2016/05/04 のログ
■アーヴァイン > 酒場の事務作業を終えて、戻る道中、近道にと裏路地を抜けていく。
そんな中、荷車と一緒に視野に映ったすらりとした女の姿に視線が集中した。
何処かで見覚えのあるような…大体そんな記憶の場合は、軍にいた頃に見かけたことがある人物が多い。
彼女が振り返った荷台のほうから聞こえる呻き声のようなもの、それに気づくと書類が入ったマニラ封筒を脇に抱えたまま、片手を上げて攻撃意志はないのを示しつつゆっくりと近づこうとする。
「急にすまないが…呻き声のようなものが聞こえたが、病人でも載せているのか?」
ちらりと荷台の方へと視線を向けて、そこから聞こえているのに気づいていると目の動きで示しつつ、苦笑いを浮かべて問いかけた。
■レイカ > 「…………。」
少しだけ、ため息をついた。
この街の医者に見せようにも、あの館があんなことになってしまったからそれはできない。
足が付いて、彼の行動に支障が出てしまえば、あの子を助けることが難しくなる。
だけど、このまま彼女たちを放っておくことはできない。
どうしよう、と視線を落し―――もう一度、ため息をついた。
「…………。」
うめき声を聴かれたらしい。
当然だ、いくらホロで隠しているといっても聞こえてくるものは聞こえてしまう。
そのホロをどかしてもらえば解るけど……そこには7人の女性が並んで横になっていた。
皆、瞳孔が開いて涎を垂らし、『クスリ、クスリ……』と呻いている。
一言で言えば―――皆、廃人だった。
「病人なら……いくらかマシだったかも知れませんね。」
私は、そう呟くのが精一杯だった。
■アーヴァイン > 警戒される様子はなかったので一安心しつつ近づくと、相変わらずに呻き声は聞こえる。
そして病人ならという声に訝しげな表情を浮かべると、幌を僅かに開いて中を覗き込む。
クスリと呟く女性が7人、壊れきった姿に目を少しばかり見開いて驚くと、幌から指を離していく。
「…確かに、病人の方ならマシだな。 彼女たちは君の身内か何かか?」
想像以上の酷さに顔色を曇らせながら問いかける。
溜息をついていた辺り、現状に困っているのか、行く宛に困っているのか。
どちらにしろ、また偽善と言われそうなお節介な気持ちが動いてしまう。
■レイカ > 「…………。」
ゆっくりと、首を横に振った。
それは身内ではないという意味合いを込めて、である。
「……完結にしか説明できませんが……。
先日、とある娼婦の館が襲撃されました。その際に開放された奴隷たちの一部、です…。」
その場に居合わせたことは、彼女らをみれば分かるはずだ。
その開放した人物から、彼女らを頼むと言われ、そして手付金まで預かってしまった。
ゆえに―――彼女らをどうにかしないといけないのは、自分の義務であった。
「…医者には、見せられませんので。」
信用ならない、というわけではない。
ただ―――襲撃した人物の行動を妨げるわけには行かない。
その事情を話すことはなく……私は、言葉少なめに彼女らのことを、できるだけ完結に彼に伝えた。
通りがかりの偽善者(おせっかい)さんに。
■アーヴァイン > 身内ではないと否定されれば、なにか理由があって抱えているのだろうと考えつつ、続く言葉に耳を傾ける。
「……そうか、開放されたのは幸いだったが…これでは対応に困るな」
医者にも見せられないと言われれば、かなりの訳有りと見るべきだろう。
使役獣との思念通話を繋げ、更にそこから同じ使役獣とつながりを持った拠点の仲間に思念の言葉で呼びかける。
専属医に現状とベッドの空きについて確かめるように支持を飛ばすが、傍から見れば、顎に手を当てて考え込んでいるようにしか見えないだろう。
「…これにどう答えても、俺は君やその子たちに危害を加えるつもりはないが、王国軍第九師団、もしくは第七師団がそこの館に関わっていたか?」
拠点に彼女らを抱えるにしても、そこの師団と角を立てるのだけは避けたい。
その為、娼館の経営元を問う。
これがタダの悪徳経営者の宿なら何ら問題ないのだが…と、一抹の不安を抱えつつ、問いかけて彼女を見つめる。
■レイカ > 「……私では………この子達をどうすることも出来ないので。」
医者でもなければ、この子達を元に戻してあげることも出来ない。
