2016/12/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」にノアさんが現れました。
ノア > 王都マグメール、貧民地区。昼間とは云え喧騒の絶えないこのスラム地区を、コツコツと細いヒールを鳴らしながら歩く。

其の足取りに迷いはなく、目的の場所へ向かって真っ直ぐ進んでいて。やがて煉瓦造りの小さな建物が見えると、扉をほんの少しだけ開け.. 誰も居ない事を確認してから、そっと中に入った。

「 ............... 」

地下の拳闘場で闇試合が行われるのは夜。読み通り、ファイトマネー目当てに参加する者も 賭けに興じる客も、集まるのは夜だけのようで.. 参加者のウォームアップ用に吊るされたサンドバッグは、公共の修練場を利用出来ない女にとって格好の練習相手。そして何より、無人の空間でなら "へなちょこフォーム" を見られ笑われる心配も無い。

ローブを脱ぎ近くのテーブルに放り投げると、拳に布を巻き付けた。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」にフォークさんが現れました。
フォーク > 「娘よ、力が欲しいかっ!?」

地下の空間に響く勇ましい声。
声の主はどこにいるのか!?
それは……。

「ぬううううりゃああ!」

女がこれから叩こうとしているサンドバックを内側から引き裂いての登場である。
どうやら女が剣闘場の地下に降りていくのを見てから、先回りをしたのだ。
急いでサンドバッグに潜り込んだので、女から見えない部分は男の背中がモロ見えだったのだが、どうやらバレなかったようだ。
護身術を教えると約束した。
だから、闘技場のスーパースター『ザ・バーバリアン』として参上したのである。

「お前がノアだな? 俺様がお前に戦う力を授けてやるぜ!」

闘技場のヒールさながらの派手な動きだった。

ノア > 両拳に布を巻き終え、よし と小さく口にした其の時だった ──

「 .....っ、は.. ? 何 ? 」

無人だと思っていた空間に響く、自分以外の何者かの声。咄嗟にファイティングポーズ取りながら、きょろきょろと辺り見渡せば..

「 ゃ......... 変態っ !! 」

完璧なパフォーマンスと共に登場したファイター "ザ・バーバリアン" の問い掛けの中で自分の名を呼ばれれば、瞬時に変態認定。からの、無意識に繰り出した右ストレート。しかしながら体重も上手く掛けられていない、せいぜい猫パンチ程度の拳が届くかどうか..

フォーク > ザ・バーバリアンの突然の登場に女が驚く。

(くっ、思ったより俺は知名度が低いんだな!)

変態と呼ばれたことより知られていなかったことの方が堪えたようだ。
覆面の裏に流れる涙粒一つ。
それはさておき。

男は両拳を左右の脇腹に当て、女のパンチを腹筋で受け止める。
ちなみに「両拳を左右の脇腹に当て、笑顔を見せる」のはザ・バーバリアンの決めポーズの一つであった。
あとは天を指さすアピールポーズもあるが、地下でやっても意味がないので割愛した。

「まてまて、娘よ。お前はフォーク・ルースという傭兵をしっているだろう。
 俺様は彼に、お前に護身術を教えるよう頼まれたのだ」

敵意はないぞ、と分厚い掌を前に突きだそう。

ノア > 貧民地区の闇試合にて賭けに興じる事はあれど、本場ダイラスの闘技場を観た事はなく.. 当然 覆面の裏の涙にも気付かないまま、其の腹めがけて渾身の猫パンチ。

「 .....っ、ん !! 」

それでも眼前の巨躯は痛がるどころか、一切揺るがず.. 見知らぬ覆面男に名前を知られているパニックと、全くダメージを与えられない悔しさとで、続けざま猫パンチ第二波を繰り出そうとするも ──

「 ぇ......... フォー、ク.. の...
あぁ !! フォークの言ってた "闘技場のスーパースター" って貴方っ !? 」

漸く状況を理解し、知人の名にほっと身体の力が抜ける。すると途端に拳から腕へと伝わるダメージを自覚、ビリビリと痺れる右腕を擦り。

「 ごめんなさい、その.. 急に名前呼ばれたし、覆面だし、変なとこから飛び出してきたし、変態か と..... ごほん。改めまして、ノアです。えっと.. 何て呼べば.. 」

