2020/09/04 のログ
クレス・ローベルク > 「オッケ。じゃあ、ティアで。
うんまあ、勝手にあだ名付けても良かったんだけどね。何かこう、タイミングが無くて」

初対面のタイミングであだ名を付けるのは難しいし、二回目は怪我の治療中、三回目はこちらが無理した所を止めてもらったという邂逅の仕方であったため、その辺は致し方ない所ではあった。
ともあれ。ソラムを呼んでみた所、何時の間にか姿を消していた。
何か、用事があったのか……或いは、ティアフェルを襲った賊について既に心当たりがあったのか。

「とはいえ、人の善意をアテにする訳にもいかない、か。
んー、困ったな」

と、頭を掻いてティアフェルに向き直る。
仕事を紹介しようにも、男にコネがあるのはどうしたって闘技場関連である。
以前、ティアは闘技場付きのヒーラーとして働いていた事もあったが、流石にその職を斡旋する事は難しい。
となると、

「うーん。流石に君を出場させるのはアレだしなあ。
……最終手段として、多分適当にうろつけばその内見つかるであろう、他の盗賊から金品を巻き上げるという手があるけど」

普通の人から盗むのは犯罪だが、盗賊から盗むのは正義……ではないにせよ、何となく許される――という考えである。
尤も、ダーディである自覚はあるので、流石にティアに強いるつもりもないのだが。

ティアフェル > 「うん。何かこう、わたしに相応しいかわいらしさ満載のニックネームをつけてくれても一向に構わないけどね?」

 厚かましさしかないような科白をほざくが。本気は半分ほどだ。一応は冗談という体裁。
 それはともかく、少女の姿が消えているのもので、どこに行ったのかは分からないけれど、今の段階では何かをお願いできる状況には当然ない。
 こちらは元より負けた自分が悪いんだからこの状況も甘んじて飲むしかないと腹をくくっていたが。

「いや、そんな……わたしが悪いっちゃ悪いんだし、クレスさんがそんな困んなくっても……」

 はは、と微苦笑気味に軽く笑って頬を掻き、少々情けなさそうに肩を落とす。
 何だか逆にすいませんねえ、とさすがに厚顔な女も恐縮傾向だったが。

「わたし奥の手で相手を不能にする技持ってるから闘技場とか……カケラも向いてないのよねえ……。 
 んん……カツアゲされた後にカツアゲするのもなんだかねえ……。
 それなら手頃なアウトローをタゲって突き出して謝礼がいいかも」

 さすがにされたのと同じことをする気にはなれなかった。虐めっ子を懲らしめるには虐めるのが一番手っ取り早いとは云うが。むーんと悩むように腕組みしアホ毛も連動させて悩まし気に揺らし、最終的に善良な市民の域を出ない(だろう)案。

クレス・ローベルク > 命名権を得たが、流石に、今直ぐパッと思いつくものでもなく、逆に一度使ってしまうと定着してしまうもの。
特に、何かひらめきが無い限りは、このまま「ティア」呼びになると思われた。

「ああ、いや。別に善意ってだけじゃないよ。
寧ろ、女の子に対する純然たる下心5、今度安くで治療して貰える期待3、善意2ぐらいの気持ちだから」

気にしないでとひらひらと手を振る。
実際、男が言った事は正直な所だし、何より残りの善意にしたって、単に寝覚めが悪い以上の物ではない。
見捨てる時は見捨てるが、助けられるなら助ける……ぐらいの考えである。

「え、何?不能って子孫繁栄不能の不能?
俺の理性が敗北してたら、男として死んでた可能性があるの?」

この国でヒーラーなどやってるだけはある、という事だろうか。
ともあれ、話が逸れた。逸物の話だけにという訳ではなく。

「んー、じゃあそっちの方向に切り替えるか。と、なると……」

少し考えると、男は財布をわざとポケットから少しはみ出した状態にし、ベルトポーチから王都の地図を取り出す。
更に、

「あ、ちょっとティアちゃん、お手を拝借」

そう言うと、さっきまでとは違い、恋人繋ぎで手を繋いでしまう。
不用心、何か高そうな服装、ついでに女。
そして、視線は地図を見ていて全く周囲に向いてないと来れば、これはもう何処からどう見ても『不用心な観光客』である。

「後は適当に迷ったフリをしてこの辺うろつけば、嫌でも因縁付けられるでしょ。絡まれたらソッコで殴り倒して金に変えよう」

勿論、これにはティアフェルと疑似恋人ごっこが出来るという男の思惑も絡んでいる訳だが、そんな事はおくびにも出さないのだった。

ティアフェル > 「善意の比率少ないな……分かりやすくっていーけど。治療費は負けとく。下心は考えとく、善意は……もうちょっと計上を願いたい」

 とても明快な返答だったので変な気は遣わずに済む。それにしても善意が申し訳程度っていうところを誤魔化しておけば好感度は上がっていただろうに。器用なのかそうでもないのか分からないと感想。

「そう、そっちの不能。勃たなくなる――でも一時的にだから。
 わたしのよーな可憐な乙女が穢されずにいるには必須のスキルよ……まずゴブリンで生体実験ののち、弟でも試したけど、個人差はあっても丸一日ってとこね」

 可憐、とゴリラの分際でおかしな発言。笑う所である。
 続いて蛇足も付け加え。別に永遠に不能にまでは…多分できないと。

「やっぱねえ、ミイラ取りがミイラみたいで……正攻法を棄てる段階ではまだないし」

 完全なる正攻法と云えるかどうかは怪しいが。歪んだ人生に陥る気はまだない。そして首尾よく小細工を始めた様子に、感心したように「おー」と瞬いた。
 賢い、と軽く拍手し。概ねやってくれたのでこちらはただお手々つなぐだけだ。楽。

