2021/01/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエレイさんが現れました。
■エレイ > ──ある日の夜。
男は人気の少ない夜道を、傍らにいる女性に肩を貸しながらえっちらおっちらと歩いていた。
傍らの女性はだいぶ酒に酔っているようで、殆ど男にぶら下がるようにしながら千鳥足でなんとか歩を進めている。
「……こう激しく酔っ払ってしまってはもつわけもない。とりあえずここに入って休もうず」
ちらりと女性を横目に見遣り、その酔い具合を見て苦笑を漏らす男。
女性が度を越して飲みまくったのか、あるいは極端にアルコールに弱かったのか、もしくは何か他の原因か──それはまあさておき。
男は安宿の前で一度足を止めると女性にそう提案し、返事を待たずにその中へと入り込んでいって。
■エレイ > その夜、その宿で何があったのかは当人達だけが知るところで──
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「うぅ、寒いな……」
すっかり日も暮れた貧民地区の夜。
男は、その寒さに首を竦めながら。
馴染みの酒場へと足を運んでいた。
まるで寒さから逃げるように、店内へと身を滑らせ。
「とりあえずエールを一杯」
そう注文し、席につく。
酒場の中は他に客はおらず。
男は、やっと一息、とでも言うかのように。
ため息を吐き、目を閉じる。
「……毎度のこととはいえ。
この時期ぁ、寒くてやってられん」
誰に聞かせるでもなく呟き。
男は、天井を見た。
何があるわけでもないのだが。
連日の寒さにめっきりやられてしまっている男としては。
そういう姿勢を取るのもやむなし、とでもいうかのようであった。
■セイン=ディバン > そうして、届いたエールを男はちら、と一瞥した後。
ゆっくりと、その液体を、喉へと流し込む。
「……」
酒を体に迎え入れる喜びに、無言で歓喜しつつ。
男は、ここ最近の出来事について思いを馳せ……。
ようとして。暗くなりそうなので、やめておいた。
「イヤなことなんてぇのは。
考えないほうがいい」
これもまた、誰に言うでもない一言だ。
男は、やれやれ、と頭を振りつつ。
エールをちびちびと飲んでいく。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 「はーい、お大事にどうぞー」
酒場の奥から店内へ会釈しながらそう発し顔を出すヒーラーが一人。白衣姿でスタッフも装備しておりお仕事モード。
この酒場で年始早々腰を傷めてしまった従業員が出たとのことで呼ばれてここまで遠征しにきたところだった。
それも大したことはなかったので簡単な施術で終わって、さてすぐ引き揚げるかついでだから一杯いただいていくか、でもこの地域の酒場で一人で飲むのもなー、と逡巡気味に店内を横切りかけていたが。
「………おやっ?」
客席に流した視線が一点で止まる。見覚えのある様相にぱたりと双眸を瞬いては、そちらへ近づき手をひらひらと振りながら。
「やっほー、セインさーん、あけましておめでとー!」
その傍らに立つとにこにこと笑みを湛え親し気にご挨拶を。
■セイン=ディバン > 「あん?」
華やかな声が、店内に響き。
男はそちらを見る。
他に客が? と思っていた男だが。
「……よ」
相手の姿を認めれば、男は片手を挙げ、挨拶をし。
「おぅ。ティアフェルちゃん。
新年おめでとさんだな?」
相手の挨拶に、男もそう返し。
エールの入ったグラスを掲げて見せ。
「よかったら一緒にどうだ?
奢るぜ?」
と、誘い文句を口にしてみせる。
■ティアフェル > 彼の着く席の傍らに立ち、声を掛けるとグラスを掲げてのお誘いの言葉に、笑みを保ったままうんうんと首を縦にして。
「呑む呑むー。結構お久だしねー。
けど、いっつも奢ってもらっちゃ、ちょっとオーダーにも気を使っちゃうよ。割り勘でいーのになー」
微苦笑気味に零しては、かたん、とその前の席を引いて着席し。
余り迷わず注文を入れた。
「シードルくださーい。あとお腹空いたなー。
ねえ、ここよく来るの? 何かお勧めとかある?」
今日の仕事はすっかり終わったところでお腹も空いた。何かおいしいものが食べたい。この店に慣れた感じもするので小首を傾げて。
■セイン=ディバン > 「冗談だろ。
女の子とメシ食って? で、会計割り勘?
