2022/08/13 のログ
■チャルヌイ >
「いつから審問庁は無辜なる王国の市民を訴追するようになったのです?」
ベルナデッタが現れると、チャルヌイはすぐに彼女がこの集団の統率者であることに気が付いた。
明らかに説教に慣れていない、喋りのたどたどしい新米の異端審問官に比べ、
その風体も言葉の響きも、明らかにその仕事への慣れを感じさせたからだ。
「私は魔族のシンパではありませんよ。しかし、審問庁の法執行には疑問点がある。それだけのことです。
そもそも聖職者全体が同意した執行法無くして神の権力を名目に暴力を行使していること自体が不法な働きだ。
あなた方はいつから奇跡や啓典をさしおいて神の代行者になられたのです?
だいいち、なぜここで慎ましやかに、――彼らを恐れる人間のために身分を隠してまで――
住む魔族に、いったいなんの問題があるのです。彼らは持たざるものであり、金銭や名誉のみならず、
その尊厳さえ王や教会からないがしろにされている存在だ。
彼らが主教を脅かす存在になりうるとあなたは本当に思っていらっしゃるのか?」
チャルヌイはベルナデッタの忠告、いや警告にもかかわらず。あくまでその場で居座る気でいるようだ。
一方で彼は目の前の審問官との偶発的な衝突に対して用意を怠ってはいない。
少なくとも一瞬で片が付くことはないだろうことは、戦いに慣れたものなら彼の挙動から予測できる。
彼の後ろでは、衛兵隊に比べ装備の遥かに貧弱の男の魔族たちが、殺気とともに構えている。
不思議なことに、女や子どもの姿はそのどこにもなく。
■ベルナデッタ > 「無辜、無辜ですか……」
チャルヌイの言葉を聞き、ベルナデッタはため息をついた。
目の前の男は男で審問庁に敵意を抱いているのだろう。
ベルナデッタが何を言っても聞かないに違いない。
なので、ベルナデッタはそれだけ言ってしばし待つことにした。
まぁ、何がどうなってこうなったのかを把握した時点で手は打ってある。
そして、しばらく待っていると、ベルナデッタの背後から人影が現れる。
それは、いつの間にか姿を消していた新米異端審問官と、
明らかに聖職者ではない騎士、王国軍部の人間の姿であった。
チャルヌイに知識があれば、それが対魔族戦闘で有名なある騎士団に所属している者だと分かるだろう。
「あら、早かったですね。すみませんね、ご苦労をおかけして」
ベルナデッタは騎士にぺこりと頭を下げ、騎士もまた親し気に挨拶を返す。
そして、騎士は持ってきた巻物を広げると、その内容をチャルヌイに読み始めた。
…ここに潜む魔族の名前、そして罪状である。
その内容は周辺住民への暴行や強姦、窃盗から、殺害や奴隷としての売買、
さらには王国政府や軍部に対する諜報活動や貴族の暗殺までも。
その中には主教の信徒に対する加害も含まれていた。
「……と、いう訳です。彼らは魔族の国からこの国への破壊活動の為に来た連中です。
我々が何の下調べもなくここに来たとお思いですか?」
ベルナデッタは静かに言う。
彼の背後の魔族達は、罪状を明らかにされ狼狽えていた。
恐らく、彼のことは完全に騙し切っていたのだろう。
その反応が、騎士と異端審問官の言う事の真実味を増させる。
「彼らは主教を脅かす存在になり得ると言いますか…現在進行形で脅かしています。
勿論、この王国の存在をもです」
ベルナデッタは静かに言う。
異端審問庁と軍部は協力関係にある。
魔族という強大な存在を討つ為には、聖職者の助力が必要不可欠なのだ。
「そもそも神々は人を脅かす魔を討ち滅ぼせと仰っているはずですよ。
少なくとも、私の信仰する女神は」
■チャルヌイ >
「……」
チャルヌイはその騎士が現れるなり眉間にしわを寄せ、彼の読み上げる罪状を訝し気に聞いていた。
「君たちは――」
だが、言葉を紡ぐのを途中でやめた。
その騎士は王国軍部のある一派で、彼らはチャルヌイを嫌っていた。それは彼が異端であるからではない。
王国に仇なす魔族を駆逐することさえできれば、軍はどんな勢力と手を組もうが問題にしない。
この騎士がチャルヌイを嫌うのは、チャルヌイが仕事がよくでき頭が切れるからであって、
さらに言えば彼らにとってチャルヌイのやり方が気に食わないからだ。
チャルヌイは魔族のシンパではない。現実主義者だ。
悪意ある魔族を逮捕することは彼にとっても重要なことだ。
マグ・メール大学の政治的地位は魔族と現在進行形で戦っている貴族の支持にかかっているのだから。
だから。
その必要に迫られたとき、チャルヌイは異端審問庁とは違った道を選んだ。
逮捕し、処刑するのではなく、彼らと協力する道を選んだ。
(愚か者どもが――)
そう言いたかった。
だが、言ったところでどうなるというのだ?
