2019/04/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区『薬屋“洛水”』」にさんが現れました。
>  貧民地区。違法建築のオンパレードと化しているその場所にシェンヤン王国の文字とこちらの地方の文字でかかれた看板がかかっている。
 薬屋『洛水』。知る人ぞ知る(大多数は知らないという意味だ)薬屋だった。

「??????」

 頭上に浮かぶ大量の疑問符。女――少女とも取れる容姿をしている――は、花の刺繍がされている手帳を睨みつけていた。
 故郷で学んだあれこれ。秘密のレシピ。聞いてきたこと。
 を、酔っ払いに筆を握らせたような汚い文字で綴ったそれは、仮に盗まれても解読不可能な有様だった。
 世界で唯一その本を解読できる女は、胡坐をかいて、仕事部屋の作業スペースで首を傾げていた。

「なんで? なんで……?」

 ぐつぐつと煮える液がガラス瓶の中にある。調合が正しければ光るはずなのだが――光るどころか濁っていた。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区『薬屋“洛水”』」にブレイドさんが現れました。
> 「ん、んー……?」

 室内は特殊だった。何せ得体の知れない乾物の群れが天井そこらかしこに張り巡らされたワイヤーからぶら下がっているかと思えば、仕事机にはこれまた濁った液に浸されたイモリやらクモやらを詰めた瓶が並んでいる。
 作業は問題こそあるがはかどっていた。何せ薬屋なのに薬を買いに来るものと言えば大抵近所の娼館の者ばかりで、頻度はそう高くないのだ。
 商売は人脈がものを言うという。人脈どころか人と話そうとすると脈が早くなってくる人種にとって、薬屋の客数増大を狙うなど不可能に近かった。
 ようするに暇だった。暇だからこそ、売るわけでもない薬の調合をああでもないこうでもないと変えていられるし、来客に対応するには薄すぎる寝巻きのような格好でいられる。

「ごへっ!? げほっ! ぶほっ! ぉーッ! はぁっ、はぁっ! 苦しいッ!?」

 突然薬が煙を噴いた。思い切り顔面に浴びた女は涙目で玄関へと走ると、扉を開けて喚起をした。

ブレイド > 貧民地区の一角。
最近どうも、シェンヤンから流れ込んだ公主絡みで何人ものシェンヤンの民が王都に紛れ込んだらしく
王都において警備の行き届かない貧民地区はそれらが違法に住み着くには格好の場所らしく…

「この辺こんなとこあったっけ…」

なんか、わけのわからない文字の張り紙やら看板やら。
通じてた道がなくなってたり、壁だった場所が道になってる。
依頼帰りに近道などしようと思わなければ通らない道だが、ここまで様変わりしていると困惑してしまう。

当然ながらシェンヤンの文字は読めない。
扉の前に飾られた看板に気を取られていると…その扉がひらいて…

「へぶっ!?」

直撃した。

>  まず字を誰もが読めるわけではないのだ、絵でも描けばいいものを、この女はそういったことは考えられなかった。
 薬から猛烈な勢いで立ち上る煙に耐えかねて、どたばたと駆けていって扉を開ける。来客なんてほとんど無いのだ、構わないだろう。
 そのはずが、がつんと嫌な手ごたえがしたではないか。

「……ひぃぃっ!? だだだだいじょーぶ!?」

 フードを被った人物がいた。年下だろう、と見当をつける。
 扉の直撃を受けて悶絶しているであろう相手に、女は表行きの正反対の格好のまま、両手を翳してあわあわと狼狽した。

「け、怪我、とか、し、してない? ごめんね!」

 鼻でも折ってやしないだろうか。不安そうに相手のことを見つめて、確認しようとする。

ブレイド > 突然開かれた扉はわりと勢い得直撃し、その衝撃はそれなりに鍛えた冒険者をして体をのけぞらせてしまうほど。
フードは落ちて耳はさらされてしまったが、それでも、おでこを、鼻を、押さえずにはいられなかった。
意識がもっていかれなかっただけマシだろう。
なんだ?なにがおこった?トラップか?
このあたりに迷い込んだ者を気絶させ身ぐるみをはぐたぐいの…

