2017/10/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館街」にカインさんが現れました。
カイン > 深夜近くで活気に満ち始めた貧民地区の一角。
娼館や露店の立ち並ぶ一角の路地裏の壁に寄りかかり娼館の前を行き交う人々と、
その人々への呼び込みを行う娼婦たちの様子を眺めている男の姿があった。

「今日は引っかかる割合が多い事多い事。忙しさで色々溜まってた連中が多いのかねえ」

呆れたように漏らしてまた一人娼婦に連れられ娼館に入っていく人影を見て肩を竦める。
男の仕事はその路上に立つ娼婦たちの護衛、早い話が用心棒だった。
とはいえ朝方から特に仲介に入る様な事態が起きるでもなく、
退屈な時間が過ぎるまま残った女性たちも最早片手で数えるほど。
はっきり言って手持無沙汰気味でぼんやり人波を眺めている。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館街」にイーリスさんが現れました。
カイン > 「あんまり平和すぎるのも俺達の価値を下げるんで、
 適宜騒動が起きてくれた方がいいんだが」

言いながら腰の剣を軽く鳴らす。
愛用の得物を抜くような事態はここのところ全く起きた記憶が無い。
平和な証拠といえば聞こえはいいが、平和と一番縁遠いのが男の家業である。
娼婦や商人たちならいざ知らずあまりにでは商売あがったりだ。
また一人、自分の護衛対象の娼婦が客をつかまえ合図を送る様子に苦笑いが浮かぶ。

「こりゃ遠からず全員終わりそうだな。
 どっかかの店で引っ掻けてでも帰るかねえ、この近所か平民地区あたりか」

腕を組んで次を考えながらも意識の幾らかは通りに割いたまま。
やはり騒動が起きない事だけはしっかりと把握していた。

イーリス > 貧民地区の古物商との取引を終え、実入りがよかったのか、細身の男と思しき人物の表情は明るく、
賑やかな娼館街を歩んでいる。
馴染みのあるハイブラゼールの娼館街とは趣を異にするが、それはそれで面白味もあろう。

「……――と」

軽く肩に衝撃が走って、反射的にそちらへと視線を流すと、酔った男と肩がぶつかったらしい。
すまない、と声をかけるより早く、酔っ払いの罵声が聞こえて来たかと思うと、いきなり胸倉をつかまれたのは不意を突かれたと言える。

と同時に、喧嘩かと周囲がざわめき、こういう事に慣れているであろう娼婦たちの誰かが悲鳴を上げたから、
騒動の中心になってしまったことに苦く笑うしかない。
このまま軽く往なすのは簡単だったが、周りが好奇の目で見てくるから、あまり派手な立ち回りは避けるべきか。
なんだかんだと因縁をつけてくる酔っ払いを見上げながらも、顔色を変えず、はて、と思案している辺り肝は据わっている模様。

カイン > 騒動が起きたのを聞きつければ反射的に体が動いていた。
少々億劫そうな様子ではあったものの、騒動の元へとたどり着けば
どうやら客同士の喧嘩らしいことが見て取れる。
周辺の娼婦たちの反応に安心させる様に手を振って見せてから、
片手を揉め事の張本人たちの間へと割り込ませ。

「やあ、お兄さんそこまでにして置いてもらえないかね。
 ほら。皆怖がってるだろう?ここは周りの可愛い子たちに免じて収めてもらえないか」

笑顔で存外愛想よく告げながら、男の手首を下から掴み力を籠める。
万力の様とまではいかぬまでもかなりの握力を示しつつ、わざとらしく
逆の手で鍔鳴りの音を響かせて見せた。当然の様に目は笑ってない。
騒動の片割れである掴みかかった方の男にはそう告げた後に、
改めて掴みかかられている端麗な容姿の男性に視線を向け。