そんなん、男が廃るってもんでね」
へら、と笑いつつ。
男は相手に向かってそう冗談っぽく言う。
「ふむ、オススメか。
つっても、この店ぁ貧民地区の店だからな。
ただまぁ、干し肉は美味い。
あとはまぁ……、あぁ、そうだ。
東の地の食事スタイルである『ヤキトリ』ってのが美味いぞ」
ぐび、とエールを飲み干し、お代わりを頼みつつ。
男はそう相手に教えていく。
ちら、と相手を見る視線は。どこか優しいもので。
■ティアフェル > 「はは、相変わらずだな。
はいはい、セインさんと一緒だったら財布は開けられないのはよーく判ってるよ。
遠慮なくゴチになりまっす」
そうしておいた方が双方の為によいのだとは重々承知。なのであんまり遠慮しすぎないように、自分で会計を持つ時と変わらない注文をしようと決め。
緩む表情へ向けてこちらも笑い返し。
「干し肉……やきとり?
うん、じゃそれいただこうー。
ヤキトリお願いしまーす。お腹ぺっこぺこなんでなる早でー」
お勧めされた珍しい料理を早速注文して。他に客もいないのですぐに出てくるだろうが。わくわくと料理を待つ間に先にシードルと、彼の方へエールのお代わりが運ばれて。
まずは乾杯、とグラスを掲げると。
「ほいじゃー。乾杯ねー。
改めまして。
――あけましてーおめでとー。今年もよろしくーぅ」
軽快な口調で口ずさみながらグラスの縁を合わせようと。
■セイン=ディバン > 「おぅ。それを分かってるならいい。
その分、キミが困ってる誰かに奢るんなら。
まぁ、結果オーライ、だろ?」
ククッ、と笑いつつ。
男は相手に向かい、そんなことを口にした。
どうやら、そもそも奢る、ということに関しては。
何も特別な思いは抱いていないらしく。
「あぁ。鳥の肉を切って、甘辛いタレにつけて。
んで、串にさして焼いたもん、らしい。
あ、オレにも頼む~」
相手の注文に同乗し、男もヤキトリを頼む。
そうして、酒が新たに届いたのなら。
男は、相手に向かってグラス掲げ。
「ほい、乾杯。
まぁ、そうだな。
またティアフェルちゃんが困ってたら助けてやっかぁ」
いっつもキミはトラブルに巻き込まれてるよな。
そう言外に滲ませつつ。
男は、グラスを合わせ、そのままエールを一気に飲む。
と、同時に。
テーブルには、そのヤキトリなる料理が届くだろう。
■ティアフェル > 「そーれがあるから、この人に奢ってもらうのは重いんだよねぇー。
責任重大だ。わたしゃ金持ちじゃないからなー」
都合よくいつでも勘定を持てるほど所持金を持ち歩いていないのもあるが。
はは、と軽く笑いながら頬を掻き掻き肯いて。心がけます、と敬礼の真似をした。
「へー。初めて食べるー。楽しみー。
東の国の料理なんて全然食べる機会ないし。
シェンヤン料理だったらここいらでもお目にかかるからたまに食べるけど、おいしいよねー。大好き」
珍しい料理は大好きだ。だから初めて口にするヤキトリに期待充分。
おいしいとのお墨付きがあればなおのこと。
まずは乾杯とグラスを掲げると、含みのある答えが返ってきて。
ぐっとシードルを含んでから。
「なーにが云いたいのかしら~?
