2016/08/22 のログ
■レイカ > ……恐い。
彼から感じられるその感情は、明らかにいままでの地獄のような生活を物語っている。
色を見るまでもない、この子はおそらく人間だろう。
しかし――ここまで恐怖を感じている人間を、私は知らなかった。
高貴で、傲慢な人間なら何人も見てきた。
其れで虐げられて、泣き顔をいつも晒してきたのはミレー族だ。
だけど――彼はそのミレー族と同じ眼をしていた。
恐くて、寂しくて、恨めしくて…。
自分以外の周りは全て、敵としか見れない。
そんな瞳だからこそ―――私は、どうしても放っておくことはできなかった。
「…………ぐっ!!」
早い、その一言に尽きる。
身のこなしも奏だけれども、明らかにその動きは洗礼されたものであった。
確実にこの子は、私を貫く気でいた…はずだった。
その穂先が、突然私の胸殻それて、肩口を掠める。
だが、それでもその穂先は、たやすく私の柔肌を切り裂き、肩口にしみを作る。
黒い外套で色はわからないけど、肩口に奔る熱と痛みは――本物だった。
「……恐い、ですよね……。当然です、突然助けに着た、なんていっても…信じられませんよね。
でも……。」
助けに来ましたよ、と私は微笑を浮かべた。
そっと、右手で彼の頬を触ろうとして。
■レン・レイト > 前までの少年ならば今も違和感の感じれなかったかもしれない。
しかし違和感を確信に替えられたのは彼が武を身に着けていたから。
全身全霊とはいえいまだ未熟な自分の技であれば、避けるか、捌くか、相手はできたかもしれない。
それにたとえそうでなくても、竦んだり、身構えたりはするはずだ。
それなのに相手は受け入れるかのようによけなかった。
自分がそらさなければ貫かれていたのに。
そして肩口を傷つけられたのに自分に優しい言葉をかけてくる。
少年は酷く混乱し、その場を動けずにいた。
そして彼女が手を差し出したときも、その手がふれたときも、びくりと体は震えたけれども…よけることもできずに彼女を見上げていて。
そして与える与えられるに関わらず暴力以外で触れた人のぬくもりがその頬から広がって。
表情を変えず彼女をまっすぐに見上げたまま、ぼろぼろと大粒の涙があふれ出した。
■レイカ > 痛みが肩から広がり、熱を持ってくる。
彼がもし、槍の穂先を逸らしてくれなかったら私は確実に、死んでいた。
胸を貫くその一撃、確実に即死していたはずだ。
だけど――――彼は躊躇ってくれた。
また無茶をしすぎだ、と彼に言われてしまうかもしれないけれど……此れが私にできること、だから。
だけど、勿論痛みがないわけじゃない。
だらりと下がった肩は、傷の深さをいやでも認知させる。
腕を伝い、血がぽたりと一滴、地面に落ちた。
「…………ふふっ、もう、安心ですよ…。
すいません、待たせてしまって……。気づけなくて……。」
この子がいつから、この廃墟地区にいたのかは知らない。
けど、この要すならばおそらく最近、ここにやってきたと見るのが妥当だろう。
大粒の涙を零すその子を、私は片腕で優しく、抱きしめてあげた。
■レン・レイト > 安心だと、大丈夫だと、そう言って抱きしめられる。
自分が傷つき尚優しく他者を守ろうとする優しさを、少年は知らない。…いや、一つだけ知っていた。
自分の呪いと原因となった我が父。しかしそもそもその父が身を挺して自分をかばわなければ、自分は死んでいた。
故に少年は父を恨んでいなかった。事故を犠牲にするほどに自分を愛していてくれたから。
そして自分が唯一知っている温もり…たった数年しか一緒にいられなかった両親がくれた愛。
それを相手から感じた。
何故彼女が謝るのか。赤の他人である自分に気づけなくって謝る彼女。傷ついてなお、抱きしめてくれる彼女。
少年の中で、その短い人生の大半のうちせきとめていたものが決壊しそうになった。
