2017/03/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にコーデルさんが現れました。
コーデル > 小さな酒場は夜が更けてもそれなりに盛況な様子。
旨くはないが格別安い酒を出すため貧しい身なりの者たちの姿も散見されている。

「どうぞお飲みなさい。謂れなき苦難に晒された者には、今日の安息を得て、明日からの誠実な信仰が認められます…。ああ店主さん、もう一杯エールをこの方へ…」

そんな荒くれ者たちの中に立つ物々しい雰囲気に、似つかわしくない姿がある。
仕立てこそいいが質素な身なりの神父姿のコーデルが柔和な笑みを浮かべて語り掛ける相手は、古傷の多い痩せた男たちだ。
先ほどからコーデルは全く酒を飲んでおらず素面だったが、店主も注文自体は受けているので文句は言えない。
そうしてまた渡されたジョッキを、コーデルは流れるように傍に座る男の前に置いた。
そうやって頼んだ端から酒のジョッキを傍にいる者に渡して説法を始める変わり者の神父を見て、そのテーブルの周囲に小さな人だかりができ始めていた。

コーデル > 「ええ、明日の正しき信仰のため、皆さんの苦難をどうか僕にお聞かせください」

やがて人だかりに酒が入る頃を見計らい、少し話の流れを変えるコーデル。
特に治安が悪いとされる貧民地区にわざわざ来たのも、虐げられている者がより多いと考えられるからである。
すぐさま上がる様々な行政への不満の一つ一つに対して、説法で答えていくうち、神聖都市への批判を口にした者を聞きとがめたコーデルの目つきが変わる。

「……それは嘆かわしい話です、信仰に身を捧げる者にも、道を誤る者がいるのですね」

神父の姿をしている以上、自身もまたその怒りの対象である可能性を考え、コーデルはまずはその寄付を着服する汚職紛いのやり口を嫌っている男の言葉に同調した。
それで少し面食らった男に、続けるようコーデルは笑みを浮かべながら促していく。

コーデル > 「確かに、ノーシス主教の教えに背きかねない行いを為す者もいます…しかし、彼らとて元は教えに従い信仰を道を進んだ者たちなのです」

やがて周りに立つ者たちも頑なに神聖都市の聖職者たちへの批判と攻撃を止めない男と、泰然とそれを受け止めるコーデルのやり取りに注目し始める。
怒りに打ち震える男に悲し気に目を伏せるコーデルは決して言葉を荒げない。
しかし周りの喧噪に負けないはっきりとした声で語る言葉には、真摯ささえ滲むような口ぶりだった。
その落ち着いた態度に、興奮して席を立った男も怒りのやり場をなくして毒気を抜かれたようにその場に座ると、コーデルは笑みを絶やさず鷹揚に頷く。

「貴方や僕のように考え、正しく教えを説き、真なる信仰に目覚めた者がかの都市に推挙されたこともあります。ただ己の心ばかりをささくれさせるよりも、誤った者たちに正しい道を示すことが双方のためになるとは考えられませんか?」

再び、男の考えを全肯定するコーデルは一歩踏み出しながら笑顔で手を差し出していく。
それに、ばつの悪そうな態度を見せる男が言いづらそうに騙る内容は、その身なりと古傷からコーデルが大方察していた通り、脛に傷持つ者であるということ。
それを聞いたコーデルはゆっくりと首を横に振る。

「生まれや罪がなんだというのです。苦しみや罪を知った者は、誘惑とその後の苦しみを誰よりも理解しています……今一度、清廉な生き方を選んでみませんか?」

―――同時に、罪の悦びを知るからこそもう一度堕ちやすい。
穏やかな光を灯す瞳の奥底でわずかに燻る思考を完全に押し隠した笑顔でコーデルは問い掛ける。