2019/08/02 のログ
■コーデリア > まだ信用を得ていない立場に初めての仕事。
お声がけくださいなんて言っておきながら、捜査官はぱちくりとまばたきをする。
いいのだろうか、こんな自分に。とでも言いたげに。
だが表情はみるみる明るくなり、初めてのここでの任務に張り切り始める単純な頭が。
「赤毛の…赤毛の…。あっ、もしかして頬に小さな傷痕がある子ですか?」
さっき散っていった子供たちは大抵同じ面子で遊んでいる。
その記憶を手繰れば、今日一度も見ていない顔に思い当たって声を高くした。
余所者はこの地区の住民と触れ合う機会は限られ、まだ名前すら知らないのだ。
「了解しました!シスターシュライゼンさん!私にお任せください!
この辺りは暗くなると一気に治安が悪くなりますから、シスターはあまり遠くに行ってはなりません。
どうしても心配であれば…私から離れないよう、お願いします!」
ぺーぺー捜査官はきりりと言い放ち、お仕事モード。
一般市民、ましてや神職に就くようなしおらしい女性であれば自分が守るしかあるまいと。
以前子供たちが遊んでいて叱った裏通りへと足を向けながら、シスターの動向を気にするルーキー。
■ノワール > 「ああ、まさにその子だよ。
マザーには暗くならないうちに帰って来いと言われているんだけどね…。」
頬に傷跡のある赤毛の男の子、まさに探している孤児院の子だった。
どうやら、この捜査官はしっかりと仕事を果たそうとしてくれているらしい。
ころころと表情の変わる顔を眺めながら、女はもう一度肩を震わせる。
なかなか、初心な娘さんだというのは心の中だけの声で、決して口には出さなかった。
「フフッ…ああ、わかったよ。
じゃあ、とても心配なんでね…エスコートしてもらっても構わないかい?」
それに、まだここに来て浅いならば困ることもあるだろう。
このあたりの治安、そして何よりもよそ者に厳しい風潮。
だが、顔見知りとはいかずとも、孤児院のシスターが一緒だというならば、その風当たりも少しは和らぐかもしれない。
ここは、そのルーキー捜査官にお守をお願いして、ぴったりと後ろをついていくことにした。
■コーデリア > 富める者の不正に喘ぐ民を救えると信じて捜査官となったのに、
与えられる仕事といえば逆に生きるために犯罪を犯した民を締め上げることばかり。
それでも腐らず任務についているが、こういった類の頼み事とあれば俄然やる気は上がる。
子供を心配するシスターを放ってはおけない。
顔がわかっている以上、一人でもこなせる任務ではあるが、心配させたまま帰すのは可哀想だという判断にて。
「もちろんです!さあ、私の後ろに!
いいですか?万が一私に何かあっても振り返らず、安全な場所まで逃げてくださいね。」
キリッとシスターへと振り返り、そして必要以上に警戒しているせいでへっぴり腰にも見える体勢で歩く。
一人を守りながら移動する難しさを知っている証だが、同時に訓練でない荒事に対する経験不足の証でもある。
この時期、日は長いが、薄暗い裏道に入ればどこかひんやりと冷たい空気が流れていた。
以前赤毛の子を見た場所は朽ちた荷が放置された一カ所だが、生憎とそこには誰の姿もない。
ちょうど人が通りかかったため、捜査官は彼に声をかけ。
「すみません、この辺で赤毛の男の子を見ませんでしたか?
背は…このくらいで、頬に薄い傷痕があって……。」
いかにも余所者といった風情のエルフに対し、面倒そうに眉を顰めた男だったが、
その視界にシスター服の彼女を見るといくらか警戒心が薄まったように返事をする。
『そいつかはわからんが、向こうで子供を見た』という素っ気ない反応も、
捜査官にとっては重要で、珍しく言葉を返してもらった貴重な体験だ。
「ありがとうございます!向かいましょう、シュライゼンさ――――ぶッ!」
子供さながら、駆け出そうとしたもので前方不注意に角から出てきた屈強な男にぶつかる“エスコート中の”ルーキー。
華奢な躰はよろめき、男の刺々しい視線を浴びていることにも気付かず尻餅をつき。
■ノワール > なんだか、誰かに似ている気がする。
このまっすぐさ、そして汚れを知らない、否知る由もない純粋さ。
まだまだ慣れていないのか、及び腰で前を歩くその背中に、女は逆に頼もしさすら覚えた。
最近組織された捜査官といえば、孤児院の中でも話題に持ち上がることはあった。
しかし、その話題…あまりいい話は聞かない。
盗みを働いた人を捉えたといえば聞こえはいいが…その人間が、買える場所も何もない子供だったり。
ようやく抜け出せたミレー族を、捉えて貴族のもとに送ったり。
いい気分はしない内容ばかりだったが、この目の前のルーキーを見る限り、そんな気はしない。
「ちょ……捜査官さん、前!」
と、注意を促すのも遅く尻もちをついているのが見えてしまった。
あちゃあ、と頭を抱えて助け起こしながら、屈強な男の視線をものともしなかった…。
「大丈夫かい、捜査官さん……。
心配なのはわかるけども、ちょいと落ち着きなよ。」
張り切りすぎると、いいことはない。
そんなことを言い聞かせつつ、屈強な男の視線を、シスターもまた浴びていた。
■コーデリア > 「う……鼻がつぶれました……す、すみません。」
地面に打ったお尻より筋肉で潰れた鼻先が痛かった新参者は、赤くなった鼻を擦りながらシスターに支えられて立ち上がる。
ぶつかられた男も理解に苦しむだろう。
明らかに余所者と思われるきっちりとした格好のエルフが、大柄なシスターに宥められている様。
目の前のことだけに集中してしまうエルフもようやく男の存在に気付き、ぺこぺことお辞儀して。
「失礼しましたっ。どこか怪我は……。」
言いかけた捜査官の視線の先で、男は腰元から取り出したナイフを光らせる。
浮かべる表情は敵意というよりは、都合の良い財布を見つけたような嫌な笑みだ。
『詫びなら金目の物を置いて行きな。それとそこの修道女には話がある。』
薄暗い裏道で女二人。貧民地区の住民ではない出で立ちをしていることから、何か脅し取れるだろうと思われたらしい。
貧相な躰のエルフに性的な好奇心をそそられることはなかったようで、肉付きの良いシスターにのみターゲットを絞られている。
捜査官は再び警戒モードに戻ると、ジャケットの内ポケットに手を突っ込み、魔導銃の固定紐を外し。
「そっ、そういうわけにはいきません!