ただ、だからこそ。
抱きしめてくれる彼女の手をそっとつかみ、丁寧に抱擁をほどいた。
「優しく…しないでください。お願い、ですから……優しくされて…次捨てられたら、僕は本当に生きていたくなくなる。…死ねないのに、そうなったら…もう……耐えられない…!」
あふれる涙で濡れる顔を悲痛に歪ませ、小さな体を震わせ、優しくしないでくれと絞り出すように、必死に訴えた。
どのような人生を送れば、彼のような年場もいかない少年からそのような言葉を選ばせるのだろう。
優しくされた人々にだまされ、飼われ、弄ばれ。ようやく信じれた人には捨てられた。
これ以上優しさを与えられたら…次裏切られたときに、少年は真に絶望するだろう。
それは死ねない少年にとって彼の生が地獄と変わらなくなることを意味する。
■レイカ > 謝る理由なんて、少ない。
けれども、私はただ彼に誤らなければいけない、そんな気がしていた。
気づけなかったから、彼が悲しんでいるのにこんなにも気づくのが遅れてしまった。
だから、私は彼に非常に申し訳ないと、思ってしまった。
彼がどれだけ、長い間苦しんでいたのか―――そのカケラだけでも、私は知りたくなった。
少しでも安心できれば、と私は彼を抱擁した。
けれど、そのことが彼を―――余計に悩ませる結果になってしまったようだ。
搾り出すように、つむがれる彼の悲壮な胸の内側。
その言葉に…私は自然と悲痛な表情を、見えないフードの下で作っていた。
彼が歩んできた絶望の人生。
裏切りと陵辱の連続だったその人生の断片―――いや、断片と言うにはきっと、もっともっと小さいはずだ。
年端も行かぬ子供にみえるのに、その言葉を選ばせるその人生を、私は呪った。
「………………。君は、止まる事を知らない小鳥なんですね…。」
抱擁を解くのは非常に簡単だっただろう。
私は、痛む肩口を押さえながら口元に笑みを造っていた。
「…ですが、小鳥は永遠に飛ぶことはできません。
止まり木がなければ…いつかは地に落ちて、土に返ることになってしまいます。
……安い言葉ですいません。ですが…放っておけないんです。」
私は、人を助けることに生きがいを感じる偽善者だ。
だから…私は決して、彼を放置できない。
「止まる木がほしいなら、私に止まってかまいません。優しくするなといわれても、優しくします。
裏切らないでくれと、泣き叫んだって構いません…!だから…もう泣かなくていいんですよ!」
■レン・レイト > …なんで。…なんで!
自分は赤の他人なのに、彼女とは関係ないはずなのに。
彼の短い人生で培われた価値観では、人は利用するかされるもの。
強くなくては他人にいいようにされる。自分を守れるのは自分だけ。
そのはずなのに。
「ごめ…んなさい、傷の…傷の手当を…」
迷惑をかけた、傷つけてしまったのに優しくしてくれる彼女にせめて筋を通し立ち去ろうと、先ほどの槍と同様に打ち捨てるように置かれた自分のポーチを拾って。ポーションなどが入ってるそれは、乱暴におかれたのか三つあった瓶のうち二つは割れていた。それでも、包帯と、清潔な布とポーションを取り出し、破片がないことを確認して、相手が許せば処置をしようとするが…次から次にあふれる涙が、思考の生で、上手くいかず。
もうそのまま立ち去ろうとするも、彼女の気高さが、優しさが、太陽のように暖かくて。彼女から離れられなくて、
「あ…あぁ…ーーーーっ」
力も抜け、膝をつき、幼子のように泣きじゃくる
■レイカ > 傷の手当をするというならば、私はそれを断ろう。
勿論深手なのは間違いない、おそらく肉が抉れて…かなりひどいことになっている。
傷ついている方を動かそうとすれば、ミシリと筋肉が悲鳴を上げて激痛が走る。
でも、それでも…私は脂汗を流しながら、決して表情には出さないように勤めた。