わたしが当社比約3倍のピンチリストとでも仰りたい?」
THEトラブルメーカーなのは今さら否定しようもないが、軽く眉を寄せて掘り返して行く。
しかし、しゅわっと爽やかな果実酒はおいしくて。ふえ、とこくこく煽ると心地よい吐息が零れ。
そして、ほどなくして運ばれてきたヤキトリに、わあ、と歓声を上げ。
「おー。オリエンタルな匂いがするー。なんだろう、この匂い……ソイソース……かな?」
不思議そうにタレの沁みた串焼きを眺め。匂いを嗅いで目を丸くし。
■セイン=ディバン > 「別に。ムリに、とは言わんさ。
ただ、恩義ってのはそうやって巡るもんだ」
実際、自分も若いころはご馳走になってばっかだった、と。
昔を懐かしみながら、そう言い、相手の仕草に笑う男。
「オレも、時々しか食べないんだが。
まぁ、これがまた酒に合うんだ」
シェンヤン料理こそ、あまり食べないなぁ、と呟きつつ。
男は、相手の飲みっぷりに、ほぅ、と感心する。
「だってよぉ。
キミ、気づいたらピンチに陥ってるだろ」
少なくとも、自分が見てる時はそうだぞ? と。
男は苦笑しつつそう言うのだが。
ヤキトリが届けば。相手を怒らせても良くないか、と思い。
会話を切り替える。
「お、きたきた。
ん~……そのタレってののベースまでは知らんが。
まぁまぁ、まずは一口いってみな」
お先にど~ぞ、と。
男は笑顔のまま、相手に手で先に食すことを促す。
その間も、ちびちびエールを飲むのはやめない。
■ティアフェル > 「ふ、深い。そして重い……」
今のこの恩はどこで返せばいいのだろう。そのまま借りパクで逃げ切ったら顰蹙かな、とやや悩むようにアホ毛を揺らして腕組みし。
「っへー。わたし食べたことないもの食べるの好きだわー。
この店良く来るの?」
店主が東国関係者かなんかなのだろうか。お酒に合う珍しい料理に期待を膨らませ。
それから、おいしーと一日の終わりに呑むお酒に心地よさげに弛緩して。
「そ……れは、冒険者……だからよ。冒険しない冒険者なんて変じゃん。
わたしはある意味ノーマルよ」
冒険者スタンダードである、と主張。押し切るつもりで強く云い切った。
冒険以外でもトラブってるのはご愛敬とでも思い込んでいていただきたい。
ともかく初めてのヤキトリがやってくれば、そちらに興味津々で。
「はーい、いただきまーす」
どうもどうもと先に勧められてありがたく串を手に取り。ぱくっと一切れ頬張ると。
わあ、と目を丸くして。
醤油の辛さと砂糖の甘さ。この国ではまず口にする機会のない味に驚いたように瞠目し。
「んっ……、なにこれ、甘い! でも……おいしい!
なんか独特のしょっぱさがあって不思議な味ー。んんー」
たれをしっかり絡めたジューシーな鶏肉の味わい。確かにお酒にも合うし、いっそパンでもいけそうだ。
わー、わー、と無邪気に感心してぱくぱくとおいしそうに頬張って。
■セイン=ディバン > 「だから。そう難しく考えるなって。
例えば、新人冒険者の後輩に、技術を教える、とかでもいいわけだしな?」
この子はずいぶんマジメだなぁ、と。
男は、少し呆れたような表情になってしまう。
「ん、そうか。
オレくらいの歳になると、食で冒険はちょっとなぁ……。
あぁ、まぁ。そこそこだな」
馴染みの店、とまでは言わないが。
ちょこちょこ顔を見せる程度には通っている。
とはいえ、最近は少し足が遠のいていたわけだが。
「はぁ、そうですか。
ま、一つ忠告しとくなら。
あんまり無茶はしないことだな」
いつでも助けてやれる訳でもないぞ、と。
男は、ずいぶんと失礼な物言いをするのだが。
「はい召し上がれ」
相手がヤキトリを手にすれば。
男は、にやにやと、楽しそうに笑いつつその様子を見る。
「お、気に入ったか?
そりゃあよかった。じゃんじゃん食べてくれ」
そう言って、男も串を一つ手に取り、はぐ、と肉を口に運ぶ。
そのまま、すぐにエールを飲み。くぅ、と。
嬉しそうに小さく呻く。なんというか、オッサンである。
■ティアフェル > 「セインさんの話って多分自分で思っているより重厚なのよ。肉厚なのよ。厚切りトークなのよ。
技術かー。じゃ、セインさん仕込みの泳ぎでも教えときますかね」
などと若干悪戯めかして笑って。少しは泳げるようになった夏の一日を思い出した。
「なーに。冒険者冒険しなよ。別に虫食えって話でもないんだし。
好奇心と探求心失ったらクエストできませんよ?
