2022/05/08 のログ
ユージン > 「いやな、低層くらいならおれ一人でもなんとかなるんだよ。
 中層まであるようなところだとほぼ死ぬだろうけどな。……自信あるわ」

 だからそこまでは絶対潜らねえ、と胸を張る。
 そもそも一攫千金などとのたまいながらダンジョンに挑むような食い詰めにまともな奴など殆ど居まい。
 とりあえずこれ以上殴られることはなさそうだと判断すれば、安堵の溜息を細く吐き出しつつ密かに締めていた腹筋を緩めた。

「……就職? 冗談じゃねえ、そんな去就しかできねえならおれはプー太郎のまま野垂れ死にするわい」

 マジでありえねえわー、と露骨に嫌な顔をする。去勢された未来図をうっかり想像してげんなりしたのは想像に難くない。
 そういうつまんねえ冗談はよしてくれよな、と肩を竦めつつ改めて相手を観察する。
 ぱっと見はゴリラに見えない。しかしゴリラなのはこれまでの経緯で嫌というほど思い知っている。
 決して油断はするまい、と固く心に誓いつつ、視線はいつでも逃げ出せるように退路をちらちらと確認する。
 ……逃してはもらえなさそうだし、後々すごく面倒な事になりそうなのですぐに諦めた。
 もし逃げたら怪我を治療して貰えなかっただろうし、寧ろさらに怪我が増えていただろう。判断としてはきっと間違っていない。
 
「……おお、おれのハンサムフェイスが無事にもとに戻ったような気がする。痛くねえ!」

 後頭部だとか、崩れそうになるまで揺さぶられた脳味噌とか、鼻の奥に蟠る疼きや口中に広がる血の味。
 その他諸々、損傷と負荷のもたらす痛みが嘘のように引いていく。
 ぺたぺたと顔の造形を確かめるように何度か手で触れた後、納得できたように小さくガッツポーズ。

「よし、とりあえずおれの損は相殺されたからゴキゲンで頼みを聞いてやる。
 連中のツラはちゃんと見てるし、そいつらをしょっちゅう見かける酒場だって知ってる。
 あんたから巻き上げたもんを、どの質屋に流すかも何店舗かは心当たりがある」
 
 腕っぷしは強いが、それを頼みにするあまり、彼らのやり口は雑でぞんざいだ。
 悪目立ちすればするほどに、その手管の粗や綻びさえも目立ってしまうもの。
 よくよく注視すれば単なる笑顔とは言い難い、強烈な攻撃衝動を秘めた笑顔を直視しないように視線を明後日に逸らしながら。
 それでもなけなしの勇気で怯えを眠そうなへらへら顔の奥深くに仕舞い込めば、男は涼しげに嘯いた。
 
「安心しな。おれは嘘を言っておもしろくなるような状況なら喜んで嘘をつく。
 だが、自分の損にしかならねえ、シャレんならねえ状況でまで嘘をつくような自分をとことん貫くような人間じゃねえ。
 だからおれを信じろ! 死にたくないのでお願いします!」

ティアフェル > 「いや、オークに捕まってんじゃないの。ダメじゃん。
 後衛に負けてるレベルはヤバイ」

 計算ミスを指摘して、ふるふる……と陰鬱な顔で手遅れなように首を振った。
 その調子では一攫千金を望んでダンジョンに挑むのとカジノに挑むのもそう確率は変わらないんじゃないかとアタリをつけ。

「後宮の方でもそんなプーは願い下げだろうけどねえ……」

 普段から走り回っているだけあって脚力には自信があり、街に来てそこそこだ。地の利もある。
 逃げようたってそうはいかないけど、逃げてみるならどうぞという心境で背後を窺う様子を生暖かく見守っていたのだった。

「あら、さっきまでの方が男ぶりが上がってたわよ? なんていうかワイルドで?」

 適当なことをのたまいながらも負わせた負傷を回復させると、自画自賛の通り顔の造作は悪くない様なのが覗えた。
 うかがえたが、どことなく残念感が漂っているのが惜しい。
 肩を揺らして笑えない軽口を零し。

「痛い思いをさせちゃったのは謝るわ。でも、ポッケ漁ってたのが原因なので相子かな。
 ――ほほう、なかなか使えるじゃない! そこまで情報があるなら、そうね――探すの手伝ってくれたら上乗せするわ。
 ってか、一人ずつタイマンでボコっていこうとおもいますので、その後放置される彼女らの所持品所持金についてはわたしの関与するところではありませんので?」

