2021/01/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にオッドさんが現れました。
オッド > ここは貧民地区にある場末の小汚い酒場、柄の悪い輩が屯しているその酒場のカウンター席のど真ん中で木製のグラスから酒を煽る男一人

「…………ラム……」

ドンッとカウンターにジョッキを於けばかなり端的に酒のおかわりを店主に要求すれば、加えた紙巻き煙草にマッチで火を付け大きく紫煙を吐き出せば、飲むペースが早いのか、それともカウンターの近くにこの男に殴られて伸びている男が数人いるからなのか、そんな面倒そうなのには早く帰ってほしいのか……ともかく男と同じくらい無愛想な店主は安いラム酒のボトルを男の目の前に置くのだ。

「……ふん……」

出されたボトルにすぐに口を付けずに立ち上がれば、咥え煙草のまま伸びている男たちを蹴飛ばし仰向けにし探るように彼らの金銭を抜き取り、酒代だとばかりに数えもしないゴルドを袋に入ったままカウンターに置き。ドボンドボンと乱暴にラム酒を自らのジョッキに注ぐのだ。

オッド > 「……ぉい……肉……」

命令するように店主に呟けば無造作に、切られていないままのまるごとの燻製肉が乱暴に更に載せられてその肉にナイフとフォークが突き刺されて出てくる。つまりは「とっとこれ喰って帰れヤクザもの」という店主の心配りだ。


「……チッ……」

それでも心臓に針金でも生えているかのようなこの男は、片手に相変わらず煙草を持ったまま、反対の手で、刺されたナイフとフォークをそのまま鷲掴みに肉を持ち上げ、がぶりとかじりつき咀嚼するのだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴェルソートさんが現れました。
ヴェルソート > 「邪魔するぜ……って、うわ…なんだこりゃ。」
外の寒さから逃げるように、コートの合わせ目を片方しかない腕で握って塞ぎながら寒い寒いと入ってきた小柄な男…酒と料理で下世話ながらもそこそこは活気のあるはずの店内は…活気のある「はずだった」店内へと変貌しているのに、思わずつぶやいた。
どこか誘ってくるように甘ったるく響く、良く通ったテノールで。

「あー……とりあえず、ホットワインくれ、あと、何かつまむもの……でっか。」
店内で一人肉を貪る男に、まるごと出された燻製肉の大きさに呟きながらも、とりあえず自分も腹ごしらえがしたいと、カウンターに金を置いて、温めたワインと適当につまめるものを、と大雑把な注文を投げながら…思わず、まじまじと先客を眺めてしまうか。

オッド > がぶりっと硬い燻製肉を大口で頬張り咀嚼しつつそれをストレートのラムで流し込み

「……まじぃ……」

口直しとばかりに煙草をふかす。


「……あ?……」

そして何だとばかりに、こっちを見てくるあとから来た年上の男を睨むでもなく凄むでもなく、ただ……見た。

ヴェルソート > 「……どうも? これ、お前さんがやったのかい?」
周りで完全に伸びている酔客に苦笑いを浮かべながら、そうだろうとは思いつつも、他に聞くことも浮かばなかったのかそんな問いかけを投げつつ、カウンターに腰掛ける。
こちらを見る男、睨みも凄みもしていないただこちらに視線を向ける仕草に、へらりと…ゆるい笑みを浮かべたまま。

「どうりで、親父さんのご機嫌ななめな訳だ……。」
がちゃん!とつまみとワインのグラスが置かれたお盆を乱雑に置いて距離を取る店主に、おぉこわ…なぞと苦笑いしながらも、湯気の立つスパイス入りのワインをクイ、と傾けて。

「っあ~…ぬくい。……アンタも食べるか?」
そしてつまみに添えられたナッツを、ポリポリと咀嚼しながら…更にあるナッツをつまんでひょいと、彼に差し出してみようか。

オッド > 「……さぁな……」

そっけなく返せば、味がお気に召さない割にはガシガシと肉を喰らいつつ。煙草を大きく吸い込めばその煙を話しかけてくる男性へと思い切り吹きかけ。

「……なんでだ?……」

なぜいきなりとつまみを勧めて来るのか?…という意味であろう。獣のような警戒というよりは、これが通常運転、むしろちょっと機嫌がいいくらいだ。もちろんナッツには手を伸ばさない。