何となく、似てるなー と感じながら。もしかして兄弟 ? なんて推測しつつ、スーパースターに名を訊ねた。

フォーク > 女の拳は、やはり軽いものだった。素手で戦うこと自体に慣れていないのだろう。
しかしそれは当たり前なのだ。誰もが最初はこんなものだ。

フォークの名を出せば、女がやっと警戒を緩めた。
殴った時の痺れがやってきたのは、緊張が解けたからであろう。

「そう、俺様がスーパースターだ。とはいえフォークが俺様より弱いわけではないぞ。フォークと俺様は互角の実力……」

当たり前だ。

「ただ、闘技場での戦闘経験は俺様の方が上なので、格闘技の初歩を教えるよう頼まれたのだ」

そして女が名を訊いてきた。

「ふふふ、スーパースターはいつでもギャラリーの予想を裏切り、期待を裏切ってはいかんのだ。
 サンドバックから飛び出したのもお前さんを驚かせるため……。この格好も然り。
 そんな俺様の名は、ザ・バーバリアン!」

いつもよりテンションが高く、話し方も演劇調になっている。
また腰に両拳を当てる決めポーズをしてみせた。

「……強くなりたいのだろう?」

改めて、女の決意を訊いた。

ノア > ( 互角なら、別に.. )

フォークでも..... なんて、態々来てくれたスーパースターを前に口が裂けても言えないから.. 心の声に留めておく、未だ覆面姿に慣れずやや緊張気味。

続いて派手な自己紹介が返ってくれば、

「 はい、バッチリ驚きました..... バーバリ アン、さん ? よろしくお願いしますっ 」

"ザ" を付け忘れつつ其の名を復唱してから、珍しく姿勢正して一礼。其の間も、やっぱ似てる気が.. なんて疑念を抱いたまま。問い掛けには素直に、やや真剣な面持ちで頷いて。

「 強くなりたい.. けど、まずは "死にたくない" から......... カッコよく戦えるようになれなくても、生きる方法が知りたいってゆーか.. 」

スーパースターを前に、歯切れも悪く情けない返答だった。

フォーク > 名前の最初にザが抜けている件に関しては、本人もたまに忘れがちになるので特に追求はしないらしい。

女の回答を、男は静かに聞いていた。
そしてゆっくりと口を開く。

「闘技場で戦うファイターたちが、一番気をつけていることはわかるかね?
 それはな『生き残る』ことなのだ。ファイターは皆、戦うことに自信を持っている。
 持っている分、怪我も多い。年に何人かは不幸にも命を落としている」

男は両目を閉じた。
通路で言葉を交わした数分後に、闘技場で命を落とした同僚のことを思い出したのだ。

「だからお前さんの『死にたくない』という想いを、俺様は正しいと思う。
 闘技場ファイターたちは華麗な技の練習の何十倍もの時間を、受け身など防御の鍛錬に費やしているのだ」

闘技場の仕合はエンターテイメントだ。時には百五十キロ以上の大男の体当たりも正面から受け止めなければいけない。
相手の猛攻を派手に喰らい、痛快な逆転劇を魅せる。それで観客は湧き、金の雨を闘技場に降らせてくれるのだ。

「その『死にたくない』気持ちは忘れてはいかんぞ」

と、女の肩に手を置いた。

「……が、俺様は生まれつき強いのでトレーニングなどしたことはないのだがな!」

ザ・バーバリアンは天然で強い。そういう設定なのだ。人前でも絶対に鍛錬をしない。
その代わり人気のない場所で血の小便が出るくらい頑張る。キャラ設定を守るのも大変なのだ。

ノア > 本音で答えてはみたものの、"バカ野郎" だ "情けねェ" だと怒鳴られるかもしれない.. なんて、不安げに視線を上げる。しかし見上げた師匠の口からは、闘技場の厳しさと共に優しさが降り注ぎ..

いつかされたのと同じように、あったかくて大きな手が肩に置かれた。

「 ......... はい.. 」

彼と同じ、其の大きな手の分 肩に重みを感じつつ.. ただ短く返事をし頷いた。温かな空気に包まれ ふわりと微笑んだ、が..

