2015/10/13 のログ
ご案内:「貧民地区:娼館裏」にイルミさんが現れました。
イルミ > 「あれ……あれれ?ここ、どこだろう……?」

黒のマントで体を隠すように道を歩いていたが、ふと足を止めて辺りを見回す。今日は書店で薬に関する本を買いにわざわざ王都までやってきたはずだ。しかし、少し考え事をしながら歩いているといつの間にか周囲には妙な匂いが漂い始めていた。はてこれはどういうことだろう、と首を傾げたのも一瞬、

「…………!!!」

その匂いの正体に気づくと、全速力で表通りから裏路地へ走った。
とにかく人目のないところへ行かなければ、と。さっきから鼻腔をくすぐっていたのは、微かに漂う、人間ならまず感じないレベルの精の匂いだった。ぼーっとしていたせいで、気づかないうちにその「おいしそう」な匂いに惹きつけられていたのだ。

イルミ > 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

自分の理性の鈍さと、本能の目敏さが嫌になる。どうせ男の目の前まで行っても、自分はろくに誘惑などできやしない。出来たとしても、そのあと男にされることを想像すると……。

「…………あ」

気づけば、一際大きな館のような建物の裏に来ていた。そして、その看板の類は見えなくても、自分にはそれがなんの建物かはただようにおいでハッキリわかる。男が大金を払って快楽を買う場所……つまりは娼館だ。走って疲れた頭はそれに驚くでもなく、呆れるでもなく、一つの空想に浸った。自分がここで娼婦として働けたら。男に抱かれて、欲望としてその精を、報酬としてその金を貰う。サキュバスにとってはいいことづくめに等しい……もし自分が男性恐怖症でなければ、だが。

ご案内:「貧民地区:娼館裏」に「梟」さんが現れました。
イルミ > 体が熱いのは、周囲の淫らな空気にあてられてしまったせいか、それとも単に全力で走ったせいか。いつもは自分を守ってくれるマントも今は邪魔でしかなく、はらりと下に落とす。いつもより身体のラインが出てきてしまうが構わない。人目をさけるために裏路地へ来たんだから今更人目を気にしても空しくなるだけだ。

「しばらく、ここで休もう……」

心は全くやすらがない場所ではあっても、脚が動かないのでは他に選択肢はない。頭にかぶっていた魔女の三角帽を手に取り、扇のように使って顔に風を送る。……が、それはかえって周囲の匂いを余計に鼻腔に送り込むことになったのですぐにやめた。

「梟」 > 娼館の裏手。
従業員たちが利用するそこへ、一人の女商人がやってくる。

人買いでもある女は、商品の納入に来たのだが……
そこで、普段は見ない影を見つける。
おおよそその場所には似つかわしくない――いや、ある意味体つきは似つかわしい少女。

「なんじゃお主は」

イルミ > 「ひっ……」

見つかった!突然声を掛けられると反射的にそう思って身体がびくりと跳ねたが、その声が女性のものだと言うことに一瞬遅れて気づくと、安堵の溜め息を一つ吐く。

「あ……あの、ごめんなさい。少し道に迷って……ちょっと、休んでたところで……」

言いながら振り返ると、そこにいたのはやはり一人の女性だった。しかし……見た目の若々しさには似つかわしくない、自信に満ちたように見えるたたずまいに目をしばたたかせる。

「梟」 > 「また妙な所で休んでおるのぉ」

しげしげと少女を眺める。
肉感溢れるからだ、おどおどとした佇まい――
正直、こんな所に居るのは危ない、危なすぎる。

「あまり進めはしないぞ。ここは治安が良いというわけではないからな」

メイドの一人が「商品」を運んでくる。
それは、子供――くすんだ金髪を持つ、淀んだ瞳の少年だった。
男娼として仕込まれたその「商品」は、サキュバスからすれば、無理矢理『雄』として開花させられた少年である事が分かるであろうか。

イルミ > 「あ、あはは……」

その通り、いくら疲れているにしても休むには妙な場所過ぎる。自覚がある分笑って誤魔化すしかない。多分、男性恐怖症である自分ではない、サキュバスとしての自分が『この匂いから離れるな』と命令しているせいなんだろうと思う。

