2018/07/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にジュリアンナさんが現れました。
■ジュリアンナ > 「だから、お金ならあたしが払うって言ってるでしょ!?」
こう声を張り上げるのも、もう何度目だろうか。
張り上げすぎて声が掠れてきたし、呼吸まで荒くなっている。
当初、相対していた筈の強面の商店主もうんざりした面持ちで、
彼の露店からチーズをひと塊くすねた、と責められている少年など、
痩せ細った身体を縮こまらせガタガタ震え、今にも倒れてしまいそうに見える。
―――然し、己と現在進行形で対決中の若い男は、にやにやと口端を歪めるばかりだ。
王都の衛兵と思しき制服姿ではあるが、よれよれに着崩した有り様から見ても、
真っ当な法の番人だとは思えない。
店主と少年の間に割って入った己に対して、これも何度目か知れない、
『だから、お嬢ちゃんは何処の誰なんだよ。見たとこ、金なんか持ってやしないだろ?』
という台詞を、面白がるような顔でもって繰り返す。
―――己がこんな場所で身分を明かしたくないことを、知り尽くしているといった顔だ。
「誰だって良いでしょ、あたしが、其処のおじさんに、直接払うって言ってんのよ!
あんた、そもそも関係無いじゃないの!」
―――言いたくない。
身形に見合わぬ宝飾品を持たされていることも、
それをこの店主に担保として預けようとしていることも、知られたくなかった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にブレイドさんが現れました。
■ブレイド > 貧民地区の少し裏手。
うらびれた露店街はそれなりの活気があるもののトラブルが絶えない。
物売りもそれなり、人もそれなり。
売り物も人の質も貧民地区のそれであるが…
適当にプラプラとするには退屈はしない、のだが…。
「なんだ…?うっせーな、さっきから…」
さっきから響く怒声。金切り声にもにた、少女の声。
トラブルが絶えない、日常茶飯事。
盗みに拐かし、騙しに不正。悪徳の質なら一級品なのだからそういうこともあるだろう。
しかし、気の強そうな声はまだ響いている。
ここらで、あんな口聞くような女は口ふさがれて袋に詰められてどっかでヒイヒイ鳴かされてもおかしくないというのに
よくやるものだ。
少しばかりその方向に足を向ける。
そこでは不良衛兵ともめる少女の姿。
貧民らしい姿をした少年と、店主をさしおいてヒートアップしている模様。
「なにやってんだか…」
内容を聞けば、そこの子供が盗みを働いたのをかばっている…といったところか。
このままいけば、そこの衛兵は少女と詰め所でおたのしみの流れだ。
まったく反吐が出る。
「きゃんきゃんきゃんきゃんうるせーな…さっきから
どーしたよ、ねーちゃん」
不機嫌そうな表情のまま、言い争いの輪に踏み込んでいく。
■ジュリアンナ > そもそも、震えている少年と己だって直接の面識はない。
ただ、初めは店主が少年を猫の子のように掴み上げて怒鳴っていたから、
ついつい口を出してしまっただけの通行人なのだ。
けれど今、傍目に見れば騒動の当事者はどう考えても、己、そしてこの衛兵だった。
『お嬢ちゃんだって、関係無いっちゃ関係無いんだろうがよ。
出しゃばる女は嫌われるぜぇ?』
そんなことを言う衛兵の方では、きっともう、今更己が
引き下がる素振りを示したところで、大人しく帰す気も無いのだろうけれど。
何れにしても、引き下がる、という選択肢を思いつきもしない己にとっては同じことだ。
「うるっ、さいわね!
だからあたしだって、あんたが―――……」
其処で不意に、聞き覚えのない誰かの声。
見れば、騒動の輪の中へ踏み込んできたのは、そう年格好の変わらない少年で。
己一人が騒いでいるかのような物言いに少しカチンとしたものの、
ふっ、と肩で息をしてから彼の方へ向き直って。
「だから、其処のロクデナシが、関係無いのに首突っ込んで来てるのよ!