「 .....っ、流石闘技場のスーパースター、ね。お手柔らかにお願いします♡ 」

生まれつき発言に ふは、と吹き出す。一度意識してしまうと、もうどうにも同一人物に見えて仕方ないけれど.. 目の前の師匠に、キチンと挨拶をした。

「 ...............で、
何からしたらイイの.. ? 」

フォーク > 男は昔、義父からこんな言葉を聞かされたことがある。
「戦場では勇敢な奴から死んでいく。傭兵は臆病な位が丁度いいんだ」
反りは合わなかったが、傭兵の先輩としての義父の言葉は、男の心の奥に複雑に絡まっている。

「むふふふ」

可愛らしくお願いされたので、思わず顔がぐんにゃりとしてしまう。
ザ・バーバリアンを演じていても、中身は変わらない。

「本当なら受け身の練習を……といきたいが、お前さんの体を闘技場ファイターレベルまで持っていくとすると、
 10年はかかっちまう。やはり生まれ持った体格というものがあるからな」

男は太い腕を組み、得意げに胸をそらせよう。
格闘技は素手な分、体がでかい方が有利なのは言うまでもない。技量が同じなら勝つのは体格が大きい方だ。

「だからな、お前さんのような小娘でも、俺様のような大男を悶絶せしめる画期的な技を伝授しよう」

それを徹底的に練習すればいい、と男は頷いた。

ノア > ( にやつい、てる.. ? )

一瞬、覆面の下がだらしなく弛んだ気がして其の表情を覗き込もうとするものの.. すぐに本格的な講義が始まり、姿勢を正す。

こくこくと頷きながら、真剣に耳を傾けた。正直.. 10年掛かったって目の前の相手を倒せるまでの力が身に付くとも思えなかったし、明らかな体格差も一目瞭然。じゃあ成す術なんて無いのでは.. と、眉が下がり始めた時 ──

「 あたし が.. あたしでも、師匠を倒せる画期的な技... ?! 教えてっ♡ 」

布の巻かれた両拳をきゅっと握り締め、意気揚々と声を弾ませた。

フォーク > 「それはな、こいつさ」

男は自分の掌を女に見せる。

「お前さんも一度はやったことがあるだろう? ビンタさ」

張り手は肉体ではなく皮膚にダメージを与える技だ。
筋肉を強靭にすることはできるが、皮膚の強さは鍛えることはできない。

「ちょいと意外だったかな。でも東洋の格闘技では、平手打ちを取り入れているものもあるんだぜ」

それに男性という生き物は女性からビンタをされると、恐ろしく精神的にダメージを受ける。
男相手ならこれほど動揺と隙を作る技もあるまい。少なくとも逃げる隙はできるはず。

「単純な技こそ、突き詰めれば必殺技になるんだ」

東洋には一撃必殺を重んじる格闘技がある。その格闘技を学ぶ者たちが最も使う技が正拳突きだ。
最も最初に習う技であり、最も練習を積む技だ。彼らにしてみれば何よりも信頼できる技ということになるだろう。

ノア > 「 ぇ......... 平手打ち ? 」

確かに経験はある、其れも一度や二度の話ではない。酔っ払いに絡まれた時には決まってビンタし、爪で引っ掻き、ヒールで踏み付ける.. 其の三つが定番だった。けれど、まさか "画期的な技" とやらがビンタとは思いもよらず、琥珀色の瞳はきょとんと見開いたまま

「 皮膚は鍛えられない、か..
けど、練習するには何人か酔っ払いでも捕まえてこなきゃ ひっ叩けないよー 」

所謂 "ビンタ" と "格闘技における正拳突き" が結び付いていないようで、唇尖らせ首を傾げた。

フォーク > 必要は発明の母、とはよく言ったもので女性が使うビンタや引っ掻きなどの技は、単純だが実に効果的である。
男性のように筋肉を手にいれ辛い分、自然と非力でも最大限な効果を産む技法を編み出しているのだ。

