2020/02/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にアルナさんが現れました。
■アルナ > 朽ちかけたような建物が、肩を寄せ合うように並んでいるうらぶれた界隈。
弾むような足取りで通りを抜ける白いワンピース姿の少女がひとり――――
それは、どうしようもなく残念な頭の持ち主たるウサギの化身。
迷路のようにいくつも枝分かれした通りの、同じところを行きつ戻りつ。
散歩、というよりも、既に様相はりっぱな迷子だった。
しかし幸か不幸か、ウサギに迷子という概念はない。
本人はまだ、気ままな散歩を続けているつもりである。
「……でも、あんまり面白くありませんの」
ぽつり、呟き落として眉をひそめる。
どこへ行っても同じような眺めが続くし、変なにおいもするし、
ときどき誰かが怒鳴る声が聞こえてきたり、悲鳴が聞こえてきたりもするし。
このあたりが散歩に向かないような気がする、とは、そろそろウサギも気づき始めていた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にグラウ・ブレックさんが現れました。
■グラウ・ブレック > ウサギの化身が歩いている通り。偶然迷い込んだそこには…
雨など先日から降っていないにも関わらず、道を塞ぐように大きな水たまりが見える。
粘ついてもおらず、月光を反射するその水たまりは、とあるスライムが擬態したものだ。
地面に縦穴を開け、そこに入り込む形で収まっているスライムは、外から見ればそういったものだとは気づかないだろう。
ある魔術師によって命名され、未だ捕獲されていないスライムは、体組織を変化させあらゆるものに『なる』ことができる。
その機能を使い、罠を仕掛けたまま…獲物が掛かるのを待っている。
その水たまりに足を踏み入れた瞬間、獲物を絡めとり、自身の内へと引きずり込んで。
死なないように嬲りながら、満足するまで獲物から精気を奪い取る計画。
――――――――……
何百年も生き延びたスライムは、我慢強い。
不自然な水たまりに興味を示し、何か獲物がかかるまで、じ、と待ち続けていて。
■アルナ > ウサギが眉をひそめる理由の第一は、きっと空気が湿っぽいことだ。
ヒトガタであれば毛並みに影響はないけれど、それでも。
ここ数日、ずっと晴れていたはずなのに、どうしてこんなにじめじめしているのか。
「――――あれ」
細い街路を塞ぐように、大きな水たまりが見えた。
月明かりを反射してきらきら輝くそれは、何の変哲もない水たまりに見える。
否、何か異常なところがあったとしても、ウサギの頭では気づけなかったろう。
ただ、空気の湿っぽさの理由はわかった。
わかったなら、――――足を止める理由は、ない。
わざと水たまりに踏み込んで、水を跳ね散らかして遊ぶのが好きな子供は多い。
そしてウサギの頭の中身は、ある意味、子供よりも子供っぽかった。
とん、と水たまりの前で両足を揃えて弾み、それはそれは勢い良く。
ぴょん――――と、水たまりの中央めがけて飛び込んでいく。
揃えて踏み出した足の行き着く先は、濡れた地面のはずだった。
そこに罠があることなど、気づきもしないウサギの運命は、いかに。
■グラウ・ブレック > ただ待っていたスライムに、飛び込んでくる両足の感触。
――――――――!
