2018/08/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 裏路地」にルナドールさんが現れました。
ルナドール > する、と寝床の中から、あたたかい生き物が抜け出す気配で目を覚ました。
暗がりの中、上体を起こして幾度か瞬きをし、周囲の様子に目を凝らすと、
するり、しなやかな黒い生き物が窓から外へ抜け出して行くのが見えて。

「あ、……ねこ、さん……待って、―――――」

待てと言われて待つ生き物ではない、というのは、此の数日で学習していたけれど、
そう声を掛けずにはいられなかった。

戻ってくる気は無いらしいが、外で猫の鳴き声がする。
何か考えるよりも先に、寝床から抜け出して窓辺に向かった。
窓の外、暗い路地の向こうへ駆けて行く黒い小さな影が、ひとつ。
―――――反射的に窓枠へ足を掛けて身を乗り出し、猫のあとを追って外へ出る。
走る速度は決して速くない、よたよたとした足取りで、黒い生き物が消えた方へ―――――

「ねこさん……待って、……ねぇ」

此の辺りは、危ないのだ、と聞く。
ちいさな生き物が、ふらふらしていてはいけないのだ、と。
―――――己自身が其の『ちいさな生き物』に入るとは、まるで考えていなかった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 裏路地」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > その路地裏に入ったのは、ただの偶然だった。
偶々入った王都の仕事が終わり、その帰りに近道のつもりで通ったのだった。

カンテラ片手に鼻歌を歌いながら歩いていた所に、その少女の姿を認めて、青い闘牛士服の男はこう思った。

「(何アレ、すっごい可愛い!お人形さんみたい……いや、人外っぽいから本当にお人形なのかも?とにかく超可愛い!)」

だから――可愛がりたい。性的にか、それとも親愛的にかは話しかけてからの流れだが、あの少女を無視して帰るのは、人生における損失に思えた。幸い、彼女の足取りはよたよたとしていて、早足でも簡単に追いつく。だから焦らず彼女の近くまで寄って

「おーい、そこの君、そんな所まで入っていくと危ないよ」

と声をかけた。

ルナドール > 人形の頭の中を占めているのは、今のところ、猫、だけ。
だから、近づいてくる誰かの気配にも、足音にも気づかなかった。
―――――しかし流石に、声を掛けられたなら別である。

ひた、と其の場に立ち止まり、きょとんとした顔で声の主へと振り返った後、
柘榴の眸がきょときょとと、己の周囲を見回した。
其れから、ぎこちない仕草で小首を傾げつつ。

「きみ、って……ルナの、こと、ですか?」

物知らずの人形であるから、先ずは其処から確認しておきたい。
もしかして、他の誰かに声を掛けたのかも知れないし―――――知らない人であるし。
少なくとも人形の視界に入る範囲には、人形自身と相手の姿しか見当たらないけれども。

クレス・ローベルク > 振り向いた瞬間、心臓が止まるかと思った。
それ程に、その少女の姿は、造形は、艷姿は、完璧だった。
銀色の髪が。細長い手足が。唇が。そして、その壊れそうな幼い――カラダが。
同じ歳頃の女を、犯した事は何度もある。社交界でも評判だった、可憐な貴族の少女の、処女を奪った事だって。
それなのに。それなのに。

「(こんなにも綺麗で可愛くて……こんなにも――無茶苦茶にしたくなるなんて。)」

しかし、クレスはその感情を、一瞬で表情から引っ込める。闘技場で培ったポーカーフェイスを総動員して。常人ならば、ほんの少しぼんやりしていた様にしか見えないほどに。

「そう、君だよ。ルナちゃんって言うんだ。お名前も可愛いね」

と少女の視線と自分の視線が合うように少しかがんでみせる。子供の信用を得るには、まず視線を同じくして、威圧感を与えない事だと知っていた。彼は人懐っこい笑みを浮かべ、優しく言う。

「こんな子供が路地裏になんて――危ない人が居たら大変だよ。もしかして、何か探しものかな?それなら、僕もついていこうか?」

ルナドール > 触れられれば、人形は彼の『欲』を察して変質する。
其れは例えば彼の望む年代の女性になることだったり、豊かな曲線美を得ることだったり。
けれど、未だ相手と己の間には僅かばかりの距離があり、
触れられていない状態では、人形は相手の『欲』に気づけなかった。

「は、い……わた、し、ルナ、です……、――――かわ、いい?」

きょと、とまた双眸を瞬かせるのは、『可愛い』という単語の意味を捉えかねて。
目線の高さが近くなれば、視線は仰ぎ見る角度から、自然に真っ直ぐ正面へと。
そうして、―――――思い出した。

「そう、……危ない、のです……!ねこさんが、こわい目に、あってしまうの、です。
ルナ、探しに行かなければなりません……あの、」

そう言えば、己もひとりでふらふらするのは『危ない』のだと、
教わっていた気がする。
服の裾を両手できゅっと握り締め、すこし、逡巡する間を空けて。

「……あの、……ついてきてもらっても、良い、ですか?」

大きな大人の男の人、が一緒なら、危なくないだろうか、という結論に至った。
人形の目には、少なくとも、怖そうな人には見えなかったから――――
残念ながら、ポーカーフェイスの裏を読み取る力は無かった。

クレス・ローベルク > 「それは大変だ。ここらへんには気性が荒いのも多い。気が立ってる酔っ払いとかが、君のお友達を殴ったりする事もあるだろうし……」

と、そんな言葉で脅しをかけ、

「勿論。君みたいな心優しく、可憐なレディのエスコートが出来るなんて、僕は幸せ者だ。でも、僕が捜し物をする為に余所見した瞬間、君が危険な人に攫われる可能性もある。だから――」

そう言うと、ルナドールの脇に腕を通して、ルナの身体をゆるく抱き寄せようとする。お互いやや歩きにくいが、しかしゆっくり歩く分には問題ない程度。

「ほら、これで絶対に連れ去られることはない、ね?」

とはいえ、これは罠である。抱き寄せた腕……というか、手はルナの身体――胸や下腹を、触ろうとすれば触ることができるし、こうなってしまえば、もはやルナは彼から逃げることはできない。とはいえ、今は手はおへその位置に置いて、『そういう』刺激を送るつもりはないが。

ルナドール > 「ねこ、さん……殴られる、です、か……?」

感情の色に乏しい人形の顔に、はじめて明確な曇りが生じる。
酔っ払い、という単語の意味はわからなかったが、とにかく『あぶない』人であるらしい。
あの、ちいさな生き物が殴られるなんて―――――と思えば、ますますもって、
急いで見つけてやらなくては、という気になる。
珍しく気が急いていたから、伸ばされた腕に気づくのは、其の腕が己の身体を、
彼の傍らに抱き寄せてしまってから、だった。

「ぁ、―――――……」

触れられたところから、じわりと広がる不可思議な感覚。
其れは『あたたかい』に似ていて、けれど、何処か違うようにも思えて。
歩きにくい、というよりも―――何かが、漣の様に寄せてくるのを感じる。
今は未だ、はっきりと捉え切れないけれど―――――

「………は、……い。
ねこさん、は……あっち、行きました。たぶ、ん」

己の感じた違和感について、言おうか言うまいか迷って、結局俯いて口を噤む。
あっち、と指し示したのは、よりにもよって此処よりずっと暗い、細い路地の方で。
袋小路になっている其処へ入り込んでしまったら、猫も―――――己も、退路は断たれる。
勿論、己に触れている彼が『欲』を発動させなければ、己の身体に熱が灯ることは無いけれど――――。