「そちらも、それでいいかい?」

イーリス > 酔っ払いの男はなかなか屈強な体つきをしているし、胸倉を掴む力は思いのほか強い。
このまま実力行使も吝かではないが、そうなると誰かが衛兵に通報しないとも限らなし、それこそ更に厄介事になる。
この辺りまで手配書があるとは思わないが、かといって安心はできない身の上だ。
と考えてはいたけれど、酔っ払いの腕の力は中々のもの。
うっかりしていれば、息が詰まってしまいそうだから、選択の余地はない、と思い始めたとき。
好奇と喧騒の中に響いた声に、視線が動く。
顔を向けるのは辛うじて可能だったから、そちらを向いたのと、その声の主が伸ばした手が、酔っ払いの腕を掴み、
そして酔っぱらいの指が震えて離れて行くから、

「…っ、あぁ、…勿論だ。ぶつかったのは私の方だしな、すまなかった。
それにこれ以上騒動を起こしたくはない」

息を小さく吐き、軽く頷きながら、締め上げられた喉元に手を伸ばし、軽く擦る。
そうしながら、涼やかな声で返答をすると、酔っ払いの方へと視線を向け。
酔っ払いは、掴まれている手が痛みを覚えるのか、それとも腕をつかむ男の眼差しを恐れたのか、
滑稽なほどしつこく、こくこくと相槌を打つから、これ以上の騒動は免れそうだが、どうなるか…。

カイン > 「それは良かった。それじゃあ、皆これで終わりだ。
 さあさ、仕事をするなり楽しむなりゆっくりやってくれ!
 騒がせて悪かった!」

双方から同意が取れ、お互いが離れたのを確認してからわざとらしく、
しかし解りやすく大声で声を上げて事態の解決を宣言する。
そうすれば自然と皆思い思いに行くあたり、やはりこれもまたこの場所の日常らしい。
酔っ払いを追い払いつつもさて、と一言漏らして捕まれたどう見ても素面の相手に視線を向け。

「災難だったな、大丈夫かい?この当たりじゃあまり見ない顔だが。
 良くある話といえばよくある話だがあの手の酔っ払いには事欠かなくてな、
 だからこそ俺みたいな仕事が成り立つんだが。必要そうなら傷の手当位はするぜ?」

先程と変わらぬ程度の軽い調子で声をかけながらも災難をねぎらって見せる。
今の一幕のお陰で少しは酔っ払い起ちも大人しくなった様子で、
暫く出番がなさそうと見て取ったからこそのフランクさである。

イーリス > 仲裁に入ってくれた男のお蔭で、これ以上の騒動は免れそうだ。
ハイブラゼール同様、このテの騒動は日常なのだろう、ある者は残念そうに、またある者は特段表情を変えるわけでもなく、
各々の日常へと戻っていっている。
その状況に、思わず安堵の息を吐いたものの、それとなしに周囲へと視線を馳せるのは警戒心が成せる癖のようなもの。
その視線が、仲裁に入った男へと止まり、そして視線を注ぐ。

「あぁ、ありがとう。助かったよ。あのまま騒動が大きくなると面倒だったからな。
…君はずいぶん腕が立つようだ。確かに、この辺りには君のような仕事は必要だろうが―――」

視線を向け、穏やかな声色と表情で素直に感謝の意を伝え、言葉を続けようとしたものの、
ふと問われた言葉に、喉元を擦っていた手が止まり、言葉も途切れる。
ぴりと焼け付くような痛みが走ったのは、おそらく酔っ払いの指先が伸びてきたとき、引っ掻いた痕だろう。
そこを指先でなぞったあと、

「少し引っ掻いたみたいだが…舐めておけば治る、という程度さ」

冗談めかして笑ったあとで、再び周囲に視線を馳せる。
ひと騒動のお蔭か、当分目の前の人物がその腕を見せる場面はなさそうだ。
となれば。

「良ければ、礼をさせてくれないか?酒でも奢らせてくれ」

仕事を中断させる提案をしては、首を傾けて相手を見上げ。

カイン > よく見てみればこの状況下でも中々どうして肝の据わっている様子。
油断なく周囲を警戒する余裕があるあたり荒事の心得がある風に見えるだけに、
心底泊めておいてよかったと思う。何せ刃傷沙汰にでもなれば何を言われたか知れたものではない。