ヴェルソート > 「お前さんじゃないと、通りすがりの酔っぱらいが全員殴り倒して出ていったことにならねぇか?……それはそれで面白いけど。」
紡ぐ声も、まとう匂いも甘やかに、ピリピリと不機嫌だった店主の機嫌が少し持ち直す程度には不思議な音とリズムを孕んで店内に響き…声も匂いも受け取った者の「雄」を揺さぶる、魅了の力を持っている。

「…ん?…なんとなく、一人でただ黙々食べるのもつまんねぇな、と?」
あとは単純に、会話の糸口にしたかっただけでもある。差し出したナッツが受け取られないなら、手を引き戻して自分の口にポイと放ってまたポリポリと咀嚼して。

オッド > 「ふぅぅ……………―――――!!!!」

やってらんねぇ帰る……とでも言いたげな仕草で立ち上がりつつ、今度は上に大きく煙を吐き出したかと思えば。ほとんど予備動作の無いフックブロー。隣の男性に向け、それは避けなくともわずかに鼻先をかすめる程度だが、普通の人間なら鼻血くらいはでるもので。その結果がどうあれ

「……妙な真似して俺の時間を邪魔しなけりゃ……これで済ます……」

そう言ってまた元の席に腰掛け酒を煽る。どうも、男の魔力耐性は男性の持つ声の謎に気づかずとも、違和感には気づいたようで。何かするなら…「殴る」…と忠告するのだった。けれどそれが怒りからのものではないのは、男の表情に浮かぶ、不敵な笑みから見てとれたかもしれない。あるいは男性の「声」の効果は絶大で、揺さぶられた「雄」の姿がそれだったのかもしれないが、常時「雄」としての制限が効いていない男にどれくらい効果があったのかは本人も気づいていない。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴェルソートさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴェルソートさんが現れました。
ヴェルソート > 「うぉ……っと!」
ほぼノーモーションの一打…避けなくてもかすめただけかもしれないが…体術を嗜む男はほぼ癖で軽くのけぞり、拳から鼻先を守った。
一応、片腕がなくても歌と体で生きている男だ、傷がつくのはなるべく避けたかった。

「…ん~、妙な真似してるつもりはねぇんだが。」
いや、彼の言わんとしていることはわかるのだが…男の「声音」の魅了の力は、とある呪いと、そういう声質になるまで磨き上げた末のものなので、どうしようもないとも言う。
ただ、彼に己の「声」が届いて居るのなら…目の前の声の持ち主をまるで、番うべき雌のように感じるかもしれないが…。

オッド > 「…クッ……カカッ♪……」

己の不意打ちの拳を避けた男に、思わずといったような全然可愛くない笑いが溢れる。座ったまま相手の方を向いて。いわゆるアイアンクロー。相手の首のあたりを片手で無造作に鷲掴みにせんとしながら。

「テメェのつもりは知らねェが……妙な野郎ってことはわかるぜ?……ツラ……貸せ」

どうも本能的に相手の「妙な」が声であることを察しているようだが相手を掴むことができればそのまま引きずるように、避けられてもそのまま有無を言わさぬように立ち上がり、店の外。おそらく路地裏のような場所に誘うことになるだろう。

ヴェルソート > 「あっぶねぇ…鼻が取れるかと思った。」
急にご挨拶だな、と眉根を寄せた瞬間…ぐん、と己の首…喉に伸びてくる手に、思わず隻腕でかばうのは…歌唄いとしては当然の反応だろうか。
結果、がっしりと彼の手に腕を掴まれることになる。