それを察知した瞬間…地面を見えなくしていたスライムが、唐突に大口を開けて。
悲鳴すら上げる暇も与えないほど、素早くその粘液を絡みつかせ、奥へ奥へとうさぎを押し込む。
うさぎが感じるのは、濡れた地面の感触ではなく、浮遊感に似た感触だろう。
そして、うさぎを取り込んだスライムは…内側で何が起こっているか知らせることもなく、元の水たまりへと戻る。
複数かかるならそれもそれでスライムにとっては餌だが…今は、かかった一匹の獲物をまず嬲ろうと。
ただ、その獲物が死なないよう、空気だけは取り込む準備をして。
罠にかかった哀れなウサギがどうなったかは。
閉じ込められたウサギと、捕らえたスライムだけが知る―――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からグラウ・ブレックさんが去りました。
■アルナ > ぱしゃん、と小気味良い音が聞こえるはずだった。
揃えた足は地面を捉え、華麗に着地を決めるはず、だった。
何が起こったのかわからないまま、白いウサギの姿は呑まれて、消える。
あとに残るのは、乾き切った裏路地と、わずかに湿った夜の匂いのみ――――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からアルナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にタマモさんが現れました。
■タマモ > ここは王都マグメール、貧民地区にある通りの一つ。
裏通り、とはいかないも、場所が場所であるからか、他の地区と比べれば人通りもあれだろう。
他に理由をあげるとすれば、この地区なら姿を晒していても、大きな影響はないとの考えもある訳だが。
大事?かは知らないが、シェンヤンの客人を、こんな場所に行かせる訳もない…と思う、それもあるからだ。
………まぁ、もしも、が起こった場合は…何とか誤魔化そう、そうしよう。
手段なんて、考えれば、色々とあるものである。
「とは言え、こんな場所での目的なんぞ…そう多くはなかろうが、のぅ?」
くすくすと笑いながら、薄汚れた通りを、のらりくらりと歩き回る。
面白そうな場所、面白そうな出来事、面白そうな相手を求めて。
今日は天気も良いし、気分も良い、ゆらゆらと揺れる尻尾が、その心情を表しているか。
■タマモ > 「それにしても…」
歩みは続けながら、ふと呟き、軽く腕を組む。
視線は変わらず、何か探し求めているかのように、周囲に向けているが。
「………こうしたものは、いまいち好きになれん。
まぁ、あるからこそ、こうしておられるのも、あるのじゃろうが…
ヒトのサガ、と言うものじゃろうかのぅ」
はふん、軽く溜息を漏らす。
もっとも、それがあるからこそ、こうして居られる場もある、と言うものだ。
そうでなければ、この王都内どこに居ても、息苦しくなるに違いない。
なかなかに、難しいものである。
さて、本日の散策の結果はどうなるだろうか?
何もなさそうなら、適当に面白そうな相手を見繕い、遊ぶ手もあるが。
こういった時に、相手を選ばぬ性格は、都合の良いものである。
…時に、それが予想外の結果を導き出す、なんて事もある。
少女にとっては、それはそれで、面白いもの。
得のようであり、損のような、そんな感じ。
■タマモ > ぴくん、少女の耳が揺れた。
周囲に向けていた視線が、少し離れた先、そこに向けられる。
「………む…まずい」
その言葉に合わせたように、少女が足を進めていが方向に、数人の冒険者風の者達が、角を曲がるようにして現れる。
かち合うようになる、お互いの視線。
次に反応を見せたのは、その冒険者達の一人であった。
それはまさに、己を指し示しており、それを仲間達へと伝えている様子で。
そのまま眺めていたら、他の者達も己に気付くのは当然の事で。
まさに、『ここで在ったが百年目』みたいな感じで、己を指差せば、駆け寄り始める。
うん、その中の一人に、物凄く見覚えがあった。
確かあれだ…前にも会って、その時も捕らえようと襲ってきたので、色々と遊んでやった記憶が…
主に、色事の方向で、無理矢理に。
だってほら、正当防衛とか言わない?…言わないか。
「お、おぉ…やはり、覚えておったようじゃのぅ…」
くるりと、少女は回れ右。
脱兎が如く、駆け出すのであった。
飛べば良い?まぁ、そうだが、こうした鬼ごっこも、なかなかに面白いのだ。
…相手からすれば、そんなものではないだろう、うん。
ここは貧民地区、整備なんてされてない。
少し入り組んだ路地に逃げ込めば、すぐに撒けるだろう。
それなりの相手が混ざっていたならば、追い付けるかもしれない、その程度の逃げ足である訳だが。
しかし、少女自身は余裕もあるか。
その視線は、常に、周囲を探る事を止めてはいなかった。