「どういたしまして、と言っておこう。お前さんが本気出す前に収められてよかったよ。
 しがない用心棒を持ち上げても何も出ないぜ?」

クックと喉を鳴らした後、相手の様子に少し顎に手を当てる。
だが、続いた提案には思案の様子を見せたものの…

「それはありがたい申し出だが……っと、ちょうど俺の仕事も終わったようだ。
 行きつけの酒場があるんでそこでどうだ?手当もしてやれるだろうしな」

悦んで受けると笑って応じる視線の少し先には、
自分が護衛を引き受けていた店の最後の娼婦が男を引っ掻ける所が映っていた。
小さく手を振って頑張れ、とばかりの様子を見せる娼婦にこちらも手を振って返しながら肩を竦める。
仕事が一つ終われば気楽にもなるというもので。

イーリス > 相手を見上げた双眸が、少し驚いたように揺れる。
騒動の最中、単に仲裁に入ってくれただけかと思えば、
往なすか抜刀するか、なんて物騒なこちらの心積もりまで知れていたらしい。
驚きを覗かせた双眸は、すぐにふっと笑みを乗せたように和らぎ、

「用心棒にしておくのはもったいないと思ってな。
勿論、周りの麗しい花々を眺めるのは悪くないだろうが…」

娼館街ということもあり、まだちらほらと煌びやかな娼婦たちの姿もあるから、
この界隈での用心棒稼業の彼の仕事を認めつつも、相手に対する興味が隠せぬような言葉が零れてしまう。
そして、その麗しい花の最後の一輪がどうやら買われていったらしい。
その様を見送る相手と、娼婦とのやり取りは、こういう界隈にしてはずいぶんと微笑ましい。
くっつと小さく喉を震わせて笑ってしまうも、それはあくまでそのやり取りの微笑ましさ故に零れたもの。

「あぁ、お役御免となれば、暫し私に時間をくれるとありがたい。
実は、この辺り、あまり詳しくないんだ。ダイラスの方から来ていてな。
だから、店の方は君に一任させてくれ」

見ない顔だと先ほど言及した言葉にも応えるつもりで、言葉を発してから、
少し苦く笑って、大げさに首を竦めるような仕草をしてみせる。
このあたりの土地勘がない、ということを示すような仕草であり、
相手の行きつけの店へと向かうつもりで、彼の歩みを待つように視線をむけたまま。
相手が歩みだせば、その半歩後ろを、君はこの辺りは詳しいのか、などと問いかけながら、歩みを進め。

カイン > 「ま、仕事柄荒事に対して一度巻き込まれたら敏感になるのは良く分るがね。
 ここら辺は中々厄介な奴らが多いので思いとどまってくれてよかったよ」

粗っぽいのから権力に傘来たのまでこの周辺はややこしい奴らの根城である。
いなすのは難しくは無い者の面倒であると肩を竦めながらに言い返しつつも、
相手の反応に少しだけ驚いた様子を見せる。それこそ周りの声をかけた方が楽しかろうに、
随分と物好きな物だと言った様子をあまり隠す様子もない。

「ああ、どうりで見ない顔だと思った。それじゃあぜひご相伴にあずかろうかね。
 しかし向こうでもよくある騒動だろうからな、動じないのも納得だ」

相手の胆力の理由に思い至って感心した様子を見せつつ、
少し二人して歩けば小さな宿付きの酒場の中へと相手を伴って入ってゆく。
そのままカウンターに陣取って酒と薬を頼んでから相手に席を勧め。

「一通り酒は何でもあると思うが、ダイラスの人間って事は強い方が好みな口かい?」

よく港町では強い酒が好まれることを思い出しながら相手はどうなのかと興味深そうに眺め見る。
酒に極端に強いようには見えないが、人は見かけによらない、はそれこそ誰よりもよく知っているつもりだ。

イーリス > ハイブラゼールなら、喧嘩や騒動云々加減も解ってはいるが、
王都に関しての知識も、この辺りのルールも良くは理解していない。
むしろ、こちらとしても、相手が仲裁に入ってくれたのは運がよかったというべきだろう。

