴り殺されても不思議ではないからなぁ、という思いがあった。
だが、それとはまた別に。目の前の若者に失礼でも働いたのだろう、という予想をしているわけで。
■ビョルン > 「どうかな。
そう言いながらどうしても欲しい人材が居れば自ら泥を被せることも。実際は厭わないでしょうが──…。
ならば、己の建前かと」
外部の人間にこそ、ぽつり本音を零す。
それから相手が笑うと、無表情のまま首を傾げて。
「そんなに良い女だった、という訳ですか。
……たとえそんな存在が居たとて、純血の人間の『血』を継がねばならぬ身でして」
人間と番う運命を負うていると言外に告げた。
そうして話題がメイドの素行へ及べば、
「──いいえ。
その下女は、私のことを見知っていましたからさすがに不躾ではありませんでしたが──…ああ、そうだった」
拾えと言って落とした金を拾うかどうか、といった問答があったはずだ。
「それなりに、筋の通ったことを言う女でした。
達者で暮らせと、お伝えください」
流しで身を売る女を完全に見下しての行いに、自分からは言及せず。
薄荷糖は紙ごと口の中に消えた。
■セイン=ディバン > 「……建前。建前かぁ……。
……あははっ、アナタはなんというか……。
面白い人ですね」
若さと老獪さ。
情熱と無感動。
冷静さと幼さ。
そんなものが渦を巻いているように見える、感じる男。
アンバランスさは、そのまま魅力になっているのか、と。内心納得。
「そりゃあもぅ。可愛らしくてね。
……羨ましいともいえるし、可哀想だとも言えますねぇ」
自分は、並び立とうとしつつも人間であることを辞められていない。
結局どっちつかずの蝙蝠男、ならぬ蝙蝠中年だ、と思いつつ。
目の前の相手のまぶしさに、ちょっと、うぇ、ってなる男。
「……アナタにそう言っていただけると、少しだけ気が楽ですね。
……わかりました。伝えておきますよ」
筋の通った? あの駄メイドが?
……ありえない。と、そこまで考えて。男は思い至る。
あぁなるほど。コッチ側の人間だからこそ、コッチ側の人間として接したんだな? と。
貧民地区出身だからこそ。貧民地区で名を馳せているこの若者に対して、地金を晒したのだろうな、と思い、微笑み。
男は、吸っていた細巻をへし折ると、それを口に咥え。
「偶然とはいえ、会えてよかった。
なかなか有意義な時間をすごせましたよ。
……今度は、お互い酒でも飲みながら話したいものです」
男同士の語らいには酒だろう、などと。
いよいよオッサン丸出しなことを考えつつ。
男が再度頭を下げた。