2018/06/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」に空木さんが現れました。
■空木 > 貧民地区。貧民窟だの雲の下だの貶されるその場所、大通りらしき場所を一本入れば、貧民らしからぬ図体をした屋敷が見えてくる。
いかつい男が門を守るその場所は、富裕地区ではおおっぴらにはできないような行為を楽しめる場所として賑わっていた。
扉を開ければ淫靡な格好をした嬢が出迎えてくれる。その場で突然盛りはじめるものもいる。とにかく、そうした場所だった。
室内は小部屋に仕切られているところもあり、大部屋では乱交とやりたい放題。
しかも、性欲を誘う香までたかれているとくれば、一応は女であるその用心棒もたまったものではなく。
「はあ、私は商品ではございません故、手を引いては……いかが?」
外套姿に刀をさげた女は、半裸の男が仕切り部屋に引き込もうとしてきたので、その手を払い、よろよろと通路に戻った。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にエズラさんが現れました。
■エズラ > 「ったく……今日は客が多くて何よりだっつーの……――」
娼館の通路に備えられた椅子に座り込み、ブツブツと呟く男。
戦場での仕事がないときには、こうして用心棒まがいのこともする。
本当ならば客として来たいところであったが――仕事は仕事。
悩ましく艶やかな嬌声を聞きながらただ待機するのは、好色な男にとって途轍もない苦痛を伴うものであったが――
「……ん」
通路に現れた異国の出で立ちをした女。
自分と同じ用心棒であったはず――
「よう、中の様子はどうだい――楽しそうだな、まったくよう」
■空木 > 空木は人間でありながら人間でなく、鬼でありながら鬼ではなく、しかし女ではあり、つまり香が効力を発揮するには十分だった。
多少ならばともかく視界もくらむ程に焚かれては、動きに機敏さがなくなる程度にはうっとおしいものであった。
用心棒は複数雇われていた。黒髪短髪の声に女は足を止め、しかしその方は見ようとしなかった。
「混ざりたくて仕方がないといった様子でございますね。
これだから、男という生き物は……」
小ばかにでもするような口調で首を振ると、けほけほ咳をしながら通路に出てきて、男の横に腰掛ける。
「あぁ、しかし、私にはこちらの香りのほうが……」
などと呟き、上気した頬を隠すように俯く。
体が熱くて仕方がない。しかもお誂え向きにこの男は強いらしい。攻撃衝動と、性衝動が交じり合い、意識が恍惚としていた。
傍目には、表情は無表情そのものであるが。
■エズラ > 「これに混ざりたくねぇという男がいるとすりゃ、そいつぁ男じゃねぇ……と思うがな」
ムフフ、と下心をいささかも隠すことなく笑みを浮かべる。
簡単に顔を合わせただけであったので、優男かもと思っていたが――その口ぶりと声音から、紛れもなく女であると知れた。
緩やかな足取りで隣に座ったその女の気配に――男は正直、戦慄していた。
「……こりゃ、驚いたな――そういう得物を使う連中にゃ何度か会ったがよ――距離を詰められるだけでここまで緊張したのは初めてだぜ」
俯く相手の表情を、そろりと盗み見る。
傍目には、この艶めかしい声の混じり合う場でよくもそこまで無表情でいられる――という風であるのだが。
漂う妖しげな――色香のような、殺気のような、そういう濃密な圧にあてられ――自ずと、身体が臨戦態勢へ。
しかし、それと同時に――下腹部に、じんわりと熱を感じ始めてもいた。
館中にただよう媚薬香は、無論、男も吸い込んでいるのだから――
■空木 > なるほど只者ではないなと、女は思った。
だからこそ、ついうっかり刀を抜きたくなるのだが、場所が場所だけに憚られる。抜けば最悪囲まれて拘束されかねないだろう。
緩やかに腰を下ろして、俯き加減に言の葉を紡ぐ。もじもじと両足を擦り、体の中央から昇ってくる熱をこらえんと、薄ら紅の引かれた唇から吐息を漏らした。