「ちょ…おい、待…っわ、こけ、こける…!!」
引きずるように引っ張られる腕につんのめりながらも、ホットワインだけは飲み干せば、テーブルに置いて、代金は先に払ったから店主も止めはしないだろう。
店の外、路地裏のように明かりの届かぬ場所に、腕力だけでいえば平凡な男はズルズルと引きずり込まれていく。

オッド > 「……次はもう少しマシな肉用意しとけ……」

掴んだ男を無造作に引きずり店を出ながら、店主には「また来るぜ」の意味の悪態をつく。店主はきっと、二度と来ないでほしいと思っているんだろう。このあと路地裏に引きずり込まれた男性はどうなったのかは二人しか知り得ず。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からオッドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴェルソートさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  しんしんと降り積もる小雪は静かに街並みを白く染めていた。
 まるで砂糖菓子で作った家が並んでいるようで。
 この荒れた地区をも清めるように、路傍へ無造作に避けられたゴミを、古びたあばら家を、雪化粧で飾っていた。
 はあ……と冷たく凍りそうな指先に白くけぶる吐息を吹きかけながら、夜の通りを行き過ぎる一人の女。この寒さで体調を崩す者が多くあちこちへ駆り出されたのだが、今日はここでの施術を最後にようやく帰途へ着けるというものだが――、

「――わっ…!」

 一度凍結した路面が昼の日差しで一度融け、それが宵を迎えて再度凍った、つるつるのアイスバーンと化した道に差し掛かり、靴底が大きく滑った。
 悲鳴を上げてばたばたと手足を振って慌ててバランスを取り、傍の街燈に掴まり。ほー…と息を吐き出し。

「うっわ……ここめちゃめちゃ凍ってる……超滑る……。
 ここら辺はどんだけ凍ろうが誰も整備なんかしないからなー……」

 通る場所は辛うじて雪が避けられているが、アイスバーンとなった道は当然のように放置状態だ。

「慎重に……慎重、に……――きゃっ…!」

 普通に歩いていても気を付けて歩いてもどうやってもつるっと滑ってしまう。スケートリンクかというような凍結具合だ。
 そろそろと数歩、歩み出したがまたしても足を取られてしまい、今度はつかまれる物が手元になく、すてーん、と腰から転げてしまった。

ティアフェル > 「ぃったた……もー……難易度たっかいな……。
 しくったー……」

 氷上を歩いているのと同等だ。昼間はそれほどでもなかったので滑り止め処理のしていない普通の靴で出て来てしまった。この時間まで駆けまわることになるなら、相応の装備は必要であった。
 ぬかってしまった、と悔やんでも後の祭り。とにかく、なるべく転ばないように……。
 プルプルと生まれたての小鹿のような状態で中腰になり、移動を再開するも――、

「っふ――きゃ、あ、あっ…!」

 つるーん、と何故か先ほどよりも派手に大滑りしてしまい、中腰のまま一メートル弱滑ってから、どしーんとまた尻餅をついて。

「か、帰れん……いっそ這って行けと……?」

 二足歩行に限界を感じてしまう瞬間。むしろこのまま滑っていくべきか。……どっちも嫌だ。
 道の真ん中で滑って転んでちょっとした行動不能に陥ってしまう哀しい時。

ティアフェル > 「っはあ……わたしの妄想の世界ではここで親切な通行人が優しく手を差し伸べてくれる予定なんだけど……」

 世の中そんなに甘くない。深々と吐いた嘆息さえも白く凍る寒風に目を細め、さぶ、と呟きながら立ち上がり、どうにかこうにかまた再び歩き出すが……。

「わ、ゎゎっ…!」

 少しの間は順調に歩けたが、凍っている上に少し表面が解けた箇所に差し掛かって、本日三度目の――

 っすってーん!

 転倒。三度目はかなり派手にコケてしまい、重心が総て背面に持っていかれた。背中から倒れ込んでしまったところに、その振動を受けて、近くの屋根の軒先から、

 どどどど、ど…!