「つぉぉぉぉぉぉ……」

妙な思考が頭を巡る中、体は痛みに対して正直に反応していた。
半ばうずくまりつつも顔をあげると…声をかけられていた。
女の声…?謝っているということは、事故らしいが…

「いや…えと…なんだ?」

鼻とおでこは真っ赤だし、目には少し涙が溜まっているが…まぁ大事はない、それよりも…

「…火事かなんかか?」

妙な煙と勢いよく飛び出してきた女性をみればそう疑うのも仕方はなかった。

>  手加減抜きで扉を叩きつける様に開いた結果、はからずとも相手の顔面直撃の軌道を描いていたのであった。
 トラップというよりもむしろ偶然の類だ。それも女が気が動転した結果である。

「え? お、折れてないよね……鼻とか……」

 両手を胸元で祈るようにしながら、身を屈めて顔をじっくりと至近距離から眺めていく。
 鼻は折れていない。はず。おでこは赤い。涙目。傷薬も必要なさそうだった。

「へ? 火事? ……あー、えと、えへへ違うの失敗しちゃって……もうじき収まると思う」

 女の言葉は正しかった。反応し終わった薬からは既に煙が止まっていた。
 女は扉に手をかけたまま、小首をかしげた。視線は一度上に行く。耳だ、耳がついている。
 これはもしやミレー族だろうか。余り見たことがなかったせいか、無遠慮にじろじろと見ながら口を開く。

「なんかごめんね。お客さん……? お薬、買いにきたの? よかったら入っていく? お、お詫びに傷薬とかつけてあげる」

ブレイド > 出てきた女は心配そうに声をかけてくる。
わざとではないことが理解できたので責める理由も特にはない。
…疲れた様子の青髪の女性、年齢は…10代後半~20代くらい?

「折れては…いねー、多分。血とか出てねぇし」

触った感じも骨の感触はしっかりしているし大丈夫…
なのだが、なのだが…近い。
少し疲労の色のこい心配そうな目

「火事じゃねぇならいいんだけどよ。つか、ひでえクマだぞ?
なんかするより休んだほうがいーんじゃねーの?」

思わず視線をそらす。
顔が少し赤かったのは、強く打ち据えた赤みでごまかせただろう。たぶん。
照れ隠しの憎まれ口もそこそこに、相手の視線が耳に注がれていることに気づく。
そして、彼女の衣装にも。
なるほど、シェンヤン人か。ならば別に慌てて隠すほどでもないだろう。

「…あー、お客って…ここなんかの店…薬屋か?
せっかくだし、寄らせてもらうかな」

店という予想はできていたが、薬屋だったとは。
この看板の文字…薬屋って意味なんだろうか?とか勘違いもしつつうなずく。

>  疲れた顔をしているというよりも、疲れている。
 夢中になって調合にかじりついて一晩明かすような生活をしているせいだ。
 流石の女も相手の鼻にぺたぺたと触ることはできなかった。とにかく大丈夫なことがわかり、ほっと胸を撫で下ろす。

「寝てるんだけどねー………寝ると、あっいけそうな気がするって……それで……。
 ………ん、見た感じ、傷薬はいらない、かも? つけておく?」

 ようは寝るより起きているほうが楽しいのだった。
 部屋の中を覗き込めば、シェンヤン人であることがすぐわかるだろう。シェンヤン人の服。家具。文字。
 唯一青髪青目の女だけが違和感があるかもしれない。

「や、やっぱり目立たないかな……看板、出してるんだけどなあ」

 女は扉の中に入るように促すと、とことこと歩いていって、室内用の羽織りものだけをさっと羽織る。短パンのせいかまるで下を履いてないような見た目になってしまったが。
 それから(一応は)来客用の椅子に腰掛けるように促すことだろう。

