2019/08/21 のログ
■イグナス > そう都合よくもいかないらしい、諦めて、歩き始めて――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/酒場『カラスの坂道』」にアセナさんが現れました。
■アセナ >
財布の中身を確認する。
どうにも心許ない。
しかし、稼ぐにしても今日は酒でも飲んでリフレッシュしよう。
そういう心積もりで酒場に来たが。
「…………」
どうにも客のガラが悪い。
チンピラか犯罪者崩れの類か、目つきが胡乱な連中がたくさんいる。
一瞬たりとも気が抜けない酒(麦香る素晴らしき一杯目)をちびちび飲む。
酒は美味いし出す料理も悪くないのだが。
この雰囲気、どうにも酔えない。
■アセナ >
魔狼の末裔たる己(おれ)が何故、人間如きにビクビクしなければならない。
と、数ヶ月前の己なら思っていたが。
人間というのは徒党を組む。
一人二人、喧嘩で片付けたところで待っているのは無限の報復である。
己も夜討ちされるとつまらんので無用な揉め事は避けている。
はずだったのだが。
その辺で捕まえてきたと思わしき女を連れてならず者が二人、入ってきた。
どうにも良くない雰囲気だ。
新しいツガイを紹介するにしたってオスの数が多すぎる。
トラブルか。飲む場所を変えるか。首を突っ込んだって面白いことは何一つない。
己の頭を様々な考えが迸る。
ええい、なるようになれ。
「そこのお前ら、町娘をかどかわすなど恥ずかしくないのか」
■アセナ >
『かどかわ……かどわかすの間違いか?』
酒場に男たちの嘲笑う声が響いた。
「ええい、細かいことをゴチャゴチャと!!」
女の手を引いて強引に縛られた手の拘束と口に詰められた布を引き抜き。
「早く逃げろ、ここは己が引き受ける」
そう言って裏手から逃がす。
あーあー。もう。面倒だなぁ!!
なんで人間のメスを逃がすためにこんなことしてるのかなぁ、己は!!
その時、重要なことに気付いた。
剣を宿屋に忘れてきていることに。
■アセナ >
なんか腰が寂しいなって思ってた。
でも人間じゃないからどうでもなるし、そういうの拘泥しない己にも非がある。
だが今は大問題がある。
己が力任せに生兵法の拳法でこいつらを叩きのめしたら。
八割くらいの確率で己が人間ではないとバレるのではないか?
そして周囲にはお楽しみを邪魔されたならず者たちが殺気だって己を取り囲んでいる。
あーあー。もう仕方ない。
こいつらが適当に己を袋叩きにする。
一通り盛り上がったところで強引に抜け出して泣いた振りして逃げ出す。
これしかない。泣いた振りをする前から若干泣けてきた。
誇り高き魔狼の矜持はどこに。
■アセナ >
『なんか言い残すことはあるか坊ちゃん』
ニヤニヤしながら構える男たちを前に前髪をふぁさぁと指先で気障に靡かせて。
己はこう言ってやるのだ。
「ああ、一対一でかかってこい!!」
ってね。
後ろから頭をぶん殴られて己は店の床に這い蹲った。
クソッ、人間のくせに剛打だな!?
あっという間に殴る蹴るの暴行を受ける。
店主は見てみぬフリ。壊されないよう椅子とかどけてさえいる。
ファッキン人間種!!!
■アセナ >
激しく殴られる。己も魔族だが程ほどに痛い。
クソッ、図に乗るなよヒューマンが!!
己が魔狼の姿に戻ったら貴様らなど一噛みで地獄行きだぞ!!
その場合、多分、魔狼の姿を笑われるだろうからまぁ…命拾いしたな!!