それこそ、見付ければすぐに、冒険者達を撒いて行けるような。
■タマモ > 貧民地区での追い駆っこは、それなりの時間を要されていた。
さすがは鍛え慣れているか、冒険者達の疲れは少々、と言った感じか。
「ふむ…よし、そろそろ、行くとしようか」
時折、ちらちらと後を見、追っ手との距離を調整する。
そうしながら呟けば、にやり、と少女は意地悪な笑みを浮かべた。
「………よぅ頑張った、褒めてやろう。
じゃが、ここまで、さらばじゃ!」
ひょい、と後をしっかと向けば、相手に聞こえるよう、そう声を上げる。
別れの挨拶と、ひらりと手を振れば…
身をより屈めさせ、駆け足の速度を、一気に上昇させた。
その速度は、とてもヒトに追い付けるものではなし。
かくして、少女は冒険者達から、無事逃げおおせるのである。
…その後?…まぁ、秘密だ。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からタマモさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「……チッ」
貧民地区の大通りで、男は細巻をくゆらせながら舌打ちをする。
表情には明らかに苛立ちが浮かんでおり。
すれ違う通行人たちは、男の近くを通る時、迂回するように距離を取りながら通っているほどであった。
「……あぁ、溜飲が下がるって言葉。
あれ、ウソだなぁ」
男は、ぼそっ、と呟き。大きく煙を吐く。
……ことの発端は先日のこと。
魔物退治の依頼を受けた男は、仕事完了と同時に、同業者に腹部を刺された。
命からがら。街へと逃げてきた男はなんとか一命を取り留めたのだが。
当然、そんなことをしでかしてくれた同業者に対して温厚に接することができるほど男は人間ができているわけもなく。
まさについさっき。その冒険者をボッコボコに痛めつけたところであった。
「大体。テメェの実力と成果がショボいのを逆恨みしてんじゃねぇっつー」
イライラとした様子のまま、ぐちぐちと言葉を吐き出し続ける男。
痛めつけている間にその冒険者が語ったところによると。
男が最近国内上位にランキングされたこと。そして、男がその武名により女性にモテていたりするのが気に喰わなかったとのこと。
そんなくだらない理由で腹部を刺されるとか、本当にろくでもない話であり。
怒り心頭の男は、その冒険者を……少なくとも数ヶ月は仕事ができない程度に痛めつけたのであった。
「こ~いう時は、リフレッシュしたいよなぁ。
どうしたもんかね……」
深呼吸をして、なにか気晴らしでもするか、と考える男。
貧民地区は、ある意味での娯楽には困らない。
何をするか、と。男は細巻を味わいながら思案する。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に鈴さんが現れました。
■鈴 > 長くは無くも短くも無い王都生活を送っていた少女。
相も変わらず迷子になる機会は数知れず。
それが例え今暮らしている王都内でも地区が違えば同様で。
つまるところ、今まさに、少女は迷子中であった。
今日の目的はまだ見付からない冒険者ギルドを見付ける事なのだけど、こんな状態で見付かる訳も無い。
しかも、その探し方というのが…
「あわわ、違ったようでした、すいませんですよー」
開け放たれた扉の先に頭を下げて謝る少女の姿。
ゆっくりと閉じれば、表通りへと戻って来る。
「うーん、今度こそ見付けたって思ったのですけどねー…
残念、また間違えちゃいましたかー」
首を傾げて考え込むような仕草。
そう呟いてはいるのだけど、暢気そうな口調に声質が本当に残念に思っているのか疑問に思えそうな感じ。
そんな場面に出くわす事だろう。
■セイン=ディバン > 「……」
とりあえず、メシを喰いに行くか。
あぁ、待て待て。その前にギルドに依頼の達成報告をしないといけない。
そう考えて動き出そうとした男の視界の隅で、なにか、ちっちゃな人影が変に動いていて。
男としては、貧民地区で少女が一人、なんて。危なっかしくて見ていられないなぁ、と思い。
「……なぁ、そこのキミ。
誰か探してんの? それとも、物を探してんの?」
相手の呟き。見つけた、間違えた。その部分から推測し。
男はそう声をかける。もちろん、いきなり距離を詰めたりはしない。
ちょっと離れた位置で声をかけ、しゅたっ、と手を上げて挨拶をする形だ。
「この辺りは危険な地域だから。キミみたいな可愛い子が一人だと危ねぇよ。
オレ、冒険者のセイン=ディバンっていうんだけど。
困ってるなら力になるよ」
少し距離があるので、見えるかは分からないが。
男は、懐から冒険者免許を取り出し、相手に見せる。
相手が男を信用するかどうかは、未知数であるが。
■鈴 > もうちょっと冒険者ギルドを探そうかな?
それとも、そろそろ帰り道を探さないと駄目かな?
