2023/07/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にバティスタさんが現れました。
バティスタ >  
「はい。これでもう大丈夫ですよ。神様への感謝を忘れぬよう、強く生きてくださいね」

───原因不明の病に侵されている
冒険者ギルドに僅かながらの報酬で、薬を求める貧民街の男の依頼からその話は伝わった
男の娘は荒屋で、只々苦しむ様子を見せ、病状は深刻であることはすぐに理解った
恐らくは不治の病
この王国の持つあらゆる医学、魔法では治療は困難だろう
できたとしても、法外な報酬が要求されるのは明らかだ
行き詰まった貧民街の男が最後に縋ったのは…人が最後に拠り所にするもの──そう、神だ

薄い蒼翠の光に包まれた聖女の手が娘の身体から離れると
苦しげに臥せっていた娘は落ち着き、土気色をしていたその顔にも血色が戻ってゆく…

奇跡だ、と
周囲を見守る貧民街の住人達から声があがる中

「(愚かね。奇跡なんてそう簡単に起こるもんですか)」

内心ほくそ笑む聖女は立ち上がり、屈託のない笑顔を見せる

バティスタ >  
「皆様も、困ったことがあったらいつでもわたくし達を頼ってくださいね。
 神様は皆のことを常に見守っていらっしゃいます…。もし聖徒に訪れる時があれば、是非お祈りを捧げてくださいませ──」

一礼し、報酬をと駆け寄る男を手で制し、受け取らぬままに荒屋を後にする
連れの聖堂騎士達が広場で配給を行っているのを尻目に、貧民街を静静と、歩きはじめ

「(効力は何年持つかしら。一年?大人になるまで?それとも結婚して子供を育むまで?…ふふ、さぞ深い絶望に苛まれることでしょうね…)」

折角病気が治ったのに、折角生きていけるのに、この王国はまるで生地獄
貧しい者が生きる上での現実に、あの時死んでいれば良かった…なんて思ってくれたら

「(───なんて素敵)」

是非是非、貧民の皆様には生き延びて、この王国に搾取され続けてくださいねと
欺瞞の聖女は心の中で嗤いながら、貧民の街を慈愛の笑みのまま、歩んでゆく
もっと惨めな者は、いないかしらと