確かに盗みは悪いことだけど、お金なら払えるって言ってるんだから、
おじさんだって文句なんか無い筈でしょ?」
ぐりん、と勢い良く店主の方へ振り返れば、長いポニーテールさえ攻撃的に弧を描く。
水を向けられた店主はもう、どうとでもしてくれ、といった面持ちで肩を竦めた。
■ブレイド > 声をかけてみれば、遠くにもよく響く気の強い声。
ミレーの耳にはよく聞こえすぎて、少しだけ顔をしかめる。
なるほど、店で少年が盗みを働いたところ、第三者同士が喧嘩を始めたということか。
なんともややこしいというか、店主も気の毒なもんだ。
気の強そうな…まるでこちらにも噛み付いてきそうな少女の勢い。
この勢いでがなられたら、普通の衛兵ならば肩をすくめて引き下がるところだろう。
「へー、で、当事者はなんて言ってんだよ」
いわゆる店主のことだ。
金を払えば許すと店主が言うならこの場はおさまるだろう。
おそらく、そうなる前にこの不良衛兵が介入したせいでややこしくなったんだろうが。
痩せぎすの少年の方もちら見しつつ、少女と衛兵の間を通るようにして店主に歩み寄る。
「まぁ、許してくれるってんならちょっと多めに払わせてもらうぜ?
『弟』の不始末だ。兄貴が面倒見るのは当然だしな」
店主に少しにやけたような…取引を持ちかけるような顔。
口裏合わせてくれればこの場は収まるぞと。
痩せぎすの少年には余計なことは言うんじゃねぇぞと、圧を送っておく。
■ジュリアンナ > 説明、というにはあまりにも細部を省略し過ぎていたが、
どうやら、割って入って来た彼には奇跡的に、現状がうまく伝わった模様。
『おいおい、ロクデナシ、ってのぁ俺のことかい?
随分なクチきくじゃねぇか、お嬢ちゃ―――…』
衛兵が相変わらずのにやけ顔で己に手を伸ばすよりも早く、
新たに登場した彼が店主を相手にし始めた。
結果として、軌道修正も、衛兵の不埒な手も防いだ格好。
この界隈で長く商売をしているのだろう、店主は恐らく彼の『弟』発言が、
口から出まかせだと気づいた筈だった。
然し―――
『仕方ねぇなぁ。兵隊さんやらお役人やらの手を煩わせるのは、
俺も本意じゃねぇんだ』
震え上がっている少年の方をちらりと見てから、店主は『兄』である彼の方へ、
ちょいちょい、と立てた三本指で合図を送る。
本来の価格の三割増しで手を打つ、という意味であろうか。
解決の気配を察してか、周囲の人々はこちらに興味を失い始めている。
己は未だ、唇を噛んで衛兵の顔を睨みつけていたが―――。
■ブレイド > 彼女の説明で伝わったと言うか、それで伝わったのは半分。
あとは状況を見て察知したに過ぎない。
がなりたてる少女の人の良さは買うが、正面からやりあえばロクデナシの思うつぼだ。
「はいはいごめんよ、衛兵さんよ。
アンタの出番はここまでだ。いやいや、お勤めご苦労さん」
ひらひらっと手を振りつつも、少女の煽りを受けて息巻く衛兵に軽口。
足元見やがって、という視線は店主だけに送りつつ
きっかりさん割増のゴルド硬貨を店主に手渡す。
「『弟』の不始末で『無関係』の兵隊さんの手を煩わしちまって悪かったな。謝るよ。
こいつももうこんな悪さはしねーって言ってるからここは穏便にしてくれや。
『オトナの対応』でさ」
金を払ったあと少年の頭を無理やり下げさせて
そのまま先に帰れと合図する。
難癖つけられて、このロクデナシにごねられちゃたまらない。
半ば無理やり少年を追い返しつつ、少女の方にも。
「お嬢ちゃんもわりぃな。うちのが迷惑かけちまって。
ま、関係者の間で解決できる問題でよかったぜ。
んじゃ、衛兵さんは見回り頑張ってくださいよっと」
少女にも声をかけつつ、立ち去る人々の流れを見れば
暗にさっさとどっかにいけと衛兵を追っ払うような発言。
その言葉のさなかに兵士に見せるのは、王国軍第五師団の師団章。
■ジュリアンナ > 店主にとっては、金にさえなれば本当はどうでも良かったのだろう。
金を払う相手が己であっても、他の誰かであっても。
ただ、衛兵を下手に追い返して、己の損になることも避けたかった。
だからきっと、『兄』と名乗った彼の存在は、店主にとっては渡りに船だ。
その場であっさり要求通りのゴルドが支払われれば、強面に不釣り合いなほどの満面の笑みを浮かべて。
『はいよ、毎度。
やんちゃな弟が居ると、お兄ちゃんも苦労するねぇ』
―――かくして、そもそもの事件は解決してしまったが、
衛兵とは名ばかりのごろつきめいた男が、それで引き下がる筈も無かった。
泥棒を働いた少年がよたよたと逃げて行くのこそ見逃したが、
それは男の目が、己の方ばかり見ていた所為でもあり。
『いや、……そうは問屋が、―――――』
卸さねぇ、と言う心算だったのだろう男の顔が、刹那、ぎくりと強張った。
睨み合う格好で身構えていた己が、怪訝に思って首を傾げるほど。
もごもごと口の中で、言い訳じみた台詞を断片的に。
最終的には、まるで逃げるように走り去って行った男の後ろ姿を、
ぽかん、と見送ってから―――
「……え、…と、あの……、
―――そ、そうだわ、取り敢えず!