シュライゼンさん、今のうちに逃げてください!」
実戦経験がほとんどないためにうろたえながら、それでも最初の忠告通りシスターを逃がすべく促した。
『今のうちに』と言っても隙をついたわけでもない。
男はナイフを構えたまま、逆の手でシスターの腕を掴もうと太い指が伸びる。
エルフは追い払えればそれで良し、シスターは逃すわけにはいかないのだろう。
■ノワール > 鼻だけで済んでよかったと笑えればよかったのだろうけれども、どうもそういうわけにはいかないらしい。
懐から出されるそのナイフを見て、普通のシスターならば確かに怯えあがっただろう。
尻もちを搗き、怯えたような表情をしながら座り込むだろうか。
だが、あいにくこのシスターはそんな上品な気持ちを持ち合わせていなかった。
「…まったく、ここはやっぱりそういうところだからね。
捜査官さん、よく見ときな。こういう時はねぇ…。」
女の目が鋭く光る。
逆の手でつかまれた腕、そのまま男の腕の中にでも引きずり込まれるのだろう。
女は、そのまま流れに身を任せて、懐の中に納まる。
大柄といっても、やはり屈強な男の前では、ただの背の高い女だ。
その太い腕の中で…突然、男のほうが悲鳴を上げるだろう。
「思いっきり、足を踏んづけてやればいいんだ。
そいでもって、思いっきり……顎を殴り上げる。」
まるで、流れるような動きで、女は男の顎を跳ね上げた。
両手を組んで思い切り握り、アッパースイングで男の顎を跳ね上げる。
さすがの屈強な男も、急所の一撃で倒れ伏すだろう。
「こういう場所だと、怯えた顔をしたらすぐにつけあがるやつが多いんだ。
覚えときなよ…コーデリア捜査官さん?」
■コーデリア > エルフ種が得意とする自然の魔法は周囲を巻き込みやすく、弾丸で男を撃つしかないと判断した捜査官は銃を抜き
構えた―――が、それより素早く男はシスターを懐に取り込み、そしてさらにそれより素早い動きでシスターが男を撃退する。
男は衝撃に白めを剥き、巨躯を仰向けにして倒れた。
砂埃が舞うも、エルフはその様子を見届けている。というよりは、呆然としていると表現するべきか。
「……はっ。」
我に返った。
魔導銃は構えていたが、引き金を引くのを忘れていた。
背丈があるとはいえ、無力な立場であることが多いはずのシスターが巨漢を撃退するというシーン。
名前を呼ばれ、まだどこかぼんやりしていながらも頷いて返し。
「はっ、はいっ。肝に銘じます!
……あ。」
砂埃が落ち着いていくシスターの背後、赤毛の男の子が人懐っこい顔で駆けて来る。
もしかしたら男が倒れる振動が、どこかで潜んでいた男の子の意識をこちらへと向けたのかもしれない。
年の離れた姉に接するように男の子はシスター服を掴み、無邪気に『こんな所で何してるの?』なんて訊ねている。
―――任務完了。
エルフはそう察すると肩から力が抜けるのを感じ、二人をにこやかに見つめる。
何もできなかった代わりに、せめてこの後は二人を無事に送らせてくれと頼みながら、本日の見回りは無事?終わりを迎えるのだろう。
■ノワール > 無理もないだろう。
シスター服を着ているから無力、と思われがちだがそれは結局、人それぞれなのだ。
この女の場合、少なくともそのカテゴリーには分類されず、体格の大きさに見合った力と、度胸を備えているつもりだ。
「……でも、ありがとうね。
銃を構えてくれたこと、あたしを護ろうとしてくれたんだろう?
こんな体で、こんな場所だからね、どうしても守ってもらえないときも多くてさ。」
だから、護ろうとしてくれて、ありがとう。
その言葉を送り、今度はシスターが捜査官に頭を下げた。
そんな時に、赤毛の男の子がこちらへと駆け寄ってくる。
どうやら、この付近に隠れていたのだろう…暢気なものだ。
「ったく……、”グラム”を探しに来たんだよ。
こんな時間まで遊びう歩いて…飯抜きにされても知らないよ?」
にこやかに見守ってくれている捜査官のその視線の先で。
年の離れた姉と、その子供はいつもの雑談を繰り広げていた。
捜査官に孤児院まで送ってもらいながら、もう一度礼を言い…シスターもまた、自宅へと戻っていくのだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からコーデリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からノワールさんが去りました。