2020/11/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「――死んで!! 死んで! 死んで死んで!!!」

 普段、人を癒し死を遠ざけるような役割を担っている、そんな口から奔る声。
 がん!がんがんがん! 路傍の石で滅多打ちにしているのは一頭の狂犬となった野犬。小猫を食いちぎってさらに自分の足に咬みついて傷を負わせた。その上、牙も目も狂気に満ちていて喉元にさえ食らいつきかねない。だから、強かに打って、滅茶苦茶に打ち倒して。毛むくじゃらの息絶えた身体がびく、びく、と繰り返す痙攣さえ収まった頃――。
 やっと、血まみれの手を下ろした。

「っはぁ……はぁっ……、は……
 死んだ……?」

 人気のない、街頭も明滅して切れかかっている薄暗い荒れた路地で倒れ転がる野犬に馬乗りになるような体勢。野犬の血にべったりと濡れ赤く染まった石をまだ握ったまま、呟いた。
 

 口から血反吐を垂らして、もう痙攣すらしない真っ黒な狂犬に生命の光などカケラも存在してはいなかった。

 頬にまでべった、と飛び散った血を張り付けて肩で息をする、その双眸は無意識に滲んでいて。ず、と洟を啜り上げ、っはーと大きく息を吐き出し。手に残るなんとも後味の悪い感触に眉をしかめ。
 犬の死骸の脇に脱力したように座り込むと、足を投げ出し傍の壁に凭れて建物に切り取られた夜空を見上げ。

「…………気分悪……」

 充満する血の匂いに呻くように呟いたが、しかし動く余力がないかのようにその場で固まったように。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にビョルンさんが現れました。
クレス・ローベルク > 「あー、今日も頑張って仕事したぁ……」

一仕事終えて、安ワインでものんびり煽っていい気分な所で。
ふと、知り合いの鬼気迫る声が聞こえてきた。
普段の彼女ならまず言わないであろう言葉。
それ故に、その並々ならぬ叫びに、男はつい引かれて。
そして――

「おおう……」

――つい、ちょっと引いた。
いやまあ、こればかりは仕方ないと思う。
何せ、腕力のほどは知っているとは言え、年端も行かぬ少女が犬を石を何度も野犬に打ち付けているのだ。馬乗りで。
彼女が所謂犬系の魔物を苦手とするのは知っていたが、しかしそれにしたってこの有様は凄い。
どうやら、"処理が終わった"らしく、空を見上げる少女に、男はふらふらと千鳥足で近づいて、

「や。お疲れー。取り敢えず、ほれ、これ」

そう言ってポーチから取り出して投げるのは、魔導機械で出来た注射器の様なもの。

「それ、中身アルコールだから。上の蓋開けて、傷口に塗っといて。
――痛いかもだけど、病気貰うよりましだから、さ?」

と、気軽に言って、あー、よっこいしょと近くの壁によっかかって座る男。
緊張感のまるでない表情だった。

ビョルン > ──死んで、とはまた物騒な。

共をつけず独りで塒へと帰りがてら、そんな怒号のような呪詛のような言葉を聞けば早足にその声に方向へ足を速めた。

けれど、近づくまでに納まった女の声。
現場と思しき場所へと踏み入れば、己より年嵩らしき男の背中があった。

左手、親指で鞘から刀の鍔を押し上げて発した低い声。

「──何、してたンだい」

改めて状況を捉えれば茫とした少女に何かを投げて渡すような男は怪しい、と碧眼からの視線を飛ばしてしげしげ見詰める。

「死んであげないのか?」

2人の関係性は掴めないまま、言葉投げかけてからじいと見る目は男から逸らして少女と、路上を見る。
傾ぐ小首。

ティアフェル >  何だかどっと疲れて、握っていた血まみれの石を投げ捨てると動かない犬の骸の隣でこちらもこちらで骸のように微動だにせずにぼんやり空を見上げて星の瞬きを眺めるでもなく瞳に映していたが。

「………ん……?」

 一部始終を見ていたらしい、黒髪の青年が近づいて声を掛けるのに反応してそちらを向く。
 ぱたり、とゆっくり一度瞬きをしたが、どこか生気の薄い様子。けだるげな所作で片手を持ち上げて。

