2016/08/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にヴィールさんが現れました。
ヴィール > 薄汚れた壁に背を預け、ぼんやりと日の落ちた空を眺める。
胸元を軽く寛げ暑さを和らげながら、埃の積もりかけた椅子に腰を下ろして暫し。
どこか遠くからは女の嬌声が、風に乗って耳に届く。

「―――疲れたな」

ぼそりと呟いたとて疲労は消えない。
懐から硬貨を取り出し、くるくると指先で弄ぶ。
もう暫く、暇が続けば自宅に帰ろう。そう考えながらコインを弾く。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にツァリエルさんが現れました。
ツァリエル > その日もこっそり王城から抜けだして、身分を隠し奉仕活動を昔なじみの修道士たちとともに行ってきた帰り道。
今日は他にも市井に調達しにいかなければならないものがあったので、
いろいろと買い物を済ませていたらすっかり遅くなってしまった。
今頃誰か城のものにばれているかもしれない。

王城への近道だからと入った通りには薄汚れた椅子に座る同年代の少年。
コインフリップをしながらなんだかぼんやりとした表情をしていて
少しだけ様子が気になったのであえて声をかけてみる。

「……あのう、こんな所でぼうっとしていると危ないですよ。
 特にここは夜、とても危なくなるので……」

余計なお節介かもしれないしもしこの少年が物盗りであったなら大変な面倒になってしまうのだが
そういうのはとりあえず棚上げしてしまうのがツァリエルの悪い癖だった。

ヴィール > 気怠げにコインフリップを繰り返していると、頭上よりかかる声。
見上げれば貧しい身なりをした少年――同年代だろうか、その顔が気遣わしげに此方を見下ろしていた。
小さくため息をつき、立ち上がる。
彼より背丈はほんの少し低い。弄んでいたコインを懐に仕舞い込みながら口を開く。

「……ご忠告どうも。でもそっちこそ、危ないんじゃねぇか? こんなところウロウロしてよ」

薄っすらと瞳を細めて、首を傾ぐ。
問いかける声には今の所トゲはない。見ず知らずの相手にいきなりトゲを向けるようなこともあまりしないが。

ツァリエル > 立ち上がった少年の顔を改めて真っ直ぐ見る。
艶めく黒髪に切れ長の鋭い目鼻立ち、身なりこそありふれた服を纏っているが
肌の状態や物腰、清潔さなどからどうもここの住人というわけでもなさそうだということに気づく。

「ええ、以前怖い目に何度かあったので……だからこそ、他の人には
 そんな目にあってほしくなくって……。余計なお世話でしたらすみません」

小さく頭を下げる。それから少し躊躇うように切り出した。

「あの、もしお家が近くでしたらそこまで送っていきます。
 子供でも二人一緒なら悪漢もそう襲ってこないでしょうから」

この区画には詳しいので、抜け道とか近道とか知っているんですと伝える。
修道士になって以来何度も通ってきた場所なので一応それなりに勝手は知っているのだ。
とはいえこちらを警戒して断られるかもしれない。
あまり差し出がましいことも失礼になるだろうという控えめな態度。

ヴィール > 中性的な顔立ち、そして柔らかな体躯。
今は背丈を弄っている為変わらない視線の高さだが、元に戻してもそう差はなさそうだ。

「…怖い目なぁ。…余計なお世話とかじゃねぇよ、全然」

むしろこうして声をかけてくれるだけ、親切だと思える。
そして切り出された内容には少し迷った。
ここら辺に家は無い。かといって富裕地区まで送ってもらうわけにもいかない。
少し考えた末、口を開く。

「…いや、俺はここらには住んでねぇし。いいよ。
――あんたこそ、怖い目に遭ったんなら大丈夫か?良かったら送ってくぜ」

ツァリエル > 逆にこちらが送られることを切りだされると困った顔になった。
身分をおいそれと明かしてしまうわけにもいかないのに、
ここで王城まで送ってほしいなどと言ってしまえばすぐに分かってしまうだろう。
だが、相手も親切心で言ってくれたのだろう。それを無碍にするわけにもいかないし……。

しどろもどろになりながら答えた言葉は

「え、ええっと……ええと、あ、じゃあへ、平民地区まで……ご一緒してもいいですか?」

嫌な汗をかきつつ、できるだけ不審ではないように(と、自分では思っている)
平民地区までなら自分もこの少年も一緒に戻れば安全だし
そこから別れて帰れば城のものだとは気づかれないだろう。

