2018/07/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に空木さんが現れました。
■空木 > えんえん泣く子どこだ。
わんわん泣く子どこだ。
わるいこわるいこなきやまないと、わるい鬼がきちゃうぞ。
「もし、そこの子………このような薄暗い通りに足を踏み入れてしまいますれば、
“人さらい”に捕まってしまいますが……」
女はある意味不幸だった。自分を見るなり大声を上げてなき始めた子供をどうしても見捨てておけず、
仕方がなく手を繋いで孤児院まで連れて行く羽目になったからだ。
最初人殺しの類と思ったのか警戒して近づこうともしなかった子供も、忍耐強く説得しているとうなずいてくれるようになった。
歩きつかれて眠ってしまったので仕方がなく背負って連れていったのだった。
「はあ、それでは、あとはよろしくお願いします」
女は孤児院から出てきた修道女に子供を預けると、すぐに立ち去ろうとした。
少なからず知り合いの増えてきた辺りである。鬼が子供を助けるなど、笑い話にもならぬ。なんとか引きとめようとする修道女をどう払うべきか悩み、辺りを見回していた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエズラさんが現れました。
■エズラ > 「ふ~っ……とりあえずここまで来りゃ大丈夫か――あ、おどかしてすまねぇ――」
酒場で酔っぱらいに喧嘩を売られ、一人目を派手にのしたのはいいが――
ゾロゾロと仲間が現れた上、刃物まで抜いたのを見て状況は一変。
余計な手間をとるよりは――と、一転、逃げるが勝ち――そういうわけである。
さて、見た目そのものは、その「喧嘩を売ってきた」男達とそう変わらない――
そんなごろつきが唐突に通りに駆け込んできたものだから、それを目の当たりにした修道女は短く悲鳴をあげ、孤児院の中へと逃げ込むのである――
「――なにもそんなにビビらなくても――んん?」
もう一人――そこに立つ人影、それは修道女の出で立ちではない。
太刀を帯びたその姿には、見覚えがあった――
「こりゃ、こっちがおどろいた――孤児院の用心棒もやるのかい」
■空木 > 鬼。人攫い。人殺し。さらに色情魔だの戦闘狂だのを付け加えれば立派な女のプロフィールの完成である。
女もそれをばらすほど愉快な人間性をしているわけではなかった。
なにやらごろつきが通りに現れたではないか。
修道女といえど腐っても貧民の町の住民。悲鳴を上げてさっさと中に退散し鍵をかけてしまった。
「…………く、ぐ」
そして女は一匹で残された。
ごろつきの声は、以前聞いたことのある用心棒の同僚のものだろう。傭兵かもしれないが、そんなことはどうでもいい。
今の場面を見られていないだろうか。見られていても、見られていなくても、とにかく恥ずかしすぎた。
女の顔色がさーっと見るからに赤く染まっていく。唇をかみ締め肩を揺らしていた。
「エズラ……さま? このような辺鄙な場所にどのような用事で……?
わたくしは、そうでございますね……まぁ、孤児院に配達を頼まれたしまいでして……」
つらつらと嘘を付きつつ、孤児院の方角に忌々しい苦虫を噛み潰した表情を向けた。
■エズラ > 「やっぱり――空木か」
相変わらず剣呑な雰囲気を持っている女――であったが。
なにやら少し様子がおかしい――と思い、怪訝な表情で相手の顔をのぞき込む。
男は幸いに、彼女が子供を救い、孤児院へ届けたということまでは知るよしもなかった。
もっとも、そんな自分の表情を、相手は見ることができないのであったが――
「……なんだ、配達……って」
彼女の仕事は、腰に帯びたものを扱うものが基本であろう――
そんな、ある意味で自分と似たような類の人間であると思っていたが――
それにしても、頬が染まっているのを間近に見るのは、楽しい。
「――で、仕事は終わったのか?暇なら少し付き合わねぇか――」
どこへ、とはあえて言わずに。
■空木 > あたりには人気がなかった。二人だけしかいない。喧騒も今は遠くなっていた。
「機密事項を漏らすわけにはいかないので………」
あくまでもすっとぼけるつもりの女だった。それこそ閂がかけられたように口は堅い。
人物が接近してくると、あからさまに顔を反らして、頬を見られんと工夫する。
「わたくしの顔に何かついているのでなければ覗き込むような真似はするべきではないかと……」
そんなこともわからないのかとでも言わんばかりの口調をとり、男の続く言葉には深々とため息をついた。
「付き合うといいますと………はぁ、なるほど。つくづく見る目の無い男でございますね。
確かに仕事を終え暇ができたところではありますが……」
女は一歩、歩き始めて、振り返る。うつろな赤い目を開いて。先導してくれないのかと小首をかしげながら。
■エズラ > 「ハハ、そりゃたしかにそうだ――」
仮に彼女の言うとおり、何らかの仕事をギルドなりから受けていたのなら――守秘義務が生じる依頼もあるかもしれない。
顔を反らす仕草までちゃっかりと盗み見つつ、ムフフ、と口の端を持ち上げる。
「見る目がないだと――?何かついていなくたって、ジッと見ていたい顔してるぜ、空木はよ」
耳元に、相手にだけ聞こえるような小声でそう告げる。
そして、自身の申し出の意味を明らかに理解しつつも、しゃなりと小首をかしげる姿につい魅入られてしまう。
気づけば、手を差し出し、相手の手を柔く取っていた。
「――さ、そんじゃ行くとしようか――?」
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエズラさんが去りました。
■空木 > 音で位置や挙動まではわかっても、表情まではさすがに読み取れないのが悔しいところだった。
笑う相手とは対照的に女の顔はむすっとした不機嫌極まりない状態に歪んでいた。
「穴が開くほど見つめるとでも? 付ける薬がございませんね……っあ、この。
耳元は敏感でございますので、わざと息を吐きかけるのは遠慮いただきたく……」
耳元に寄る声に身をよじりながらも、手をとられると、その手についていく。
特に返事を返しはしなかったが、とことことついていき、そうして二つの影は姿を消したのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から空木さんが去りました。