「………クレスさん。――え、あ、ちょ……あぶなっ……ぁー……」

 ふと放られたのは一瞬だと注射器にしか見えなかったので、慌てて避け。それが、かこん、と地面に転がってそこでゆっくり形を視認でき、説明を聞いてようやく正体が判り。

「や、だからっていきなり投げるヤツがある? ……無事かな? まあ、ありがと……」

 応急処置に使える救急薬など持ち合わせがないでもなかったが、こうなると使わないと気まずいかな、とお借りして蓋を開けてスカートの裾を払って足についた野良犬の咬み痕にぶっかけ。
 沁みる…と刺すような痛みが走って眉をしかめさせ。

 血まみれ女とやたら目立つ闘牛服。息絶えた野良犬と小猫の死骸――これ以上なくおかしな取り合わせの真っ最中、新たに現れた少年とも云えそうな年若い青年。
 自分よりやや年下に見える金髪のそちらから掛けられた声に。

「何してるって……」

 どっから説明すべきだ、この不審な図、と改めて現状を把握して言葉を詰まらせていると続く、剣呑な割にあっさりと投げかけられた問いに。

「死ぬのはわたしじゃないわ。
 死んだのはコイツ。いや、殺したって云った方が正確かしらね」

 肩を竦めて告げれば、親指でぴくりともしない血濡れた野良犬を示し。

クレス・ローベルク > 今考えるとヒーラー何だから薬ぐらい常備してもおかしくないとも思うが、しかしまあ、何かきっかけでもないと話しかけづらかったのも事実だ。結果アルコールを傷口にぶっかける羽目になったティアには少し罪悪感が湧くが。

「何かこう、目がうつろだったからねえ。
下手に注射器片手に近づいて、金的とか食らうのも……」

と、そこで自分よりも年下の男が近づいてきた。
なんか物騒な事を言われたが、それよりも不審の目つきのほうが少し怖い。
戦っても多分勝てるとは思うが……だからといって積極的に喧嘩を売ろうとも思えない。
幸い、ティアがその辺の事情を説明してくれたので、

「そういう事。まあ、騎士道物語だったら、この子みたいな美しい貴婦人に命を捧げるのも悪くないけど。
元の家から放蕩しちゃってるからねえ」

と、冗談半分と言った風に言って。
そして、ビョルンの方に身体を向ける。
両手は肩ぐらいまで挙げてホールドアップの姿勢から、

「俺はクレス・ローベルク。ダイラスのしがない剣闘士さ。
どうぞ、長らくのご贔屓を――」

と、気障ったらしい口調で綺麗なボウアンドスクレープ。
やりなれてるのか、お辞儀の角度まで無駄に完璧である。

「――と言った所で、君の名前を聞いてもいいかな?」

と、親しげな笑みをビョルンに返す。
内心は襲ってこられたらどうしようとか考えてるが、そこを押し殺すのは普段闘技場で培った演技力であった。

ビョルン > そうして偶然が描いた奇妙な絵画の一角に己も収まる。
叫び声の主が──あらゆる意味、大ごとないことを知れば左手を刀から離す。

2人の間に交わされるやりとりに、クレスと呼ばれた男へと向ける視線も不審の色が薄れる。
冒険者なのだろうか、少女とも女とも形容しがたい相手から視線を転じた先は2つの骸。

「成程。──誤解だったようだ」

不審な視線を向けていた男の方へ向け、お辞儀するように浅く俯く。
その相手の名乗りを聞きながら、小さな骸へ近寄り、躊躇いなく触れる。まだ温かいが、体温が戻ることはないのだろう。
そしてまた、その傷は犬とは異なり噛み傷のようであった。

男の名乗りを聞けば、どうもご丁寧に、と首肯して。

「ビョルン・ビストカイン。王都のしがない籠の鳥ってね。
 ──急なお金の要り用にはBB商会まで相談を」

軽い口調で名乗れば、後半は立て板に水の如き商い口上で述べて2人へと背中を向ける。
片手でハンカチを開けば地べたへ置き、子猫の亡骸へとしゃがみ教えられた東方の仕草で両手を合わす。
血に濡れた子猫の遺骸は小さく軽い。持ち上げては染みのないハンカチへと包んだ。