「は、はい、わかりました…………?」

彼女の連れの者がつれてきた金髪の少年に目をやると、その様子に違和感を覚え、その次の瞬間には戦慄した。彼から香ってくる男の匂いは、押しつぶされたように弱々しくなっていたのだ。彼は、ここで無理矢理働かされる。働きたくても働けない自分がいる一方で、働きたくもないのに働かされるものがいる。ものの数秒でそれを察してしまい、慌てて足元に落ちていたマントを拾い上げた。

「梟」 > 「ん……?」

ふと彼女の視線を追う。
そこに居たのは「商品」……
なるほど、確かにまぁ、なかなか見られない光景であろう。

「気にする事はないぞ。この少年は、親が博打で散々負けてなぁ……くく、肉屋に並べられなかっただけマシであろうよ」

メイドたちがくすくすと笑う。
その哄笑には悪意しかなかった。

イルミ > 彼女達に合わせて「あはは」と笑う気にはなれなかった。しかし、もしかしたら、自分はあちら側にいるのが正しい存在なのかもしれないという気もして……

「……あの、あなたは……娼婦、なんですか?」

しかし、いつの間にか口からついて出たのは失礼極まりない質問だった。彼女の行い(直接何かをしたかは知らないが)に嫌悪感を抱くと同時に、彼女への好奇心を抑えきれなかった。サキュバスとしての自分と、魔術師としての自分の好奇心を。

「梟」 > 「ん、小生か?」

ふむ、と気を悪くした様子もなく彼女を見やる。
まぁ、こんな場所に居るのだから、娼婦の親玉に見えても仕方なかろう。

「小生は『梟』。バートン商会の商人である。主な仕事は骨董品の買い取り、マジックアイテムの販売……それに、人身売買である」

このようにな、と、少年の首についた首輪をぐっと引いてみせる。少年がむせ返るように咳き込み、苦しそうにするのも構わずに。

イルミ > 彼女が平然と言った言葉と、そして平然と行なった恐ろしい(少なくとも自分にはそう見える)行為に、顔から血が引くのが分かった。

「……そ、そう、ですか……すみません」

人身売買。つまりは人間をもののように扱い、売り買いすること。本来なら人間を虫けらか良くて獣の一種としか見ていないような、そしてこの国が乱れる原因にもなった魔族が、それを非難する権利はない。が、さりとて肯定する気にも全くなれなかった。

「梟」 > 「ふむ……」

不思議な少女だ。
まるでおぼこのような純真さを持ちながら――妙に、娼館裏というこの場所がしっくりとくる。
さて、何者なのか――

と、気を許した瞬間。
手元に引き寄せていた少年が、『梟』の拘束を解き、よろよろと少女――イルミの方へと転がる。

「た、す……け……」

目に涙を滲ませた少年は、何とかそう呟く。
メイドたちが少年を抑えようと近づいてくる――

イルミ > 「…………」

品定めをするような彼女の視線。いつもなら他人の視線を嫌う自分なのに、それを阻もうという気にならないのは、やはり彼女への興味が抑えきれないからだろうか。と思っていると、

「あ……!」

さっきまで、手の届かないところにいた少年が目の前に来た……というより、倒れこんできた。助けを求めている!そう思ったときには、既に体が前に出ていた。

「……やめて、あげてください!」

彼の体をかばうようにしながらそう言ったのは、瞬間的に触発された母性の表れだった。

「梟」 > 「――娘よ、その心根と度胸は買っても良いが」

煙管を口元へ引き寄せる。
同時にメイドたちが一斉に彼女の前に立ちふさがった。
中には舌なめずりをする者までいる――そう、このメイドたちは、「梟」の人買いの手伝いをする側近たち。当然、そういう趣味の者もいるのだ。

「何、今なら若さの発露としてやっても良いぞ?
大人しく商品を返すと良い」

イルミ > 「……私、は……」

助けを求めてきた彼を身請けしてやるような金はどこにもない。逃げるにしても、自分に使える魔法はせいぜい、ちょっとしためまいを引き起こすような幻惑術だけ。それをフルに使っても、少年を連れて逃げるようなことは出来ない。なら、それ以外に、彼のためにできることは……

「……わたし、が、代わりに……なります」

震える声をなんとか抑えてそう言った。自分に差し出せる唯一のものは、淫魔の身体だけ。そうだ、自分はあちら側にいるべき存在。それで彼を救えるなら、それが一番いい。素直にそう思えた

