2019/02/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にルキオラさんが現れました。
ルキオラ > ぱたぱたと、小さな鳥が酒場の戸の隙間から羽ばたいて入り込んできて、
少女の近く、カウンターの上に着陸する。
鳥と思われたのは金属で細工されたゴーレムで、その上に乗っているのは二股帽子の小人だ。

「おやおやどうされたんです? ひどいお顔ですよ。
 お仕事で失敗してえらいひとに怒られでもしました~?」

鳥から降りて、慣れた調子でリキュール系のカクテルを注文しつつ、
呑気そうな笑顔を少女に向けてずけずけと聞いてくる。

レナーテ > 羽音に気を配る様子もなく、そのままグラス半分ほどを一気に飲み下すと、コンと音を立ててグラスを置いていく。
あふれる溜息に交じる酒気も濃くなり、瞳が一層どんよりとしてきたところで、かかる声にやっと気付いた。
緩慢な動きでそちらを見やると、以前とは異なり、赤くなりながら据わった瞳が彼を見下ろす。

「……あの唐変木の組合長に文句つけられたら、床に叩きつけて、脳天かち割ってやります」

少女特有の高めの音色が、明らかに低く冷たく冷え切っていき、不気味に口角を上げて鼻で笑う。
嘲笑にも似た笑い方の後、再びグラスを掴むと残り半分を一気に飲み込んでいく。
喉が、胸が焼けるような感覚。
同時にぐらぐらと揺れていく世界と意識が、意識を混濁させていき、心地よくなる淡い浮遊感に目元を細めていった。

ルキオラ > 「うわ~」

明らかに理性のタガが外れかかっているタイプの笑みに見下され、
引きつった半笑いになってしまう。思ったよりやばそうだなとルキオラは思った

「愚痴なら付き合いますからその飲み方はだめですって! 若いんだから自分を大事に!
 水でもお飲みになって!」

おっさんじみたことを口にすると、慌てて少女の手にするグラスに全身で飛びつく。その手が淡く発光する。
振り払われたり止められたりしなければ、錬金術でグラスの中身のアルコールを分解してただの水に変えてしまうつもりだ。

レナーテ > 半笑いの様子を見ても、特に反応がないのは心ここにあらずといったところか。
それぐらい、酒に理性は解けて消えて、意識も混濁している証拠だろう。
おかわりの言葉もなく、グラスをマスターへと突き出せば、呆れて物も言えず、ただ注ぐだけだ。
ウィスキーに申し訳程度の水を混ぜただけのそれを受け取ると、その手に何かが飛びつくのに反応が遅れる。

「……水じゃ酔えないじゃないですか」

グラスの色が手品のように変わっていき、透き通る水だけが満たされていく。
その様子を半目閉ざしたジト目で確かめると、不服そうに唇を尖らせて呟き、渋々とそれを口にした。
それが酒かどうかはどうでもよく、とにかく何かを飲んで気を紛らわせたくて堪らない。
冷たく無味の水は、一口か二口程度しか飲まず、直ぐにグラスを置いてしまったが。

「……同僚のミシェが惚気るんです。別にそれはいいです、どうせ男でも女でも可愛ければ手出して食べちゃう節操なしの、年中発情期の兎女ですし。でも私は、朝起きたらお化粧して、シャキッとして商談して、組合長代理で方方回って、お城で夜勤したり、砦で指揮とったりです。派出所にいたら、彼氏が会いに来るかもって行ってたのに、今じゃ一人で紅茶飲んで過ごすだけの夜ですよ? 馬鹿みたいじゃないですか」

矢継ぎ早に語るとはまさにこの事か、ずらずらと取り留めもなく文句のラッシュが吐き出される。
その合間、カウンターの木目に視線を落とし、彼に視線を向けることもなく、頭をゆらゆらと踊らせながら喋り続けた。
その後、唐突にカウンターへ勢いよく突っ伏すも、グラスを叩き落とさないように掴んでいた。

「……酒のんで愚痴る女の子なんて、場末の娼婦より最悪です」

ほっぺたをカウンターに押し付けて柔らかに拉げさせながら、ぽつりと呟いた言葉。
それと共に金色の双眼からはぽとりと苦しみの雫が伝い落ちていった。

ルキオラ > とりあえず振り払われなかったことには安堵のため息。
相槌を打つ間もないほどの間断ない言葉をただ聞いていく。
自分用の小さめのグラスでカクテルが出されたが、それにはまだ手を付けない。

「最悪、ですか。
 さっきまでみたいに飲んだくれてた姿はオークよりもひどかったから、
 だいぶマシになったんじゃないですか?」

苦笑。
突っ伏した少女の金の瞳が、カウンターに立つ錬金術師の目線と同じ高さになる。
木目に落ちた雫を手で拾い上げると、その手の中で精巧な細工の水でできた花に変じる。