セインさんだったらいくつか馴染みの店ありそだよね」
食べ物にも探求心は捨てないで行こう、と若き冒険者の主張。
偉そうに説いては、ほんのり甘いシードルをゆっくり味わい。
「いつも助けてくれなんて思ってませんー。
自分でなんとかするもん。それに無茶ができるのも今だけでしょ」
みんなそう云う。無茶のし過ぎはよくないが、無茶なことができるのも年齢制限・期限付きであると。だから今は精一杯冒険するのだ、と前向きというより前のめり思考。
「んー、ちょーおいしー。こんな料理食べられる店がこんな所にあるなんて知らなかったわあ……ね、ね、もうひと皿頼んでいい?」
気に入った、とてもおいしいと肯いて、もりもちヤキトリを頬張り。
さらにもっと食べたい、と強請り始めた。
お腹が空いていたのもあるが、お酒にも合うこってりと濃い味付けの鶏料理は今の気分にちょうどハマって。
それから、エールの苦みにも合うのか、ヤキトリと交互にエールを呷る様子に、一口ちょーだい、とエールも強請りだした。
■セイン=ディバン > 「冗談だろ。こんなに飄々と生きてるのに。
そんな扱いされちゃあたまったもんじゃないよ。
ん、そういやそんなこともあったな」
やれやれ、と頭をふる男であったが。
相手の、泳ぎ、という言葉に。
少し、懐かしむような表情になり。ふ、と笑みを漏らす。
「虫か。あれはあれでいいぞ。
物によっちゃあ、わりと美味い。
馴染みの店はあるけど、最近は行ってないところばかりだな」
それこそ、食事処ばかりではなく。
様々な業種に、馴染みの店はあるのだが。
なんとも、最近は外出自体が億劫だなぁ、と。
年寄りくさいことを言う男。
「ははは、そりゃあわるかった。
……まぁ、そうだな。歳取ると、無茶をすることすらできなくなる」
若いときは、体もよく動いたからこそ。
無茶だって出来るのだが。それも、いつしかできなくなる。
これは、相手には余り、説教じみたことは言わないほうがいいかな、と。
そこで、男はそう思うのであった。
「あぁ、もちろん。
好きなだけ食っていいぞ。
もちろん、ヤキトリ以外もな」
それこそ、酒だろうが食事だろうが。
好きなようにやってくれ、と。
男はそういいつつ、相手のことをにんまりと笑いながら見つめる。
それは、どこか。保護者的な雰囲気の笑みだったかもしれない。
■ティアフェル > 「飄々と生きてる人の発言がいつも軽いとは限らないわよ。
なーに、照れてんの? うざったいの? どっちだ。
お陰様で以後溺れてないわ」
人に教えられるほどうまくなったかどうかはさておき死亡リスクは確実に下がった。
お世話様と軽く会釈し。
「してんじゃん、充分、食で冒険してんじゃんー。
もう虫食えたら見知らぬ食べ物なんかなんも怖くないじゃん。
おお……どうした、引きこもりなの? お外出たくないの?」
外出が面倒だと零す様子に、まだその年でそれはやばいぞと伺うようにじろじろ凝視して。
お年寄りというか、どこのニートだ、と遠い目をした。
「解れば、よろしい。
――とゆー訳で、死なない程度に無茶もしながらガンバリマス」
もっともらしく肯いて見た後。結論、と下した言葉。
小さく拳を握って気合を見せる。まあ、冒険はともかくやたらめったら危険な目に遭ったり命の危機にさらされたりは御免なので限度は守りますと。
「わーい。やったーぁ。
じゃあヤキトリもうひと皿とー……
卵の乗った温サラダー。鴨の燻製ー」
お願いしまーすと手を挙げて注文し、それから、エールとヤキトリは合うのかも知れない。けれど一杯全部は呑めないので、ひとくちひとくち、と相手の飲みかけエールをぐびっと含んで。
苦みの残る内にヤキトリを頬張り。「おー。合うー」と感心。
■セイン=ディバン > 「ん、まぁ、そりゃあそうだろうが……。
ん~、半々、かね。あんまり過大に評価されても困るし。
ははは、そりゃあよかった」
それなら、教えた甲斐があった、と。
男は、嬉しそうな笑顔を見せる。
「いや、やむなくだぞ?