薬の成分もわからないし、何より―――彼女たちの世話など、できるはずがない。
自分のことですら精一杯だし、まだ残っている10人の奴隷にされていたミレー族のこともあるのだから。
今は誰も知らない場所に隠している。見つからなければ……。
それが、また私を焦らせる。早く、この子達を何とかしなければ…。
「…………ダイダスとセアンの紋章ならありませんでしたよ。」
私は、顔も上げず。ただ呟くようにその名前を言った。。
第九師団ダイダス・ルクセアード師団長と第七師団セアン師団長の名前。
普通はそんなもの知っているはずもない言葉だ。
どうやら憔悴した私は、思考すらもまともに働いていないみたいだった。
「……奴隷を買い寄せて、そこでの売春行為のようでしたので。」
■アーヴァイン > 「仕方ないことだ、一人で出来ることは限られている。寧ろ、僅かでもチャンスを与えられたのなら…君は出来る限りのことをしたと思う」
そこから抜け出すことが出来なければ、ただ弄ばれて壊れていくしかなかっただろう。
それをほんの少しでも変えられたのだからと、労いと賞賛の言葉を紡いで微笑む。
紋章の話を聞けば一枚噛んでいる可能性はある、少し表情が暗くなるものの、商売をしようとしていたと聞けば何故か口角が上がっていく。
「なるほど、それなら言い訳ができる。こちらで引き受けよう。彼女達を早速こちらの拠点に運びたい。専属医が面倒を見てくれるが…禁断症状を抑えるぐらいしか今は術がない。だが、薬に詳しい者も最近こちらに入って、似たような症状の改善にあたっている。時間は掛かるがどうにか出来る可能性はある」
第九師団が金目的で始めたのなら、こちらでより良くするために引き取ったといえば、文句はないだろうと考える。
向こうが望むのは金品や財宝といったもの、それさえ提供すれば文句はないのだから。
プランが決まれば、どうだろうかと彼女の様子を見やりつつ、先んじて使役獣たる大型の隼にこちらへ来るように思念の指示を飛ばしていく。
そして、隼に名前ぐらい教えてやれと脳裏で突っ込まれ、はっとした様子から苦笑いへと表情が変わる。
「失礼、名乗るのが遅くなった。俺はアーヴァイン・ルクセンブルグ。民間軍事組合 チェーンブレイカーの組合長をしている」
九頭竜山脈の麓、王都よりも治安がよくそれなりに活気づいた集落、ドラゴンフィート。
そこに居を構える民間軍事組合の名前だが、九頭竜山脈の周辺をウロウロしていれば、耳にしたことはあるかもしれない。
自己紹介を終えれば、よろしくと笑みを浮かべ、握手を求める掌を差し出した。
■レイカ > 「…………出来る限りやった結果が、途方にくれているんですけどね。」
まるで皮肉のように、私は返した。
確かに…結果だけ見たら、彼女らはもしかしたら回復するて伊達が見つかったのかもしれない。
だけど、それがどういうクスリなのかはわからない以上、あまり期待はできないだろう。
………それでも。
「…ぜひ、お願いしたいですね……。少しでも改善できる可能性があるなら…。
藁に縋るような話かも知れませんが…、お願いできますか?」
どちらもがかんでいる可能性もあるかもしれない、だけどその真相は既に闇の中だ。
先日、その館の店主も店員も、とある男に殺されてしまった。…その場に居合わせたのに、止められなかった。
あのときの男縫え付けられた恐怖が、今も残っている。
少しだけ、自分を抱くように腕を回してから…ゆっくりと、私は立ち上がった。
「………。アーヴァイン…。ふふっ」
少しだけ、私は笑った。
聴いたことがある名前だ。…かなり前だけれども。
「チェーンブレイカー、ですか。まさか、その部隊に会うときがくるとは思いもしませんでしたよ。
……私は、レイカ。今はそう名乗っています。」
軽く、私は名乗りを上げた。
外套のフードをとり、素顔を晒しながら―――その右手を握るのだ。
■アーヴァイン > 「そうかもしれないが…それでも選んだのなら、報われるべきだと思う」
だからもっと力が欲しいと願った、傲慢だろうが偽善だろうが突き通すために。
こうして手を差し伸べることが出来るなら、きっと折れずにいてくれる人も増えるはず。
彼女を救うのかもしれないが、自分も報われた心地を覚えていた。
続く言葉に勿論だと頷き、何かに怯える様子が見えれば、大丈夫と語りかけながら笑みを見せる。