今の子、あなたの弟だっていうのは、……」
本当なの、と尋ねる声はひっそりと。
当人が既に姿を消している辺り、幾らおっちょこちょいの己でも、
彼のついた嘘には薄っすら気づいている。
■ブレイド > 「まったくだぜ。
おっさんも気をつけてくれよ?
このへんで下手な騒ぎなんてなごめんだからよ」
面倒事はごめんだ。
特にああいうクソ野郎が自分の傍でオラついてるのを見るのは気分が悪い。
足元はみられたものの、騒ぎが収まればひらひらと手を振り店主からも離れる。
逃げるように去っていくロクデナシには、おととい来やがれのハンドサインを背中にくれてやり
してやったりの笑み。
「何が問屋だ。豚舎で鳴いてろ豚野郎」
去ったあとは吐き捨てるように毒づいて
それからようやく少女の方に向き直る。
フードの奥には睨めつけるような目付きの悪い、金の瞳。
「弟なわけねーだろ。似ても似つかねー。
だいたい、兄貴が金持ってんならあのガキが盗みなんざする理由もねぇ。
それよか…アンタへったくそだな。
チンピラ衛兵に嬲られたい趣味でもあんのかよ」
さらっと嘘だと白状する。
そんなに都合よく兄が登場するわけもなし、当然だ。
だが、次に出てきた苦言はやや呆れたような声質。
それもしかたないこと。あのまま話が続けば、お仲間がやってきて詰め所行き。
あとは、楽しい楽しい尋問タイムだっただろうことは、たやすく想像できた。
■ジュリアンナ > 明らかに己をどうにかする気満々だった男が、何故だかあっさり逃げ出した。
彼が先刻、何か見せていた気もしたけれど、はっきりとは見ていない。
とは言え―――振り返った救世主たる彼の顔は、成る程、先刻の少年とは似ても似つかなかった。
「……そう、よね。
じゃあ、やっぱり…、――――なぁん、ですってぇ?」
無関係なのに助け舟を出してくれたの、ありがとう、と、多分続ける心算だった。
然し、へたくそだの嬲られる趣味だの言われては、そんな殊勝な台詞は綺麗に吹っ飛ぶ。
再びの嵐の気配に、今回は店主ですら、やれやれと背を向けている、が。
「そんな趣味、ある訳無いでしょ、何考えてんのよ!?
だいたい、あいつの方が後からしゃしゃり出てきたの、あたしは……、」
頬っぺたを真っ赤にして、彼に掴みかからんばかりの勢いで。
けれど其処でふと、大切なことを思い出して言葉を切り。
「―――でも、とにかく、あなたのお陰で助かったわ。
一応、お礼は言っておく……あと、今払った分のお金は、あたし、返すから」
身体の脇にぴたりとつけた両手は、未だ拳に握られているものの、
ぴょこん、と頭を下げて―――勢いのついたその動作の所為で、
ポニーテールの先端が彼を引っ叩いたかも知れないけれど。
■ブレイド > 少女の声が高くなれば
店主の方に顔を向け、悪いと、謝るような仕草をしつつ
そのまま歩き出す。せめて店の前から退けば、商売の邪魔にはなるまい。
「助けるのはいいけどよ。あいつの狙いはガキじゃなくてあんたの方だったんだぜ?