「……この近く、家<ヤサ>があるので裏庭に埋めさせてもらう──思い出したら弔いに来てくれ。
 けど、忘れるのが一番いい」

子猫の遺骸は手に持ち、「じゃあな」と一声発し。

「──でかい方は、川へでも流しな」

歩き出しがてら、思いついたように口にする。
呼び止められねば、そのまま此処から離れてどこかへ。

ティアフェル >  アルコールで荒っぽい消毒を施した後は、油薬を塗って持っていたガーゼを取り出して包帯でぐるぐる巻きにし。ふう、と息を吐き出す。本当は癒す細胞まで殺してしまう殺菌よりも流水でしっかり洗うべきだが、仕方がない。

「ほんと注射器大好きなのねぇ……やばいなあ。
 ぁあ……なんて血なまぐさいの……」

 ため息交じりに剣闘士へと零す。呟きながらもウェストバッグからハンカチを取り出しては頬に飛んだ血を拭い。うへえ、べたべた……と渋い面相。

 自分のイマイチ説明しきれていない云い分をフォローするように手を挙げて笑みを湛え、剣闘士が金髪の少年に外交する様子をぼーっと見やり。美しい貴婦人と血まみれズタボロにも関わらず評してもらえればちょっとニヤついた。もっと云ってもっと云ってと厚かましいことすら考えている。

 しかし。なんか、どっかで見たような顔だな……と口を利いたこともない少年の整った顔を眺めながら記憶を手繰った。
 そして、名前を発すれば記憶の琴線に触れて。

「ああ……あなた、ここらの顔役だっけ……? 若さんだったかしら……?」

 舎弟かなにかを引き連れているところを遠目に見たことがあるような気がして小首を傾げながら発した。若頭にしても自棄に若いんだな、と感じたのを覚えている。もちろん、彼に関しては断片的でごく浅い情報しか持ってないが。

 けれど、食いちぎられた小猫を躊躇なく触れてハンカチで包み弔うという様子は、ただの心ある少年のようだ。だけど、ヤサだとかなんだとか、任侠めいた口調がそれを裏切る。

 ギャップを感じながら、小猫を葬ってくれるという科白に、

「ありがとう、ビョルン……?
 わたしはティアフェル、そっちに寄ることがあったら挨拶に行くわ」

 立ち去る気配に緩慢そうによろりと壁に凭れながら咬まれた片足を庇うように立ち上がり。片手を振り。

 それからでかい方、とこと切れた犬の遺骸を見下ろして苦い顔をし。これ、うちが川流しにいかんとあかんかあ……と気うつな表情を浮かべたが。

 しかしそんなツラ晒しているのも悪いと思ったのか、薄く笑みを刻んで。おやすみなさい、と口にしていた。

クレス・ローベルク > 注射器の中のアルコールは、本来は相手に注入して悪酔いさせる為のもの。
闘技場用ではなく、此処らへんのチンピラに絡まれた時用である。

「人をヤク中みたいに言うのはやめてくれないかな?
と、ビョルン君か。まさか、商人さんだとは思わなかった」

見た目は軍人っぽいのだが――と思いつつ、背中を向けた彼に「お金に困ったら借りに来るよ」と言って、手を振る。
目つきや最初の印象に比べて、良いやつだったなと思う。
仔猫を弔ったのもそうだが、こういうのは忘れてしまった方が良いというのは男も解る事だから。

「取り敢えず、ビョルン君の言う通り、犬は川に流すとして……取り敢えず、君歩けるかい?」

と言いつつ、野良犬をちらと見る。
貧民地区とはいえ、此処は一応人里だ。
残飯を食っていれば、基本的に飢えを凌げるこの場所で、無理に襲う必要もないはず、なのだが。

「……このワンコロ畜生、実は病気持ちとかだったり、する?」

とティアフェルに聞いてみる。
流石にそうなると、気軽に持ち運ぶのも躊躇われて。
此処は専門家の指示を仰ぐのが良かろうと。

ビョルン > 己の生業を知るような口ぶりには含み笑うような声で答えて、口の前に指を1本立てた。

手を振る男にも頷いて答えて歩き出す。

「お二人さんは、大変だろうけど……良い夜を──」

声と背中は夜の静寂へ溶け消える。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からビョルンさんが去りました。