彼の計画は完全に破綻した。
「ああ、思わないよ、ミス・ベルナデッタ。私は君たちのことをほんとうによく知っているから。
だから聞いたんだ、私は。
"貧民たる彼らが主教を脅かす存在になりうると、きみは本当に思っているのか"とな」
暴行、強姦、窃盗、殺人、奴隷売買、諜報、暗殺。
無論、どれも一級犯罪だ。裁かれてもおかしくはない罪だ。
今やここにいるだれもが彼らの罪を知っている!
(だが、それがどうしたというのだ? 魔を撃ち滅ぼす? そんなことどうだっていい!)
チャルヌイが数年がかりで貧民地区で築いた魔族コミュニティへの回廊は、今ここで崩壊しようとしている。
「ベルナデッタ・・マルケッティ、私に言わせれば、主教や王国を崩壊させようとしているのは――君ら自身だ」
そう吐き捨てるようにして、チャルヌイはベルナデッタの前に立ちはだかる。
■ベルナデッタ > 「……我々について知るぐらいなら魔族についてももっと知ってもらいたいのですが。
その問いの前提自体が間違いです。彼らは貧民ではないので」
そう答えつつベルナデッタは、内心別のことを考えていた。
目の前の男を利用することを考えた魔族は相当の食わせ物だ。
しかも王国のみならず主教の事情にも明るい。
もしこの場にいないとしたら大変な脅威になるだろう。
「例えばそこの魔族は故郷では貴族です。そこの魔族は有力魔王の配下です。
彼らは魔族の国からの支援を受けてますし、魔族シンパの貴族の資金提供も確認済みです。
第一、貧民がこんな大層な地下アジトを築けますか?」
種族の垣根を超え人間に友好的な魔族は存在するが、そういう魔族はちゃんと地上に住む。
こんな場所を作ってまで隠れ住むのは人間を害するタイプの魔族だ。
現に、発動していないだけで今この場の壁にも、罠魔法陣が目立たぬように刻まれている。
どれも、専門の教育を受けた魔族のみが刻める高度なものだ。
「彼らは明らかにただの貧民ではなく専門の工作員です。
彼らに人類への融和の気持ちなどありませんよ?ただ限りない悪意と支配欲があるだけです」
そう語りつつ、徐にベルナデッタは片手を上げる。
すると、彼女の背後に追加の衛兵達が現れる。
彼らが手にしているのはマスケット銃。
衛兵達は戦列を組み、それを一斉に構える。
例えチャルヌイが立ち塞がろうと、彼ごと背後の魔族を射殺できるだろう。
にも関わらず、その銃口はチャルヌイの方を向いていない。ぴたりと背後の魔族を狙っている。
「動かないでくださいね?射撃開始」
ベルナデッタは手を振り下ろす。轟音と共に弾丸がチャルヌイの横を飛んでいく。
そして、間髪入れずにハルバードや剣を持った衛兵達と新米異端審問官達が魔族の方へと突撃していく。
彼ら彼女らは、チャルヌイには目もくれないだろう。
■チャルヌイ >
(ああ知っているさ、知っているとも)
魔族の国の上層部にはチャルヌイ達が「センター」と呼ぶ組織がある。
それは防諜機関たるベルナデッタ達が対峙する魔族の国の情報組織である。
魔族国の王国に対する浸透工作の実態を追い始めてからというもの、
チャルヌイはセンターの浸透手法を研究した。
チャルヌイにとっての最大の疑問は、異端審問庁が摘発を行っているにもかかわらず、
なぜ魔族は王国中枢部まで浸透しえているのかということだった。
そしてチャルヌイは一つの事実に驚愕した。
ある事件で異端審問庁が突き止めた証拠が、センターからもたらされたものだったのだ。
(これは蜥蜴のしっぽ切りなんだからな)
センターは定期的に、異端審問官に魔族の地下コネクションの情報を与えていると思われた。
それはもはや隠し通せないと踏んだコネクションを、偽のカバーストーリを与えたうえで
他のコネクションから切り離し、全体が壊死するのを防ぐための処置だった。
異端審問官には信仰篤いものが多い。彼らは常に違法行為の証拠を欲しがっている。
魔族の違法行為を密告すれば、摘発は必ず執行されると踏んだセンター側の処置だろうと思われた。
チャルヌイ達は彼らを利用しようとした。すなわち、敵を最も効果的に欺く方法は、
敵に労力を使わせながら利用できていると思わせることだ。
主教の異端派はそのよい隠れ蓑だった。特に異端勢力が貴族の支援を受けて存在していることは、
センターにチャルヌイ達が異端審問庁に対抗する存在として利用価値があると思わせる絶好の材料だった。
そして事実、あるところまでは上手くいっていたのだ。
「いいや審問官、どこまでいっても彼らはただの貧民だ。捕まえる価値"すら"ない」