なんて事を考えていたところで掛かってくる男の人の声。
なのだけど、離れたところに居た為に自分が声を掛けられているなんて思っていなかった。
でも考えてみれば、近くにそれっぽい人が居なかった気がしたのもあって。
右を見て左を見てと辺りを確認してみるけど、やっぱりそれっぽい人が居ない。
「えーっとぉ…もしかして、もしかしたら、私でしょうかー?」
ぴとっと人差し指を自分に当てて、男の人にそう答えてみる。
とりあえず、探してるのがどうとかは聞いてたのだけど、その後の言葉は失礼ながら聞いてなかったけれど。
何か自分に提示しているみたいだけど、まだ冒険者でもない少女にはそれが分かっていなかった。
■セイン=ディバン > 「そうそう。そこのキミ」
自分が声をかけられていると思っていないらしい相手。
自分のことか、と問われれば。男は頷き、相手にゆっくりと近づいていく。
「一応オレ。この辺りには詳しいし。
この地区のギルドにも登録してるから。
探し人とか、探し物なら力になれると思うぜ」
相手に近づき、ほれ、と冒険者免許を見せる男。
免許には、男の名前、住所、冒険者になった年月日。
冒険者としてのランクなどが記されている。
……とはいえ。冒険者免許は、見慣れない人間にはなにがなにやらかもしれないが。
「……ま。もしもキミが助力は不要、ってんなら。
ムリに、とは言わないけどな」
男としては善意で協力を申し出ているのだが。
人によっては、手助けされるのを嫌うタイプもいる。
なので、相手に問いかける。協力、いる? と。
■鈴 > 自分の事だと男の人が答えれば、ぽんっと手を打つ少女。
なるほど、と納得した行動とすぐ分かるだろう。
ワンピースドレスの裾をひらっと靡かせ、改めてくるりと男の人へと振り返る。
「そうなのですかー、それは助かりますねー。
実は私、冒険者ギルドを探していたのですよー…その、分かります、か?」
にこーっと笑顔を浮かべながら、そう言ってくれる男の人へと伝えてみる。
まじまじと冒険者免許はしっかりと見るのだけど、それはやっぱり分からなかったようで。
ただ、聞きそびれた男の人の名前がセインって事だけは理解出来た。
その言葉から、申し出が不要なんて事は思えないだろう。
自分からも首を傾げたまま確認しているのだから。
■セイン=ディバン > 「……うん? ギルドに用事かい?
まぁ、俺も今からギルドに行こうと思ってたから。
ちょうどいいや。案内するぜ」
なんだそうだったのか、と。男は微笑む相手を見ながら、むふん、と息を吐く。
近くで見れば、相手はとても可愛らしく。
こういう子相手なら、力を貸すのもいいもんだ、と。
男は一人勝手に納得と化しつつ。
「しかしまぁ。キミみてぇな可愛い子がギルドにねぇ。
なんか依頼? それか、ギルドに知人がいるとか?」
さて、そうと決まれば、と。
男はギルドに向かって歩き出す。
貧民地区のギルドは、少し分かりにくい場所にある上に、ガラの悪い人間も集まりやすい。
男は、相手が追いつきやすいようにゆっくりと歩きつつ、道中の雑談として、会話を切り出した。
■鈴 > 「はいっ、冒険者になろうとここに来たのですよー。
でも、来たのは良いのですが冒険者ギルドの場所が分からなくって、探しても見付からなくてー…
ちょうど困ってたところで助かりますー」
行き先がちょうど同じ場所だったらしい。
男の人の言葉に頷いて答えるも、少しの間を空けて何か気付いたようにはた、となる。
「あれー…?…もしかして、もしかしたら、小父様は冒険者の方でしたかー」
なんて、免許を見ているのに、そんな言葉を男の人へと向けた。
今の言葉はさっきの質問の答えにもなってるし、案内してくれるならと男の人の横へとちょこちょこと移動して、後は案内されるように付いて行く。
■セイン=ディバン > 「……冒険者に? キミが?
……あぁ、いや。待て。
……キミ……人間じゃないな」
まさかの返答に面食らう男であったが。
相手のことを観察すれば、そこに気づくことができた。
さまざまな種族、そして超越者たちに出会ったからこそ男が培えた感覚。
男の感覚は、相手の正体が人間でないことを察知したのである。
「……えっと、そう言ったんだけど。
まぁいいや。ところで、小父様ってのは、ちょっと辞めてくれ。
くすぐったい。キミみたいな美少女にそんな呼ばれ方するのは。
普通に、セイン、でいいよ」
なんだか、ほんわかした子だなぁ、と思いつつ。
男はゆっくりと歩いていき。数分ほど、入り組んだ道を歩いた後。
貧民地区の冒険者ギルドの一つへとたどり着いた。
「ん、着いた。ここだぜ、お嬢ちゃん。
つっても、ここは貧民地区のギルドの内の一つだけどな。
もしも冒険者になれたら、王都内のギルドの場所を記した地図ももらえるはずだぜ」
この王都には、さまざまなギルドがある。
冒険者ギルドに限定しても、ランク、規模などによって色々なギルドが乱立しており。
ここは、その中でも、実に平均的な冒険者ギルドであった。
■鈴 > 「はいっ、そうですよー?