見事にアンタがかかったもんだから、あんにゃろー…心の中ではこのあとどう遊んでやろうか
なーんてくらいは考えてたんじゃねーか?」
少女もかなり気が強いようではあるが、こちらは呆れるほど口が悪い。
相手の言葉に正面からつっかかるタイプであろう少女ならば、このまま食いついてくるだろう。
そうなってくれるのであれば、店の前から少しひらけたところへと誘導するのだが。
「わーってるよ。泥棒のガキをわざわざかばう演技までして、あいつに突っかかられようなんて意図はねーことくらい。
もしそうだったら、へたくそってのは撤回だ。舞台女優でもやってける演技力だと思うぜ?
だけど、この辺の衛兵ってのは九割あんなんだ。
まともに取り合ってちゃ嬲りものになっちまうのがオチなんだっての」
明らかに貧民地区の柄の悪さに染まっていない。
おそらく平民地区か富裕地区…それも、平穏で穏やかな区画の出身だろう。
ここらにきたのも初めてなのか最近なのか…
「いーって、いらねー。
自分の散歩道で豚がブーブー煩きゃ蹴っ飛ばしてどけるだろ?
そうしただけだっての」
返すといった金に関しては、受け取るのもめんどくさいというふうに断って。
ぺしりとポニーテールの先端が顔面をひっぱたくのには少しイラッとしたが。
「お人好しもわるかねーけど、まず自分の体を大事にしろよ。
特に世間知らずの若い女なんてな、猪一に食いもんだぞ?」
少しずれてしまったフードを直しつつ少女に忠告めいた言葉を投げ。
■ジュリアンナ > 彼の配慮で、己が自然、通行や商売の邪魔にならない場所へ
誘導されていることになど、当然のごとく気づきもしない。
彼がさっさと移動するものだから、言いたいことのある己としては、
ザクザクと荒い歩調で食い下がるのだ。
「あたしひとりなら逃げるわよ、これでも逃げ足は早いんだから。
でもその前に、もしあたしに触ろうもんなら、向こう脛に蹴りの一発ぐらいは入れるけど、っ」
憤然と、みすみす食い物にされる気は毛頭ない、と主張するが、
世間慣れした相手からすれば、きっと鼻で笑ってしまう、というようなものだろう。
少年の代わりにターゲットになってしまったのも偶発的なもので、
つまり、彼の指摘はいちいち正しいの、だが。
「……そりゃ、分かるわよ。
この辺を流してる衛兵なんて、ああいうのばっかりだっていうのは、
…でも、だからって、放っとけないもの………」
だんだん声の勢いが弱くなるのは、今頃になって怖気づいたから、というより、
単に、己の振る舞いをほんの少しだけ反省し始めた為である。
だからこそ、せめてお金は受け取って欲しい、と勢い込んだのだが、
「そん、…そんな訳にいかないわよ、だって、随分吹っかけられてたじゃない。
あなた、なんにも悪くないのに、それじゃあたしの気が…、あ、ごめん…、」
最後の『ごめん』は、己の髪が彼に働いた狼藉に気づいた所為。
天を仰いでひとつ、己自身が落ち着く為の息を吐いて。
「……気を、つけるわ。
毎回、あなたみたいに親切な人が来てくれるとも限らないもんね。
………ねぇ。それじゃせめて、なにか、奢らせてくれない?