女が発したのは、殺気だった。同時に、ねっとりとした情愛染みた感情。
殺したい、つながりたい、味わいたい。文章化するならば、そうした類のものであり。
目にかかった前髪を指で梳くと、長椅子の上で足を擦り、じわじわと距離をつめる。こてんと男の肩に頭を寄せて、妖しく笑った。
「既にここは私の間合いでございます。不用意に動いてしまいますと、つい、その、斬りたくなりますので……動かれないほうがよいかと……」
いいにおいがした。すんすんと、獣のように鼻を使いながら、男の腕から胸元に寄りかかっていく。銀細工のような華奢な手が男の腿を擦る。
■エズラ > 男は身体をリラックスさせたまま、異様な気配が寄りかかってくるのを黙って感じていた。
漂う妖気は既に視覚化できるのではないかというほど濃厚なものになっており、相手も隠す気がないらしい。
「おお、こえぇ……マイったなこりゃどうも……――」
事実、抜き合い勝負となれば、まず勝ち目はないであろう――彼女の帯びる得物はそういう武器である。
営業中の娼館内で、まさか刃傷沙汰に及ぶはずなどあるまい――
そんな都合の良い常識はとうに捨て去っている。
しかし――彼女の態度は、単に己の命をのみ標的にしたものではないらしかった。
胸元へ寄り添ってくる女の身体――腿の上を滑る指。
男の筋肉がみしり、と軋む――寸毫の間があれば、相手の華奢な首へと腕を絡め、容易に頸椎を破壊せしめるはずである。
しかし、男はそれをしない――むぅん、と獣臭のごとき戦場の気配が男から立ちのぼり――と、その時。
側の部屋の扉が開いて、貴族風の出で立ちの男が現れ――相手をしていた娼婦と口付けを交わし、館を後に――
娼婦もまた、休憩室へと消えていく――
そこに残ったのは、空いた部屋と――雌雄の獣二頭。
「……なぁオイ……どうする?」
■空木 > 間合いからすれば、太刀はともかく脇差ならば十分すぎる程である。抜き、刺す。これで命を奪える。
いっそすがすがしいまでの妖気を立ち上らせながら、格好の獲物である男に擦り寄る。
立ち上る男の獣染みた体臭。かたや、牡丹の花や百合を思わせる甘い体臭。
ちゅるりと赤い舌を伸ばし男の服に染みを作りながら、女は細い首をさらけ出すように顔をひねり。
「もののけに絡まれたとお考えで……? ああ、ならばこの首を手折るとよろしいかと……できるのであれば、でございますが……」
女は、目を開けていない。開けたところで焦点の合わぬ目があるだけであるが。
本来ならば娼婦と客が使うべき部屋が、都合よく空となった。
女の返答は、しゅう、と歯から吐息を漏らし、男の首元に舌を伸ばし、痕跡をつけるということであった。
「女にそれを言わせるは無粋……そういう認識をお持ちになってはいかがでございますか……?」
挑発染みた言葉。口元を緩ませ、指を股座の布地の上で遊ばせて。
■エズラ > ここが娼館でなく、山中であったなら――きっと互いの手には、得物が握られ、あるいはどちらかが既に果てていたかもしれない。
そんな想像を容易にさせる――そんな言葉をするすると紡いでいく女。
「おいおい……物騒なこと言っちゃいけねぇ――オレがそんな乱暴者に見えたんなら、傷つくってもん――」
そこでようやく、まともに女の顔を見るが――しかし、彼女は自分を見ていない。
盲目である。
先ほどからの異様な殺気や闘わずして実力を悟らせるこの気配は、これに由来するものであろうか。
ともあれ、もはや女の手が触れるその場所は熱く硬く盛り上がり、細い指先に雄の熱を伝えている。
「――や、まったく仰せの通り――つぅことで」
これまでの緊張した気配をかき消すように男が笑みを浮かべ、おもむろに腕を伸ばし、女の腰を抱く。
警備の者や客の目がないのを確認し――流れるような足取りで、空き部屋へと女を誘うのであった――
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエズラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」から空木さんが去りました。