終いには己が飲んでいた酒を頭からかけられる。
ああ、クソ……ちびちび大事に飲んでいたのに。
『どうしてくれるんだよ……俺らのお楽しみを邪魔してくれてさ』
言い捨てる男の足首を掴んで笑う。
「お前はハエの交尾を邪魔したことに気が咎めでもするのか?」
顔を蹴り飛ばされる。
ああもう。滅茶苦茶だ。
そろそろ逃げ出しても問題ないんじゃなかろうか。
己は人間に義理立てする必要もなければ、男に殴られて悦ぶ趣味もない。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/酒場『カラスの坂道』」に紅月さんが現れました。
■紅月 > ふらふらと、何の気無しの散歩中…ドン、と勢いよくぶつかられた。
何かと思えば目元に涙を浮かべた女性…話を聞けば、どうやら危ういところを逃がして貰ったとか。
嫌な予感がして現場を覗きに来てみれば案の定としか言い様のない残念な光景が広がっていて…酷く軋む扉を押さえたまま、空いた片手で頭を抱える。
「…今晩は。
そこの頭から浴びるほど酒煽ってるおにーさんが、人助けしたお人好しって事でいいのかしら?」
扉を開く際に、ギィ、と、それなりの音が鳴った。
きっと変に注目を集めてしまったのだろう、あちこちから視線が刺さる刺さる。
けれど、それでも平然と…下衆には興味ないとばかりに、輪の中心の被害者に真っ直ぐ視線を投げ掛けている。
■アセナ >
そろそろあの娘は逃げおおせた時間だろう。
立ち上がって、振りほどいて、泣いて謝りながら去る。
今日の痛みは授業料としておこう。
……夜道には気をつけろよ、人間ども!!
その時、酒場に一人の女性が現れる。
紅花の染め色よりも赤い髪。
宝石のような深い紫の瞳。
思わず見蕩れてしまう。だがそれは周囲の男どもも同じのようだ。
「……己(おれ)はいい………逃げろ…」
肺に必死に空気を取り込んでそれだけ言う。
いよいよ持ってのっぴきならない状況になってきた。
『なんだ、オネーチャンが代わりになって俺らを楽しませてくれるのか?』
下卑た笑いを浮かべてならず者のリーダーと思われる男が一歩前に出た。
『こいつ殴っても何も楽しくねぇからよぉ……』
オスはあの女性に向けて手を伸ばす。
ああ、ああ。どうする!? 力を出すべきか…!?
■紅月 > 「ふふっ、そうねぇ…?」
にっこりと笑みを湛えた表情が、ならず者へと向けられる。
自身へと伸ばされた逞しい腕にソッと触れ、もう片方の手も其処に添えれば。
「…そんなにオタノシミが好きなら相手してあげるわよ下郎めがぁあ!」
ズダァン、と、盛大な音が鳴り響く。
ニヤついていた筈のその男は床に寝転び目を白黒させている。
他のならず者たちも、恐らく呆気にとられた事だろう…大の男が、女の細腕に背負い投げられたのだから。
「全く、たった一人を群れで囲んで甚振るだとか…恥を知れ、恥を」
まるで埃でも払うように手を叩きながら、一瞬、炉端の塵を見るより冷たい眼差しで変態を見下げる。
思いの外、地を這うような声が出たのは卑怯を好まぬ性格故かもしれない。
けれどすぐに視線を上げれば、正しい行いをした只一人の元へ歩を進めるのだ。
「…大丈夫? 動けそう?」
手を差し出しながら問う声は、表情は…打ってかわって心底相手を案じるものだ。
■アセナ >
驚いた。
人間というのは時として不思議な技を使う。
あれほど体格差があっても男を投げ飛ばす…恐らく、理合が握られているのだろう。
『お、おい……ダメだ、完全にノビてる』
『クソッ、てめぇ顔を覚えたからな!!』
好き放題言いながら男たちがリーダー格を抱えて撤収していく。
なんだ、頭がやられたくらいで。根性がないな。
「ああ……己は頑丈なんだ、すまない」
手を借りて立ち上がり。
誰もいなくなった店内でテーブルを立てて。
酒瓶に顔を映せば、ボトルの側面に頭が切れて血が流れた顔が見えた。
「いたた……ありがとう、助かった。己はアセナ、冒険者だ」
頭の傷に触れると顔を顰めて。
「……言い直す。剣を宿屋に忘れてきた冒険者だ」
えっへんと胸を張って言い直すと椅子に座り直し。
「なにか飲んでいくか? 礼に奢るぞ」
体の端々を触ってみるが、骨が折れたとか筋を痛めたとかはないようだ。
所詮、人間の殴打。恐れるに足りず。いや痛いが。
■紅月 > 女当人からすれば何の事はない。
相手の力の流れを見て、馬鹿力で投げただけである。