ただ急いでいるところに平民地区まで回ってしまっては遠回りなのだが
そこは後で叱られることを覚悟すればいいだろう。
むしろここで彼を一人にして、そのあとで彼が事件に巻き込まれたりしたなどと分かったら
たぶん自分はとても後悔してしまうだろう。

ヴィール > 浮かべる困った顔を見、怪訝な表情を浮かべる。
ここら辺に住んでいるのではないのか…と。そういえばいつもウロウロしてたって顔を見ることもなかったが。
そして返ってきた言葉には。

「……平民地区、な。……いいけど、そっちに住んでんのか?」

今の所、彼が王城に住む身だとは気づいていない。
が、その不審さには何となく気づいている。
別段素直に従っても良いが、試しにカマをかけてみようと思うのはひねくれ者の印か。

ツァリエル > ぎくしゃくとした笑顔でよかったとほっと息を吐いた。
本音は相手にバレていないようだというところに安堵しているのだが。

「ええ、はい……ちょっと今日は特別な用事でここまで来たんです。
 それじゃあ、行きましょうか」

彼が同意したのなら、先頭に立って道案内をする。
確かにこのあたりは慣れているらしく、似たような路地も複雑な道も
今のところ間違いなく選んで通っているようだ。
だがそこかしこは薄汚れ、汚物とゴミ溜め、汚い浮浪者がぐったりと脇に倒れていたりする。
さすが貧民地区といった風情であった。

時折それらの人々にツァリエルが注ぐ眼差しは哀しみと同情に満ちたものだった。
だが、声をかけるようなことはなかった。足早に横を通り過ぎる。

ヴィール > 固い笑顔に、口端が緩く持ち上がる。
カマかけにも動じず、道案内に持ち込まれた。仕方なくその後をついて路地を抜ける。

道は薄汚れ、浮浪者が其処らに倒れ、寝転がっている。
彼らに案内人が注ぐ眼差しの色に気づき、不審は深まるばかりで。
その横を無言で通り抜けながらも、ふと口を開いた。

「……なぁ、あんたさ。さっき怖い目に遭った…とか言ってたけど、どんなことされたんだ?」

ツァリエル > どんな出来事があったのかを尋ねられるとより一層表情が固くなる。
本当に怖い目にあったものが見せる表情。
だが、震える唇がゆっくりと開き小声で、ヴィールにしか聞こえない程度の声音で囁く。

「……一度目は、人攫いにあったのです。危ういところを助けられましたが……見返りを求められました。
 二度目は怪しい男と出くわしてしまって、それから……よく覚えていないのですが……
 その、体に影響が出るようなことが……」

無意識に握った手のひらから冷や汗が出てくる。
思い出すのも苦しいのだろう。辛そうに眉を寄せる。
決定的なことは言葉を濁していたが、もしかすればニュアンスで
暴行やそれに類する何かを受けたことがわかるかもしれない。

「……それに、この国には、いえ王都には今もなお魔物が潜んでいます。
 普段は無辜の人々に混じっていますが……常に彼らは目を光らせているのです」

果たしてそれが子供のたわ言と受け取られるかどうか。
だが、事実ツァリエルは魔物、いや魔族と出会っている。信じてもらえるかはわからないが。

ヴィール > 震える声で、唇で紡がれる言葉。
強い目とは何か、に対する答え。それを耳にしながら小さくため息をつく。

「……物騒だな。人さらいに、怪しい男か」

辛そうな表情を見、しかし自分から問うたこと故途中で止めろと言うわけにもいかず。
ニュアンスから暴行、その類の何かを受けたことは察した。
自分にも経験がある為、理解はできる。

「……魔に会ったことがあるのは俺も同じだ。ちょうど、こんな路地裏でだけどな。
――血を吸われた。俺とそう変わらない年頃の男にだな」

ツァリエル > 血を吸う自分たちと同じ年頃の男。
その言葉を聞いてさっとツァリエルの顔が青ざめた。
自分がよく知っている相手の特徴とぴったり一致するのだ。

こんな偶然、あるのだろうか。
いやだが、彼も王都に潜んでいる以上どうしたって活動のための精や血を欲する。
だからヴィールが襲われたのも、仕方ないことといえば仕方ないのだ。
だが、それでも近しい年頃の、しかも子供を襲うのはあまりにひどいし
そしてそれに良心の呵責を感じる魔族でもないことを知っていて
妙にヴィールに対して申し訳なくなってしまう。