「はいはい。よろしくね」

 手を繋ぐと道に迷ったおのぼりさんの恋人同士の態でいればいいんだと把握して。

「よっし、早く掛かれー。
 どーせだったら見ててイラっとしてタゲりたくなるよーにイチャつきますぅ?」

 仲睦まじいカップルを見てるとイラついてくる奴がいるのは万国共通だろうし、そうなれば積極的に絡んできてくれるはずだ。かなりふざけた声ながらも案外ノリノリで、軽く身を擦り寄せ、人通りの多い方へ歩きだしながら猿芝居を開始した。

「ねーえぇ、泊まる予定の宿はまだ見つからないのぉ~?
 ティア~、早く二人っきりになりたいなぁ」

 いかにもな甘えた声でそれっぽい科白をチョイスする。とりあえず語尾とか伸ばしときゃいいと思ってる。
 中身を知ってる人から見るとかなり不気味な演技だった。やってる本人すら壊滅的なキモさを感じた。でもやる。お金の為ですもの。

クレス・ローベルク > 「なにそれ怖い。怖いのは技そのものというより、容赦なく弟を実験台にした事な気もするけど」

勿論、永続的な後遺症が残らない確信があっての事だろうとは思うのだが。
そうは言っても、弟の立場から言えば溜まったものではないだろう。
まだ見ぬ彼女の弟が、女性恐怖症になってない事を心から祈りつつ、

「ミイラ取りがミイラ、ね。確かにそうだ。
俺はもう、そういう感性が磨り減っちゃったからなあ。
でも、そういう感覚は大事だ……っと」

それじゃあ行こうか、と言わんばかりに歩き出す。
幸い、ティアの方もやる気は満々らしく、自ら演技の提案までしてくれた。
勿論、作戦の為にも、男の個人的なテンションの為にも、恋人役の演技は役に立つ。

「うん。良いね、やっちゃおう」

と、頷いて見たものの、彼女の演技力を甘く見ていた。正確には過大評価していた。
確かに、身を擦り寄せ、人通りの多い方に行くのまでは非常に良かったのだが、台詞のチョイスが壊滅的というか、ステレオタイプであった。
……のだが、問題は実はそこではなかったりした。

「(まさか、これでちょっと興奮するとは……)」

多分、宿という言葉のチョイスが悪かったのと、彼女の大根演技が逆にいじらしかったのが悪い。
何かこう、無理してる感があるからこそ、逆にそのギャップが可愛らしく見えたのだ。
……そして、そうなると今度は、逆にティアに自分を意識させたいという意地悪な気持ちが少しだけ芽生えてきた。
幸い、作戦のためという良い言い訳もあることだし。

「そう急かさないでおくれよ。僕も早く君を独り占めしたいんだ。
特に、夜の君はとっても魅力的だからね……」

と、彼女の髪をかき上げて言ってみたりする。
……これはこれで普段からするとキモい気もするが、即興なのである程度仕方ないのだった。

ティアフェル > 「うんまあ、弟達の中でも無類のバカをピックアップしたんだけど、なかなか気まずかったわー」

 想起させて遠い目をした。そこまでしてもやる必要があったので止む無いが。
 最悪の事態になってしまった時に備えて逆に不能改善のスキルも会得してはあったので強行するのにためらいはなかった鬼たる姉。

「摩耗したならもう一度上塗りすればーわよ。
 生きれてば善人にも悪人にもなれるもんでしょ」

 別に善良な、と主張する訳ではないが、人並みに善性は持っておきたいもので。
 けれど、カツアゲを渋った割にやってることはそこまでの違いもなさそな。我欲に満ちた悪者退治である。
 なかなか普通に生活していると、バカップルの振りなんてするもんじゃないので、これはこれで面白いかも知れない、と実行するが、あ、やばい。想像以上にわたしがキモイ。胸中で真顔になったが表に出ている表情は甘えったれたようなものを演出して。
 自分でもヤバ味を感じているのだから、見せられた方が噴かないか心配だったが。
 意外にアリだったらしい。

「まあ、ダーリンってばぁ。ティア恥ずかしい~。
 ダーリンだって夜も今もぉ、世界一素敵なんだからぁ。だーいすきー」

 ぽ、と照れて頬を染め甘ーい声を出してしなだれかかる。恐ろしいまでに頭の悪そうな女の芝居だ。
 おお、せりあがってくるものがある……。自分のキモさとの静かなる戦いだった。
 こんなバカな女実在してるの見たことない気もする。でも確実に客観的に見てる側はイラっとする。間違いない。
 女は女優、役になり切るのよ…! でもなり切ってしまって、なんだか相手の科白に素で照れた。やってる事がことなので気恥ずかしくはなり、赤くなった顔は芝居でもない。
 そんな、若干のリアルさも織り交ぜたバカップル劇場だったので――通りすがりに観ててイラついたアウトローが面白いように絡んできた。
 なんなら一時アウトローホイホイと化した。
 
 もちろん片っ端からどつき倒して――お金に換えてやった。

 ある程度賞金の掛かっている大物も釣れたところで、撤収となり。

「クレスさん、今日はほんとーにありがとうね! 助かっちゃった!
 ソラムちゃんにもよろしく云っといてね」

 別れ際にはしっかり感謝を述べて、ついでに頬にキスくらいはさせていただいて下心さんを懐柔するのだ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からティアフェルさんが去りました。