2022/07/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏の空き地」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 貧民地区、夜の闇が濃くなる頃。
ストリートチルドレンが縄張りとする区画に男は足を踏み入れていた。
Tシャツにハーフパンツと普段より軽装の男はどこからともなく現れた子供にゴルドを渡す。
「いつも通りあの場所借りるぜ。迷惑はかけないから」
子供は理解できないものに対してするように、訝しげな視線を男に向ける。
とはいえ金は金。何度か頷いた後、暗闇に消えていった。
男は子供に軽く手を振ると幅2mほどの暗い路地を歩む。一分ほど歩くと、左右に建物が並び立ったその道の片側の視界が急に開けた。
10m四方よりはやや広いか。建物1区画分の空間は、月明かりに照らされている。裸地と草地が半々の空き地。
背もたれのないベンチが一つある他は何もない場所の中央で男は立ち止まり、ナップサックを足元に置くと、やおらTシャツを脱ぎ始めた。
■ヴァン > 草地の上にTシャツを投げると、小さく息をついた。
両脚を肩幅に開き、膝を曲げながら腰を後ろに引く。両手はバランスをとるためか、前方に伸ばされている。
呼吸はゆっくりとしたもので、口許をみると吸い込んでいるようだった。腰と膝の高さがほぼ等しくなると、その姿勢を維持。
きっちり8秒後、同じだけの時間をかけて元の姿勢に戻る。同じ動きを2回、3回……20回。
終えると、全力疾走した人間のように荒く息を吐く。いつしか、男の上半身には汗が浮いていた。手で顔を拭う。
ベンチに座ってしばらく休憩すると、また同じ動きを1セット。どうやら男はトレーニングをしているようだった。
どこからか野良猫が空き地に現れると、男はトレーニングを中止。ナップサックから焼いた鶏肉を取り出し、手で割いて少量を猫に与える。
「よしよし……うまいか?」
男は微笑み、鶏肉にがっつく猫を撫でる。猫は邪魔だとばかりに僅か、体を震わせた。
■ヴァン > 黒猫はナップサックに残ってる肉が目当てなのか、食べ終わっても男の傍にいた。
男はトレーニングに戻る。ベンチに横たわり、ダンベルがわりの石を手に、腕を上下させる。
休憩を挟みつつ、30分ほど経った頃に男は長い、大きなため息をついて動きを止めた。ふとナップサックと、佇む猫を見る。
「今日はこれくらいにしておこう。って、まだいたのかお前……」
ベンチは男の汗でしっとりと濡れている。ゆっくりと起き上がり、鶏肉を口にする。非難めいて猫が鳴くと、切れ端を投げやる。
水筒を袋から取り出し、喉を鳴らして水を飲む。再度、大きなため息。黒猫は男の足元に体をすりつけ、肉をねだる。困ったように男は笑う。
「今日はずいぶんと静かだな。その分集中できたが。……ん、もう肉はないぞ
しかし、こんな夜に貧民街でこうやって猫に語り掛けているのを人がみたら、
頭のおかしい人と思われかねんな」
付け加えると、上半身裸の中年男性だ。
■ヴァン > 「さて、と。疲れもとれたし、帰るか。またな」
男は身体を拭いたタオルをナップサックに突っ込むと、Tシャツを着る。用済みだとばかりに背を向ける猫に手を振る。
真っ直ぐ帰るか、どうしようか。男は考えながら、ふらふらと路地を歩き、やがて消える。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏の空き地」からヴァンさんが去りました。