悲しそうに瞼を伏せる。すこしだけもやもやとした胸中に違和感を感じながら。

「……そうだったのですか、あなたも。
 その、辛いことをお聞きするかもしれませんがその魔物はあなたを手荒く扱ったり、
 血を吸う以上の……ええと、暴力とか……その……」

性的なこと、とはとても言い出せずもごもごと口が閉じてしまう。
もしそのことで彼が深く傷ついていたら、どうしようか。
間接的に自分も関与していることでもあると勝手に思っていて
だからこそ詫びなければならないと思うのだが、そのことを口には出せない。

ヴィール > 己の経験談に対する彼の反応に気づいて。
瞬き、首を傾ぐ。今の話に慄いているのか、あるいは――

「……手荒くは、ない。暴力も別になかったと思う」

そこで一旦口を噤み、考えてから再び言葉を発する。

「……まぁ血を吸う以上のこと、と言われりゃそうだな。言いにくいことだけど……喰われた。キスとか…色々」
「俺は嫌いじゃねぇし、別に気にしてもいないんだけどさ」

つまりは傷ついてもいないということ。
それを主張してから首筋に手をあてがう。血を吸われたという記憶を思い起こすかのような仕草。

ツァリエル > 暴力が無かったことがヴィールの口から確認できればひどく安堵した様子に変わる。
だが、やや陰りを帯びた表情は如実に胸中の複雑さを表していた。

「そ、そうですか……ごめんなさい、変なことを聞いてしまって。
 その、ご無事で何よりでした……いえ、無事じゃないかもですけど」

ヴァイルとこの少年が、しかも彼は傷ついている風もない。
きっとそういうことに慣れているのだ、自分よりも。
彼が首筋を擦るのを見て、あああそこを噛まれたのだと悟った。

「で、でもっ……その、魔物がみんなそのような、だけで済まないこともあるので、気をつけてくださいねっ。

 ……あの、その……男同士で、そういうこと……嫌じゃないんですか?
 その、魔物が特別あなたに優しかったり、素敵だったりとか……」

そう口に出して慌てて自分の手のひらで口元を覆う。
うっかり余計な詮索をしすぎた。これでは怪しまれるし
何よりすごく自分が無粋で嫌なやつな気がする。
自己嫌悪に苛まれるが口に出してしまったことは取り返しがつかない。
焦りながら、じっとヴィールを見つめる。

ヴィール > 安堵した様子と、陰りを帯びる表情。
その胸中が見えるようで、気になった。切れ長の瞳が細められる。

「……まぁ、な。むしろそういうのじゃない方が多いんじゃねぇのか。よく知らんけどさ」

慣れているといえば確かにそうだ。
男同士の行為について続けて問いが飛べば、意外なことを訊かれたと言わんばかりに目を見開く。

「――嫌じゃねぇよ。つか、昔からそういう経験あったせいで男しか受け付けなくなってる」
「……そういうお前は? 男同士とか、嫌か」

まぁ嫌だとしても此方は気にしない。
真っ直ぐ、彼の顔を見つめながら問いへの答えを待つ。

ツァリエル > 驚いた相手の様子に、申し訳無さそうに俯いたが
自分が思っていたより軽い返事が返ってくればそろりと表情をうかがうように顔を上げた。
じっと互いの視線が合って、どうしてもその切れ長の、強い瞳に耐え切れず目線を逸らした。

「――昔は、全然だめでした……。
 その、淫らなことは全部、よくわからないし、禁欲的な生活をしていたので……」

一語一語区切って絞りだすように語る。

「でも、今はもうよくわかんなくって……。
 これはいけないことだと思っても、気持ちよくなると、頭の芯が痺れて……
 すごく、ひどいことになっちゃうんです。僕。
 男の人でも、たぶん、優しくて素敵な人だったり、強い力で組み伏せられたりしたら
 ……たぶん抵抗できないかもしれない」

何故自分は初対面の相手にこんな情けない部分を聞かせているのだろう。
口にだすことでそれを認めるような気がして、哀しみが瞳を潤ませた。
徐々に平民地区へ近づいていた歩調が遅くなってゆく。
ついには立ち止まって恥ずかしそうに顔を伏せ、目元を指で隠す。涙を拭う仕草だ。

「ご、ごめんなさい……ちょっと、変になっちゃって……気にしないでください、すみません」

弱々しく自嘲気味にそう語りかける。ごしごしと袖口で慌てて顔を拭った。