2017/01/16 のログ
■エルフリーデ > 九頭竜山脈にいるという友人の元を訪ね、事の顛末を聞き、そして馬車に揺られて王都へと戻っていく。
車中に思ったのは、自分の中に根付き続けた悔しさに蹴りがつかなかった事。
貴方を超えること、貴方ではなく私が賞賛されるべき者だと示すこと。
ずっと二番手という影に包まれたままではない、輝かしい栄光に選ばれるべきだと。
何時かと言われた手合わせに歯がゆい思いをしつつ、馬車を降りると、あまり勝手の分からない王都の道を歩いていると、ひと気の少ない場所へとたどり着いてしまう。
薄暗いし、嫌な匂いはするし、何より見窄らしい存在がやたらと目に映る。
「……ここに来てからと言うもの、何処も彼処も汚れた場所ばかりですこと」
眉をひそめ愚痴をこぼすと、嫌気が差したように溜息も溢れる。
カツカツと、黒いブーツの音を響かせながら派手な色合いの服装で、貧民地区を闊歩する姿は異様に目立つのも気に留めない。
何やら気配が徐々にこちらを囲おうとするのだけは分かると、されるがままは癪だと包囲網の穴の方へ向けて歩き出す。
金髪が夜闇に揺れ、場の空気に馴染まぬ甘い香りを漂わせながら只管に歩き続けた。
こちらを見るや顔を背け、ぼそぼそと何かを呟く汚れた格好の男。
整った顔立ちに皺を寄せて、小さく舌打ちをこぼす。
なんなの、ここは!? 心の中で呟きながら、纏わりつくような気配を振り払おうと進む。
■エルフリーデ > そもそも、慣れぬ場所でこんな裏路地へと迷いこんだのが全ての過ちだったのかもしれない。
何気なく進んでいく道の先が、埃が沈みきらぬ状態でガラクタの山に埋もれていたり、通るの躊躇わせる様に糞尿がぶちまけられているところすらあった。
フラストレーションがいっぱいに顔へ浮かび、こめかみがピクピクと動いてしまう。
「なんですの…っ、汚れてるとはいいましたけども、汚物に塗れてるなんて、人として恥ずべき感情すらないのかしら…っ」
まさか彼処でやらかしたとは思えないものの、そんなものを平然とぶちまけられる神経を疑う。
怒りに満ちた気配は、そこらで寒さに震えていた乞食にも伝わるらしい。
こちらを見るや、スッと壁際に身を寄せて道を開けていく。
フンと不機嫌顔で鼻を鳴らしながら歩き続けると、たどり着いたのは袋小路になった開けた場所だった。
空には月夜、周囲は密集した建物で囲われ、取り残された場所が空き地となって存在していると見える。
行き止まりかとがっくり肩を落とすと踵を返すが、そこらの物陰や、来た道から剣やら斧やら手にした男達がぞろぞろと姿を現す。
「……先程から、嫌にへばりつく気配があると思っていましたの。でも、これで納得ですわ」
これが正体だろう。
何度目になるかわからない溜息を吐き出すと、男達の一人が刃の切っ先を向けて叫ぶ。
おとなしくしろ、命までは奪われたくないだろ? と。
その言葉に、口を閉ざしながら俯くと、ゆっくりと沸き立つように笑い声を上げながら顔を上げる。
青い瞳には、道化でも見たかの様な愉快そうな笑みを拵えていた。
「ふふふっ……失礼。あまりにも身の程知らずな事を仰るものですから、可笑しくて可笑しくて…」
物怖じせず、男達を小馬鹿にする言葉に笑い声。
それに青筋浮かべそうなほど怒りを露わにした一人が、切っ先を向けたまま、自分へと近づいてくるのが見える。
その場から動くこともない、ただ嘲るような笑みを浮かべるばかりだ。
■エルフリーデ > ふざけるな、今すぐ裸に剥いて犯してやると叫びながら近づく男。
切っ先を向けたまま至近距離へと詰め寄れば、男は反対の手を突き出して胸ぐらをつかもうとする。
その瞬間、こちらから一歩前へ踏み出しつつ、彼の側面に回り込むと、剣を持つ手を両手で掴んだ。
そしてそのまま、手を突き出そうとして捻れた身体の動きに合わせ、足を引っ掛けてバランスを崩してやれば、大きな体躯がダンッと派手に地面へ激突する。
「良い夢を」
皮肉めいた言葉を微笑みとともに紡ぐと、ブーツの踵で男の顔を無遠慮に踏みつける。
ぐしゃっと危険な音が響くとともに、男の体は痙攣しつつ、鮮血が地面を汚した。
その体に足を引っ掛けて、ぐっと蹴り転がすと細い道の方へ向かって歩き出す。
そこには男が数名、今の動きに警戒しながらも、反撃せんとギラついた視線を向けていた。
「邪魔ですわ、どいてくださるかしら?」