 奪われた金品を取り返して、あとはお礼をすればチンピラどもに用はない。
 昏倒していた自分の懐を漁ったくらいなのだから、仇討されて転がるローグの財布を失敬するくらいどうってことないだろうと考え。
 殴って人のものを盗る連中同じ目に遭うべきとも思っていた。
 それについて、彼の存在は打って付けだ。

「よっしゃ、正直な感じのでもなんだかもうダメな人!!
 好きではないけど気に入った! 手を組もう? 
 わたしティアフェル。ヒーラーで冒険者。そして今からリヴェンジャー」

 手を差し出して、はしっと握手の態で。

ユージン > 「確かにそうだったわ……。微妙にかっこつかねえなあ」

 おのれ女オーク。今に見てろ。
 でもこの後衛、腕力普通にゴリラだったからそこはアテにできねえなあ。
 ……そう思っても安易に口走らない慎重さを発揮しつつ、再び肩をすくめる。

「そもそも後宮なんて窮屈そうな場所におさまらねえのが、おれの才覚って奴なんで……」

 言いながら、鼻の片方を指で押さえると微かに力む。
 生乾きの固くなった血の塊を足元に飛ばすと、そのまま再び拳の甲で鼻を拭い。

「それならまたそのうちワイルドなツラにお目にかかれるかもよ。
 ……月に3回はああいうツラになるからな」

 本気なのか冗談なのかイマイチ判断しかねる文句と共に、大きく伸びをする。
 萎縮しこわばった全身の筋肉をほぐし、身体の関節あちこちをボキボキと小気味良く鳴らす。
 そこから調子を確かめるべく肩から大きく腕を回してみせた。
 なるほど、なかなか調子は悪くない。治癒のおかげか、寧ろ良いくらいかも知れない。
 風呂付きでそれなりの設備のある宿屋に2泊した後くらいのテンションを実感すると改めて女ゴリラへと向き直った。

「まあ、今は痛くねえから許してやるよ。ははは、おれの心が広くて本当によかったな!
 ……頼みを聞くって言った以上、手伝ってもやるが……おれの腕っぷしはしっかり確かめてくれたよな。
 戦力としては期待すんなよ。自慢じゃねえが、おれは頭数にもならねえからな」

 その上で、おれが小遣い稼いでもいいってンなら。
 そう前置きしながら微かに笑みを浮かべる。

「おれは悪魔にでもゴリラにでも喜んで魂を売ってやるぜ。
 暴力の矛先がおれにさえ向かなきゃ喜んでなあ」

 差し出された手をしっかりと取る。
 ゴリラと握手するのは男の手ではあるが、どちらかといえば細工師のような繊細な作業向けの手である。

「おれはユージン。好きな言葉は一発逆転。
 定職なし、住所不定、強いて言えばときどき冒険者の真似事もするプー太郎だ。
 そして今からあんたの相棒。コンゴトモヨロシク」

ティアフェル > 「微妙で済ますあたり自分に甘い。そこは共感しよう」

 うむ。訳知り顔での肯き。
 自分に甘く他人に厳しい。それが自分本位道である。
 いちいち言葉を呑みこんでいるような気配に『云ってもいいのよ、云えるものなら』的優し気な笑顔を湛えた。

「後宮も舐められたものです……」

 遠い目で後宮のレベルがここで下降傾向な空気を嘆いた。
 
「……そろそろそのご自慢の顔の形が変わってしまいそうね」

 そんなにそこそこ頻繁にボコられているとなれば元の顔から変形してしまってやしないか懸念が生じる。
 もしかしてかなりダレている感があるのは、元の形状から変異してしまった結果で実は無類の美男子だったのだろうか、と覗き込んでみる。
 ……が、現時点ではどちらにせよ確認不可である。
 回復魔法が効きやすい体質なのか思ったよりは好調な様子に軽く目を瞬いた。もともとの新陳代謝が高いのだろうかと。

「……心底無駄ヒールしたような気になった。めっちゃ損した。
 ――何云ってるのよ、わたしが自ら手を下すに決まってるでしょ。
 余計な手出しなど端から無用よ」

 戦力として数える訳がないと毅然と云い切る。
 後でおいしいところかっさらうだけで構わない。
 ていうか、彼を連れることによって二次犯罪の助長になるのだが、アウトロー相手にそんな理屈はバカらしい。
 