うーん…?…どうなのでしょう?お父様は人間でしたけれど、私は拾われた子だったらしいですのでー」
面くらい聞いてくる男の人に、さも当然のように答える少女。
しかし後の質問にはちゃんとした答えは出せなかった。
男の人は何かを感じ取ったようだけど、自分はよく分かってなかったからだ。
「あわわっ、そうでしたか、それはごめんなさいですねー。
うーん、そうですかー…分かりました、でしたらセイン様とお呼びしましょうー」
その部分は聞いてなかった、ぺこんと頭を下げるけど笑顔のままなので本当に悪いと思っているかは何とも言えない。
小父様との呼び方はやめて欲しいとの事なので男の人の希望通りに名前で呼ぶ事に、様付けではあるけれど。
そうした言葉の遣り取りをしていれば冒険者ギルドに着いたらしくて。
ほわー…と感嘆の声をもらしながらギルドの建物を見上げていた。
「あ、ありがとうございましたー。
これが冒険者ギルドですか、なるほどですよー。
地図…地図ですかー…うんっ、何とかなるでしょうー」
物珍しげに建物を眺めたまま、男の人の言葉に小さく唸る。
地図があっても迷っていた少女だけに、実際に何とかなるとは思えない。
だけど楽観的に物事を考えているのもあって、繰り返しても反省していないようだ。
それを男の人が知っている訳でもないのだが。
■セイン=ディバン > 「そうなのか。……う~ん。
俺も、キミの正体まではちょっと看破できないけど……」
相手があっさりと肯定したのに驚きつつも。
男は、そこに嫌悪を見せたりもしない。
そもそも、妻が魔王である。驚くに値しない、というところである。
「いや、まぁ。キミの呼びたいように呼んでくれたらいいんだけどね」
苦笑しつつ、相手と共に歩く男。
どうやら、マジメな子なのかな? と思いつつ。
無事にギルドに案内することができた。
「いえいえ。お安い御用。
俺も中に用事あるし、一緒に受付にでも行こうか」
お礼を言われれば、手を軽く振って応える男。
そのまま一緒に中に入っていき、受付に声をかけ。
男は、魔物退治の報酬を貰う。
■鈴 > 「…?…えーっと、何かありましたかー?
人間であってもなくても、私は私だから別にいいんじゃないかなって思いますけどねー」
驚く男の人に不思議そうに聞いてみる。
種族に関しては少女自身も気にした様子はないのが見て取れるだろう。
それは性格的な面であり、男の人とは違う理由ではあるのだけれど。
「はいっ、分かりました、ではセイン様でいきますねー」
苦笑する男の人とは対照的に、少女はにこにこと満面な笑みを浮かべるのだった。
二人で冒険者ギルドの中へと入れば共に自分も受け付けに。
報酬を受け取る男の人の横で、少女は冒険者としての登録申請を行い始める。
「あ、セイン様?
何かお礼をしたいですので、終わるまでちょっとお待ち下さいねー?」
登録は長く掛かる訳ではないのだけどすぐ終わるものでもなくて。
そう男の人に伝えれば、また登録申請の続きを行うのだった。
■セイン=ディバン > 「あはははは、そりゃあそうか。
たしかにね。言い切っちまえばそりゃあそうだ」
結局のところ、そういったものを気にする必要はないのだろう、と。
男もそう思っている。なにせ、人間だろうが異種族だろうが、イイヤツはイイヤツ。ワルイヤツはワルイヤツ、なのだから。
「あいあい。それでいいですよ~」
相手のステキな笑顔に笑いつつ、男は苦笑を強めていく。
ギルドの中には、あまり冒険者の姿は無く。
男としては一安心であった。貧民地区のギルドにくる冒険者は。
あまり、紳士的な人間はいないからだ。
「……ん? いやぁ、お礼ったって。
……まぁ、うん。ここでサヨナラってのもある意味無慈悲か」
お礼など気にしなくてもいいのに、と思いつつ。
ここでお別れした場合、相手が無事に帰れるかが不安なので。
男は、報酬を懐にしまいつつ、相手のことを待つことにした。
■鈴 > 「はいっ、それでいいのですよー」
理解されれば嬉しそうに喜んでみせる。
その点だけは男の人と同じだった、良し悪しを含めても。
笑顔のままではあるけれど、男の人の反応に不思議そうに首を傾げる少女。
苦笑の意味も、安堵の意味も、分かるものではなかったからだ。
「いえいえ、お世話とかして頂いたお返しはちゃんとしなければいけないのですー。
戦う事でしたらどんとお任せしてくれていいですよー?