「えと、えと………どんなお薬をお求めですか」

 しどろもどろ。視線をあっちこっちに彷徨わせつつ、かつ言葉の尻が小さくなりつつ言う。

ブレイド > 「傷はねーから…痛み止めとかねぇ?
まだヒリヒリすんだけど…」

眠るのがもったいないと感じるタイプなのだろうか?
ぶっ倒れるまで遊ぶ幼児かなんかじゃあるまいし…少し呆れつつも
促されるがままに、扉の中へ。
なるほど、みたことのない内装…ちょっと前にみた、東の方の内装ともまた大きく違った…
これがシェンヤン風ってやつかと感心しつつあたりを見回す。
腰を下ろして一息つけば、苦青臭くもスーッとする……いわゆる薬の匂いが鼻を突く。

「目立たないっつーか…読めねぇ」

シェンヤンならまだしも、ここはマグメール。
シェンヤン文字を読める人間のほうが稀だろう。
妙に縮こまった様子の…太ももが眩しい青髪の女性の言葉には少し考えた様子で

「あー、そうだな…。オレ冒険者だから、傷薬とか痛み止めとか…あと、毒消しとかあると助かるかもな」

>  こじんまりとした室内。使い込まれた家具はどれもシェンヤン様式であった。
 薬の香りと、部屋の隅っこで炊かれている甘いお香が混じってなんともいえない空気で満ちている。

「読めない? ……うーん、そっかぁ、そうなのかなぁ」

 これでもこっちの字もつけてるんだけどな、と続ける女。
 その文字が看板の隅っこに小さく小さく書いてあるせいなのではないか、という推論は容易に立つことだろう。
 女は、少年が腰を下ろすと、机の隅っこでかすかに湯気を立てていた急須からお茶をそそぐと机においた。

「痛み止め……と、あと毒消し、ね………痛み止めは、うん、私がやっちゃったから無料であげるね。
 あと毒消し………んー、汎用性の高いやつとかかな。冒険者? だから蛇毒? 盗賊退治? 神経毒? んーっと。
 あ、ちょっと待ってて。すぐ、準備するから……」

 怒涛の早口で作業机へと歩いていくと、何点かを見繕い始める。
 補強魔術のかけられた細長い瓶に入った何点かの毒消しと、粉薬。

「こっちが毒消しでぇ……こっちが傷薬と痛み止めで……ぁ。あのぉ……私、名前がね、洛っていうんだけど…………っふぅぅ………」

 俯いて、時折視線を上げる絵に描いたような口下手を披露。

ブレイド > お香と薬の香りで、なんか独特の匂いの室内。
不快ではないのだが…なんか、なんか…新鮮、というべきなのだろうか?
時折スンスンと鼻を鳴らして、周囲の家具や薬に視線を送り
あたまに青髪の女性の方をみたりして……胸が大きいと、つい視線がそちらにもいってしまうが…。

「シェンヤンの文字は特にな。
まぁ、こっちの文字なら読み書きはできるけど…書いてあったか?
っと、わり。いただくな」

シェンヤン文字に気を取られていたせいもあって見えてなかった。
もう少し見ていれば気づけたかもしれないが、それよりも先に扉に意識を遮られてしまったので仕方のないことか。
出されたお茶を手に取り小さく頭を下げてから一口。
そういえば、シェンヤンの飲食物というものは初めてな気がする。

「怪我したときにも使いてぇから、無料じゃなくてもいいって。
ま、ここに薬屋があるってわかっただけでも収穫だしな。
んー、そうだな。毒消しは二種類くらいあったほうがいいかもな。たのむぜ」

無料でいいという彼女の言葉に手を振って。
流石にそこまでされたら逆に申し訳なくなってしまう。
なんか薬の話になったら突然早口になったが……薬師の仕事をしているというか
趣味の延長として薬屋でもやっているのだろうか?