もしかしたら彼らには武道家か何かと勘違いされたかもしれない…そのくらい、見た目だけは、摩訶不思議な事になっていた。
「…次は現行犯、かねぇ?」
なんて迎え撃つ気満々の呟きが逃げ去る者らに聞こえたかどうかは知るよしもないが。
「頑丈って…怪我人が何言ってんのよぅ。
ほら、服にホコリついちゃってるし…」
そもそも酒まみれの彼に埃も何もないやもしれないが、思わず苦笑しながらテーブル側の椅子を整えて。
名を告げ胸を張りながら忘れ物宣言をする姿に思わず小さく噴き出し、クスクスと笑みながら…彼の近くに立ったまま、体の具合を確かめる様を眺めて。
「あせな、アセナか…ふふっ。
私はコウゲツ…東の果てにては紅の月と書きまする」
ひとまず自己紹介とばかりに名乗りを返す。
と、ゆるりと男の傷へと手を伸ばして。
「冒険したり、道具を作ったり…治癒術師としても腕をふるわせて貰ってるよ」
もし指先が彼の額に届けば即座に治癒魔法を発動させるし、途中で手を掴まれればただただゆるりと微笑むのみとなるだろう。
どちらにせよ、それが終われば向かいの席に腰かけるのだ。
「アセナのオススメで」
なんて、ちゃっかり酒のリクエストを付け足しながら。
■アセナ >
この女性は強い。人間も見所のある者がいるものだ。
そもそも人間の文化が気に入っているので、文化的かつ文明的な女性というのはいいものだ。
いい匂いするし。
「む……」
言われて気付いたという感じで服の埃を払って。
髪は後で宿屋で洗うしかない。
「紅月か……東の人間なのか?」
彼女の見る角度で色合いが違って見える髪を見ていた。
額に彼女の指先が届くと、体から痛みが消えてなくなる。
なんと、触媒の使用や詠唱、紋章などを使わずに回復の術を使うとは。
この女、魔女か……あるいは魔族なのかも知れぬ。
「これは驚いたな、治癒術師というにも凄腕だ」
指先を振るとハンカチで顔を拭って破顔し。
「もちろんだ、マスター。よく冷えた麦酒を二杯持ってきてくれ」
店主が諂いの笑みを浮かべて、二人の前に詫び代わりの料理と注文の酒を並べた。
炒めたベーコンと、酒か。女性が口にするには野卑かも知れないが……己はこういうのが非常に好きだ。
■紅月 > もしかしたら彼は、ちょっぴり抜けているのだろうか…?
パッパと服を払う仕草や一般冒険者といった出で立ちは平凡そのものである…が、この爛れた王都に限っては、その普通さが貴重にも思える。
人間にしては気配に違和感があるものの…何故だろう、なんとなく和むのだ。
「そうねぇ、文化圏は極東の方。
マグメールよりはシェンヤンの気風に近い、って言ったら分かりやすいのかな?」
少し考えるような仕草をしつつ、言葉を紡げば首を傾げ…その動きに合わせ、髪が揺れる。
深紅に赤紫に…キラキラと煌めく髪はガーネットにも似て、けれど重さを感じさせない。
時折ふわりと香るのは仄甘い花のような其れであり…もし優れた嗅覚を持つ者であれば、人間臭さが極端に薄く感じられるやもしれない。
「困ったことに、冒険稼業より治癒術師の方が儲かってるのよねー…基本ソロだし荒事控え目にしてるからかしら。
本業が行方不明よ、やれやれだわ」
何処か遠くを見詰めるように、明後日の方角に目を逸らしながらボヤく。
いっそ溜め息さえ出てしまいそうな哀愁を纏いかけ、けれども料理が運ばれればパアッと表情を輝かせる。
「わ、美味しそう!
こういうのでイイのよね~、お酒のアテって!」
ホクホクとした笑みを浮かべながらグラスを手に持てば、相手の乾杯の声を待って。
■アセナ >
「それにしてもさすがの鎧だ、あれだけ殴られても歪んでない」
誇らしげに軽鎧を撫でる。
本末転倒かも知れないが、高かったので自分の体よりもよっぽど大事だ。
「ああ、わかるよ。紅月はオリエンタルな雰囲気の美人だ」
匂いを嗅いで、違和感は確信に変わる。
やはり魔族か。
どうしよう。年頃も同じくらいみたいだし、同じ幼魔園出身だったら人間にボコられていた以上、気まずい。
ここは人化の術を見破られないようにしないと。
「リスクと引き換えの高収入だからな、冒険者なんてものは…」
話せるねぇとグラスを掲げて。
「乾杯。己も冒険者だけじゃ食っていけなくて、普段は日雇いで野菜とか運んでる」
ぐい、と酒を煽って。
冷えた酒精が喉を通る快感。明日からも頑張ろうと思える。
「ああ、生き返る。いや別にさっきのリンチ程度で死んだわけではないが」