仕事中に食料がなくなって、仕方なく食べただけだ。
……ん、いや。ほら。……寒いから……」
寒いので、外に出たくない。
必要以外の外出はしたくないのだ、と。
男は、つぃ、と視線を逸らしながら言う。
「あぁ、そうだな。
……ま、応援はしておく。かわいい後輩だしな?」
最終的に、相手がその結論を出したのなら。
男は、素直に応援するよ、と。手を軽く振り。
「……ははは、すごい食欲だなぁ。
まぁでも、うん。
どうせなら、食いっぷりはいいほうが、見てて気持ちいいけど」
追加の注文に、男は相手の食欲に驚く。
そのまま、相手がエールをツマミ呑みするのを見て。
おいおい、と小さく呟き。
グラスの縁と、相手の唇を、交互に見たり。
■ティアフェル > 「なるほど……照れるしうざいんか……セインさんって云うよねえ~。
うん、泳ぐのも楽しくなったしね。お世話様でしたー」
色んな泳ぎ方ができるようになると遊泳は楽しいもんだ。笑顔をみるとへらと釣られたように破顔して。
「いくら飢えたとてわたしは死んでも食べない……。
無害な雑草で凌ぐ……。止む無く食べて割とうまいことを知ったのか……強……。
分からんでもないけど……ワガママか」
寒いと確かに外出が憂鬱になるのは判らないでもないが。実際それで働き盛りの男性が家にこもっているとしたらそれはどうなんだと思わないでもない。
視線を反らす横顔を見てぼそっと呟き。
「あらあらカワイイだなんて。もっと云ってくれたら調子に乗る。
冗談はさておきセインさんくらいになったら自然と落ち着くだろうから、今はガツガツやりますわ」
それが今のポジションのようでもある。どうもどうもと応援いただいて手を振り返し。
「だって、お腹減ってたんだもん……。
多いかなあ…もっと鬼のような食欲見慣れてるから。自分の食が細い錯覚してたわ。
あ、ごめん、回し飲み駄目だった? 新しいの入れる?」
人さまのを一口いただいて、そこらへん無頓着なタイプの女は、ありゃ、やっちゃったかなと小首を傾げ。
つまみ飲みしたエールを軽く持ち上げ。
■セイン=ディバン > 「そらそうだろ……。オレなんて、もう引退間近な歳だぜ?
ははは、楽しく泳げるなら、もう完璧に卒業だな」
よかったよかった、と笑いつつ、困ったように言う男。
なにせ、いまだ現役ではあるものの。
男の実力は、とうにピークは過ぎ去っているので。
「死ぬよりはマシだと思うぞ。
それに、雑草じゃあ栄養ないしな……。
いや、だって寒いと出かけたくなくなるだろぉ?」
この歳になると、寒さが骨身に染みるんだ、と。
男は、微妙に拗ねたような物言いをしてみせる。
そこは、ちょっと子供っぽいかもしれない。
「ん? いや、ティアフェルちゃんはカワイイだろ。
まぁ、そうな~。若いうちは精力的なくらいでいいのかもしれん」
オレもそうだったしな、と。
昔の自分を思い出し、うんうん、と頷く男。
「オレはもう、そんなには入らん……。
……あ、あぁ。イヤ。そういうんじゃないんだが。
……その。オッサンとの間接キスとかは。
もうちょいイヤがったほうがいいと思うぞ」
む、と。男は、またも視線をそらしてそう言う。
照れている、というのは。ハッキリと見てわかるだろう。
■ティアフェル > 「ん? 引退間近ってとこと話しつながんないな……。まあいっか…。
だけど上手に泳げるかどうかは分かんないけどね」
溺れない程度に好きに泳ぐことはできるが、それが巧みかどうかは自分でも良く分からない。
小さく笑いながら首を傾げて。
「わたしゃ死んでも食べたくない。
まあ、草はタンパク質が不足するけど栄養はあるわよ。虫には及ばないとて……。
なるだろぉ?じゃないわよ、その年でそれだったらじーさんになったら散歩で凍死するわよ」
これからの人生の方が確実に長いのにどーするんだというように目を眇めて見た。
拗ねてもダメー、と一蹴し。
「ウフフフフフ。やだー。ティアを調子に載せてどーすんのぉー? ああ、カワイイっていい言葉だなー。一日5回くらい云われて生きていきたい……。
あなた、30代だよね……? もう50代くらいの空気醸しちゃってるよ」
昔のことを思い出してしみじみしているように見える風情に、微妙な顔をした。
30代ってそんな年寄りな感じなんだ、コワ、と将来が憂鬱になる瞬間。
「わたし、そんな大食いかな……んー…太っちゃうかな……。
――え? は? かんせ、つ……え?