「ん?おう、ありがとな。お、名前?名前な。オレはブレイドだ。さっき言ったみてーに冒険者してる。
って…どうかしたか?」

口下手な様子に首を傾げ、妙な息遣いに少し心配そうに声をかけて。

>  薬の話題に関しては人一倍しゃべることができるのだが、他の話題ともなると萎縮してしまうのだった。
 どうやっても直らないどもりと天性の口下手のお陰で相手から心配されてもおかしくはなかろう。
 女は、差し出した瓶の表面のラベルに書いてある文字をなぞりながら説明した。
 瓶が傷薬。毒消し。そして粉薬が痛み止め。順を追い指で突きながら説明すると、均等に並べて机の上に並べていく。

「二種類………わかった、えと、その、んと、じゃ、じゃあ二種類用意するから……。
 これと、あとこれ……。ん、いいよ。痛み止めは……いま、飲んでね。
 そう? じゃ、お金は貰うね。ふふ。お客さん来たの久しぶりでなんかうれしいなあ」

 こくんと頷くと、また机に戻って薬瓶を取って戻ってくる。
 透明な液体が詰め込まれた瓶の本数が増える。
 痛み止めらしい粉薬を指で突きつつ相手が飲んだことで減ったお茶を急須から足しておく。

「あ、そ、そうなんだ……冒険者のブレイドくんね。
 へぇぇっ!? いや、普通だよ。私あんまりしゃべるの得意じゃないから」

 はきはきとしゃべる相手からすれば不審そのものだろう。だがこれが普通なのだと、はにかにながら言う。

ブレイド > 傷薬、毒消し、痛み止め…並んだ薬はどれも本格的なもの。
なんとなーくよく効きそうに見える。

「まぁ、こんなとこだしな。人、あんまこねーだろ?
この辺なんかよく地形変わるし、家のねーやつが居付きやすい環境だからさ…
貧民地区にすんでる奴らにも警戒されてるっつーか…
アンタも気をつけろよ?女が住むにゃ…安全とはいい難いしよ」

青髪の女性…洛は、疲れた顔つきではあるが、体つきはよいし
目元のクマやらをのぞけば顔立ちだって整っている。
商いのことでチンピラ、ごろつき連中に難癖つけられれば、まぁ…たいへんなことになるだろう。

毒消しの瓶をつまみ上げて中身を眺める。
味は悪そうだが…まぁ、良薬は口に苦いのだろう。きっと、おそらく。

「あー、そういうことか。わりーな。
オレもあんま話題出すのとか得意じゃねーからよ。気、つかわしちまったな」

普通だという彼女の言葉にうなずいてから、お茶と一緒に粉薬をのむ。
味わって薬を飲むとひどいことになるので一息に。

「アンタ、シェンヤン人だよな?やっぱ、最近この辺に来た感じか?」

> 「まぁー……うん。大丈夫だよ。これでも拳法には自信があるんだ」

 えへん、と腕を上げて無い力こぶを擦ってみせる。
 拳法を修めてはいるが、言葉で言うだけでは説得力が無いであろう。疲労もといやつれたの領域にある顔のせいで。
 伊達に貧民地区に住んでいるわけではなく、何度か押しかけてきた連中を伸しているのだが、やはり説得力が無いであろう。

「苦いから一気に飲んだほうがいいよ…………ん、それで大丈夫。
 一日、効くから。他の薬と一緒に飲まないように……ね」

 女はお茶のお代わりをどうぞと続けてさらに茶を注いだ。
 それが終わると、ばつが悪そうに紙切れになにやら書き始めた。
 薬の料金らしい数字が並んでいるが、いつ切り出していいのか悩んでいた。
 東方で用いられるそろばんを机から取り出すと、ぺちぺちと指を動かして計算をして、その内容を紙に写す。