ここにいる魔族たちは、何秒の稟議の結果見捨てられたのだろう。
彼らは異端審問官のように理想に忠実で、魔族の国に殉じた存在だ。
だから、悪意と支配欲、その言葉を聞いてチャルヌイはベルナデッタから目をそらした。
マスケットの轟音と突撃の怒声によって、最後の言葉は彼女にしか聞こえないだろう。
「君は彼らを侮っているよ。悪意や支配欲などというロマンチックな概念で彼らは動かない。
彼らは本質的に人間と同一の存在だ。何も変わりはしない」
その言葉には彼らしくない焦燥があった。
■ベルナデッタ > 一旦始まってしまえばそう苦戦することもなく、この場にいた魔族は全滅した。
次々と魔族や魔物の死体が運び出され、押収品を抱えた新米二人がせわしなくアジトと地上を行き来する。
そんな様子を眺め、血に汚れた壁と、機能しない魔法陣を眺め、
最後にチャルヌイに視線を戻したベルナデッタは…彼に微笑みかけた。
「どうやら、貴方も我々を侮っているようで。ご心配なく、狙い通りですので」
そう、凄惨な殺戮劇の後と思えぬ、にこにことした笑みで語り掛ける。
もはやここに、魔族の目線も監視用の魔法陣も無い。
真にクリーンな空間だ。
「情報の出所の怪しさに気付いたのが貴方だけだと思いましたか?
あえて乗ってやってるのです、新人の実戦訓練も兼ねて」
尻尾切りが上手くいかなければ、彼らは別の方法を使いだすだろう。
異端審問庁が把握できていない別の方法を。
それを考えれば、上手く行っていると思わせた方が良い。
どうせ死ぬのは人間に害をなす魔族だ。それに、
油断してくれれば、切ってはいけない部分まで切ってくれるかもしれないのだ。
「それに、貴方がやっている事だって、
一度や二度ぐらい私達に潰された方がかえってリアリティが出る、そう思いません?」
しかしこちらは次からも真剣に潰しますので、そちらも頑張ってくださいねと、
ベルナデッタは悪戯気に思えるような笑顔でチャルヌイに言う。
不仲だと思わせた方がいい。有能でないと思わせた方がいい。
その方がかえって、相手も油断してくれる。
「ただ、本質的に同一というのは、それだけは間違っています。
私達は彼らより弱い存在です。侮っていては勝てません。
上手く行っていると思っても、念には念を入れる事です」
■チャルヌイ >
「……無論、そうであることを祈るが」
自らの懸念は杞憂か、それとも――
チャルヌイは自らの心の中の疑念を振り払うように首を横に振って、ため息をついた。
「――ミス・ベルナデッタ。あなたの聡明さを信じてはっきり申し上げるが、
これからは貧民地区に余計な手出しをしないでいただきたい。
そうでなければ、私は審問庁を敵に――今度は本当に敵に回さざるを得なくなります。
ええ、貴女は彼らの意図を知っている、それはそうでしょう。
だがあなたは主教の問題を知らない。貴方が魔族討伐のプロだとするなら、
私は教会政治に対するそれなんですよ。我々はもとより戦っている土俵が違うのです。
どうか私を責めないでいただきたいが、もし私が求心力を失えば、
改革派は希望を失って次に何をするか予想がつかない。
無論、それが今すぐ起きるというわけではない。然し起こってしまえば、
都下で暴動が起きるか、ヤルダバオートで虐殺が起きるか、それとも農民が騎士を打ち倒すような反乱か――
どちらにせよ、胸糞悪い結果に至るのは確かです」
それは脅しのようにも聞こえるが、一片の真実であるようにも思える。
「審問官。私は20年ぶんだけ長く、貴女より魔族と戦ってきました。
――驚かないでください、私も昔はあなたと似た地位にいたのですよ。
だから忠告するわけではありませんが、我々の敵は魔族ではありません。
彼らはいって見れば水です。水が岩を割るのは、岩に元々ひび割れがあるからです。
それをゆめゆめお忘れなきよう、貴女の去就に関わることですからね」
ベルナデッタのそれほど、チャルヌイの魔族への敵視は強くない。
そこにはベルナデッタには理解できないだろう、チャルヌイの魔族に対する奇妙な信頼感があった。
■ベルナデッタ > 「余計かどうかを決めるのは貴方でも私でもなく神々です。
女神様が行けと仰られれば私は行くでしょう。
ですが……えぇ、貴方のシンパに分からなければよいのでしょう?」
今回は相手の規模が大きいが故の例外のようなもの。
普段は一人で…もっと静かに彼女は動く。
彼に知られぬうちに、この貧民地区で任務をこなしたのも一回や二回ではない。