「そのために、こいつがいるんだろ?」

男はサンドバッグをぽん、と叩いた。勿論、男が飛び出したのとは別の奴である。

「パンチで叩くだけがサンドバックじゃないのさ……剣術で言う素振りと思ってくれればいい」

サンドバックに印をつける。
印の位置は、平均的な人間の顔に当たる高さにあった。

「思いっきりスナップを効かせて引っ叩くんだ。叩きながら考えろ。
 どうすればより少ない労力で最大のダメージを与えるビンタができるかを」

素振りというのは面白いもので、やっている内に自分の改良点が見えてくる。
それを成長とか成果と呼ぶのである。

ノア > 「 あぁ.. ♪」

一つは、スーパースターの登場に使われ無惨に破れていたものの.. まだ無事なサンドバッグが存在していた。

師匠に続きサンドバッグの前に立つと印を見上げながら、拳にぎちぎちと巻かれていた布をほどき床に落として。解放された手のひらを、握って開いてと二、三度繰り返し

「 スナップ効かせて、ひっ叩いて、考える..... とにかくやってみるっ。」

一つずつ復唱してはみても、まずは実践してみない事には何も理解できず。とにかくサンドバッグの印を きっと睨み付けてから、いつもと同じように勢い任せで振り上げて

「 ── っ、ンっ......... いたぁ.. っ !! 」

バッチリ印を捉えたものの、人間の頬を叩くのとは訳が違う。重くて硬いサンドバッグを力任せにひっ叩いた手のひらは じんじんと痛み、攻撃しかけた本人が悶絶する結果に。

「 師匠っ.. ほっぺと全然違うー
コレ、超痛ぃ..... です.. 」

酔っ払いには効果テキメンだった筈、なのに.. リアクションのない相手だからか、其れとも叩き方が悪いのか。痛みに表情歪めつつ思考巡らすも.. やっぱり、手が痛い。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」にノアさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」にノアさんが現れました。
フォーク > 「丈夫なサンドバックを平気で叩けるようになったら、人間の皮膚など薄紙も同然になるのだが……」

しかし女がやる気を無くすのも考えものだ。
鍛錬というのは、モチベーションが保たねば成長も鈍くなる。
それに柔らかくて美しい女の手が、練習のしすぎで固くなってしまうのも、男にとっては好ましいことではなかった。
ならば仕方がない。

「…………来い!」

男は中腰になると、歯を食いしばった。
ぶっちゃけてしまえば、ビンタは歯を食いしばってもキツイのだが、気合いを入れるためである。

「俺様の頬を打ってみろ。どれだけ平手打ちが効果があるかを教えてやる」

割とおっかなびっくりの及び腰だった。

ノア > 「 人のほっぺをチョロく感じる前に、こっちの手がぶっ壊れそうです師匠.. 」

当然の事ながら泣き声一つ吐かない印が、やたら憎らしく思える。ブーツを脱いで鋭利なヒールをぶっ刺し、使い物にならなくしてやろうか なんて考えが過るも.. 流石に、無断で借りているサンドバッグを二つも駄目には出来ない。睨み付けるも涙目のまま、気合いで二発目を繰り出そうとした 其の時 ──

「 ............... ?? 」

中腰になる、師匠。其の表情は覆面に隠されていてよくわからないけれど、声は力強く逞しく、とても頼もしいもので..

「 けど.. そんな、叩くなん て.....
..............................

尊敬してます、師匠っ.. ! 」

憎しみのないビンタなんてした事がないから、提案には戸惑い躊躇を見せるも.. そこまでしてくれる熱い気持ちにぐっと唇引き結び、覚悟を決めれば ──

力を抜いたままの手のひらを耳の辺りまで振り上げ、素早く頬をめがけて振り、当たる寸前に手のひらに力を込めて思いっきり ひっ叩いた。

「 !! .........っ、
どう、でしょう.. か ? 」

フォーク > 拳と違って平手打ちは、ただの打撃ではない。
衝撃が来るのだ。人間の体には水分が多量に含まれている。
平手打ちは体中の水分を一瞬で揺らす技だ。どれだけ筋肉があっても衝撃によるダメージは避けられない。

「~~~~~~~~~~っ!!」

男は張られた頬を抑え、床に蹲った。
蹲ったまま、膝で移動することで痛みを散らそうとした。
綺麗にヒットすれば、大の男が転げ回ってしまうのが、平手打ちなのである。

「ま……まあまあかな。でも筋は悪くないぞ!」

痛みが落ち着いた所で、すくっと起立して、決めポーズをしてみせる。
あまりにも絶妙な平手打ちで片頬の感覚が無くなっていた。
いいビンタだった。
クリーンヒットすぎて全身から汗が止まらない。

「ヒットする瞬間に、手首をしならせれば、より威力が増すので意識するように」

鞭の原理と同じだ。鞭はしならせるとより鋭い一撃が生まれる。

ノア > 「 し..... 師匠、っ.. ? 」

自分としては悪くない出来。サンドバッグ相手より手のひらへのダメージも随分少なく、期待含んだ眼差しを向けると..