彼が、自分のせいでと責めないように。
「大丈夫…ですよ。かすった程度ですから…。全然、痛みもないですしね。」
もしも、そのまま立ち去るつもりだったら引き止めた。
動く腕、片手では彼を引き止めることも出来ないだろう。
だけど、それでも彼をこのままいかせるわけには行かないと、痛みを圧して両手で繋ぎとめただろう。
だが、彼は離れることはなかった。
まるで子供のように、ただ泣きじゃくって今までの苦しみを解き放つかのようにも、私には見えた。
都合のいい感情だ、私は自分をそう叱咤する。
彼の苦しみは、この程度で癒されるものなんかじゃないと―――。
「………………。」
だから、私はただ彼が泣き止むまで、ただ黙って見守った。
止まり木である私は、ただそこにあり続ける。そこには裏切りも何もない。
■レン・レイト > …大丈夫だという彼女の表情で汗で、それが嘘だということが分かった。
痛みというものには少年は血反吐を吐くほど精通している。
自分のせいで無理をする相手を見たくなくって、だったらせめて、ポーションを彼女の傷口にかけた。
もちろんそれでたちまち傷が治ることはないが、ただそれだけでも、痛みはだいぶ和らぐだろう。
そして、子供のように泣きじゃくる少年はそっと彼女に手を差し出す。
縋るように、救いを求めるように震える指先。
それは初めて少年が誰かを頼ろうとする証か。
どうすればいいかわからず涙する少年。ただ、一人その場で崩れても癒されない。
目の前で、決して去らず寄り添ってくれた彼女に、少年は。
一度は振りほどいたそれを、優しさを。
少年は初めて自分以外の誰かに、助けを求めた。
■レイカ > 「…………あ。」
本当は、この子はとても優しい子供なんだと、私は思い知った。
確かに、無理をして表情を作ってもフードの下の顔は、痛みで歪んでいる。
押さえていた手は、血で真っ赤に染まっていた。
彼のかけてくれたポーションは、しみることもなく少しでも、私の痛みをやわらげてくれる。
此れならばすぐにとは行かずとも、治りは早くなりそうだった。
勿論、ちゃんと直す必要はあるのだろうけれども。
「………ダメです。」
伸ばされる、救いを求めるその手。
だけど、私はそれをゆっくり首を振ることで…そうじゃないと、笑みをもって答えた。
「助けてほしいって、ちゃんといってください。
私はどこにも行きません、君が私にどうしてほしいのか…ちゃんと言葉で言ってください。」
助けることなんて、当たり前だ。
だけど、それは誰かに与えられて気づくものじゃない。
一人じゃダメだから、助けてほしいと…そういうことも大事だ。
「君は、飛ぶことしか知らない小鳥です。
だから……ちゃんと、止まりたいといってください……。」
私はちゃんと、ここにいる。目の前にいる私は幻ではない。
彼が求めて、助けてと言うならば―――私はそっと、もう一度抱きしめるだろう。
「…………お待たせしました…。」
■レン・レイト > 最初に聞こえた拒絶の言葉に一瞬目を見開いて。
やはり…なんて思うけど、それは早とちりだった。
続く言葉に、差し伸ばした自分の手に改めて気づく。
何故手を伸ばしたのか。自分が、何を求めているのか。
「す…け、て。…たす、けて………助けて!辛いよ…苦しいよ…!寂しいよ!!…だから……助けて、ください…」
それはどこまでも悲痛な少年の慟哭。そして初めて絞り出した、誰かを頼ろうとする、救いを求める言葉。
そして、彼女がもう一自分を抱きしめてくれたから
「あ、あぁ……ぁ――――――――――…!」
頼るように、縋るように、ぎゅっと彼女にしがみ付く様に抱き付いた。
永遠とも思えるほど久方ぶりに触れる人のやさしさ、温もりに。明確に自分に向けてもらえた優しさに、思いっきり甘える。