「仲裁に入ってくれた君の腕を見込んでのことさ。
…まぁ、ハイブラゼールも日常茶飯事ではあるな。そういう意味じゃ、どこも変わらんな」

通りを歩みながら、やはりハイブラゼールとは趣を異にする娼館街に、時折目を細めつつ、微苦笑を浮かべる。
ハイブラゼールなら、まず自分に手を出す酔狂な人間はいないから、騒動に巻き込まれることは少ないが、
とはいえ、歓楽街ならばどこも先ほどの一件のような騒動は付き物だろう。
土地勘はないが、相手が案内してくれた店も、歓楽街では良く見かける店だったし、
初めて入るが、だからと言って気取ることもない店だった。
相手の隣へと腰を下ろし、カウンターの向こうに並ぶボトルを眺めながら、

「よく言うだろ、酒は水になるが、水は酒にならない。だから、酒は強い方がいい。
……でもせっかくだ、ダイラスじゃ飲めないモノを貰おうか」

並ぶボトルには見慣れる物も多いから、カウンターの向こうの店主に、強めのやつ、と合わせて注文をする。
酒が運ばれるまで、片腕をカウンターに預け、身体を相手の方へと向け、こちらはこちらで興味深げな眼差しを向けながら、
思い出したように、あぁ、と吐息に混ぜた声を零し、

「そういえば、君の名を聞いてもいいか?私はイーリス、ダイラスで船に乗っている」

そう名前を告げ、決して嘘ではないが、事実と言われると少々語弊があるような生業を告げ。

カイン > 随分と買ってくれてる様子に思わず目を瞬かせた後、喉を鳴らして応じる。
どうにも面はゆい心境になりながらも肩を揺らすだけに留め。

「ガラの悪い場所であれば、な。それこそお上品な区画に行くと色々変わるんだろうがね」

正直さして縁があるとは言えない富裕地区辺りを指して告げながら、
目を細める。正味の話あまりそちらもこの街の場合決して治安がいいとは言い切れないのだが。
馴染みの店だけあってある程度融通は利かせて店主に感謝しつつも、薬と包帯を酒と共に受け取りながらも、
隣から聞こえてきた言葉の数々に思わず少しあきれた色が混ざる。
解りやすい船乗りの理屈ではあるのだが、何時聞いても自分はそこまでなじめる気がしない。

「いつも思うがそれで良くお前さんたちは体が持つな。
 別に避けに弱いとは自分自身思わんがそこまで強い酒ばかりだと、
 胸やけ起こす自信があるぞ」

少しあきれた調子を隠さず返しながら運ばれてきたグラスを手に取り、
相手の言葉にああと頷き。

「確かに、折角だ。乾杯の前に名乗っておこう、俺はカイン。
 しがない傭兵だ、向こうにもちょくちょく足を運んでいるからな、
 顔を合わせたらよろしく頼む――ン?イーリス…?
 はて。なるほど、どうりで端正な顔立ちをしてると思った」

どこからどう聞いても女性の名前である。自分の勘違いに今更ながらに気が付いて少しバツが悪そうにそれだけ告げ。

イーリス > 興味深げに注ぐ視線に、相手の様子を眺めれば、やや大げさに首を竦めて見せた。

「これはフラれたかな。船乗りへのスカウト失敗か」

彼の腕を見込んで、船乗りへの勧誘を目論んでいたものの、どうやら成功の見込みは少ないらしい。
とはいえ、彼の腕を賛辞した言葉は事実であったが、その勧誘の心算が本気だったかというと怪しいところだが。
薬と包帯、そして酒とが運ばれてくると、酒の入ったグラスを引き寄せ、

「はは、そうか。酒は溺れるまで飲むからこそ酒なんだが。
だったら、君への礼は酒より花代の方がよかったか」

相手の表情を見れば、遠慮なしに笑ってしまう。
何しろ船に積み込む生水はさほどもつわけでもないから、水分補給としても酒は有効だ。
となれば、そういう体質になるし、一方で真っ当な人間なら、彼が浮かべる表情も、
そして素直な感想も理解できたから、笑みを浮かべたまま相槌を返し、
礼としては不十分だったことを詫びるような、からかうような素振りで。

「あぁ、よろしく、カイン。
ダイラスはいいぞ、海が近いし、ハイブラゼールもある。向こうで逢えるのも楽しみにしているよ。
………はは、カイン、すまないな、そういう顔をさせるつもりはなかったんだが」