 多量の雪塊が降り注いで、

「きゃ、きゃあぁぁー……」

 悲鳴を圧し潰すように冷たい純白で女の身体を覆い尽くした。ぴく、ぴく、と雪の下から辛うじて覗く指先だけがそこに人が埋まっていることを知らせていた――

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 果たして、彼女の妄想が通じたのか。
はたまた神の采配か(尚最有力説はただの偶然である)
貧民地区を歩く男が一人、彼女の埋もれた雪塊の側を通りかかった。
男はこの凍った路面でも、全く滑る事無く悠々と歩いていたが、

「……ん?」

と、雪の塊の下に、指が飛び出ている事に気付いた。
すわ、新手の死体遺棄事件かと思ったが、しかし指がぴくぴく痙攣する様に動いてるところを見ると、生きているらしい。
指の細さからすると、どうやら女性の様である。

「……」

いや、まさかな。
そんな事はないよな。
幾らなんでも、これで確か三度目だぞ。
そんなことを思いながら、男は"念の為"、雪を払って彼女の腕を顕にすると、

「……まじかあ」

見慣れた袖のデザインに、天を仰ぐ男。
女性が倒れたところを助けるのはある種ロマンチックだが。
それが三度続いた場合、浮かんでくる感情はロマンではなく純粋に困惑である。
とはいえ、冷静に考えてこんな所で雪に埋まっていたら凍死なり圧死なり窒息死なり、よりどりみどりの死因で死んでしまう。
前回、軽く見ていたらマジで死にかけていた事を考えれば楽観視も出来ない。

「よい、しょお!つめてえ!」

スコップなど無いので、雪塊を抱きかかえる様にして別の場所に投げ飛ばして捨てる男。
めっちゃ冷たいし服も濡れるが、まあ知り合いの命には代えられない。

ティアフェル >  ――走馬灯現象と云うのは実際あることだ。それは、様々な記憶を瞬時に掘り起こして生き延びるための情報を脳が猛烈な勢いで検索しているから起こることだという。
 まさに、それが今、人知れず発露していた。
 幼い頃の記憶や冒険者になってからのそれが頭の中に万華鏡のように次々と巡り。雪の下で指先だけ表しながら、あんなこと、こんなこと、あったねと。思い出の中を旅していた訳なのだが……。

「……っふ……」

 幸い雪塊には隙間があり窒息はしていなかった女。その時思い出していたのは、つい最近馬車に轢かれたやつ――そうそう、あの時は、マジ死ぬかと……で、相変わらずいっそあなたわたしの死神なの(云いがかり)って勢いでピンチに登場するあのお馴染み……、

「ク、レスさ、ん……」

 だったよな。ていうか今、ずしっと全身にかかる雪の重みががさ、と軽減して、

「っふ、っふ、っふ――へっくしゅん!」

 鼻先を擽る小雪にむずむずして、派手なくしゃみをすると残りの雪片が相当量吹き飛んで、

「っは……? クレスさん……?」

 さっきの走馬灯の続きかしら、との考えた掠めたが。ではなく、リアルな彼の姿を仰向けなまま認めて。呟いた。

クレス・ローベルク > 一回ちゃんと雪を捨てれば、かろうじて背中が解るぐらいには雪が減った。
後は、手で払うだけでも十分そうだと彼女の身体に手を伸ばすと、へっくしゅん!と豪快なくしゃみと共に雪片が吹っ飛んだ。
どうやら、完全に意識が落ちた訳でもないらしく、こちらの名前を呼びさえした。
思ったよりも、体力は残ってるなと安堵し、取り敢えず冗談交じりに、

「はーい。何時もピンチな貴方の側に。クレス・ローベルクですよー。
いや、街中で会うたびピンチに陥ってるんだけど何なんだ君。
此処最近で一番元気な姿を見たの、多分遺跡の中なんだけど……」

苦笑と呆れの中間みたいな顔をしつつ、取り敢えず手を差し伸べる。
取り敢えず、自力で立てそうならそれに越した事はないが……それすらままならない様なら、近くの店なり、宿なりに運ぼうかと。