「主教の問題、ですか…………。
……それは”200年前から続く話”だったりしますか?」
ベルナデッタは意味深な笑みを向けながら、チャルヌイに聞いてみる。
だが、次の瞬間にはわざとらしくしまった、とでも言いたげな顔をしながら、棒読みめいて言う。
「おっと、これは異端の人には話せないですねぇ。
改革派とやらに所属する方々も、どうせ知らないでしょうし」
既に周囲では、異端審問官の部下達が撤収の準備に入っている。
ベルナデッタの言葉も、まるで聞いていないかのように。
「えぇそうですね。我々の敵は魔族”だけ”では無いですね…。
ご心配なく、貴方の周囲の改革派よりは、私は主教の問題を理解していますよ」
衛兵達がアジトを出れば、ベルナデッタもぐるりとチャルヌイに背を向けて。
目線だけは彼に向け、手を振った。
「それでは貴方のご希望通り、私はこの地区を出ていきましょう。
ごきげんようラジヴィウ司教。主神と貴方の信ずる神のご加護があらんことを」
そうだけ言い残し、ベルナデッタもアジトを出ていった。
■チャルヌイ >
ベルナデッタが出て行ってから、取り残されたアジトの中で、チャルヌイはひとり呟く。
「まったく、詮索好きなお嬢さんだ――」
彼女を止めることは困難だろう。狂信者という奴は、まったく手に負えないものだ。
「神、神か……そんなものがいればな」
暫くすると、アジトの中に梟のペンダントを持った彼の部下が入り込んでくる。
「全員無事か、素晴らしい。すべて手筈通りに」
部下の報告を聞いて、彼は満足げに呟く。
「――審問庁は審問庁の好きにさせるほかあるまい。だが、我々はセンターと――」
その言葉の最中、彼の姿はその場から忽然と消えた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からチャルヌイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からベルナデッタさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館通り」にサマベルさんが現れました。
■サマベル > (貧民地区の娼館通りを、ゆっくりと左右に視線を向けて歩いていく。
買う立場になってもいいし、買われる立場になってもいいと気に入りそうな相手を物色しながら、器用に人にぶつからないように移動をしている)
「こういうところですと、買うのも買われるのもお安いですからいいですわね。
ただ、お互いに気に入るようなお相手を見つけられるかどうか、というのが難しいところですけれど」
(どうしても貧民地区にいる娼婦や男性は、申し訳ないがレベルが低いと言わざるをえなくて、お金がなくて女日照りであるだけにがっついて激しく求められるのは悪くないものの、それも相手次第であって。
今のところ、買うも買われるもされることなく通りを歩いている)
■サマベル > (ゆっくりと娼館の前に立っている娼婦を品定めしてみたり、声を掛けてくる相手を物色して。
好みにあった娼婦の少女を見つけて声を掛け、娼館の中に入って楽しむことにし、その後、その少女を自分が世話になっている平民地区の娼館へと引き抜き、お持ち帰りをする。
引き抜き料代わりに、暫くの間、貧民地区の娼館で働く女の姿が見られたとか……)
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館通り」からサマベルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 酒場」に黒須さんが現れました。
■黒須 > (平民地区から離れた無法地帯、貧民地区。
法は通用せず、暴力と欲望が溢れ出る街であった。
そんな街の中でのひとつの安らぎはあった。)
「……フゥ」
(ため息を漏らしカウンターに座る黒一色の男がそこに居た。
貧民地区にあるとある酒場、値段に見合う酒を提供し、内装も落ち着きのある造りをしている店だ。
普通の貧民地区の住人なら入店はできない。
ここでは様々な取引や交渉などが設けられており、情報漏洩を防止するための厳重な警備も行われている店だ。
だが、彼にはそんな用事はなかった。
ただ酒を飲み一夜を明かす、それだけであった。)
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 酒場」から黒須さんが去りました。