何この人、不意を打ちでカワイイ……。むずキュン狙ってるのか…?
てかちょっとー、ちょっとー、絶対わたしよりヤバイ経験値積んでるだろーになになにー。
あはは、別に全然ヤじゃないしー」
回し飲みとかこの程度なら慣れっこな感じ。
それよか、まさかの照れを見せられて、うわああ、と反応。
これでときめく女子いるだろと認識すると、モテ男やべえ、と悟る瞬間。
■セイン=ディバン > 「だから。現役バリバリの若い人間なら。
照れたりなんだりってのはねぇんだろうが、って話だ。
なに。泳ぎなんて、溺れなきゃ上等さ」
そこから更なる上達、というのは。
これはもう、反復練習しかない、と。
男は静かに言い。
「そっかぁ。案外イケるんだけどな……。
う、怖いこと言うなよ。
そうでなくても、最近朝の寒さで死にかけてるってのに……」
なにせ、しばらくベッドから動けないほどなのだ。
いずれ本当に凍死するかもしれない。
「調子に、っていうか。
いずれ一晩お相手願いたいな、とは思ってるが。
冒険者なんて、長くやる仕事じゃねぇぞ~。
実際、すっげぇ老け込むし」
なにせ、仕事のたびに神経が磨り減る思いをするのだから。
実際、能力がそこまで高くなければ。
日に日に衰弱していく一方だろう。
「いや、スタイルは問題ないと思うけどな?
……いや、気になるだろ、普通。
オレがそういうのを狙うならともかく。
普通、女の子はイヤがるもんだろ。そういうの」
そういう関係ならともかくだ、と。
男はなぜか、しどろもどろな説明。
終いには、赤面し、ちびちびエールを飲み始める始末。
■ティアフェル > 「んー…? 人に依りそうだけど。そんなもん?
単にセインさんが照れ性なだけでは。
うむ、その意見もらった。ですよ、浮いてれば勝ちですよ」
泳ぎを教える立場になりたいとかそんな目標がなければ、そこそこ泳げていれば支障なかろう。
うむうむと首肯し。
「おいしくてもヤだ。もしわたしが虫をもしゃもしゃやりだしたら…本格的に嫁のもらい手が失われるわ。
いや、どんだけ弱いのよ。冒険者が冷え性なんて笑えないわよ。
どっか南の方出身なの?」
まだ厳寒はこれからだ。冬将軍はしばらく居座る予定だろうに、どうするんだ、大丈夫なのかこの人は。むしろ今日も寒いのによく出て来れたな。といろいろな懸念が過り。一層微妙な表情をした。
「おぉ……間接キスがどうこう云ってるかと思えば、話題が飛ぶねぇ。
さすがにテレるわ。むしろそっちのがテレるわ。
えぇえー……ヤなこと云うなあ……。未来ある後輩に向かって。
まあ、冒険できなくなったら街ヒーラーとして診療所にでも勤めるかな」
冒険者と違って一生できる仕事ではある。
今は今の冒険を精一杯がんばるだけだ。先の見通しはついているので、職に関してそこまで危機感はなく。
「でも良く食うとか云われたら気にしちゃうよ。乙女としては。
はー。そんなもんなんだー。
そりゃー知らないおじさんの飲みかけとかさすがに無理だけど、お友達だし。
別に全然」
潔癖な部分はほぼほぼない。誰とも知らない相手ならともかく、良く知った人ではあるので、問題ない。
へどもど云いながら赤くなるので、やだー。かわいー。と声を弾ませてにやにやしながら、彼の様子を肴に運ばれてきたサラダをつっつき、シードルを傾けた。