「ゴリラの握力が見たいならダイレクトに云えばいいのにぃ。
 大丈夫、じょーずに折ってあげるー」

 にこにこと屈託のないまでの笑顔を湛えながら、ゴリラの連呼にゴリラの不興を買ったらしく、握った手にぐぐぐぐぐ、と力が籠り始めその繊細な彼の手を締め上げるような。

「ユージン、いっそ清々しいほどのアレな人だわ。
 うん、なんていうか、利害が一致したときに協力体制を取りたいと思っている。
 そのすごい気ぃ使わない感は長所!」

ユージン > 「何をいうか。おれが自分で自分を甘やかさない限り、誰もおれの事を甘やかしてくれねえだろう」

 甘やかして何が悪いか。
 堂々とそう居直るが、優しげな視線を向けられればすぐに視線を合わせぬよう明後日に顔が向く。
 大丈夫、危険感知能力は正常に働いているはず。触らぬゴリラの祟りなし。

「やべえな。これ以上かっこよくなったら傾国の男とか呼ばれちゃうかも知れん。
 おれはひとりしか居ないのに、みんながおれを取り合うことになったりしたらなんだか申し訳ねえな……」

 何か覗き込んでくるので「惚れた?」とか聞いてみる。
 まあ、そんなことないですよね。ハハッ。
 という感じに落ち着いた。実際、新陳代謝はなかなか良い。
 ボコボコに痛めつけられても二日も寝てれば身動きを取れるくらいには回復力があるのだ。
 ……あるのだが。

「……わかったわかった! 早速またあんたの回復魔法のお世話になるのは心苦しい。
 ご自慢のゴリラパワーはおれじゃない奴に向けてくれ……! ほらなんかミシミシ言ってるぅ!!」

 慌てて握手を無理やり振りほどく。
 非力なのが嘘のように引き抜けてしまうくらいには、必死で強引だった。
 これが手加減なしの全力ゴリラパワーであれば、抵抗など無意味で容易く粉砕されてしまったのだろうが。

「やめろよな、こっちは褒められ慣れてねえんだからさあ。
 そんなん言われたら照れるだろ……」

 長所!そうハッキリと言われれば悪い気はしない。
 じんじんと鈍く痛む手を気遣い抑えながらも、男は照れくさそうに視線を明後日の方向に逸らす。

「まあ、協力体制なんて言うのもそのくらいのほうが気楽でいいや。
 ギブアンドテイクって奴だな。……おれも分かりやすい御褒美があるなら裏切らねえよ。
 怒らせたらおっかねえオンナなのは十分わかったからな」

ティアフェル > 「お金を払えばそれ専門のお姉さんが担当してくれると思う」

 誰も、と極論を発するもので、こちらも極論を返す。
 そして、虚し過ぎる科白を堂々と云える心臓の剛毛さに感心する。

「取り合われてから心配するといいよ。
 ――っはは、正気?」

 覗き込んでみたらびっくりするほど自賛的科白が飛んでくるので、笑いながら気が確かか確認した。
 万が一どれだけ天下無双の美青年が隠れていたとしてこの流れで心が揺らぐなど、彼がゴリラにときめくくらいない。

「いーや、この場合は治してやらない。放置してどの程度骨が歪まず回復するのか観察する。
 云ってるねえ、なんかうっかりぼっきりしちゃいそうだねえ」

 振りほどかれて残念そうに肩を竦める。
 ぼっきりいけなかったぁーと忘れ物したドジっ子くらいの軽さで物騒な科白をのたまい。

「そこで照れられるメンタル強すぎてもう慄く」

 冗談の類ではなく本気で照れたように目を逸らす横顔に思わず真顔になる。
 ともかく臨時協力体制を敷くことになったからには、と。

「あなた微妙に拝金主義の空気感がある。そういう人はこういうケースでは信用できる。
 人は裏切れてもお金は裏切らない。――必ずや全員炙り出すわよ……
 で、奴らのたむろしてる酒場はどこ? 虱潰すわよ。
 そして一人になったところを闇討ち」

ユージン > 「そのお姉さんはプロだから、支払額相応におれのことをチヤホヤしてくれるだろうさ……。
 だが店を後にして酔いが抜けたときに残るのは虚しさだぜ。
 仕事でやってるんだから、そりゃあその時限りはいい気分にさせてくれるが……」

 少なくとも自分自身を甘やかす自分は上辺どころではなく、全力で自分の身を案じているのだ。
 シラフでの虚しさはどっこいどっこいかもしれないが、最低限プロのお姉さんへの貢物は気にしなくて済む。

