2023/03/14 のログ
■ヴァン > 「神々かは知らんが、友人に言われなければ会う気もなかったさ。
はっ……それは団長に行ってくれ。図書館に左、出向を決めたのはあの人なんだから。空き時間は好きにするさ」
神殿騎士団団長直属、階級は聖騎士。役職はなく図書館への出向。組織を知る者ならば飼い殺しだとわかる。
「昔の話だ。それに、真実を知る者はほとんどいない。
10年前のことを知っている割には随分落ち着いているな。君の知り合いは――いなかったのか」
僅かに空いた間には、「俺が殺した奴の中には」というニュアンスを与える。
味方の中には騎士団だけでなく、異端審問庁も含まれている。
だが、何故味方に刃を向けて男がまだ生きているかを説明できる者は少ない。
処刑・追放といった目立つ罰を与えると実家の辺境伯を敵に回すから穏当な処分にした――というのが、一般的な見方だ。
「味方に刃を向けた男を、か? 今の俺は本に囲まれている方が性に合っている。
……あぁ、そうそう。うちの相対の連中に伝えてほしいんだ。俺を練習台に新人の訓練をするのはやめろって」
男は正面を向いていたが、微かに身体を曲げて青い双眸からの視線を受け止めた。深夜のような、暗い瞳。
図書館の相対――啓蒙局。尾行をはじめとする監視活動をしているようだ。
監視が露見すれば通常の相手ならば警戒され、実力行使される恐れもある。男はその点で安全といえた。
■ベルナデッタ > ベルナデッタはその暗い瞳にも目をそらさず、尚もじいっと見つめる。
そして、くすりと笑った。
「10年前は私はまだ12歳ですよ。知り合いなんているわけない。
ただ王都に着任するにあたって私の上司から貴方の評判を聞いたのですよ。要注意人物と」
それで気になって調べたのです、とベルナデッタは続ける。
以前異端審問庁と揉めた男である。警戒するのも情報を共有するのも当然と言える。
「貴方こそ、味方に刃を向けた割には落ち着いている…。貴方自身も、貴方を取り巻く状況も」
処刑の手段も、追放の手段も、いくらでもあったはずだ。
辺境伯の報復が怖いのなら犯人が分からぬように暗殺でもしてしまえばいい。主教にはその手段もあったはずだ。
しかし、現に男は10年生き残り、今もこうして悠々自適に暮らしている。
「今は、貴方に対して失礼な行いをしている啓蒙局の人間にも刃を向けていない。
はたして本当に貴方が言われている通りの人間なのか…疑わしいところですね?
あ、連中にはご自分で仰ってください。私の言う事なんて彼らは聞きませんよ。部署が違いますので」
■ヴァン > 「君の組織には詳しくないのだが、指導役の先生とか、そういうのがいたかもな、と思ってね。
はは……そりゃ、過去の行動だけなのかな。女好きって意味で警告したかもしれんぜ?」
また軽い冗談を紡ぐ。評判通りならば男からは性的な視線を感じてもおかしくない筈だが、それはなかった。
主教の中に男の味方はほぼいない。むしろ、男が獅子身中の虫といえる。
落ち着いている、と評されると男は笑った。
「味方、と言うが。刃を向けあったら敵さ。誰も彼も、俺が先に刃を向けてきたと言うだろうが」
目撃者はいない。全て死んでしまった。事件を知る者も少なくなっている。引退したり、亡くなったり。
文献や口伝は必ずしも真実を伝えない。
「衛兵がつく頃には逃げているからね。平民地区以上で実力行使すると、回りまわって俺が不利になる。
言われているのは俺の一側面に過ぎない。人によって、俺に対する印象は変わるだろう。間違い、って訳でもないんじゃないか。
わかった。面倒だが、書面で抗議するとしよう……」
同じ所属の人間に伝えれば楽ができるかも、と思っていたのだろうか。明らかに落胆した様子を見せた。
視線を正面に向けると、女司祭の護衛対象が目に入った。会話が一段落したようだ。何か探すように顔を巡らせ、男と視線があった。
■ベルナデッタ > 「私に指導してくださった先生は、今も元気に後輩を鍛えていますよ。
それに、そのような理由で警告されるほど私はヤワではありませんよ。
襲われても逃げ出す程度の腕はありますし…殿方にそういう意味で惹かれることはありませんので」
ベルナデッタも冗談めかして返す。言っていることは嘘ではないのであるが…。
そして、男からの次の言葉に、何かに納得したように目を閉じる。
「成程……つまり、彼らは敵だったのですね。
それは貴方個人の敵ですか?それとも…主教の?」
と、そこでベルナデッタはヴァンが視線を別の所に向けているのに気付く。
そちらを見ると、彼女の護衛対象がどうやら会話を終えたようで。
もうこの昼食会自体がそろそろお開きなのだろう。こちらを探しているようだった。
「おっと、時間のようですね…では、話の続きはまたいつか」
そう言って立ち上がると、ぺこりと一礼する。
「貴方に神々の加護がありますように」
■ヴァン > 「だろうな――あぁ、知ってる。
俺だ。彼等には彼等の信じる主教の正義があった――そう願っている」
知ってる、と答えた。名乗りの前から苗字を話したことからも、相手のことを知っているのはお互い様のようだ。
男の話す内容から、僅かではあるが男を支持する者がいたのだろう。だから今もこの男は生きているのだ、と。
司教に軽く会釈する。司教は不思議そうな表情を浮かべつつ、会釈を返した。
男を知っている様子はない。仮に悪名を知っていても、実物を見たことはないのだろう。主教ほどの組織となればよくあることだ。
ベルナデッタに向き直ると、一礼を返す。男はもう少し、座っているようだ。
「また会おう。次もこうやって穏やかに話せることを願って」
ご案内:「王都マグメール 王城/広間」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/広間」からベルナデッタさんが去りました。