「……ん、そうだよ。最近この辺に来たんだけど……面白いところだよね。
 そ、その、料金お支払いしてもらえるって言うから……」

 気まずそうに紙をすっと机の上に置く。痛み止めの項はゼロ。他の項目も、良心的な価格が並んでいる。

「これで野菜の切り端炒めだけの夜ご飯から卒業できるよ……」

ブレイド > 「ならいいんだけどな。拳法ねぇ…見かけによらねーっつーか…」

細腕を曲げてアピールしているが、説得力はまるでない。
実際商売できているのだし、本人が言っているのだからそうなのだろうが…。
こちらもどうみても拳法の達人には見えないことは思わず口に出してしまっているので
やや失礼な物言いになってしまっているのだが、自覚はない。

「うぇ…後味わりぃな…薬だからしかたねーけど…
っと、それが料金ってやつか。どれ…」

注がれたお茶を一気に飲み干すも、まだ舌先に苦味が残っている。
お茶を飲み干せば、彼女がなにか変なものをパチパチしつつ書き出しているが、まぁ数字を見れば料金表ということは理解できた。

「面白いねぇ。まぁ、楽しめてんならいいけどな。
気をつけろよ?ホントなら、オレみてーなやつ家に入れるとかすげーあぶねーんだからな?
……なんだよ、痛み止めの金払うって言ったのにさ…」

ジャラジャラと財布から代金を支払い、薬をしまう。
それにしたって、慎ましい生活のわりには安すぎやしないか?

「アンタな、そんな生活してんのに薬ただにしてんじゃねーって。
逆にわりぃから…こう、痛み止め代要求するとか…オレになんかしてほしいこととかあるか?
冒険者だし、体でかえしてもいいしな」

流石にこのまま立ち去るのは気がひける。
そんな生活なのに、お茶までいただいたのだし。

>  細身をもってぶちかます拳は重いとか軽いとかそうじゃないとか云々。
 説得力の欠片も無いのは自覚しているのか、相手の言葉を聞いても気分を害することは無い。
 女は、相手が飲み干した容器を回収すると、財布から取り出される硬貨を数えながら手元に引き寄せた。

「良薬は口に苦し、だよ。
 え? そ、そうかな、でもほら私が扉ぶつけちゃったからさ……お返しにって」

 そんなだから飲食店からただ同然で貰い受けた野菜の切りくずを炒めた貧乏シェンヤン料理を食う羽目になるのだ。
 当然の如く並ぶゼロ表示を指摘されると、うーんと喉を鳴らして、人差し指を顎に当てて考え込んでしまった。

「してほしいこと……こ、今後とも御贔屓に! ………言ってみたかったんだよね!」

 暗い目元にきらきらとした光が宿る。
 何せ贔屓と言えば娼館の従業員くらいなものだからだ。
 相手が頷いてくれるかどうかはわからぬ。じーっと特徴的過ぎる目で見つめてみた。

ブレイド > 「わーってるって。味に期待してたわけじゃねーから…
まぁ、再確認的なやつだ。
つか、お返しに裸に剥かれて犯されてーなんてことになっちまっても知らねーぞってことだ。
そんなでっけー胸してんだしさ」

シェンヤンという場所はそれほどに安全な場所なのだろうか?
だとしたら、この国に来たのは失敗なのではないかと訝しんでしまう。
相手の張り出した胸元を指さし呆れ顔。人の良さが仇になる場所ということを教えておいたほうがよさそうだと思えるほどに
この町では生きづらそうな…いわゆる善人の女性だ。

「…安いし近いし…またこさせてもらうけどさ…
つか…そうだな…飯、食うか?肉とかさ…」

流石に少し不憫になってきた。

> 「え゛ッ犯さ…………で、でも、拳法でなんとかできるから」

 またも細い腕を立てて無い力こぶアピールをする。
 でかい胸。言われて、羞恥心が刺激されたのか胸元を隠そうと腕を胸元で絡ませる。
 事実不貞な輩は伸してきているのだが、そのうちホイホイと騙されてしまっても不思議ではない。そんな女だった。

