2020/09/28 のログ
紅刃 > 一際強い風が吹き、道端に寄って自身を掻き抱いた。細い身体は枯れ枝のようで、地面のゴミと一緒に飛んで行きそう。

「寒い……」

湿った黒髪に顔を覆わせたまま、ぽつりと呟く。ついこの間までうだるような暑さだった気がする。季節が変わったのだろう。突風が収まったあと、再びうつむき気味に歩き出す。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
エイガー・クロード > 「ひどい顔ねぇ……」

そんな、女の耳に届く男性の声。
このような貧民地区にはそうそう見ないような、珍しい、化粧をした男だった。

貧民地区に逃げ込んだ邪教の拠点を探す――といっても残党だが――任務でここしばらく、この辺に滞在していた。
そんな中、怪しい道を通りかかった、何か手がかりや情報を求めて。

だが、そこで偶然見つけたのはなんともひどい恰好の女性の姿だった。
思わず、声をかけてしまう程度には。

紅刃 >  酷い顔。いきなりそんな言葉をかけられても、女は動じなかった。故郷に居た頃から、罵倒には慣れている。けだもののように自分を犯す男にけだもの呼ばわりされたことも一度や二度ではない。

「お見苦しいものを、お見せしました」

 ほぼ何も考えず、女はそう返した。鎧を纏い鋼鉄の片腕を持つ男は、察するに貴族。なら貧民地区に住む平民の己がいかに抗っても無意味だ。無意味と言えば、腹を立てることも。だから俯いたまま相手を肯定し、許されるなら脇を通り抜けようと。

エイガー・クロード > 「待ちなさい」

そんな風に声をかければ、何か粗相をしたのか、あるいはいちゃもんを付けられるのかと平民ならば思うかもしれない。
おそらく貴族と思われるこの男は、そっと女の頬へと左腕を伸ばした。

「……本当にひどい体。ご飯食べられてないの?」

そんな風に、心配をしてしまうのはどうしてだろうか。
この女が、あまりにもその瞳が寂しく感じたからか……。

「……あなた、この辺に詳しい?」

紅刃 > 「どうか、御気になさらず」

 俯いたままだった女は頬に触れられ、更に頭を深く下げる。相手は逞しい身体付きであり、明らかに男だが、言葉遣いは女のそれを思わせる。しきたりか?それとも趣味か?相手と目を合わせないまま分析をし、次の問いに応えた。

「近くに、住んでおります」

 宿や浴場への道なら教えられるし、どの曲がり角をどう進めば大通りへ出られるかも分かる。しかし詳しいか詳しくないかは自分でも分からない。紅色の目を細めながら口にしたその言葉は、相手に判断をゆだねる内容となった。

エイガー・クロード > 「ふぅん……」

探るような声。触れればあまりにもこの女の体は細く、白かった。
そして、とても満足の行く生活を送ってはいないだろうし、なにより
……ひどく、苦しそうなにおいがしていた。

「この辺で一番いい宿、あるいは高い宿の場所を知ってる?
案内しなさい。お礼はするわよ」

ちゃらり、と銭の入った小袋を見せて、提案した。

紅刃 > 「……『冬のアネモネ』という宿が、西門の傍にございます。なれども」

 貧民地区で何故良い宿、高い宿を求めるのか、女には分かりかねた。だが回答を渋る必要はないし、知っていることを教えて、誰か傷つく訳でもないだろう。

「……皆が、知っている宿ゆえ。それに……買った女を、連れ込む者も多く」

 小さな音を立てる袋を見遣った後、男から離れて背を向け、名を告げた宿へと歩き出した。貧民地区での「良い宿」は、多かれ少なかれ色に関わる。本来、高貴な人物に案内すべき場所ではない。
 だからゴルドの詰まった袋を見ても「おありがとうございます」が言えず、ただ働きのつもりで引き受けた。冷たい風が細い路地に吹き込んで、黒髪を波打たせる。