師匠が、大きな大きな師匠が、床に蹲っている。自分のビンタが大男にダメージを与えている。其の光景に ぱぁ、っと心底嬉しそうな笑みを浮かべ

「 すごい.. すごーい♡ ほんとに、ほんとのリアクション ? ねぇ、ほんとー ? 」

膝で移動する姿は大して見ていなくて、自分の手のひらを見詰め きゃっきゃとハシャいでいた。やがて決めポーズと共に立ち上がった師匠が、更なる成長に向けたアドバイスをしてくれると

「 はいっ、手首ですね♡
───── っ、えいッ.. !! 」

テンションが上がり過ぎていて、忘れない内に習得したくて、結果.. なんの躊躇もなく二発目を繰り出してしまうバカ生徒。今度はしっかり助言を生かし、当たる寸前に鞭のようなしなやかさで手首のスナップを効かせ.....

フォーク > 二発目が来るのは予想していなかった。
しかも前回の改良版だ。男の顔が真横に向く。
無防備な所に強烈な平手打ちが飛んできたのだからたまらない。
男はコテン、と倒れてしまった。

(これだから女は恐ろしい!)

一発目はかなり躊躇をしていたが、二発目は間髪入れずというか容赦がなかった。
それだけ彼女が自信を持ってくれたということではあるが。

「な、なーんちゃって。闘技場の癖が抜けずに派手にぶっ倒れてしまったぜ。
 でもコツは掴んだようだな……。後は人の顔をイメージしながら、素振りを続けるといい」

男は起ち上がると、わざと大げさに倒れたんだよと虚勢を張った。
度重なるビンタに汗がとまらず、目にも入り込んできた。

「……なんか手ぬぐいとか持ってないかね?」

ノア > 「 わ、倒れたー♡ 」

容赦なく放った "ビンタ・改" は、ヒットした瞬間自分でもわかるくらい素晴らしい一撃だった。更には師匠がぶっ倒れてくれる演出付きともなれば、もう楽しくて仕方がない。

「 流石プロのリアクションですね、師匠♡ なんかもう、癖になるくらい快感ってゆーか.. ちょっと、自信付いてきたかもっ 」

あとは素振りを続けろと言われれば、その通りに従ってサンドバッグに向き直る。ただの勢い任せではなく軽い力加減で、手首のスナップに重点を置いた素振り。

「 ん、暑い.. ですか ? 」

手拭いは無いかとの問い掛けには、一度練習を中断。左手に巻いたままだった未使用の布をほどき、畳み直してから歩み寄る.. そこで漸く、大量の汗に気付いた。

「 すごい汗、バーバリアンってリングネームだから野性的な格好してるんだと思ってたけど.. 暑がりなのね ? 」

フォーク > 「ははは、地下室は風が吹き込んでこないからね」

男の全身を覆う汗は冷や汗だった、いい一撃を二度も喰らえば、誰だってこうなるものだ。
悪寒が交じる汗はかなり気持ちが悪い。
覆面の隙間に指を突っ込んで汗を逃していたら、女が布を持って近づいてきた。

「あ、どーも」

いつも闘技場の選手控室でいる時と同じ癖で、布を受け取った。
そしていつもと同じように覆面を脱いで、布で顔を拭う。

「ありがとうよ」

顔がすっきりしたので、女の方を向いて布を返す。
そこでようやく自分のしたことに気づいた。

「ハッ!」

ハッ!ではない。

ノア > 「 はいどーぞ、新品だしキレイなはず.. だか.............................. ら、

............... 」

ザ・バーバリアンの派手な登場パフォーマンスに比べ、随分と地味なフォーク・ルース登場。汗ばんだ( 頬も赤い ? )顔を拭っている間、唇をもごもごと引き結び必死に堪えるも..『 ハッ!』にやられ、盛大に吹き出した。

「 .....っ、ぷっ.. !! いい えっ.. どういたし まし、て.. ししょー .....っ、ふふっ.. はっ... ははっ.. ! 」

そして.. 収まらない笑いに肩を震わせたまま、白い手を貴方の頬へと伸ばし

「 ほんとに何ともなーい ? 」

笑いながらも心配そうに、そっと撫でようと。

フォーク > (迂闊っ!)