乾杯のため、グラスを掲げ、そちらへと向けようとしたものの。
名を告げたことで相手が察したらしいことはその表情からも見て取れた。
騙すつもりはなかった、とストレートな言い方はしなかったが、その意から遠くない言葉を続けたのち、
微苦笑浮かべて、酒の入るグラスを傾け、相手のそれと合わせよう。

カイン > 「昔船乗りの用心棒をやったことがあるが、2年船の上だった時に流石に懲りたね。
 外洋調査だけはもう二度と御免だ」

少し視線を遠のかせて言いながら、緩く息を吐く。
逆にそこまでの遠征でなければどうという程もないのだが、
長い船旅にはあまりいい思い出が無いのも実際の所である。

「陸地で生活してる分には程々の酒の方が都合がいいさ。
 だからその程度、に収めてくっれば十分礼になるとも」

ニッと笑って言い返しながらもグラスを相手に差し向ければ、
いけしゃあしゃあと言い放つ。酒が好きであるというのは確かな様子ではある。
それなりに海上の人間との付き合いもあるだけになれたものではある。
どこか楽し気に喉を鳴らして、甲高いグラスの鳴る音を聞けば口元にグラスを引き戻して一口飲み。

「いいや、むしろそれならそれで別の楽しみがあるさ。
 例えばそう、ここでいかに美人のお嬢さんを口説き落とそうかとかな?」

気にするなと言い放った直後に語る言葉はッ同にも遠慮の無い者。
クックと喉を鳴らすまま相手の反応を伺うようにグラスを煽りながら視線を向け。

イーリス > 「いよいよもって取りつく島がないな、それは」

相手の言葉とその表情とに、小さく肩が震えて笑いを堪え。
懲りたという彼に、海賊船の用心棒はどうだ、などさすがに言い難いし、その様子からして、返事は見えている。
だから、それ以上の言葉は続けぬまでも、よほどの船旅だったと思えて、くつくつと笑いが零れてしまう。

「そういってくれるなら助かる。さぁ、好きなだけ飲んでくれ。気兼ねなく、な」

朗らかな声色で酒を勧めるのは、実入りがよく懐が温かいのも理由であり、
こちらもダイラスにはない酒を楽しめるとなれば、機嫌もいい。
小気味いいグラスの音を響かせたのち、口許へと運び、くい、と一気に呷るように半ばほど空になる。
酒を楽しむ、という言葉を知らないかのような飲みっぷりだが、ふぅ、と息を吐き、鼻孔に抜ける酒精に目を細め、
満足そうな表情が浮かぶのは、王都で飲むこの酒も十分に舌を楽しませたからだった。
一旦グラスを置き、相手へと向き直ると、一瞬目が瞬く。
が、すぐに、はっと笑っては、

「日々、娼館街の麗しい女性たちを見ているのに、こんな私に対して、食指が働くのかい?
だとしたら………」

男装の女など、この界隈には珍しいのかもしれないし、酔狂な言葉遊びのひとつかもしれなかったが、
言葉を区切り、ふと相手を眺めている双眸を細めたのち。

「この辺りの口説き文句とやらを聞いてみたいものだ。
遊びだとしても…君の言葉を聞いてみたい気はするね」

頬を染めるわけでもなく、素直な感情を言葉にして発すれば、すっと手を上げ。
戯れか、それともその言葉を促すつもりか、相手の頬に触れようと伸びて行く。

カイン > 「それほど長くいかないのであれば、今も海洋の用心棒流行ってるんだがね。
 寄港が多いに越したことは無いな」

もう40年以上昔の事だ。懐かしさが先に立って少しだけ苦笑いしつつも、
相手の言葉を聞けばゆっくりと頷いて見せる。
とはいえ馴染みの酒を注文しがてら、相手の方を軽く見れば
面喰ったような表情を浮かべている様子。
気を良くして酒をグイッと煽り、喉を焼く強いアルコールの味に文字通り酔いしれる。
少しづつ全身に回ってくる酒気をその身に受けてゆるりと目を細め。