甘える方法すら必死で思い出そうとして、ただただ彼女に頭を、身を預けて泣いた。
そして気が付けばそのまま眠ってしまっていた。
それも保温のわずかな時間ですぐに目を覚ましたけど、その時召せた安堵の表情はどれほど昔の表情だったのか。
起きた彼は恥ずかしいような、ばつの悪そうな顔で、目を合わせずら層にして。
「その、申し訳ませんでした…」
■レイカ > 彼が求めるもの、ほしかったものを口に出した瞬間。
私は彼が求めていたもの、そしていままでどんな茨の道を歩んできたのか。
全てを理解したわけではないけれども、それでもその短い言葉で、片鱗だけは―――どうにか理解できた。
「………よく頑張りましたね…たった一人で。」
私は彼を褒めた。
泣きじゃくるその体を、背中を摩りながら。
いままでのつっかえを全部吐き出しても構わないと、そんな思い。
汚れたって構いはしない、服は着替えれば済む話だ。
それよりも、彼の胸に溜まりに溜まった汚物、それを全部吐き出すほうが先決だ。
一頻り泣いて、彼が少しの安息の休眠を取っているさなか、私は彼をとある場所に運んだ。
それは、廃墟地区の奥まった場所にある周囲を壁で覆われている広場。
そこは、かつて私がミレー族を匿い、怯えながらも生活をさせていた場所。
いまだ焚き火のあとが、手付かずで残っているのは少し助かった。
「……また、ここを使うなんて………。」
かつて、私もここで暮らしていた…。
枯れ木を集め、空気が通るように並べると、私は火打石で火をつけた。
パチ、パチと薪が燃え始める最中…目を覚ましたのだろう。
申し訳ないと謝る彼を、私はフードを取り顔を晒して視る。
「…構いませんよ、気にしなくて。
それよりも、少し眠っていたみたいですね…、胸のつっかえはマシにはなりましたか?」
■レン・レイト > 褒められたことも労われたことも、もはや記憶にはなかったそれをかけてもらえることがどれだけ嬉しかったか。
抱きしめられてどれだけ心安らいだか。
きっとそれは、言葉にはできない感情。
ただ少年は、体を包んでいた黒い感情は、溶けるように洗い流されていった気がした。
「その…なんというか、……よくわからないけど、…うん、嫌な感じではない…です」
暖かい薪の熱を感じ、素顔をさらしてくれた女性にこたえるのは正直な感情。
少年も戸惑っているのだ。初めて受けたやさしさに。
全てを誰かに吐きだしたことも…かつて信じた師にすらしなかったことだから。
「ぼくは…レンといいます。レン・レイト。その、…ありがとうございます」
何を話せばいいかわからなかった。ただそれでも、相手に自分のことを知ってほしかったとなぜか思った。普段決して名乗らない自分の名を…この町に来てもまだ一人にしか名乗ったことのない本名を名乗った。
■レイカ > 「それは何よりです…。」
私は短く、まだ感情を表に出すことを戸惑っている少年に対し、短く答えた。
火を少しだけ大きくして、私が黒い外套を脱ぎ、ワンピースの肩口をずらして露出させた。
―――別に、厭らしい意味というわけじゃない。
彼から受けた傷の程度を調べて、手持ちのもので簡単な応急処置が出来るならばしてしまおうというだけだ。
ざっくりと切れているその肩口は、彼から受けたポーションのおかげで痛みは引いている。
然し、いまだに生々しい傷跡は残ったままだった。
「お礼なんて……、私も、気づくのが遅れてすいませんでした…。
嗚呼、私はレイカ、そう呼んでください。」
彼が名乗ったならば、逸れに返すことで私も名前を名乗る。
ポーチの中から、傷薬とガーゼ、そして包帯を取り出し自分の傷口に当てる。
少し―――服を脱ぐことになるけど、気にすることはなかった。
しっかりと傷口を押さえ、その先端に包帯を当てると、そのまま自分の体に巻きつけていく―――が。
「えっと、レン君…ですか?