「あなたの寂しさを、あたしで埋めてさしあげられたらいいんですけど……
 なんて、はは、まるっきり間男のセリフですな、これは」

自分で茶化して笑いながら、
間男というにはいささか小粒な錬金術師がそっと涙細工の花を差し出す。
つまめるほどの小さなそれは、手に取って見てもしばらくはその形を保つだろう。

レナーテ > ただ相槌を打ってくれるだけでも、気持ちは晴れてくる。
その証拠に、僅かに表情は砕けていき、厳かだった強張りも消えて、年相応な酔いどれの顔へと変わっていく。

「オークと比べないでください……これでも、たまには声かけてくる……おじさんぐらい、いるんですから」

若い男性と言えないのが、少々悲しくなって言葉が詰まる。
同世代や少し年上の男性には見向きもされないが、脂の乗りすぎた年頃の男には、真面目な顔が何処と無く気を惹くのかもしれない。
やっぱり女として駄目だ と、内心で一人傷つきながら小さく溜息を零すも、先程よりは酒臭くなくなる。

そして、すくい取られた涙は、彼の術で涙の花へと変わっていった。
その様子をぼぅっと見つめていくと、差し出される口説き花へ、そっと人差し指を伸ばす。
指の腹の上へと乗せれば、ガラス細工にも似て見えるそれに、綺麗と呟き、嬉しそうに目を細めて微笑んでいく。

「……人に手でさせた悪い小人さんでしょ? ふふっ、同じぐらいの身体だったら良かったのに」

満更でもなさそうに呟き、艶やかな笑みに変わりながら、小さな間男を見つめる。
釣り合っていない、相応しくないと一度は飲み込んだ言葉が脳裏をよぎると、今は肯定できずに微笑んで誤魔化していた。

ルキオラ > 「さっきまではともかく、今はどこぞの姫様とでも張り合えそうになってきましたよ。
 あなたは理知的な人だから、自分の弱さや苦しさに向き合うのが余計に大変でしょうね。」

もう少し自分を甘やかせればいいのだけれど。
自分もおじさんに含まれるのかなと内心考えつつ。
先日の件をふいに振られればんっ、と咳払いをしてごまかす。

「いやはやその説はお手数かけました気持ちよかったですよ。
 背丈もうちょっとほしいところではあるんですけどねー。
 大人の男の包容感はずっと品切れ中です。これはこれで便利なんですけど」

隠れて誰かと致すには、と付け加えて、自分のグラスを抱えて酒に口をつける。

レナーテ > 「買い被りですよ…本物の御姫様に失礼です。――よく、わかりません。そうなのか、どうなのかも」

自分に厳しすぎるのだろうか、そう思うものの、どれが厳しくてそうでないのかも、朦朧とする意識の中では判断がつかない。
暫し考え込むように黙り込んでいたが、緩く頭を振り、冗談じみた言葉へと繋げていった。

「ふふっ……あんなに気持ちよく出来る御姫様なんて、いないでしょう? 背丈も何もどうでもいいですよ、そんなの……オマケみたいなものですから」

咳払いにクスクスと微笑みながら重ねる言葉は、姫君のように清くもなく、こうして飲んだくれる穢れた女の証拠と宣う。
彼に求めたのは、男らしさでも何でもなく、今の気持ちを紛らわす何かをくれる存在。
眠たげな瞳で酒を口にする彼を見やりながら、更に一つ二つ語ろうと唇が動くが、音にはならなかった。
アルコールが意識を薄めていき、次第に瞬きの感覚が長くなっていけば、金色が閉ざされていく。
その後、起こされたのかも、何があったかも夢現の中、翌朝には二日酔いの激痛に悩まされるのだろう。

ルキオラ > 「ひとつひとつの悩みにいちいち立ち止まって向き合えるうちは
 まだまだキラキラできていると思いますよ。
 そういうのを忘れてしまったあたしのようなおじさんにモテるんでしょうね~」

これもまた年嵩のものじみた物言いではある。
やがてすっかりと意識を手放してしまった少女に肩をすくめる。

「あはは。おまけか。言ってくれますね。
 やれやれ……いくら小さいからって、こういう耳当たりのいいことを言うやつに気を許すようじゃまだまだですよ~」

などとは言うものの、ルキオラも背丈のことを差し引いてもスキだらけの彼女を
どうにかしようという気にはならなかった。
突っ伏す彼女の頬に近づいてそっと掌で撫でると、勘定を支払って
酒場をあとにすることだろう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からルキオラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からレナーテさんが去りました。