エイガー・クロード > 「なるほどね。ありがとう」

そう言って、この女を観察する。抑揚のあまりない声。
どこか事務的に感じる言葉遣い。若干の訛りから、この国の者ではないのだろう。
そんな彼女がどうしてこの国に来て、こうもされてるのかわからない。
まぁ……碌な事情はないのだろうな、と不思議と確信した。

「そう、あなたは売ってるの?」

だから、おそらくどこまでもこの女を動かすには女への役割を求めるしかないのだろう。
あくまで推測にすぎないが、さてどうか。
まぁ断られても別に構わないが。

冷たい風が吹き込む路地の中、女についていく。

紅刃 >  礼を言われ、相手に背を向け歩きながらしばし考える。そして次の質問には即答できなかった。

「私は……」

 己が一夜を売っているか否か?どうだろう。売り出した覚えはないが、つまみ食いされるように、事のついでのように犯されたことはある。何度も。ただそれで対価を求めたことはない。しかし行為の後で金子を投げ与えられたことは、あったような?

「……分かり、かねます」

 売ったのか、奪われたのか、与えたのか。考えたことも無かった女は、素直な思いを口にした。そうこうしている内に、貧民地域のごみごみした、猥雑な雰囲気が薄れてくる。
 同時に、目指す宿も見えた。赤や桃色のランタンが吊り下げられ、鉄格子をはめた縦長の窓の向こうでは女の影が髪を振り乱し、身体をくねらせている。

「……あれに」

 案内を終えた女が目的地を指差す。その目の前で、肌を晒す淫らな服を着た娼婦の腰や太股を撫で回す男が、宿へ入っていった。

エイガー・クロード > 「……」

言葉がなくなって、女に無言でついていく。これはアプローチを間違えたか。
そんな風に悩んでいると、女が口を開いた。

「……そう」

その返答に、どう答えればいいかわからなかった。どこまでもその声に乗っているのは、複雑なものだと感じ取ったからか。
しかし、件の宿へと目を向け、そして少し考える。
仕方ないと思うが、一人で泊まるような宿でもないし、女を今は買いたい訳でもない。
いや、目の前に気になる女はいるが……さて。

「……今夜、誰か待たせてる?そうじゃないなら……一夜、私と共にしてくれないかしら。
勿論、嫌ならいいんだけど……」

紅刃 > 「誰も。私は、独り身ゆえ」

 紅色の瞳で相手を一瞥した女は、伏し目がちに答える。そして一晩を求められ、しばし無言。嫌ということはないし、普段の安宿が恋しいわけでもない。そして何より、抗う気力が無かった。風に巻かれる黒髪を押さえながら、首を縦に振った。

「は……お供致します」

 なるようになれ。ならずともよい。目を細めた女は男の斜め後ろに立つ。気を変えずに宿へ入ろうとするなら、自分も上がり込もうと。

エイガー・クロード > 「そっか。ならよかった」

少しだけ、微笑みを浮かべて女のその、少し乾いてきたがまだ湿っている髪を撫でた。
抵抗も何もしないが、今は少し都合がいい。

「えぇ、よろしくね。あなた、名前は?
私は……まぁいっか名乗って。エイガー・クロードよ」

斜め後ろに立つ女へと振り返って、まずは素直に名前を聞くのが礼儀だろう。
そして、女の手を柔らかくも逞しい左手で握った。

紅刃 >  髪を撫でられても、手を握られても女は抵抗しない。この程度は「嫌」に入らないのだ。多少意に沿わぬことをされようと、大きな苦痛を伴わなければされるがまま。

「紅刃と、申します。クロード様」

 自分の手に重ねられた男の頼れそうな大きな手の甲、太い指を見下ろしながら短く答える。名を名乗るのも、最早何とも思わない。身を守るべき理由も、特にはないので。

エイガー・クロード > 「紅刃ね、唐突でごめんなさいね」

そう一言謝りながら、共に宿へと上がる。
店主に部屋を確認して、一番高い部屋を頼む。

「ほら、行きましょ?」

紅刃 > 「はい」

 謝る相手に一礼した後、彼の選んだ一番高い部屋へ。花の絵が掛かる室内に置かれた大きなベッドには、枕が2つ。しばらくすると、ティーポットと2つのカップが運ばれてくる。急な寒風で身体を冷やした客への心遣いか。
 それを見た女はテーブルに歩み寄ると、微かに甘い香りを漂わせた茶をカップに注ぎ、湯気を立てるそれを男へ差し出した。

