2020/09/27 のログ
ヴェルソート > 「……え゛」
思わず、魅了が解けるような濁った声を出してしまった。
そのままギギ…とまるで油の切れた仕掛けのような動きでジーゴを見つめる。

「…おいジーゴ、盗みってなんだ、ん?…俺がやってるものだけじゃたりねぇってか?」
これは流石に、怒ったように声が数段低くなり…がっしりと、隻腕がジーゴの肩をしっかりと掴んで逃さず。

「まさか、人様のものを盗んじゃいけませんってことから教えなきゃいけないとは思わなかったぜ、うん……。なぁ、ジーゴ?」
にっこりと…笑みを浮かべているのに、目が笑っていない表情が、じっとジーゴを見つめて、語りかける。

ジーゴ > 「!」
静かな夜の貧民街に、少年が息をのむ音だけが響く。
掴まれた肩。ふりほどこうとしてみても、痛いほど肩を掴む腕を振り払うことはできなくて。
ご主人様の声色がどんどん怒気を含んだものに変化するのに、比例するように青ざめる少年の顔。


「ごめんなさい。ごめんなさい。なぐらないで」
ご主人様を怒らせてしまったことだけはわかる。
これまでも日常的に盗みをしてきたし、何の罪悪感も抱いてはいない少年はなんで怒られているのか理由もわからぬまま、ただひたすらに謝った。
項垂れるように後ろに倒れた獣耳とガタガタと震える体。獣の瞳は懇願するようにご主人様を見上げる。

ヴェルソート > 「…こんの、おばか!」
青ざめ、懇願するように許しを乞う彼…体罰を必要以上に恐れている彼の姿を見ると少し哀れとは思うが…しかし駄目なことをやったのだから、罰は必要である。よって……悪ガキへのお仕置きとばかりにごっちん!と頭に一発、げんこつを振らせた。それでおしまい、悪いことをしたから殴られた、という認識のためだ、必要以上に殴るなんて論外である。

「一発だけだ甘んじて受けろ、お前が悪いことしたんだから。
 んで…人のものを、勝手に持っていくのは、駄目だ。
 わかったら、ほれ、そのパンパンに膨らんだポケットの中身を出せ。」

ジーゴ > 「いッだ!」
手を振り上げられると反射的にぎゅっと目をつぶったが、想像よりもその痛みは酷いものではなくて、すぐにうっすらと目を開いた。

「人のものを持っていったらダメ?今日はシくったけど、普段はもっとうまくやるよ?」
なんでとったらいけないのか?とでも言うかのように聞き返した。
『盗めばお金の節約になる』くらいのぺらぺらな倫理観。それでも、おずおずと命令には従って、ポケットから出てくるのは、なんとも怪しい薬の数々。媚薬、興奮剤、性転換をすると書かれた液体。どおりで、強面の男達に追いかけられたわけだ。

ヴェルソート > 「上手くやるとかしくじったとかじゃなくて、やっちゃ駄目だっつってんだろぉが。」
こんどはおでこをピンッと指で弾いてジト目で彼をみやり…これは思った以上に、彼の常識を疑わなければいけなかったかもしれないと。

「あのな、金を払わなきゃいけないものを勝手に持っていくのは、人間の世界じゃ悪い事なの。
 しちゃいけねぇことなの。まあ、一部例外はないこともねぇけど…そもそも、俺お前が金にこまるような事態にした覚えねぇんだけど?」
そんなに俺は駄目な御主人様か、と少しばかりふてくされて眉根を寄せて。
しかし…ころころ出てきたのがまあなんとも妖しい薬類となれば。

「……なんでこんなもん盗もうと思ったんだよ。…あー、これどうしよう…別に禁制品じゃないから、突き出すわけにもいかねぇし…あ。」
とりあえず、子袋出して全部をそこに突っ込み、その中から興奮剤と媚薬だけとって封をあけ…両方男の口に無造作に突っ込み。

「……ま、これで勘弁してくれや。」
多分間違いなくアブない仕事の人を放置して…自分たちはその場を離れようと。

ジーゴ > デコピンも避けること無く、きゅっと目をつぶってやり過ごした。

「ん…」
しばらく押し黙って、考え込む。
ピンと立った獣耳。小さく眉間に寄った皺。
話を聞いてもなお、盗みがなんでダメかは全然分からなかったけれど、

「わかった、もうやらない」
とりあえず素直にわかったふりをした。
わかったということをアピールするために、うんうんと頷いたりしてみせる。

「お金、ためてるから。」
ご主人様から与えられている衣食住や、それにまつわるお金には困っていないけれど、なにぶん自分を買ったときのお金分の借金があって、それを返すためには、ずいぶん働かないといけないことはわかっているから、ご主人様から与えられるお金も基本的には貯めている。

「ええっと、バイトのときにべんり」
どんなバイトをしているのかはそもそもバレていただろうか。薬物代をちゃんと払っていては、バイトで稼いでいても、少ない稼ぎに収支はマイナスである。

「うーわ…」
ご主人様に没収された薬が倒れている男の口に突っ込まれるのを見ると、同情したような声を漏らす。
興奮剤と媚薬を両方摂取しては、とんでもないことになりそうで。

ご主人様を追いかけるように裏路地を離れる。

ヴェルソート > (離れたその後はまあ、たっぷりと宿でお説教があったことだろう。少しは懲りてくれれば良いのだが、それは彼次第…。)
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からヴェルソートさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からジーゴさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に紅刃さんが現れました。
紅刃 >  共同浴場から出てきた女は、寂れ、酔漢の怒号や娼婦の嬌声が上がる細路へ足を踏み入れた。乾き切っていない黒髪が頬に触れ、湿り気を帯びた冷気をもたらす。

「……違う道、か」

 自身としては慣れたつもりでも、心は孤独を厭うのか。もうずっとひとりきりで生きてきた女は、独り言が多い。街の灯りから遠く離れた貧民地区の、更に人通りが少ない道。自身が寝泊まりする安宿までの近道を、風に吹かれながら歩く。女は今日も、何もない。職を失い、つまみ食いのように男からの凌辱を受けた、貧民地区においてはありふれた弱者の1人。

「明日、は……」

 明日からどうしようか。頭をよぎるのは昨日と同じこと。といって、人生の明確な予定がある訳でもなし。飢えるのは何となく嫌だから、身体が汚れたままなのも何となく嫌だから、生業を求めたい。ただそれだけのこと。