2023/07/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエイリさんが現れました。
■エイリ > 「うーん、困ったねぇ……。
この辺は本当に道が入り組んでて、訳が分からない」
貧民地区の一画を歩いている女は、迷子になっていた。
ニンジャが迷子とは恥ずかしくて認めたくないが、目指す店の場所が分からなくなってしまったのは事実である。
追手から逃れてこの街へ来た頃、治安が悪いと聞く貧民地区にはあまり近寄らないようにしていたせいで、土地勘が養われていないのだ。
通行人がいないわけではないので尋ねればいいのだが、なにせ場所が場所だけに、面倒に巻き込まれないかと警戒してしまう。
「方角はこっちで正しいはずだけど、なんでこんなに道が捻じ曲がってるんだか」
情報を集めるためにうってつけの酒場があると聞いて出かけたものの、暑さのせいもあって少し後悔し始めていた。
ニンジャの過酷な修行の前ではこの程度の暑さ、と言いたいところだが、暑いものは暑いのである。
額に浮かぶ汗を拭いつつ、道を進んでいく。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にタムリンさんが現れました。
■タムリン > この辺りには廃墟が多く、廃墟はえてして犯罪や疫病になりやすい。
特に屋根の上は、人が済んでいないと瓦礫やら何やらが知らない間に積み上がり、
いつかそれが、下を通りかかった不運な人物の頭を直撃……下手すれば命を落としたりする。
なので、こうして少年のように、屋根に登って掃除する者の姿が時折見受けられるのだ。
単なるボランティアから、冒険者ギルドの小さな依頼から、少年がこの仕事を引き受けたのは後者。
屋根の上を清掃し、工程としては最後になるモップがけをしていた少年は、
道を行く女性の姿をほんの少し前から発見していた。
気配を消す達人でもないため、相手も自分が屋根の上にいるのは普通に気付いていたかもしれない。
最初は声をかけようと思ったが、場所が場所だし、何か裏があると思われ余計に相手の心労を増やしかねない。
しかし、それほど深刻そうではないにせよ、難儀しているように見えるのも確かだ。
少年それから数秒悩んで、モップを屋根に置くと、女性の少し離れたところに飛び降り着地した。
彼女の前方。襲撃者だと思われては困るので、物理的な距離感は大事だ。
その上で声をかける。
「どこか、行きたいところがあるんすか? お姉さん。良ければ道を教えるっすけど」
道に迷っているんですか、という不躾な言葉を選ばない程度の分別はある。
■エイリ > そこかしこの影に人の気配や息遣いがする界隈であったので、声をかけられるその時まで、頭上の屋根から見られていることには気づかなかった。
さすがに前方の頭上で素早く動く気配を察知すると少しばかり身構えたが、相手から剣呑な態度は感じられなかったので、体の横に構えていた腕を下ろす。
「――ええ、そうよ。ちょっと道に迷っちゃって。
通りすがりの人に聞けばいいのかもしれないけど、その人が信用できるとは限らないじゃない、ここ?
だから、どうしようかなって悩んでたとこ」
背の低い相手とは、5歩程度の距離。
小さいからとて油断の出来ない人物の多い街ではあるが、いざという時に飛び退くことぐらいはできる距離だ。
「キミ、悪いことをしそうにはないけど、タダより高いものはないと言うし……。
この辺りに詳しいなら、きちんと妾《アタシ》が道案内として雇う、というのでどう?」
■タムリン > 上から見ると全然分からなかったが、同じ地面に立ってみると、とんでもない魅力的な体つきの女性だった。
もじもじするほどうぶではなく、むしろ二秒ほど、視線が吸い寄せられてしまったのは少年とはいえ男のサガか。
おほん、と、思わず目を奪われたことを誤魔化すように小さく咳払いする。
出会い頭にじろじろ見られたら、失礼と感じる者も居ておかしくない。
そんなこんなで、我に返った少年は、彼女の言葉に首肯を見せる。
「この辺りは無計画に家を建てたり打ち壊したりまた建てたりしてるから、迷路みたいになっちゃってるんすよねえ。
自分も、最初は苦労したもんっす。それ以外にも危険なことも多いっすし」
それは暗に、道を尋ねたとてその相手が信用できるとは限らない、という部分への行程を含んでいる。
なので、相手が適切な距離をキープしていることに対しては、むしろここでの正しい作法、という認識。
「そうっすね。じゃあ、お姉さんの行きたいところまで案内するっすよ。お仕事として」
口頭で教えても良かったのだが、そういう形なら案内するし、仕事として案内するのも問題ない、とこくり頷く。
■エイリ > 煽情的なクノイチ衣装がただの野暮ったいチュニックに見える、いつもの隠匿のニンジツはかけているが、少し勘が鋭ければ見破られても構わないという程度のお遊びのような術だ。
こちらの胸や尻に視線をやって、慌てて逸らしたところを見るに、術は見破られているのだろう。
慌ただしい視線の動きを愉しそうに眺めていた。
「だから表に出てこないモノが得られたりするんでしょうけど、ねぇ。
迷子になっていたら、そんなこと以前の問題よね」
やれやれ、と自嘲を込めて肩を竦める。
その程度の動きでも過剰に主張する胸は重く柔らかそうに弾んでしまうのだが、こればかりは仕方ない。
お約束のように胸の谷間に指を入れると、なかから4つに折られた紙片と銀貨数枚を指に挟んで取り出して、近づいていって彼に手渡した。
「探してるのはこの酒場。どうやら地上のお店は見せかけで、酒場は地下にあるらしいんだけど。
報酬はこれぐらいでどう?
