2022/10/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 鼻歌まじりで歩く、隙だらけの壮年男性。
適度に酒が入ってご満悦のご様子。足取り軽く、貧民地区の路地を歩く。
「やー、臨時収入ってのはいいねぇ」
ある酒場でのごたごたを解決し、それなりの財物を手に入れた。捌くには時間がかかるが、腐るような物ではない。
気長に金に変わるのを待てばいい。
路地を曲がった所で、貧民地区には不似合いな区画を見つけた。ぽっかりと穴が空いたような、あるべきものがない印象を与える。
二人の男達がご機嫌な様子で立ち去っていく。眉を顰め、空白の場所へ近づいていく。
「……火事があったのか?」
貧民地区に石造りの家は珍しい。延焼を防ぐために木造の建物ごと壊したのだろう。推察するに小屋レベルか。
周囲に火の不始末が起きそうな場所はない。気持ちよく酔っていた所に水を差された顔。
周囲を見渡す。貧民地区で活動するならば目立たず、さりとて街の他の場所に出るにも都合のいい好物件。
「周囲に災害の跡がない……地上げか?」
先程すれ違った男達はあまり性質の良くない印象を受けた。その被害にあったのだろうか。
どんな経緯があったか知らないが、自然と祈りの姿勢をとった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にアリス・クェンビーさんが現れました。
■アリス・クェンビー > 彼の後方から声。その前に悠然とした足音が聞こえたか。
「誰も死んでいないようよ」
柔らかく微笑を浮かべたまま、女は言った。
彼の祈るような姿勢は、死者に向けたものに見えたので。つい。
……それにしても、場違いな女である。装いも、纏う空気も。彼にかけた言葉も、相手からすれば意味深に聞こえるか。
■ヴァン > もっと火事の原因を探ろうとして敷地へと立ち入る。見咎めるものはいない。
唐突に背後からかけられた声に、顔だけを巡らせて人影を探る。
「それはなによりだ。とはいえ、家の持ち主が生きていても、冬が近づくこの季節で家を喪っては……」
振り返り、数歩近づく。
身なりを眺めると、微かに首を傾げた。
「ところで……その情報はどこから?見たところ、この界隈に住んでいるようには見えないが」
伝え聞いた、というニュアンスにしてはどこか奇妙だ。外見とこの場所が容易には結びつかない。
相手の素性がわからぬ中、多少の警戒をしつつも応対する。
もっとも、男自身も客観的に見れば酒に酔ったなかで珍しいものに興味をひかれたただの男だ。不審なのはお互い様か。
■アリス・クェンビー > 「やさしいのね。目の前にいない誰かのことを案じるだなんて」
価値観の違いである。女の物言いに皮肉の音はなかった。
お互いの距離が近づくと、女は笑みを深めて。
「だって、死体の匂いもしなければ、死霊も視えない。
……残留思念もないようだし、死後、ここを離れた形跡もない。
――残念だけど。誰も死んでいない。家の持ち主は住処を失ったくらいね」
死体の匂いも。……言葉のそのあたりで、女は上唇を舐めた。
無意識の所作らしい。その際の表情はどこか恍惚としており。
だが、話し終える頃にはつまらなそうな表情に打って変わり。言葉と表情、仕草がわかりやすいほどリンクしている。
不審者めいている癖に、意外にも裏表のないタイプか。
話から死霊術師だと察しがつくかも知れない。自分から名言していないので、女は相変わらず不親切だが。
「あなたは、このあたりに住んでいるの?」
愛想のいい笑顔を浮かべて尋ねる。結びも編んでもいない空色の長髪が、夜風に揺れている。
黒色のショールで上半身は覆われているが、その隙間、ドレスの透かしレースから僅かに肌色がちらつく。
■ヴァン > 「思ったことを口にしただけさ」
この街では案じる以前に、想像できるだけで優しさと言えるのかもしれない。
笑みを深めた目の前の女に目を細める。
「……ネクロマンサーか」
ぽつり、呟く。神職でも類似の技能を持つ者達はいるが、死者への態度が異なる点が決定的に異なる。
死に対する感情がみてとれると、男は眉を顰めた。男自身も通常より道徳観は低い方だが、他人の不幸を喜ぶほどではない。
ネクロマンサーと一口にいうが、降霊術を用いる者もいれば死体を使役する者まで幅広い。一部は主教にとっても問題視されている。
女の表情がもとに戻ったのをみてとると、男も表情を元に戻した。
「いや、ただの通りすがりさ。珍しいものを見つけて興味をひかれただけのオジサンだよ、お嬢さん」
怪しい人間じゃないと言い訳をするように取り繕う。叩けば埃が出る身だが、わざわざ公言する必要もない。
視線が服装に向く。一見寒そうに見えるが、女性のファッションというものに男は門外漢だ。
寒そうに見えるだけでそうではないのか、我慢するものなのか。考える時間のせいか、やや長く視線が釘付けになった。