他の事はちょっと自信ないですけど、出来る事ならー」
そんな事を伝える少女、だが登録申請に悪戦苦闘しているようで。
やっと初心者冒険者として登録されたのは、もう少し後の事だった。
その様子から不得意なものが一つ発覚するだろう。
■セイン=ディバン > 「あはははは。言い切るなぁ」
気持ちいい断言に、男も声を上げて笑う。
なんというか、この少女は。
一緒にいると、癒される部分があった。
男の中の苛立ちはすっかり消えうせているが。それも、この少女と会話しているからこそ、なのかもしれなかった。
「マジメだなぁ。まぁ、うん。そういう心構えはとてもステキだね。
……ん~、つっても。俺もある程度は戦えちゃうし……。
……ふむ。できること、ね。ふむ……」
相手の言葉に、男は若干困った様子。
この少女が戦闘能力に自信があるのだとしても。
男としては、依頼に関してはソロで片付けることが多い。
何か他に、と考える中。男の視線は、相手の身体に向かうことになり。
じろんじろん、と。ちょっとそういう目で見てしまう。
■鈴 > 「考えても分からないですし、ならいっその事考えない方がいいですからねー」
この潔い判断がストレスを溜めない要因であるが、少女自身はそれを認識してないだろう。
男の人のように良い方向で判断してくれれば良いのだけど、人によっては悪い方向に判断されてしまう、そんな考え方だ。
「はわー…やっと終わりましたよー。
それでは、後はセイン様へのお返しだけですねー。
何かして欲しい事とか決まりましたかー?」
登録を終えた後に男の人の側へと戻って来る。
困っている様子に後出来る事を考えてみるも、他といえば狩った動物を捌く事くらいだろうか。
まじまじと身体を見られている事は気にせずに、それだけ伝えてみよう。
それこそ、男の人からすれば必要性に欠ける事かもしれないが。
■セイン=ディバン > 「その考え方は大事だね」
生きるうえで、あまりにも悩みすぎるのも良くない。
ストレスだってそうだし、イザという時に動き出しづらくなることもある。
冒険者である男としては、切り替えの早さ、というのはある種の才能だと思っている。
「ん。お疲れ様。これで晴れて冒険者だね。
う~ん……それなんだけどさ。
キミにできることなら、何でもいいわけ?」
困った、という様子を隠さぬまま。
男は相手に確認するように問う。
無論、無茶なことを言うつもりも無いが。
もしも、これはカンベンしてくれ、というものがあるなら先に聞いておこう、ということらしい。
■鈴 > 「はいっ、私もそう思っていますー」
偶に否定する人も居るだけに、こうして肯定してくれる人はありがたい。
同意してくれる男の人に向けた笑みは満足そうになって。
冒険者となった事への祝いの言葉には嬉しそうに。
しかし、出来る事への確認に少しだけ間が空いた。
「えーっとですね、戦うとか捌くとかは得意なのですが、生活を送る上でしないといけない事は壊滅レベルなのですよー。
ですので、それ以外だったら大丈夫かと思いますー」
今の間はつまりこういう事だった。
それでもやってくれと言えばやるつもりだけど、覚悟が必要だろう。
その言葉から男の人の考えていた事は出来る事に入るかもしれないのが分かる。
他ならば素直に出来る事をさせるのが妥当と言えようか。
■セイン=ディバン > 「うんうん。これからも、そういう風な柔軟さは大事にしていったほうがいいね」
何かを語るたびに、笑顔が強まる相手。
この子は、近くにいる相手を朗らかな気分にさせるな、と。
ある意味では、最強のスキルとも言える、明るさ、というものを持っている少女を。
男は、羨ましそうに見つめる。
「……ふむ。なるほどね。
じゃあ、二つ。お願い聞いてもらえないかな」
相手の説明に、腕を組み、う~ん、と少し考える男であったが。
何か思いついたのか、相手に、ぴっ、と指を二本立ててみせる。
お礼、という相手に対し。二つもお願いを聞いてもらおうとするのは。