「……どうぞ」

 その後は背筋を伸ばして立ち、緩く曲げた両手を下腹部で重ね合わせる。そして良い部屋とはいえ場所が場所。他の部屋での睦事が、微かではあるが漏れ聞こえていた。

エイガー・クロード > 「ん……いただくわ」

テーブルの、まぁこの地区にしてはまずまずなソファへと座る。
布で覆われた荷物を置き、差し出されたカップを受け取る。
寒さの中でほどほどに熱く、甘い香り。もしかしたら雰囲気程度の香りづけとして、媚薬でも混ざっているのかもしれない。
まぁ例え混ざっていたとしても相当量でもなければ自分には関係ない。

「ん……うん、悪くないわね。あなたも隣にかけて、飲みなさい」

そう、立っている女へと声をかけ、自身の隣をポンポンとたたく

紅刃 >  座って飲め。その言葉を聞いた女は、ひとまず空のカップに茶を注いだ。そして男を見遣り、歩み寄る。

「失礼いたします、クロード様」

 1人分の間隔を空けてソファへ腰を下ろした女は、ややあってカップに口を付けた。冷え切った身体に熱い茶が染み入り、ほう……と熱の篭もった息を吐く。

エイガー・クロード > 「寒い体に温かいお茶は効くわよねぇ……。
お風呂、先に入ってていいわよ」

間隔を開けられて座ったことに特に気に留めることもなく
まずはその身なりを整えるように言った。

紅刃 > 「私は共同浴場で湯浴を済ませておりますので、どうぞ、クロード様。……ご心配なら、湯を使われている間、外へ出ておりますので」

 自分と違い、相手には盗まれて困るものが沢山あろう。そう考えた女は戸口に立つ。他者から湯に浸かれと言われる時は、その後いつも犯されてきた。彼もそうなのか、などと考えながら、女は相手の意向を窺うのだった。

エイガー・クロード > もう済ませていると聞いて、頷く。
そして立ち上がり、鎧と衣類を脱いでインナーだけになる。
傷が一部目立つが、肌はきめ細かく、そしてとても綺麗だった。
美容等によく気を使っているのだろう。

「あぁ、別に中で待ってていいわよ。欲しいものがあれば別にいいし。
……そうそう、食事も頼んであるから、来たら食べておいてね」

こんなところで来る食事など……と思いつつも、あまりにも栄養がなさそうな体にはないよりましだろう。
そう思ってこの宿で一番高く、そして一番人気の食事を用意するように頼んだ。
さて……どうこの女と、話したものか。
自分から招いたこととはいえ、男は体を清めながら悩むのだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエイガー・クロードさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から紅刃さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に紅刃さんが現れました。
紅刃 >  ベッドとチェストを置くと殆ど足の踏み場もない、まるで物置のような貧民地区の安宿。そこで目を覚ました女はまず廊下へ続くドアを開け、続いて向かいにある窓を押し開く。

「寒い……昨日と、同じ」

 吹き込む冷たい風でみすぼらしい我が家の空気を入れ替えた後、窓を閉めて部屋から出る。これから仕事に出るのだろう。卑猥な衣装と香水を纏う憂鬱そうな顔をした娼婦に道を譲り、女は宿を後にした。空腹と乾きを覚え、何か飲み食いしようと思ったのだ。昨晩から何も食べていなかったため。

「一夜を売る、か」

 どこかで聞いた言葉を呟く。仕事を雇い止めになり、今は貯金を崩しながら宿代、食費、湯浴代を払っている。金子が尽きた後の計画は、まだない。これまで幾度となく犯されてきたが、お代を頂くといえば彼らは承知するだろうか?ゆるく頭を振る。まだ決めてもいないことだ。考えるだけ煩わしい。

紅刃 > 建物がひしめき合う貧民地区を歩く女の背を、冬を予感させる寒風が押した。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から紅刃さんが去りました。