「ん? 覚えがあるか、それなら…多分王国軍にいた頃に見たことがあるかもしれない。俺も君に見覚えがあったんだが、失礼ながら…詳しくは思い出せなかった」
微笑んだ様子に安堵の笑みを浮かべつつ、握手の手を優しく包みこんでいく。
素顔がしっかりと見えれば、曖昧だった記憶が大分鮮明になった。
遊撃偵察隊にいた頃、その顔を見た記憶があったからだ。
「レイカか、よろしく。 よかったよ、少しは名が知られるようになって安心した」
知られたほうが、匿うべき存在にも気づかれやすいからで嬉しそうに笑っていた。
■レイカ > 「たとえ偽善といわれても……ですけどね。」
力が欲しい、とは思わなかった。だけど、せめて…。
自分がこうしたいと思って選んだ場所くらい、護る力が欲しい。
護ってあげられるだけの力は、欲しい。そう願い続けた。
「……いえ、私もしっかりと話をするまで思い出せませんでしたので…。
そもそも、王宮にいること自体が少なかったですからね…。」
私が所属していたのは、第十七師団。主に内部工作や強襲を請け負っていた場所だ。
彼らと勿論仕事をいっしょにしたことはある。だけど…彼の顔は、ちょっと印象がなかった。
別に物覚えが悪いんじゃない。そこだけはしっかりと伝えておこう。
そもそも、私はそんなに物覚えが悪いほうじゃない。ほうじゃない。
「………。逆効果、かもしれませんよ。」
名前が知られたという事は、国家権力にも名前が知られるという事。
あまり名前が知られる儀ると、クーデター要因として攻められることもあるわけだし、気をつけないと。
その旨、一応伝えておこう。
そして、もうひとつの懸案事項も。
「…アーヴァインさん、もうひとつ…匿って欲しい子達が…。
あつかましいとは分かっています。ですが…そのこたちも、一緒に連れて行ってはダメでしょうか…?」
そのこたちも、その娼婦の館から開放してきた女の子たち。
彼女らはミレー族、その子たちがマグメールで見つかれば同いう事になるか―――わからないはずがない。
■アーヴァイン > 「偽善でも、やろうと思わなければ何も変わらない」
自分と同じ人種なのだろうと、その言葉に改めて思うと薄っすらと笑う。
こちらの姿に覚えがないと言われれば、それは仕方ないと気にしてないと言いたげに微笑んで見せる。
逆効果といわれれば首を傾げたが、心配していた内容は全てクリア済みの事で、相変わらずに笑んでいた。
「ドラゴンフィートは王国軍第九師団の命で、副団長以外の存在を平等に扱う集落だ。そして、チェーンブレイカーは王国軍と直接戦闘以外の業務提携をしている、その代わり、他国の軍事業務は負わないという契約をしている。国に認められた安全地帯ということだ」
国と争う気はないが、狙われては意味が無いので安全の確保には入念に行っている。
説明を終えれば、だから大丈夫だと微笑んだ。
「分かった――。ミレーの子達か、大丈夫だ。仕事が無いなら、こちらで給仕や輸送といった業務に充てがうこともできるし、契約したミレーの集落で農業従事もできるし、警護の兵も配置している。安心してくれ」
厚かましいと言った理由も、ミレーだからということだろう。
しかし説明したとおり、何ら問題ない。
王都とは異なる完全なクリーンな環境、整えるのに結構な時間を消費したが、こうして匿えるならやり甲斐はあったのだ。
相変わらずに笑みを浮かべつつ説明を重ねた。
■レイカ > 「………ええ、そうですね…。」
偽善だろうと、なんだろうと。
やろうと思わなければそれはただの正義感でしかない。そんなもので人が助かるはずがない。
行動を起こせ、助けたいなら。…私が今、お世話になっているマスターの言葉だ。
「…なるほど、それなら……安心して任せられますね。
解りました、付いてきてください。……人に教えられる場所ではないので。」
国とやりあうことがないならば、あの子達もちゃんと任せられる。
……全ての懸案事項が終われば、私も私のことをやれる。
足手まといだといわれたから……本当は動くのはダメなのかもしれないけど。
あの子がいなくなってしまったのは、やっぱり私の責任だ。だったら―――。
「ミレーの安息の地……まだ残っていたのですね」
隠れ里まで行くのは、確実に無理だと思っていた。