あんまり高いものは無理だけど、冷たいもの、とか」
ゴルドの持ち合わせはあまり多くなく、先刻、店主との取引には使えなかった。
けれどそれでも、―――迷惑料代わりに、と訴える口調は、些か懇願めいて。
■ブレイド > 少女がついてくれば少し外れの道へ
もう少し歩けば色街だ。
「衛兵の脛に一発ね。
自分から捕まりに行く口実作るのは見事なもんだな。
誘導にも引っかかりやすい。ここ、どこだかわかってんのか?」
すこしだけついてくる少女の視界から体をよければ
そこはオトナの社交場…娼館やら駆け込み宿屋らの立ち並ぶ通りの入り口。
自分にはその気があるというわけではないが
『その気であれば、手篭めにするのも簡単だ』と、言外に伝える。
「そんで、ああいうのばっかってことは、連携とられりゃそれこそ自慢の蹴りも意味はねーな。
細い路地で挟み込んじまえばもう、そこからは移動する必要すらねぇ。
その場で『お食事』の時間になっちまうってわけだ。
あんた、この辺の地理詳しくねーだろ?」
肉にかぶりつくような仕草を見せてから立ち止まる。
流石に色街に引き込むわけにも行くまい。
その気がなかったとしても。
「ほっとけねーのはわかるけどな。
ゴミが落ちてりゃ不快なもんだ」
だが、その心意気というか…彼女のもつ善意を馬鹿にするようなことはしない。
むしろ、こんな街の中でこのような考え方を持つ彼女に感心すらする。
だが、続く言葉はやはり少しばかり甘さがある。
「そっか、気がすまねーならしかたねぇな。
でも、金じゃなくててめーの体で返せ…なーんていいだしたら
お前どうする気だよ。オレが親切じゃなくて、ただ美味そうな餌を横取りしに来ただけの
野良犬だったらどーすんだ?
そもそも親切心からってわけでもねーけど」
やや呆れ気味に食い下がる彼女に言ってのける。
状況が状況だけに、少しばかりリアリティのある脅しになってしまったかもしれない。
「高いもんが無理なほど金がねーなら、自分のためにとっとけっての。
さっきみたいな状況で、一番物を言うのは結局金なんだからよ」
金でもどうにかならない場面は多い。
金も体も命も全部奪われるなんてのはザラだ。
だが、少しだけだが、生き残れる可能性はあるのだ。金があるということは。
「ま、体で返せとは言わねーけど…メシ程度ならて付き合ってもいいぜ?
おごりじゃなくて割り勘で」
■ジュリアンナ > 「だから、そういう心算じゃない、ってば―――…は?」
何処だか分かっているのかと言えば、まるで分かっていなかった。
いつの間にか、婀娜な姿のお姉さんやら、怪しげな客引きやらが目につく一角に、
己が誘導されつつある、ということも。
たっぷり数秒、そちらを凝視して、気づいて、音がしそうな勢いで頬が染まる。
心なし、涙目気味にもなりながら、彼の顔を睨みつけて。
「あ、……あ、なた、あたしのこと、とんでもない馬鹿だと思ってるでしょう!?」
うん、と頷かれたら立ち直れない、というか自分でもそろそろ自信が無くなってきている。
地理に不案内―――というほどでもないが、とかく、猪突猛進の気があるのは自覚しており。
それはつまり、狡賢い者が相手ならば、己など完全な『餌』であるということなのだろうから―――
「―――そ、んなこと。
あなた、そんなこと言いそうに見えなかった、もの。
でも、だけど、もしあなたがそう…そういう、人だったら、
それは、でも、……あたしが、馬鹿だったってことで……」
目の前の彼が金ではなく、身体、を求めてくる可能性。
それ、に全く思い当たらなかったなどと打ち明けたなら、きっと、
ますます甘い、と笑われてしまうのだろう。
けれど何故だか、彼はそういうタイプの男に見えなかったし―――
だからもし、それが彼の望みだと告げられたなら。
先刻のごろつき相手とは、まるで違う返答を弾き出してしまいそうな気がして―――
目に見えて混乱している様子で歯切れ悪く、もごもごと口籠っているうち、
彼から救済のひと言が降りてくる。
一拍、おいて俯いていた顔を上げ、ほっとしたように表情を緩ませて。
「…割り勘で良いなら、勿論、大歓迎だわ。
あなた、この辺は詳しいのよね?なら、美味しいお店知ってる?」
項垂れていたのが嘘のような明るい調子で、元気よく歩き出そうとする。
彼にお勧めの店があるのなら其処へ、あるいは何処か、美味しそうな匂いを漂わせる店を見つけるべく。
店に着くまでには彼の名を訪ね、己の名を『リリア』だと告げることもあっただろうか、
―――ともあれ、健啖家であることを知らしめた以外、彼の中の己の印象が、
世間知らず、あるいは甘ちゃん、はたまたストレートに『馬鹿』から、
塗り替えられることはついぞ無かった、かも知れず―――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からジュリアンナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からブレイドさんが去りました。