なかなかに図々しいといえるかもしれなかったが。
■鈴 > 「分かりました、もちろんそうするつもりではいるのですよー」
相手にどんな影響を与えるとか、そんな事は考えていないのだけれども。
自分のしている行動が認められるのは嬉しいものであった。
「お世話して頂いたお礼ですから喜んでですよー。
どうぞどうぞ、構わず言って下さいですー」
考え込む男の人の様子にじーっと待つ少女。
特に待つのが嫌とかな訳ではないので、思い付くまで静かに待っているだろう。
そして何かを思い付いて聞いてこれば、笑顔で承諾するのだ。
何かをしてくれたのを数で現わすなら、冒険者ギルドの場所を教え、案内してくれた、と考え方によっては二つではあるのだから。
■セイン=ディバン > 「そっかそっか。余計な心配だったかな?」
どこか、芯をしっかりと感じる相手の返答。
男は、安堵しつつ、相手に向かい、笑顔を見せる。
「そっかそっか。じゃあ、遠慮なく。
一つは。今後、俺が困った時に助けてくれないか?
例えば……強い魔物の討伐依頼の時とか。あるいは……。
俺がムラムラして困った時に、エッチさせてくれる、とか」
相手が快諾するのなら、男は遠慮なくお願い事を口にする。
一つ目のお願いは、今後。いつか助けてくれればいいよ、という。
要するに、男が困らない限りは相手はお礼をしなくていいという条件付のお願いだ。
まぁ、そこでセックスを頼むあたり、この男はやっぱりゲスかもしれない。
「んで。もう一つ。
……キミの名前を教えてくれないかな。
可愛い美少女さん」
二つ目のお願いは。名前を教えてくれ、というものであった。
お礼としては、あまりにも小さいものかもしれないが。
縁を大事にする男としては、どうしても相手の名前が聞きたかった。
■鈴 > 安堵と共に笑顔を浮かべる男の人。
こちらもそれに笑顔を返すのであった。
「うーん…分かりました、その時はちゃんとお助けしますねー?
お世話されるのですから、その程度は当然の事ですよー」
少し考える素振りを見せるが、そう答え頷いてみせる。
何かあれば何かする、その逆で何か必要なら何かしてくれる、そう受け取ったようで。
男の人が性行為をそれに含めたように、少女も日常生活において頼ろうとする気であった。
その時がこれば、それははっきりと分かる事だろう。
そして二つ目のお願いが出た時に、あ、と何か気付いたように声をもらした。
相手の名前は知っているのに、自分の名前は知られてないのだと。
「私の名前は鈴と申します、セイン様、よろしくお願いしますねー。
それでは、お互いに用事も終わりましたしどうしましょうかー?」
申し訳無さそうにぺこりと頭を下げながら、そう男の人へと名前の名乗る。
下げていた頭を戻せば、そう伝えて首を傾げた。
■セイン=ディバン > 「あぁ。その時は頼むよ。
なにせ、俺も歳だから。結構スタミナとかが無いんでね」
相手が、自身の一つ目の提案を呑んでくれたことに男は安堵する。
男としては、何が何でも御礼をする、みたいなことを言われたら困ってしまうからだ。
そもそも、男は今回この少女を助けたとも思っていない。
たまたま目的地が一緒だったから、同行した、としか思っていないのだ。
「鈴ちゃんか。可愛い名前だな。
あぁ、よろしくな、鈴ちゃん。
……そうだなぁ。もし良かったら、メシでもどうだい?
オレ、おごるからさ」
相手の名前をしっかりと覚え。男は、相手にそんな提案をする。
丁度、男は腹が減っているので。これもまた、ついで、である。
その提案に、相手が乗るかどうか、は。また別の話ではあるが……。
男は、今後この少女と縁を深めるのを、楽しみにするのであった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からセイン=ディバンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から鈴さんが去りました。