闘技場の仕合後、控室では普通に覆面を外して顔を洗っていた。
控室には複数のファイターが待機しており、正体は大抵の人が知っている。
だからすっかりと気を抜いてしまったのだ。

今更、覆面を被るのも恥の上塗りだし女も理解してくれたようだ。
というかツボに嵌ったらしく、とても楽しそうだ。
白い手が、頬に伸びてきた。

「へへ、俺様は男の子だしな。平気だよ」

じゃれるように女の手に頬を当てた。

「立派な平手だったぜ。お前さん本当は強いんだよ」

大切なのは自信さ、と男は微笑んだ。

ノア > もしも今更覆面を被り直されたなら、サンドバッグを思いっきり叩いた手のひらよりも、笑い疲れ酷似した腹筋の方が後日痛んだことだろう。

とにかく目の前に現れた "いつもの貴方" の頬を柔く擦りながら、嬉しそうに目元を細め

「 スーパースターに褒められるより.. フォークに褒められた方が嬉しい♡ 」

許されるなら、子供みたいに軽く悪戯なキスをしようと顔を近付けた。成功したにせよ失敗したにせよ、興味津々に悪戯な質問を続け

「 .........で、何この覆面っ.. いつからバーバリアンやってんの ? .....あ、って事は.. 前に言ってた "頼れる男" ってゆーのも、フォークだったりする ? 」

フォーク > こちらからも啄むようなキスを何度も続けていく。

「俺じゃどうしても指導が甘くなると思って、ザ・バーバリアンになったんだが……変わらなかったかもな」

男は情に脆い所がある。
フォーク・ルースのまま指導をすれば甘やかしてしまうかもしれない。
彼女が切羽詰まっているようだったので厳しく指導するには闘技場のヒーローの登場を願うしか思いつかなかったのだ。

「ザ・バーバリアンはな、その副業というか……傭兵の仕事って意外とないんだよな、これが」

頼れる男について訊かれたら、

「俺は俺よりも頼れる男に逢ったことがないんだ。不服か?」

腕を組めば、ぷいっと顔をそむけてみせる。
ばつが悪くなって拗ねてみせた。

ノア > 背伸びして、戯れるようなキスを繰り返す。傭兵だけで食べていく難しさに「 大変なのね、」なんて返しながらも.. やめられない。

拗ねたように背けた顔を逃さず覗き込むと、首に腕を回してジャンプ ── コアラみたいに抱き着いてしまおうという魂胆。

「 不服じゃないっ。フォークは色んなコト教えてくれる先生で、師匠で、大好きな友達。」

実は毒針ぶっ刺して、身ぐるみ剥ごうとしてました.. なんて言えない。心の中の自分が、シィーーー と人差し指を立て唇に当てた。

自らの行いが招いた事とは云え敵は多く、逆に知人や 頼れる友人は少ない。そんな日々の中かけがえのない存在に出逢えた偶然に、今となってはあの暴れ馬にすら感謝。

「 ふふ、」

それにしても.. 馬に吹っ飛ばされてダイブだなんて、バーバリアンにも負けない派手な登場をしたものだと思い出し、小さく笑みが溢れた。

フォーク > 「……あと、せっかく王都に来たんだ。なるべく色んな仕事をしてみたいと思ったのさ」

傭兵が本業ではあるが、大都市にいるのだから様々な分野で活躍をしてみたかった。
闘技場のファイター稼業もそれなりに愉しいものだ。

「へへへ、なんか嬉しいね。そんなことを言ってもらえると」

抱きついてきた女を、お姫様のように抱きかかえて。
しっかりと掌は柔らかい尻を掴んでいた。

「ん、楽しそうだな」

女が何を考えているかはわからぬまま、にっこりと男は笑うのである。
やはりこの女は笑顔が似合う。

「よし、飯でも食いに行くか」

あとは自主的に鍛錬を詰めば、生半可なことじゃ命を落とすことはないだろう。
迂闊に彼女に手を出せば、手痛い一撃を食らうことになる。

ノア > 抱き着きに成功。貴方の逞しい身体を存分に堪能しようと、頬を擦り寄せご満悦。

「 楽しいよ、フォークと居ると。」

楽しそうだなと言われて自覚する。貴方との時間は、いつだって笑っている気がした。勿論.. ベッドの上では別。食事の誘いには即答し頷くけれど..

「 行く♡ .........けど待って、
もう少しだけー 」

食い気より今は別の欲を満たしたくて、強請ってみる。もしも其の要求が通ったなら、まずは貴方を食べてしまうつもり。

── 食事を終え別れる其の時まで、終始楽しい時を過ごした筈で。其の日の晩、何処かの宿の一室.. 静かに素振りを繰り返す女の姿があったとか。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」からフォークさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区 /拳闘場」からノアさんが去りました。