すいませんけど、包帯を巻くのを手伝ってくれませんか?」
さすがに、背中に回った包帯を取るのは、片手では少々無理があった。
■レン・レイト > 「レイカ…さんですね。その……本当に申し訳ありませんでした」
謝る前によろしくお願いします。本当はそう言おうとしたのだけど、やはりその言葉は少年にとってはあまりに難しい言葉だったのだろう。
とっさに彼女がワンピースをずらすのをを見て、目をそらそうとしたけれど、そこには自分が付けてしまった傷跡があったから、目をそらすことができず、申し訳なさでいっぱいになってしまう。
自分はこんなにも優しい人を傷つけてしまったのかと、罪悪感すら感じるから、ただ真摯に頭を下げた。
「は、はい。もちろんです」
自分がしたことなのだ、それぐらいするのは当然だと、彼女の背中に回って、包帯を受け取るだろう。
処置を受け持った彼の手つきはそれなりになれたものだった。
どうして助けてくれたのかとか、いろいろ聞きたいこと、話したいことは思い浮かぶのだが。
優しくされたこと、弱さを見せたこと、相手を傷つけてしまったこと、いろんなことがありすぎて、どうにもばつの悪い表情を浮かべてしまう。
■レイカ > 「……恐かったんですよね?」
彼は当初私を非常に恐がっていた。
きっと、また私が彼に乱暴したり、蹂躙したりすると思っていたのだろう。
だから、彼は武器を向けた。
自分を護るために、彼は私に刃を向けた。
それはとても自然なことだ。
自分を護るためにそうしたのだから、何を咎める必要があるのだろう。
ただ―――彼が罪悪感を覚えるならば、したいようにさせるだけだ。
それなりに手馴れた処置に、先ほどの槍さばき。
おそらくレン君は、どこかで戦闘教育を受けたのだろう。
こんな国だ、彼が活きていくために選んだものは冒険者か、傭兵というところだと私は踏んだ。
すっかり傷口が見えなくなれば、礼を言って手当てを終えよう。
「…かなりマシになりました、ありがとうございます。」
彼が何を話したいのか、そして何を言いたいのか。
私は無理に、それを問うことはしなかった。
彼がようやく、自分の心をさらけ出せるようになったんだから。
彼自身が、聞きたいことを自分から言い出すべきだと思っている。
自由って言うのは…月並みだけど、そんなものだと思うから。
■レン・レイト > 「…………はい。そのいつもも他人は怖いですけど…さっきはそれにもまして、いろいろとあって…本当にごめんなさい」
死して復活した直後は酷く不安定で。
自分を見つけてくれた要因であるあの痛みと恐怖の余韻に、一切の余裕がなくなり外界に過剰に反応してしまう。
「いえ、僕が悪いんですから、これぐらい当然です」
自分が怪我させたのにかかわらず、恨み言を言うどころか、そう言って礼を言われると恐縮してしまう。
その優しさが眩しくて。
改めて何を話せばいいのかわからなくなる。
ただ、先ほど彼女はまた気づけなくてすみませんと謝った。
自分と赤の他人なのだ。気づけなくって当然なのに。
そして自分の弱さを受け止めてくれたから。…彼女に話したくなった。
誰にも話さなかった自分の秘密。呪いについて。
「その、ちょっと変なことを話すかもしれないですけど、いいですか?」
そういって彼女が肯定してくれれば話すだろう。自らの生い立ちのことを。
4歳の時に母を失い、5歳の時に父が魔族と契約し、母を復活させようとしたこと。それが失敗し、父は死に自分は魔族に百死の呪いを掛けられたこと。以来人々に迫害されずっと一人で生きていたこと。
吸血鬼に家畜同然に買われ、変態には死なない玩具として弄ばれたこと。
人格破綻者ではあるが師に師事し、武を教わったが結局捨てられたこと。
それぞれ一つ一つ話す彼の拳は震え、目は涙にまたあふれるが、それはつらい記憶であるからだけではない。
自分が呪われていると打ち明け否定されるのではないか。
また拒絶されるのではないか。
そう考えると恐ろしくって、苦しくって。
でも助けを求めて答えてくれた彼女だからこそ、話さねばならないと思った。
■レイカ > 何を話し出すのだろうと、私は少しだけ待っていた。
もし、其れで彼が少しでも楽になるならば、私は一向に構わないし、聴いてあげたいとも思う。
どれだけ重い過去でも、話せばその負担は二分の一になる……そう思っていた。