ティアフェル >  っはー、冷たーい、と身を竦ませ。ぶるり、と大きく身体を振って雪を払い落とす。
 思わぬ雪崩に遭ってしまったが、どうやら助かった。そして、もうこんな状況で見るのはお馴染み過ぎる顔に、なんのルーティンかしらね、これはと呑気に考えながら。

「やあ、クレスさん。今年もよろしくねー。早速よろしくされちゃった訳ですけどー。
 さすがわたしの英雄さん。ピンチの匂いを嗅ぎつけてくる鼻は一級品よね。
 今後ともスマートかつ紳士的にわたしを助けるのよ」
 
 揶揄も過ぎれば図に乗ってんのかと思われかねないが、そう、自嘲気味に笑いながら手を借りて立ち上がり。
 ぱんぱん、とまとわりつく小雪を払い落すと、ふーっと息を吐き出し。

「この道滑っちゃって……靴に滑り止めをつけてなかったから立ち往生してたの。さ、そんなわけで――送ってくださる? 英雄さん」

 ちょっと気取って語尾上がりに問いかけると軽く小首を傾げて見せ。

クレス・ローベルク > ああ、そういえば新年明けてからは初めて会ったなと思う。
年末年始も仕事で、あんまり年明けとかのイメージが薄かったが。
今年は特に、何か特別なイベントがあった訳でもないし。

「あー、うん。今年も宜しく。
いや、こんな形でよろしくしたくはなかったんだけどね」

知り合いに年明けに会ってこんなにおめでとうと言い辛い事あるのか等と言いつつ、ぐい、と手を引いて彼女を立たせる。
下手すると、男自身が滑って転びそうな物だが、全くそんな危険も感じさせず、スムーズに起き上がらせる。
身体のバランスを上手く取っているのだろう。

「いや、紳士的に考えても、そろそろ一晩ぐらいは要求してもバチ当たらねえんじゃねえのかと思うんだけどね?
でも何かこう、君を上手く誘えるイメージが沸かないんだよな……」

実際、下心は無いわけではない。それは、彼女に常々言っているとおりではあるのだが。
かといって、じゃあどう誘うべきかと言われればかなり難しい問題である。
普通に誘っても躱されそうだし、じゃあ積極的に迫れば良いかと言えばそれもまた違うというか、

「(嫌なんだよなあ……)」

女心は複雑と言うが、男心もそれなりだよなと思いつつ。
とはいえ、立ち往生してると言われれば、放っておくわけにも行かない。
しょうがないな、と彼女の手を引いて歩き出す。
あまりにも彼女に遠慮なく、普通に歩くので、ついていこうとすれば当然足を滑らせるだろうが――しかし。

「――おっと」

その瞬間に手を引いて、バランスを外から強制的に補正する。
彼女からすれば、一瞬、後ろに身体が持っていかれた、と思った直後に元のバランスに戻っているという、不思議な体感を得るだろう。

ティアフェル >  年明けから大分経つが、一応新年の挨拶を交わすと、

「あ、そうそう。前に野犬騒ぎの時に会った……ビョルンって子いたじゃない? こないだ街で会って、クレスさんによろしくって云ってたわ」

 数日前出会った青年からの伝言。忘れずに伝えられた。少し安堵めいた気持ちを抱いて。
 そのまま転ばないようにつかまってしっかり立たせてもらうと。

「クレスさんってさー。わたしみたいなタイプと付き合ったことないんでしょ?
 なんかこう、今…って時にはまあこなくって、今じゃねえだろ、って時に来るもんねー。
 あはは、存外不器用ー。あとムードゼェーローォ」

 こういう身持ちの硬い女の攻略法を多分持ってないと思われた。だからくすくすと肩を揺らしてのたまうのだ。ゼロ、の発音を独特な調子で口にしては、すたすた歩を進めるもので、慌ててついていくのに気を取られ始める。

「ゎ、わ……もちょっとゆっくり歩いて下さいません? 怖いなーもう」

 転びそうで転ばない。むしろ転倒寸前で補整が入るという絶妙な進み方。道はツルツルに滑るのになんだこの安定感と眉根を寄せ。