「美醜の価値観は人それぞれだ。そのセンシティブな部分を追求するつもりはねえ。
 そして、おれがかっこういいのは自明の理だからおれの正気を疑う必要もねえな……」

 案の定ゴリラにときめくことはなかったが、それでもこのさばけた気性は嫌いではない。
 何より、もはや暴力の行使対象外であるならば程々に機嫌をとっておくべきだと判断したのだ。
 無闇に藪蛇を突付いて余計な暴力行使の口実を向こうに与える前に、話題を切り替えようと少々焦る。
 
「……まったく。ポッキリやんなら別の相手が居るだろうがよー。
 だからそろそろ行こうぜ相棒。
 連中、きっと気分良く祝杯あげて、そっからどこの質屋に流すか相談してる頃だぜ」

 流石に多人数相手。
 いかにゴリラの腕力と回復魔法があろうとも、正面から当たれば先程の惨状の再現になってしまう。
 だが、慢心して酒気帯びの状態ならば勝ちの目は十分に出てくる筈だ。
 ほれ、と。そう言いながら相手を先導するように歩き出す。
 微かに後ろに肩越しに振り返って視線を向ければ、相手の言葉に頷いた。

「やれ人情だやれ義理だ、そういうもんに縛られてる奴より分かりやすくて良いだろ。
 おれはおれの得になることなら進んで乗ってやる。
 それじゃあ、まずは一軒目だ。迷子にならねえようにちゃんとついてきな、裏道通って近道するぜ」
 
 その道中、おっかない相手に出くわすかもしれないが。
 そういうのは全部この女に任せよう。そのついでに、殴り倒された連中の財布の中身をちょろまかできたら最高だ。
 そのへらへら顔を浮かべた頭の中に収まる脳味噌を動かしているのは、どこまでも呑気で楽天的なこの男らしい考えだった。
 

ティアフェル > 「後のことなんか考えず、夢に溺れときなさいよ。自己愛の塊になるのと、正直はたから見ればどっこいだから」

 きっとその内心から甘やかしてくれる人も出てくるよ、なんて気休めは云わずに、ただ一般論のように語るゴリラであり鬼。

「顔の造りは本人の手柄じゃなくて親の遺伝子の勝利だからねえ……そこに関してはノーコメントにしとくけど。
 もう、えげつないツッコミを繰り出してしまいそうなんで、わたしはこの件に関してはやはり沈黙を貫きます」

 彼にと云うよりも、見たこともない彼の親御さんを慮ってコメントを差し控える。
 お互い気やすく友達関係は構築できそうだが、甘い感じのそれが漂う気配は爽やかにない。
 結論、気楽でよい。

「もちろん、ぼっきりどころかべきべきやってやる気は満々です。
 ――そうね、急がないと酩酊に間に合わないわ。塒に戻ったところを奇襲もいいけど――住処まで突き止めるのは一晩じゃ大変ね」

 物騒な算段を至って軽やかな、明日の天気の話でもするような調子で口ずさんでは、歩き出す背中について進み。
 至ってシンプルかつ明快な思想には肩を揺らして。

「ええ、だからこそ躊躇いもなく利用させていただけるわ。
 しっかりナビ頼むわよ。あなたのためにね」

 ――お互いの利害さえ一致すれば安心して任せることができる。
 分かり易い間柄というのも悪くない。
 これから何人かしばかなきゃいけないのに、いちいち他の手合いを相手にしてる場合ではない、と別件でゴロツキとこんばんはしたら、即逃亡。
 近道はいいけと面倒な連中の少ない道を選んでくれ、と要求しながら、リヴェンジャーの夜はこれから始まる――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からユージンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にイグナスさんが現れました。
イグナス > 何も変哲のない、生活雑貨の店。文房具からキッチン用品から、それなりのものがそれなりに揃うお店だ。
夕方ごろも少し過ぎれば、夕食のために客足は少ない。
――そんな中、店内にのそりと立つ、大男の姿。

「ん。む。……やっぱ小さいよなァ、これ。」

こまった、と首を傾げるその巨躯、明らかにカタギとは離れた風貌は、なんとも異様だった。
店員も、いい迷惑とばかりに視線を向けようとしない。
男としては生活用品としての雑貨を、揃えに来ただけなのだけど。
…尤も、何から何までサイズが微妙に小さくて、どうしたものかと困っている様子でもあったが。