「美人を目の前にして口説かないのは男が廃るってものだろう?」

そういい返した所で頬に徐に触れる指。今度はこちらが面喰う番だった。
目を緩く瞬かせながら、促してくるかのような様子に少し喉を鳴らして頬に触れた手の上から自分の手を軽く重ねて見せ。

「そうさな……折角イーリスに伸ばしてもらった手だ、
 暫く離さずにおきたいんだがいいかい?」

勿論今触れている手の事だけではなく、この出会いの事を指してではある。
抵抗されなければそのまま指を絡め取って握ってしまおうと指を動かし。

イーリス > 「長くはかからんさ。…そうだな、「仕事」自体は一夜で終わる。
まぁ、その「仕事」を見つけるまで、少々骨が折れるが。
陸に飽きたら、ダイラスに来るといい。君なら、この街の報酬の3倍出してもいい」

相手の口振りからして、どうしてもだめ、というわけでもない色がわかれば、
「仕事」の内容は伏せるにしても、実入りのいい仕事で、それこそ懐にも温かいことをアピールするあたり、
腕の立つ彼のスカウトは諦めていないことが知れる。

「美人かどうかは別にしても、………そうだな、男としてはそうあるべき、だな」

一般論としての同意を示してみるが、女としても男としても中途半端な己の現状、それが正しいかどうかはわからない。
だが、少なくとも、今はそれが正しいと思いたいし、その先の言葉にも興味があった。
だが、今度は相手が驚いた表情をするから、ふっと息を吐くようにすると、
琥珀色の眼差しが少しばかり悪戯げに細まり、口許も弧を描く。

「勿論だ。
あの酔っ払いを往なした手だから、どれだけかと思えば…ずいぶん優しいな」

頬へと伸ばした指先は、少しひんやりはしているが、女のそれと同じく柔らかく撫ぜて。
己のそれとは違う男らしい手が触れると、少しばかり意外そうに口にして。
指を絡めることを厭うことはせず、指の腹が相手の指をそっと撫ぜる。

カイン > 「そういう仕事なら歓迎だ。流石に、食料が尽きる様な航海でなければ、
 別段海が嫌いって訳でもないのでね」

楽しみにしておくと笑って応じながら、自分のセリフに対してどこか
葛藤のようなものを滲ませる相手の様子に少しだけ違和感を覚える。
さてどうしたものかと考えた直後に悪戯めいた表情が浮かべば、
ひとまずは考えないようにして絡めた指の感触を楽しむ事にする。
そのまま、軽く手を引いてグラスを置いてから相手の肩を軽く抱いて体を抱き寄せようと手に力が籠り。

「それは良かった。基本的に女には優しくするのが信条でね。
 ああ、ベッドの上で迄は保証できかねるが。何だったら試してみるかい?」

セクハラじみたセリフを事もなげに言い放ち、指の感触にくすぐったげに身をよじると、
お返しとばかりに指に力を込めて見せ、左右に振ってみせるのだった。

イーリス > 思わぬ承諾に、表情が柔らかくなる。
こうしてダメでもスカウトしてみるものだ、この腕の立つ用心棒が船に乗ってくれれば、
目下海賊行為の取り締まりに勤しむ海軍やらどこぞの貴族が私費で雇う私掠船団と鉢合わせてたとしても、
少なくとも今までよりは、白兵戦が有利になろう。
彼の腕前がどれほどかは計り知れないが、先ほどの一件で一端を見たから、そう確信さえしたものだ。
だから、歓迎する、と大きく頷き、彼が気まぐれでも起こしてダイラスに来てくれることを願いつつ。

ひんやりとする指先に伝わる相手の体温と感触が心地よいのか、
指の腹は相変わらずその肌を撫ぜている。
が、その動きは、手を引かれたことで止まり、今まで戯れめいた余裕を見せていたものの、
肩を抱かれた拍子に、少しばかり緊張が走ったように僅かに身体が強張った。

「私も、それは見習わないとな。女性には優しくすべきだというのは。
………こうして優しい仕草をする癖に…ベッドでは違うとか、まったく………試してみたい、と言ったら君はどうする?」

