2022/08/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にベルナデッタさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にチャルヌイさんが現れました。
ベルナデッタ > 貧民地区と一言で言っても、その内側には様々な場所がある。
まず思い浮かぶような、明日にも崩れそうな小屋が並ぶスラム街から、
安っぽくも建物と言えるような家が並ぶ比較的マシな地区まで、
ともすれば富裕地区よりバリエーションは豊かだ。

そんな貧民地区の比較的マシな街道、普段は貧しいなりに活気に溢れているそこは、
今日は比べ物にならないほど人気が少なかった。
正確に言えば、ある一区画が封鎖され、住民達はそれぞれの家から遠巻きにそこを眺めていた。
封鎖作業を行っている者の中には、この地区の役人や衛兵も当然いる。
だが、腐敗し、普段は威張りくさっている彼らも今日ばかりは肩身の狭そうな表情であった。
それもそのはず、彼らの隣にいるのは数段上等な装備をした、
屈強なる神聖都市衛兵隊と彼らを率いる異端審問官であったのだ。

「……案外手間取ってますね」

その街道の、ある家の前で、ベルナデッタは懐中時計を眺めながらそう呟く。
目の前の家は衛兵隊に囲まれ、その中からは喧騒と怒声や悲鳴が響いていた。
当然、ここはただの家ではない。貧民地区に密かに作られた魔族の拠点なのだ。
上の家はカモフラージュであり、地下には数倍の大きさの魔術空間が広がっている。
調査の末そのことを突き止めたベルナデッタ達は、魔族の討伐の為こうして襲撃をかけたのである。
現在、彼女の部下である新米異端審問官の一人が、衛兵隊を引き連れて攻め込んでいる。

「まぁ、危なくなれば助けを呼ぶように言っておりますが…」

これは新米審問官に対する試験のようなもの。調査した限りでは倒せない相手はここにはいない。
ベルナデッタは時計をしまい、隠れ家の前で吉報を静かに待っていた。

チャルヌイ >  
インスラと呼ばれるこの貧民地区のここ一区は、王都周縁部に詰めかけた離農者の一団が定住して生まれ、
違法建築群が密集したことによって治安や都市環境が極度に悪化した空間である。
歴代の王の度重なる勅令にもかかわらず、インスラの建物は上方向に伸長を続け、
埋まれる暗がりと人の密集がさらなる悪循環を生んでいる。

チャルヌイがその異変に気付いたのは数刻前であった。
普段仲良くしている貧民地区の住人が、インスラに向かってくるこぎれいな一団を見たといって、
貧民地区を回っていた彼の下に密告しに来たのである。

貧民地区に王の官吏や貴族の私兵が訪れ、街を荒らしまわることは珍しくない。
しかしその日はどうにも様子が違った。

「奴らは暫くヤルダバオートに引きこもっているはずじゃなかったのか?」

その集団が異端審問庁の人間であることを知ったチャルヌイは、吐き捨てるようにそうつぶやいた。
チャルヌイはすぐに、彼らの目的がある魔族のセーフハウスであることを知った。


「……であるから、全ての市民は、たとえ魔族であろうとも、自らを統治し平和のうちに暮らし、
その土地に居住する権利があるのであると――」

チャルヌイは、その思想内容の覆しがたい宗教性の観点からすれば、彼は明らかにノーシス主教の子であった。
否、それの最も忠実で敬虔な信仰者であった。しかしその帰結からする限り、
彼は主教にとって「鬼子」であったと言い得るだろう。

新米の異端審問官の前に立ちはだかったのは、彼らが予想していた魔族の力による頑強な抵抗ではなく、
人間の、それも高位聖職者による、舌による厄介な神学的抵抗であった。

(それにしても、らちが明かない……)

その異端審問官が憤怒しているのは明白であった。
彼の信念は、寸刻のうちにチャルヌイの弁舌にすっかり打ちのめされてしまった。
彼は衛兵隊を引き連れていたから、その気になれば目の前の聖職者に実力を行使することもできたはずだが、
打ち負かされたまま引き下がることは若い彼にはできないことであった。

時間だけが過ぎていっていた。

ベルナデッタ > 「…………遅い」

いくら待っても討伐の報告どころか定時連絡すらなく、
それどころか内部の喧騒も幾分静かになっている。
どうにも、何かイレギュラーな事態が発生したのだろうか?

「しょうがないですね、私達も突入します。衛兵を四名と、あと貴女も」

面頬で顔を隠した衛兵達は静かに頷き、
ベルナデッタが目線を向けた別の新米異端審問官も緊張した面持ちで返事をした。
ベルナデッタは指名した人員を引き連れ、早速隠れ家の中へと入っていく。
そして、隠し通路から、魔族の地下拠点へと降りていき……。




「…………」

そこで見たのは、にっちもさっちもいかなくなっている異端審問官の姿と、彼に対し熱弁を振るう中年男性。
いかにも高位聖職者の風格があるが、その服装はベルナデッタには見覚えがある。

「ただの異端の相手は私達の仕事じゃないのですが…」

異端審問庁と対立している、王都の大学とかいう場所の学長。
貴族の支援を受け異端の教えを広めているという。
ベルナデッタは対魔族専門の粛清局務めの為管轄外なのだが。

「何をしているのです、問答をしている場合ですか?」

とりあえず、彼と対峙している異端審問官に呆れ顔で声をかける。
彼はベルナデッタに気付き、そう言われてしょんぼりと肩を落とした。
それからベルナデッタは引き連れてきた方の新米異端審問官に何事かを話しかけた後、男に対峙する。

「ええと、魔族のシンパというわけでないのなら即座に退去願えますか?」

単刀直入に、そう言って。