「にく?」

 聞いて元気の無い顔に多少の光が戻ってくる。
 もう随分と食べていないものだ。流石に飲食店であまった肉をもらってくるのは危険性が大きすぎる。
 食えないものは椅子と両親他はなんでも食うシェンヤン人とはいえ、腐った肉は却下なのだ。
 女はごくりとあからさまに生唾を飲んだ。

「よ、よろしくおねがいしまふ」

 盛大に噛みながら。

ブレイド > 「そりゃ無理やりならその拳法?とかでなんとかできるかもしんねーけど…
さっきみたいに自分が怪我させたーとか、自分のせいで健康じゃなくなったーって言われると
そうもいかねータイプに見えるんだけど…」

隠そうとするのはいいのだが、腕で圧迫すると余計に弾力やら何やらを際だたせることにならないだろうか?
少しばかり視線をそらしつつ、荷物袋の中から干し肉をいくらかゴソゴソと。
肉に釣られる程度には肉に飢えている様子…

「…騙されて犯されるよりは、飯を奢らせて体で払わせるってやり方のほうが効きそうだな…
今のアンタの場合…まぁ、贔屓にでも何でもしてやるから…
アンタみてーな善人がひどい目にあうのってのはあんま楽しくネーからな」

> 「………」

 善人で騙されやすい女は、相手の言葉に沈黙した。
 心当たりが多すぎる。今は遠くなってしまった故郷でも同じような会話をした記憶さえある。
 胸元を隠そうとして返って強調するポーズをとっていることも気がつかず、うーとかあーとかうめき声を漏らしていた。

「! ブレイド君ってすっっっごくいい人だね!! それ貰える?」

 話を聞いているのか聞いていないのか、手を突き出して干し肉を貰おうとしている。
 肉を食える機会というのが久しぶりすぎて遠い昔に感じられる程なのだ、目の前に突き出されると犬のように高ぶってしまう。

「お肉久しぶりだよぉ………お野菜もおいしいんだけどね、食べれば食べる程だんだんむなしくなってくるというかー」

 徐々に手の器を接近させていく。涙目になっているのは決して気のせいではない。

ブレイド > どうやら図星だったらしく、沈黙のあとうめき始めた。
図星どころか、そういう経験があったのだろうとすら思えるわかりやすい反応である。
漬け込まれやすい善人でこの体…
騙す側の人間としては格好の獲物だろう。

だというのに……

「話聞いてねぇだろ!?」

涙目になりつつもにじり寄る洛。
この程度でいい人認定するのだから、ちょろいという評価すらも生ぬるい。
チョロアマだ。
しかも、距離感とか全く気にしていないのか、近いと言ったらない。
手の器もそうだが、何よりも胸の視覚的な圧が強い。

「やる!やるから!!」

イヌのように人懐っこいのは好感が持てるのだが、さらなる危うさを醸し出している気がする。
干し肉を手の器から溢れんばかりに…溢れても胸に乗っかるだろうが…乗っけて、ひとまず落ち着けとなだめるほかはない。

>  図星も図星である。
 大嘘こいてもころっと信じ込む詐欺師からしたら鴨と葱が鍋に入ってる状態で降ってくるようなものだ。
 手を突き出してさあ寄越しなさいという圧力をかけつつにじり寄る女。

「え? 何の話?」

 聞いていなかった。馬の耳になんとやら。
 躾のなっていない犬かくやにじり寄り、とうとう干し肉を確保した。
 量は、手のひらには収まらないほどの量だった。これはもしかして相手の保存食携行食なのでは?
 という疑問が頭をよぎったが、食欲を抑えることができなかったのかそのまま、むしゃりとやり始める。