だから、アーヴァインの申し出は本当に助かった。
いまだに呻いている女の子たちが乗っている荷台の担ぎ口を持ち上げ、ゆっくりと引き出す。
いつも仕事で使っているものだ、引くのになんら苦はない。
「こっちへ……。出来るだけ人に見られないようにしてください…。」
そっと、外套のフードを被ると、路地をさらに奥へとむかって歩き出していく…。
■アーヴァイン > 何度か頷いてその言葉を肯定する。
そして、こちらの説明に安全性を理解してもらえれば、こちらも一安心しつつ、続く言葉に頷いた。
「それを作るのが俺の目的だったからな、俺も力になれて嬉しい」
頷き、荷台を引き出す彼女の隣を歩くも、やはり一人で引かせるのは気になるらしく、邪魔にならない程度に手を添えて、引くのを手伝おうとするだろう。
「分かった」
忍のは得意なこと、頷けば気配をゆっくりと鎮めて気づかれにくくしつつ、足音も抑えて歩く。
こちらを意識してみなければ気づかれないように、風景に溶け込むように務める。
■レイカ > 「……お気遣い結構。」
確かに、女の私が人を7人も乗せている荷台を一人で引いているのだから、気になるだろう。
だけど、一応私も慣れているのでこれくらいならば手伝ってもらわなくても大丈夫。
路地を右へ、左へと曲がると荷台が入らない場所までやってこれる。
地元の人間でもこんな場所があることなど、誰も知らないだろう。
路地の入り口に荷台を置き、その路地の中へと、先に私が入っていく……。
「……重ねて聴きますが………信用していいんですね?」
信用は出来る、と思う。
チェーンブレイカーにはあまり野心を抱いている人間は少ないようにも思うけれども、さて…。
このまま、本当に信用していいものか。
すっかりと王宮騎士団のときの経験から、疑心暗鬼になってしまう私がいる…。
■アーヴァイン > 「…そうか? 気を悪くしたならすまない」
こちらの気遣いが気に障ったのならと思えば、苦笑いを浮かべつつ素直に手を引っ込めていく。
そのまま一緒に進めば、かなり曲がりくねった道筋を進んでいた。
貧民地区に店を構えているので、この辺りは詳しいつもりだったが、荷台が通れない様な狭いところまでくると、こんなところがあったのかと少々驚きが見えるだろう。
「勿論。レイカと俺は同じ思想を持った者同士だと…俺は思っている」
改めての確認に、躊躇うことなく肯定を返した。
じっとその瞳を見つめ、彼女の心からの言葉を真正面から受け止めようと、先程までの柔らかな笑みは消えて神妙な面持ちで言葉を返し、後に続く。
■レイカ > 「………。」
一度、足を止めた。
同じ思想を持ったもの同士……。
「アーヴァインさん、私はチェーンブレイカーには入るつもりはありません。
私は、私の勝手なわがままであの子達を世話してきました……。
貴族に、有無を言わさず玩具にされ続けてきたあの子達を、勝手に哀れに思った、私の自己満足です。」
あなたの、その立派な思想では私の考えなど……。
そんな私は、部隊に入るつもりはない。入れるはずがない。
「……ですが…その…。たまには、会いに行ってもいいでしょうか…?」
まるで照れ隠しのように、私は呟いた。
そのまま、最後の曲がり角を曲がれば、私はようやくフードを取るのだ。
その場所では、十数名の10代前半から後半までのミレー族が、焚き火を囲んでいた。
■アーヴァイン > 組織に入るつもりはない、その言葉よりも続いた言葉に暫し固まってしまう。
数秒の間を追いてから、湧き立つような笑いが込みあがり、クスクと押し殺して笑ってしまう。
「ふふっ…失礼、あまりにも似た者同士で思わず…。チェーンブレイカーがまだ小さな傭兵組織だった頃から、宿を経営しててね。そこで市場に並ぶミレーの娘を哀れんで、うちの奴隷だと引き取って、匿っていた。やはり、似た者同士だ」
何ら変わりない、自己満足で偽善な思いから立ち上がり、それをもっとしたいからと力を求めた。
行き着く大きさこそ異なったが、思想はやはり同じ。
あまりにもそっくりに感じて、思わず笑ってしまったのだろう。
「勿論だ、ぜひ顔を見せてくれ。その時にまた手伝えることがあれば幾らでも協力する」
満面の笑みで肯定していく。
彼女の様な存在が立ち寄ってくれるだけでも、仲間達も自分も、嬉しくなるのだから。