「…構いませんよ、話せる範囲で話してください。」
赤の他人と、一言で片付けることはとてもたやすいことだ。
だけど、私はそのたやすい一言をどうしても使う気になれなかった。
赤の他人だから助ける必要なんかない―――けど。
友達だって赤の他人なのに、皆助けるじゃないか。
それとどこが違うのか、私にはわからなかった。
彼が話してくれた、あまりにも重い―――少年が背負うにしては、辛すぎる重圧。
呪い、両親の死別、魔族からの仕打ち、変質者からの暴力。
そしてなにより、師匠と仰いだものの裏切り…、いや。
話を聴く限り、裏切りなのかどうかはわからないけれども…少なくとも、彼が裏切りだと感じた行為なのは間違いない。
不死の呪い、しかし一度死ぬと百度死ぬ痛みを味合わされる呪い…。
なんと残酷な呪いをかけるのだろうと、私はその魔族に酷い憤りを覚えた。
「……そうですか…。そんな重圧に今まで、一人で耐えてきたんですね…。
でも…もう一人で悩む必要はないですよ。微力ですが……私が少しでも、力になりますから。」
怒りなのか、それとも辛いからなのだろうか。
彼の震えるこぶしに、目じりに浮かぶ雫に、私は非常に悲しい思いを抱いた。
たった一人―――誰も頼るものがいなくて、それでも一人で”戦い続けた”彼は、賞賛に値する。
だからこそ、私は彼を助けなければならないと…そう思う。
今度こそ…私はもう助けられる命を見捨てたりしないと、心に誓っているから。
■レン・レイト > 「気味が悪いと…不吉だと思わないんですね」
彼女が自分の半生について憤りを覚えてくれて。
そして力になるといってくれればほっと小さく息をついて、ありがとうと礼を言うだろう。
自分の話を聞いてくれて。そしてそれを受け止めてくれて。
「…もう、一人はつかれました。僕の人生。辛くて、苦しかった。…でも何よりも、寂しかった」
彼女が力になってくれるといえば、ぽた、ぽたと涙をこぼして打ち明けるのは今の少年の正直な心。
ずっと一人で戦い続けてきた。しかしそれが平気だったわけではない。ずっと苦しかったのだ。
もう一人で生きていくのは、一人でいるのは嫌だと、そう伝えた。
■レイカ > 「…もっと恐ろしいものを視てきましたから……。」
彼に語ることはないけれども、ずっと見てきた光景。
貴族たちが、笑いながらミレー族を玩具のように扱い、それを許容するしかない光景。
地獄のような、私の心をずたずたに切り裂いたあの光景…。
だからこそ、だろう。
私は彼の言葉をすんなりと受け止めることが出来た。
「……独りは恐ろしいです。
人間や、生き物の心なんてあっという間に切り裂いて、ばらばらにして…そして嗤うんです。
ざまをみろ、お前はこんなにも弱い生物だと…虐げることが聞こえてきます。
だけど、それが2人ならその声は遠くなり、三人ならほとんど聞こえなくなり…。」
だから、私は彼に手を差し伸べた。
一人で戦うことは辛く厳しい、だけど2人ならばきっと乗り越えることも出来るだろう。
それが三人になれば、四人になれば……。
「…もう少し落ち着いたら、私が拠点にしている集落に連れて行ってあげます。
そこでならば、友達も沢山出来るでしょう……。あそこも、地獄を味わってきた人が暮らしていますから。
今日は、もう寝てしまってください…。私はここにいますから……。」
炎の奥で、私は微笑を浮かべた。
彼が寝付くまで、眠くなる眼をこすりながらしばらくは、眠らぬように……。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からレイカさんが去りました。
■レン・レイト > …もっと恐ろしいものを見たと遠くを見つめる相手。
だからこそ、こんなにも優しく、強くなれるのかと少年は思ったけど。
その目の奥に深い悲しみがあるように思えた。
「……ありがとう。……ありがとう、レイカさん」
もう二度と誰かに期待することはないと思っていたのに。彼女は自分を孤独から救ってくれるといってくれた。
差し伸べられたその手にすがるように触れながら、少年はそのまま眠りにつくだろう。
確かな温もりを感じながら、彼は幾年ぶりに深い微睡に落ちていった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からレン・レイトさんが去りました。