まずは半分、無事に到着したらもう半分。
辿り着かなくて一緒に迷子になっても、渡した半分を返せなんて言わないから安心して」
治安の悪い街に大胆で強欲な子供はつきものだし、慣れている。
からからと鞠を転がすように笑うと、紙片を渡した手をそのまま目の前へ。
「妾はエイリ。よろしくね」
■タムリン > 仕事柄、男女混合というのは珍しくないし性別を意識しないすべを身につけて来たつもりだが、
何事にも限度というものがある。
彼女の衣服は本来のそれの上に、うっすらと幻影を羽織っているように見えているが、
それはさもありなん、だ。そのまま歩いていたら声をかけてくる男が列をなしてしまいかねない。
まあ、やましいことが目的で声をかけたと思われないように気を付けよう……
と、少年は胸中で何度も頷いた。
「…………。」
本当に胸の谷間に物を挟んで隠しておける人を初めてみた、という、
何か男子としてはありがたいものを拝んだような気持ちで、とりあえず言葉を失う少年。
しかしまあ、渡されたものを受け取った時には普段の様子に立ち戻り、
「拝見するっす。ふむふむ、ほうほう」
少年はこの辺りで仕事をするようになって、それなりに長い。
酒場巡りするほど酒の味が分かる舌を持っていないので、利用したことはないが、
別件で入店したことのある店だった。充分案内できる。
「仕事って話なら仕事ぶんはきっちり貰うっすけど、貰い過ぎは命を縮めるっすからね。こっちもこれ以上寄こせとは言わないっすよ……あ、自分はタム・リン。タムリンでいいっす」
欲をかくと、結局悪評がついてまわるようになる仕事だし、怨みをかって本当に命を縮めることになりかねない。
そこは弁えている少年は報酬に異論はないと銀貨をありがたく受け取ってから、
開いた紙片にもう一度目を落とし、再確認。その上で歩きだす。
「一応知ってる場所だったんで。安心して欲しいっす。行きましょう」
■エイリ > 面倒事を避けたいだけなら無難な衣服で出歩けばいいのだろうが、そこはニンジャの矜持というものがあった。
手足が覆われていないから動きの邪魔をしないし、こう見えて意外にしっかりと豊かな部分も引き締められているのだ。
相手がぽかんと半開きでこちらを見ている理由に気づき、意地悪そうに赤い唇を笑わせ。
「他にも色々入ってるわよ。
怪我の薬とか、小さい武器とか……そうそう、エッチな道具とか。
悪いことできないように、ちょっとキミの手で広げて調べてみる?」
なぁんてね♡、と、からかいすぎて道案内の機嫌を損ねないよう、すぐに冗談だと明かして撤回したが。
紙片を読んでいる顔には迷いが感じられず、安心して任せられそうだ。
姿や言葉こそ幼いが、受け答えはかなり経験豊富であることをうかがわせるものがある。
「――ねぇ、タムリンって見た目は坊やって感じだけど、もしかして妾より年上だったりする?」
他愛のない冗談と雑談を交えながら、無事に目的地へ案内してもらうと、残りの報酬と共に握手を交わす。
慣れない貧民地区で知り合った優秀な案内人と、懇意にしておかない理由はない。
その場で少年に別れを告げ、女は妖しげな地下への階段を下っていった――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエイリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からタムリンさんが去りました。