角を更に曲がると、揺れる赤い明かりが影を躍らせる。
焚き火を囲むミレー族の少女達を見やれば、両手を上げて彼女達に近づいていく。
何もしないという意志表示をするのは、警戒させないためのことだろう。
■レイカ > 「………どうでしょうね…。ですが、偽善者という事では、おそらく似ているでしょうね…。」
その笑みを浮かべるアーヴァインさんを横目に見ながら、私も少しだけ笑みを浮かべていた。
私ひとりでは何もできないだろう。けれども……心強いバックアップを得た気分だ。
マスター…、ようやく見つかりました。私の仲間が…。
然し、近寄ろうとするアーヴァインを私は引き止めた。
この子達は人間に対して多大な恐怖心を抱いている、たとえ警戒させなくても、彼女らは人間を見れば逃げ出す。
その証拠に、アーヴァインが一歩近寄れば、ミレーの子供たちが『ひっ!?』と小さな悲鳴を上げて奥へと逃げ出してしまった。
「…大丈夫、この人は悪い人じゃないよ……。
安心して、皆を安全なところへ連れてってくれる人なの…。」
だから、怖がる必要はない、と私が一歩近寄って…なだめよう。
しばらくそこにいて欲しい、とアーヴァインに目配せしてから集まっているミレー族の皆に事情を話す。
「――――と、言うわけなんです。私は…信用できると思っています。」
だけど、一人は言う。人間は信用できない。またひどいことをするに決まっていると。
ここの人たちは、皆人間の奴隷にされてきている人たちだ。―――無理もない反応だろう。
「……ここにいても、暮らしはきっと豊にはなりません。
私では、限界もあるのです。どうか……一か八かでも。私に、騙されたと思ってでも。」
チェーンブレイカーの拠点に、行ってみることを強く勧める。
子供たちにも、そこに行けばキット友達が出来るからと―――真剣に、説得していく。
■アーヴァイン > 「そうだろう? だから同じ思想を持った仲間だ」
彼女の笑みにこちらも柔らかに微笑む。
しかし、それが消えてしまったのは予想以上に怯えていたミレー族の少女達の様子を見たからだ。
何時もと同じホールドアップの状態でも怯える辺り、余程酷い目にあったのは分かる。
それ以上は踏み出さず、彼女の促すままにその場で待機した。
しかし、疑念が抜け切れない状況を見守りながら、思念の通話で他の契約者達へお願いを一つ。
訓練で疲れているようだが、快諾してくれる返事と最高速で向かうという返事に瞳を閉じながら微笑む。
「――同じミレーの言葉なら、信じられると思うが、どうだろうか?」
数分ほどしてから、その言葉を掛けると空が一瞬だけ陰り、空から何かが落ちてくる。
風を纏いながら彼の側にストンと着地したのは、トップスピード時速400kmで飛翔する隼に乗って駆けつけた、同じミレー族の娘達。
小型化された魔法銃を背中に背負い、お揃いの戦装束に身に纏った彼女達のケープには、彼の装備に刻まれたチェーンブレイカーの紋様と同じものが描かれている。
「うちの組合にいる誇り高きミレーの戦士方だ、彼女達が嘘偽りなく答えてくれる」
驚かせてごめんねと同じ年頃のミレーの少女達が優しく声をかけつつ、怯えた彼女達へと近づこうとするだろう。
不安なこと、疑念となること、それらを包み隠さず応えるために。
■レイカ > 「ふふっ……、よくそんな台詞を恥ずかしげも吐ける者ですね…。」
ちょっとクサいですよ、なんて笑みを浮かべながら私は答えた。
そんな間にも、怯えている子供たちにも一人ひとり、声をかけていく。
だけど―――この子達の怯えようもあまりにも酷すぎる。まるで、人間を悪魔か何かと思っているようだ。
「………え?」
同じミレー族、その言葉と共に―――何かが飛翔してきた。
思わず、構えてしまった。風が、一瞬で切り裂かれる音を聴いてしまったからだ。
だけど、そこから下りてくるものたちは、紛れもなくミレー族だ。
銃をてにし、降りてくるミレー族たち…。なるほど、アレがチェーンブレイカーの部隊という事か。
彼らの言葉になら―――確かにミレー族たちも、納得していく様子だった。
「……………。」
私は、心底安心した。
本当に、この人ならば信頼できる。
この人にならば――――本当に大丈夫なんだ、と。
「………あ。」
私は、安心からか――――泣いていた。