「~~!」

 うーともあーともつかぬ奇声を漏らしながら肉を食らう。
 一通り食い終えると、手に付いた粉まで逃さぬと丹念にとって食う。
 そして自分用の茶を注いで飲む。

「ありがとう!! 生き返った!!」

 がっと相手の手を掴んでニコニコし始める始末。

ブレイド > 聞いてなかった。
というか、肉に目がくらみすぎである。
これはもうだめな子だ。残念な子だ。
きっとこの街でも無事では済まなそうだ…。

「聞けとは言わねぇけど…今食うのかよ!」

受け取ったその場で食うとか野生か。
しかも幸せそうにうめいて…。本当に肉に飢えていたのだと言うことが伺えるが…
アレだけの干し肉を平らげ、手についた分まで舐め取るとか
やはり食べ物関連にも軽く騙されそうだなぁと思わせるには十分だった。

「そりゃよかった」

口下手で話を聞かない善人…放っては置けないタイプの女性ではある。
手を握られつつじーっとクマのある目を見つめて

>  実際痛い目に何度も遭ってきてこの性格なので、これはもはや修正できるとかできないとかの問題ではない。
 貰った(?)干し肉をあっという間に吸い込んでしまった女は、食後の茶まで嗜み始める始末だった。
 的確にツッコミを入れてくれるミレー族を前にしてものほほんと「あー食った食った」というほくほく顔でいた。

「……? どうしたの?」

 相手が、真正面から見つめてくる。
 どうしたのだろうと見つめ返す。鋭い金の眼と、透き通った青い眼が正面から向き合った。
 それこそ眼に相手の顔が映りこむような距離だったが、女はきょとんとしていた。

「ありがとうね。また、来てくれたらお茶くらいはごちそうするから……」

 ようやく距離感の近さに気がついたか、握っていた手を離して右を見たり左を見たりの挙動不審な動きを繰り返す。

ブレイド > もはや何も言うまい。
こういう女性なのだ、おそらく。
趣味的で、口下手で、お人好しで、騙されやすくて、話を聞かなくて
マイペースで、少しばかり落ち着きのない、超がつくほど人懐っこい善人。
呆れるほどにこの街の悪意と相性が悪い意味でいい。

「…このまま襲いかかったら、すこしは気をつけてくれるかなって思ってな」

やや冗談めかしつつもため息。
というか、近すぎる。
洛の海のように青い瞳の中が見えそうなほど。あまりにも透き通っていて
距離も忘れて見とれてしまったくらいに。

「あー、おう。またくる。アンタがどっかにさらわれて娼館で働かされてでもない限りはな」

少し照れくさいのはこちらも同じ。
カリカリと頬をかきつつそっぽを向いて。

> 「しょ……!? 酷いよぉ……だ、だから拳法でね」

 この日三度目になる腕力こぶアピール。こぶが全く見えない説得力マイナスの仕草をしてみせる。
 照れくさそうに頬をかく相手をみると、くすくすと喉を鳴らして笑う。
 青い目が、相手の金色を捉えていた。
 そしてかちゃかちゃと音を立ててお茶の容器を片付けはじめた。

「ま、まあ、もし、もしだけど働かされてたら助けにきて。もしだよ、もし。絶対ないもん」

 ないと断言しつつ、お茶の容器を炊事場に運んでいく。
 そろそろ相手も帰ることだろう。どうしていいのかわからないのか、玄関に行っては戻ってくるの動きの初動だけ繰り返している。

「えと、帰る? かな? 帰り道気をつけてね」

ブレイド > 「……」

そんなにアピールすると、実はすごいのではないか?
と、勘ぐってしまう。
なので、アピールしてる力こぶのあたり。ムニッと揉んでみることにした。

「オレに頼むのかよ!まぁ、いいけどよ…せっかくの知り合いだしな
絶対ないってなら、約束してもしなくても変わんねーし」

なんかこちらの照れ隠しもバレてしまったようなので逆に気恥ずかしく
片付けを終えた彼女は、妙にそわそわしたようにしているが…
たしかに、用事は済んだ…といえるか。

「ま、そうだな。あんま長居してもわりーし…つか、薬ありがとな。
ほかの薬の効果は…まぁ使ってみなきゃわかんねーけど…またくるぜ
せっかくだし、シェンヤンの茶でももらいにな」