囲まれていると思っていないような言葉に、男達の堪忍袋の緒が切れる。
ふざけるなと叫ぶと、一斉に彼等が自分へと武器を振りかざして突撃を開始。
数は合わせて6人、流石に同時に相手するには無理な数だが、素早くバックステップして下がると、腰から下げたホルスターから二丁の魔法銃を引き抜いた。
淡い青色を宿した銃身を持つ拳銃型のそれは、その下に刃を拵え、近距離での戦いを念頭に置いた作りを見せる。
トリガーを引き絞ると、銃口から魔法陣が広がり、交互の射撃で氷の散弾が撒き散らされていく。
固い礫が男達の身体を打ちのめすと、手近に居た二人がその破壊力と衝撃で後ろへよろめき、倒れる。
ザラザラと周囲に氷の礫が転がると、貴様ぁっ!と叫びながら尚突撃する男へ、膝に向けて二発の魔法弾を放った。
バシバシッと強い衝撃で膝を崩し、前のめりになったところへボレーキックのお出迎えを放つ。
短いスカートが大きく広がりながら、振りぬかれた白い美脚の甲が男の鼻下を叩きつける。
ゴシャッと鈍い音を響かせると、一回転と同時に男の体は横に流れ、地面を跳ねて卒倒した。
あっという間に半分を叩きのめされた現実に、突撃しようとしていた男達の足が止まる。
「まったく……わたくしは、邪魔といいましたわ。言葉がわからないわけではないでしょう? 邪魔ですわ、どきなさい」
改めて道を開けるように命じる。
その合間も手には銃が握られ、一歩ずつ細い路地の方へと向かっていく。
■エルフリーデ > 残った三人も、あっという間のことに戦意を喪失したようにみえる。
近づくこちらに怖じ気ついたか、後ろへとたじろぐ。
勿論こちらは歩みを止めない、カツカツと響く足音は規則正しく、乱れを知らない。
ぐっと唇を噛み締めた男達は、道を開け、開けた進路を満足げな笑みを浮かべて、エルフリーデは抜けていく。
しかし、それは男達にとっても最後の賭けだ。
背中を向け、最後の一人の脇を通り抜けた瞬間、男が彼女を切りつけようと右腕を振り上げる。
「はっ…!」
後ろ回し蹴りの要領で、白い足が鞭のようにしなりながら振り抜かれる。
右足が振り上げた腕を蹴りつけ、武器を叩き落とすと、もう一度足を引き寄せて首筋めがけて振り抜いた。
蹴りつけられた痛みに、腕が下がったことで無防備になる首。
そこへ踵を叩きつけると、もう一度足を引き寄せる。
今度は飛び跳ねるようにしながら足を振り抜くが、膝の裏あたりを相手の首筋に叩きつけ、ぐんと足を曲げた。
足を絡みつかせるようにしつつ、一瞬空中で静止すると、身体を捻転させて一気に地面へと引き倒す。
臀部が間近に見えたのに、男が気づけたは分からないが、そのまま地面に頭を打ち付けられた男は泡を吹いて卒倒していた。
「まったく……そちらのお二人、背中を狙おうとしても無駄な事でしてよ? それでも狙うなら、今度は頚椎を折られることを覚悟なさい」
投げられた男も、本気で叩きつけられていたら、頭蓋骨を砕かれ、その破片が脳に突き刺さって即死だろう。
殺さぬ程度の加減をしての結果、それでも十分な脅しになる。
遠ざかる彼女の背中に、再び危機は訪れることはなく……今宵は静かに夜を終えるのだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からエルフリーデさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 路地裏」にユークリッドさんが現れました。
■ユークリッド > 少年は一人、暗闇の蟠る路地を歩いていた。
その右手には、淡い光を放つ丸い石――所謂貴重な魔法鉱石の類。
昨夜、どうにか無名遺跡で手に入れてきた鉱石は、しかしそのままでは使えない様子で。
加工できる者が貧民地区にいると聞き、早速やってきた次第である。
「……むぅ、どこにいるのかわかりませんね……」
少年は溜息をつくと、困り顔で道を進む。
進めば進むほど迷ってしまいそうな、猥雑で細い通りを。
線の細い姿に、高価な鉱石を携えた少年に、未だ警戒の様子は見えない。
その様子は、すりやごろつきの多い貧民地区では、格好の獲物となるだろう。
■ユークリッド > きょろきょろと周囲を見回しながら、歩き続ける。
未だに、少年が目当てとしている店にたどり着く気配はない。
むしろ、多くなってくるのは如何わしい店の数々。