「梟」 > 「……あん?」

身代わりに、なる。
――そこまでするのか、この少女は。

「――取り消すなら今だぞ?」

「梟」はそう言ってイルミに近づく。
その肉付き、身体を確かめるよう、そっと彼女の肉体に手を這わせようと腕を伸ばしながら……

イルミ > 「大丈夫、です」

大丈夫。心の中で、自分に言い聞かせるように繰り返す。立ち上がって、伸ばされる彼女の手を待つ。今、自分の心は彼女がこの交換条件を受け入れてくれるらしいことを内心で喜んでいた。
別に自分が聖人になったつもりはない。彼を助けたかったのは本当だけど、彼女への好奇心と、働けるものなら娼館で働きたいという願望も動機の一部なのだから。それくらい、この人買いに興味を引かれていたのだ。

「梟」 > 「――ほう」

ふっと彼女を面白そうな目で見る。
なるほど、この少女には――悲愴さも、自己陶酔も見えない。
少年を助ける事に何かを賭けているわけでも、少年を助ける自分に酔っているわけでもない。
ただ、そうしたいから――

「面白いな、貴様」

こくりと頷く。
納品日は今日だが、なに、そんな物は延ばしてやればいい。
男娼は貴重だが、需要が少ない。
この少女を仕込めば、あの少年の何倍もの価値になるだろう……

「いいだろう、この商品の代わりに、お前を商品にしてやろう。
――暫くはこの娼館で見習いだ。娼館の連中と、それと時々小生がお前を『商品』――娼婦に仕込んでやろう」

少年は心配そうな瞳でイルミを見つめていた。
だが、その目のにごりは、徐々に晴れていっている。

イルミ > 「……はい」

彼女の言葉にどう返すのが礼儀なのか、そもそも礼儀を尽くすべきなのかどうかすらよくわからないまま、短く返事をする。
娼婦。サキュバスにはこれ以上ない天職……の、はずだ。

「……大丈夫、だからね」

こちらを見つめてくる少年の顔が心底愛らしく見えて、そっとその頭を撫でる。もしかしたら、自分から男性の身体に触れるのはこれが初めてかもしれない。……これから嫌というほど触ることになるだろうけど。

「梟」 > 「良かろう」

パチンと「梟」が指を鳴らす。
メイド達がわらわらとイルミの周りへ群がっていく。
彼女が抵抗しなければ、その服を脱がし、身体を隅々までチェックしていくだろう。

「梟」は少年の首の鎖をゆっくり外す。

「このしょうh……少年は、小生が面倒を見てやろうではないか。
お主が逃げずにきちんと働けば、小生の所で下男としてでも使ってやろう」

イルミ > 「…………」

周りにいる男性が少年一人とはいえ、このまま脱がされるのは恥ずかしい。しかし、ここで下手に逆らって彼女の機嫌を損なうつもりもなく、顔を小さく伏せながら空の下に裸を晒す。

「……はい、ありがとう……ございます」

彼は完全に自由になれるわけではないが、それでいい。このまま外を歩いていても今夜泊まる場所すらないだろうし、他の人買いかならずものに捕まるのがオチだろうから。

「梟」 > まるで家畜の状態をチェックするように、大きな胸や腋の下、股間や後ろの穴まで丹念にチェックしていくメイドたち。
時々いたずらに敏感な場所をつついたりするのはご愛嬌か。

やがて、「梟」は少年につけたのとは別の首輪を、イルミの前へと持ってくる。
もしこれをつければ、もう戻れない。
それをイルミの首にゆっくり近づけ……

イルミ > 「んっ……ぅ……」

身体のあちこちを触られても、今感じるのは「恥ずかしい」と「くすぐったい」だけだった。幸か不幸か、サキュバスの本能は性的刺激ならなんでも反応するわけでなく、精を供給しない女の手による刺激には無関心なようだ。無論、それはこれからの「仕込み」で変わってしまうのかもしれないが……。

結局、隷属の証であるその首輪が差し出されてもなお、無抵抗、無反応を貫いた。しかし、いざそれが首にはめられるその瞬間には、何か艶めかしい吐息が漏れる。

「梟」 > ガチャン、と首輪が彼女につけられる。
これで、彼女はこれから『商品』として生きる事になる――
最も、それが永遠とは限らないが。

「――名前を聞いていなかったな」

娼館へと入る直前、「梟」はイルミの方を振り向いた。