■アーヴァイン > 「そ、そうか? あまり…そんな事を意識したことはないんだが…」
何の意図もなく、ただ思った通りに答えていただけなのだが、そう言われてしまうと少し照れくさそうに視線を逸らした。
「この地には神の声を人々に届ける伝書の使いがいたとされている、ミレー族の一部に語られた物語だが…それは人が乗れるほどの大きな隼だ。彼女達は、それらと契約した者達だ」
あっという間にやってきたミレー族の娘に驚く様子が見えれば、そんな説明とともに空を指差す。
建物で句切られたフレームから覗ける夜空には、月夜に僅かに照らされた大きな隼達が、旋回しながら遠ざかっていくのが見えるだろう。
ミレー族に人並みの生活と仕事を与えられる場所、それを優しく説明していく仲間の様子をみやり、どうかなと彼女へと視線を向ければ、涙に気づき、歩み寄っていく。
「大丈夫だ、君がした正しい事はしっかりと実を結ばせる。任せて欲しい」
ぽんと肩に手を当てようと掌を伸ばし、笑みで語る。
やってきたミレー族の娘の一人が彼へ振り返ると、連れてくるなら早くしろっていってましたよと、言伝を彼に伝えた。
■レイカ > 「…『神の声を届ける鳥、空より風を切り裂き神の子を乗せ、全てを伝えるもの。
それ即ち神の使いなり。神の子に仇名すものを啄ばむ神の鉄槌』……ですか。」
くす、と笑みを浮かべながら涙をふき取った。
その伝承がまさか、本当に実在しているとは知らなかったけれど…本当だった、とは。
「…長老様に、教えてもらったことがあります。」
私はエルフだ。ミレー族じゃない。だけど、育ちはミレー族の集落だった。
反対を押し切り、人間の世界を変えようと躍起になって、若かった私は村を飛び出した。
だけど―――その精でいろいろといやなものを見てきた。自分の小ささも思い知った。
今にして思えば―――村を出るべきではなかったのかもしれない。
「……いえ、任せません。私も………。
私も、彼らを見守ろうと思います。彼らを助けたものとして、知らぬ存ぜぬは出来ませんから。」
だから、チェーンブレイカーの拠点へと、私も案内してください、と申し出た。
「……だ、そうです。」
笑みを浮かべながら、私は彼へと振り返った。
■アーヴァイン > 「まさにそれだ。ダメ元で探してみたんだが…予想通りに存在してくれたのは幸いだった」
きっと彼女の住んでいた集落も、彼らの住処にほど近い場所だったのかもしれない。
そう思いつつも笑みで頷けば、掛けた言葉には予想外の返事が返り、すこしばかり驚くが。
「…そうか、なら一緒に行こうか」
拒む理由などはなく、彼女の言葉に頷けば思念の通話で自分の使役獣に降り立つポイントを指示し、それから仲間のミレー族の娘が火の後始末を行っていく。
「では早速向かうとしようか、空の旅を楽しんでくれ」
そして彼女達を先導して一旦人気のない空き地へと移動すれば、隼達が移動用の大きな籠を足に掴んだ状態で空き地へと降り立つ。
彼女達を分乗させれば、彼と仲間のミレー族も隼の背に乗り、空へと飛翔する。
トップスピードは出さないが風を切りながら空を飛ぶのは、なかなか経験することのない移動となるだろう。
拠点へたどり着けば、薬漬けの少女達の手当、かくまったミレー族の待遇と手際よく進む処置を彼女に見せながら、今宵の幕が下りる。
■レイカ > 「私も、伝承にしか知らなかったことです。」
実在しているとは思っていなかった。
だけど、こうして実在していることを見せてもらえば、信じないわけには行かなくなった。
「……………ええ。」
心強い味方。ミレーたちの安息の場所。
それらが揃っている場所は、きっと私にとってとても心地いい場所でしょう。
薬漬けになってしまっている彼女らを癒すにはかなりの時間が駆るでしょうけど…きっと、大丈夫。
そんな気がするんです。必ず……見つかると。
「……え、空の旅?」
だけど―――私は別の恐怖を、味合わされることになった。
高いところが苦手なのに――――。きっと、拠点に行くまで私は蒼い顔をしていたことだろう。
そして、降り立った際には、二度とこの鳥に乗るのはごめんだと、アーヴァインに強く抗議するのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からレイカさんが去りました。