この風体である、少なくとも相手が言うような振る舞いは必要だと理解して頷いたあと、
逡巡するような間と共に、緩く息を吐きながら相手を見つめながら、
指から伝わるその体温と仕草とに言及するように、人差し指の腹がトントン、と撫で叩き。
そして、告げた言葉は疑問符が付くように語尾を上げはしたが、まっすぐに見つめる眼差しは、相手の問いに肯定をするもの。
ではあったが、その後で、羞恥を覚えたのか、ふと視線を逸らし、代わりにその手をきゅっと強く握って。

カイン > 「随分と物好きなもんだと思うが、声をかけてもらったからには報いないとな」

そういう義理も感じはするものである。人としてはそう珍しくもない話ではあるだろうが、
魔族としては変わり者の自覚は一応ある。それだけに、
事実を確認するよう口に出しておいて相手の体温を覚えるようにゆっくり目を閉じた。
時間を作ってダイラスを訪れてみようと意を決めつつ、
手の内にある柔らかな感触を確かめるように指に少し力を籠め。

「何、俺の場合は下心もあるからな。男と女で同じように、
 とやるのは色々と難しいんじゃないかい?……どうする、か。
 そうさな…」

言葉と共に店主の方に目くばせれば、店主から放り投げられる鍵。
金属の柄の部分に刻印された部屋の番号を確認すれば、
強く握り返してくる指に自分からも力を込めて返した後にするりと指を解き。

「それじゃあ、ちょっと失礼するぞ…っと」

そのまま立ち上がったかと思えばその直後、相手の体をお姫様抱っこの形で抱え上げてしまおうと手が動く。

「それじゃあお嬢さん、エスコートしますよ…ってね」

顔の位置が近づいたのを良い事にその額に口付を落して見せながら、
笑みを含んだ声でそう告げながら階段に向かって歩を進め始めるのだった。

イーリス > 「あぁ、物好きだ。…だが、物好きだから、こうして…」

触れることもできていることを思えば、物好きに感謝、ではある。
ふっと呼気を吐くように柔らかく笑ったものの、孕んでいた緊張を解いて、その身を預け。

「下心、か。…まぁ、善意に対する正当な報酬を要求するのは悪くない」

下心、との言葉は、強欲な海賊らしい解釈にのっとれば、わるくないらしく、
相手の言葉を当然のように聞きいれて同意を示すように頷く。

そうしたとき、微かな金属音が響き、視線が店主、そして相手の手元へと彷徨い。
指が離れて行くと、ふと表情が曇り、彷徨った視線がその指を追うのは、離したくなかった、という意味合いを含むもの。
だが、それを素直に追い、口に出せるほど「女」ではなかったから、すぐに曇った表情も消えて。

「…え?」

だが、何か言葉を発するより早く、膝裏と背へとに腕が回って、まさか、と目を見開いたのと、
ふわりと身体が浮き上がったのは同時。

「カインっ、待………っ!」

突然のことに、両脚がバタつき、彼を信用していないわけではないが、
落ちるのでは、という恐怖も手伝って、咄嗟に両腕を相手の項へと回してしがみ付いてしまう。
よもやこのような状況になろうとは思わぬ事態に拍車をかけるように、額に触れた唇の感触に、さすがに動揺が隠せず。

「…これがここらの口説き方か?それとも君流か?…どっちにしろ、こういうのは…」

恥ずかしい、そう思うぐらい、まだ己の中に「女」の部分があると思うと、余計気恥ずかしい。
それにこういう行為を厭わずにいる自分もやはりまだ「女」だと認識した。
とはいえ、間近で相手を見るのは聊か羞恥が強いから、相手の肩口へと顔を埋めて、ただ相手の体温を、鼓動を感じるだけにして。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館街」からカインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/娼館街」からイーリスさんが去りました。
ご案内:「貧民地区(職人通り)」にサヤさんが現れました。
ご案内:「貧民地区(職人通り)」にグスタフさんが現れました。
グスタフ > 男の影が通りから現れて、女の背後へとすり寄り……。
二人は通りの影へ消えていった。

ご案内:「貧民地区(職人通り)」からグスタフさんが去りました。
ご案内:「貧民地区(職人通り)」からサヤさんが去りました。