かすかに聞こえる嬌声を振り払うように、少年は歩みを速めた。
しかし、意識と足の動きはわずかにずれていた様で、己の右足に躓いてしまうと。
「――わ、ぁっ!?」
思い切り目の前につんのめり、勢いよく転んでしまう。
刹那、手に持っていた鉱石は、少年の目の前にかつん、と転がり出てしまう。
かつん、かつん。転がり出でて、そのきらめきを、確かに周囲に晒していた。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 路地裏」にエルフリーデさんが現れました。
■エルフリーデ > 昨晩の乱闘とはまた違う場所、同じなのは如何わしい雰囲気があふれるのと、何処か薄暗い気配が漂うことだろうか。
ブーツの小気味いい足音を響かせながら路地裏を歩いているが、何処に向かっているという目的はない。
ただの迷子である。
それでも、迷子であると認めたくないムダに高いプライドが、出口を求めて右往左往させて、余計に迷っているようにも思えた。
「まったくこの国は……ケダモノしかいらっしゃらないのかしら…」
娼館の裏にいるのだろうか、時折聞こえる如何わしい悲鳴に少しだけ頬を赤らめながら、不機嫌そうに文句を吐き出して表情と心を誤魔化す。
早くここから抜け出したいと溜息を零しつつ、視線が地面へと向かうと……光る何かが転がり込んでくる。
「あら…こんなところで落としたら、悪漢共に奪われるわよ?」
しゃがみ込み、転がった鉱石を拾い上げると、転げた彼の方へも近づいていく。
見たところ少女のように見えるも、何故男の制服などに袖を通しているのかが分からず、少し訝しむ表情が浮かんだ。
それよりも、こんなところで無防備な姿を女が晒そうものなら格好の餌だろう。
「貴方も早くお立ちになって。 こんなところで寝そべってたら、悪い輩が寄ってきますわ」
苦笑いを浮かべつつ片手を差し出して、手を貸そうとする。
立ち上がったなら、彼に拾った鉱石を差し出し、彼の手へ戻すだろう。
■ユークリッド > 地面に突っ伏す少年。強かに打ち付けたのは、膝と鼻。
びたん、と大きな音を立てたからか、僅かに注目が集まるのを感じる。
慌てて起き上がろうとするのだが、打ち付けた膝に力が入らず、上手く体を起こせなかった。
つん、と目元に涙が滲む感覚。目の前がぼやけて、痛みがより鮮明に感じられて――。
しかしそれは、綺麗な声に遮られた。
ふと、顔を上げれば、そこには一人の少女が立っていた。
綺麗な金の髪に、宝石のような青い瞳――一瞬で目を奪われた。
その嫋やかな手には、己が取り落としたであろう石が、確かに握られている。
涙目の少年は、涙を拭く事も忘れてしまうと、ぽかん、と見とれたその後で。
「あ、えと……ありがとう、ございます……」
恥ずかしそうに、その手を借りて立ち上がる。
痛みでよろけそうになるが、そこは男の痩せ我慢。歯を食いしばって、まっすぐに立つ。
そして、鉱石を返されると、彼女の言葉に促されて、慌てて懐へとしまい込んだ
「……その、本当にありがとう。お陰で助かりました」
やがて、少女めいた少年は、満面の笑みを彼女に向ける。
わずかに照れの混じった、にこやかな笑顔を。
■エルフリーデ > 「……? 大事ないかしら?」
こちらをぼんやりとした様子で見やる彼の様子に、苦笑いを浮かべて問いかける。
結構派手な転び方をしていたようなので、頭を打ってフラフラになっていないだろうかと思うものの、言葉には確りと返事が返り、良かったというように微笑んだ。
「どういたしまして。ふふっ、そんなにお礼を言われるようなことではないわ?」
見た目はどうみても同性のそれと違いないように見えるものの、少し彼の声の音に違和感を覚える。
それも錯覚のように思える小さなもの故に、あまり深くは意識することもなかった。
「こんなところに何かご用事? 貴方みたいな娘が一人で歩くには危ないわよ? ―――と、いいましても、わたくしも人のことをいえた義理ではないわね」
見ての通り、一人で歩き回っていると困ったように笑みを浮かべると、軽く辺りを見渡した。
やはり道に覚えがないところばかりで、変わらぬ表情で言葉を続ける。
「少々夜の散歩に出たら、どうやらここへ迷い込んでしまったようですの。貴方はここらの道はご存知?」
言葉を交わしたついでにと、彼女へ道を問うことに。