2022/10/12 のログ
ご案内:「王城地下牢・最奥の牢獄」にグルゴレトさんが現れました。
■グルゴレト > ───ピシッ……
静けさに包まれた、牢獄の最奥の部屋にて、その乾いた音が響いたのは丁度陽も沈む時刻
「………」
鎖に繋がれ、金色の角を持つ黒髪の女の瞼が、重苦しい緞帳のようにゆっくりと上がる
移ろぐ白銀の瞳が向かうは、壁から伸びる鎖に繋がれた、己が右腕
その手首を拘束する魔封じの枷
余程に目を凝らさねば見えぬだろう、糸くずのような小さく細い、亀裂
女が僅かながら、その右腕に魔力を込めるとおぼろげな、青白い光が亀裂をなぞるように浮かび上がり、消える
「(──、もう、幾許だな)」
旧神の加護の残る地で、力が大きく抑えつけられているとはいえ
それでも魔王に匹敵するだろうその寵姫の魔力を封じ続けるには、人間の創り出した道具では些か心許ない
長い月日が経てば、こうやって綻びも生まれ…やがては効果を成さなくなる
「(……とは、いえ)」
あからさまにそれを知られれば、新たな枷が用意されるだけのこと
この地の不利が覆るわけでもない
故に…よりによって、おそらくはこの国で最も警備が厳重である王城の地下に幽閉されているのも、事が大きい
機は、慌てず待てばいい
どの道、人間に自身を滅ぼす術はないのだから
ご案内:「王城地下牢・最奥の牢獄」にジュリアス=カルネテル・マリウスさんが現れました。
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > カツン、カツン……と、木製の杖が、床を突く音が響く。
暗く、明かりすらないその牢獄の中の松明が、自然と火がつく。
その音が近づくにつれて1つずつ、丁寧に……奥から何者かが歩み寄る。
気がつけば、牢獄の周りに黒い鳥が1匹、2匹と集まってくる。
このような小動物を見るのは彼女にとってはどれほどになるのだろうか。
しかしそれは、あまりにも不自然で……その黒い鳥は、不吉な鴉の姿をしていた。
「―――ほぉ、食事もなく、弄ばれ続けながら未だに朽ちる事がないとは」
そんな、しゃがれ声の低い老人の言葉が響き渡る。
一歩一歩近づくごとに火が灯って、そして鴉が増えていく。
久しぶりに、しっかりとした光を彼女は目に入れるだろうか。
そこには、木製の杖をついた、白いロングコートに身を包んだ老人の姿。
長く白い髪を持ち、肌の半分が褐色に、もう半分が白い肌となっている不可思議な、見ていて不安になる不吉な男だった。
―――あるいは、その顔は彼女にとっては、覚えていれば大昔、こうして捕らえられた時にいた顔ぶれの一つであったかもしれない。
「もうここに囚われてどれほど経つか……。
と言っても、魔族である貴様にはほんのわずかな間であろうがな」
牢獄の前で、その老人が佇む。
ボッ、と一番近くを照らす役割を持つ松明が燃えて、その老人の姿を強く映す。
■グルゴレト > 再び、時が過ぎるのを眼を閉じ待とうとした魔族の女の耳がぴくりと動く
長く尖った耳は、牢獄の入口の階段からその足音を捕らえていた
やがてゆっくりと白銀の瞳を開けば、眼に入ったのは何羽かの黒い鳥
魔族である女にとっては不吉である…などといった印象こそないものだったが、なぜこんな場所に、という違和感は拭えなかった
そして程なくして、その男は眼前へと現れる
この最奥の部屋がこれほど明るく照らされるのはいつ以来か
その灯りの下、くっきりと視界に見えるのは白い装いに、白い髪
そしてその特徴的な見てくれは──女の記憶にはっきりと残るものだった
がしゃん、と
けたたましく壁に繋がれた鎖が鳴る
女が前へと体を動かそうとしたためだった
「貴様──!」
「何をしにきた、未だ囚われの身である我を嘲笑おうとでもいうのか」
その記憶は、人間との戦いに敗れ、此処へと囚われた時のもの
忌まわしい記憶を違えるはずもなしと、魔族の女は目の前の男に対し怒気を露わにする
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > 「くっ……くっくっ……。嘲笑う、か」
激昂する彼女を見る老人の瞳は、無感動とは言わずともどこか冷めていた。
そう感じたと思えば、喉の奥で笑うように、この低い声が牢獄に響き渡る。
それは彼女自身を嘲笑っているというよりは、自分自身を嘲笑っているようで。
「残念ながら、以前の私であろうと囚われている貴様を嗤うような真似はせんとも。
もっとも、今の私では例えそれが出来る立場であったとしても、それは出来ん」
どこか粘ついたような笑みを浮かべて、老人は左腕を牢獄の扉へと伸ばす。
火に照らされているというのに、その左腕は影に覆われているかのように真っ黒で。
それは―――暗闇そのものかと思うほどであった。
魔族である彼女にはわかるだろう。その腕が人間のモノでも、そして魔族のモノでもない。
いや、確かこのような腕を持つ魔王が大昔に、存在していたような……。
「慰み物である立場は変わらず、されどその力もまた変わらず。
数年程度では貴様を堕とすことなど、不可能に決まってはいるか」
どこか確認するように言いながら老人はその蠱惑的な肢体を持つ女へと歩み寄る。
杖を突いて腰を曲げるその姿は完全な老人であるというのに。
その瞳に見える強い意志は、腰をまげて見下す形にも拘らず妙な引力のようなものを感じる。
「この国の軍門に下ることも、心を折って人間に媚びることも、そしてここを抜け出す、あるいはこの国を滅ぼすことも辞めるつもりはないようだな」
■グルゴレト > 「……貴様」
女の言葉はそれで途切れる
それは近寄る男の異質さに気付くと共に
自身の記憶の中との相違に少々、虚を突かれたからだとも言えた
辺りに侍らう烏といい、その闇そのもののような腕といい
ただの人間でなくなっていることは、ありありと理解る
王国に、王城にこのようなモノが出入りしていることにも驚きを得るが
「嘲笑うでもなく…ならば何だ。世間話でもしにきたとでも?
生憎だな…我をこのような目に合わせた人間の一人と気楽に話す舌など持たん…」
見下す老人を睨めつけるように、銀の瞳が見上げる
「我が主たる魔王の下へ戻る以外のことに興はない。
こんな国など、我や主が手を出さずともいずれ滅びよう」
老人の言葉には、吐き捨てるようにそう言葉を返す
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > 自身の腕を僅かに見た彼女の声に、もう一度肩をすくめて。
「気楽に話す舌を持たないのは最初から知っていたとも。
だが、貴様の主である魔王、か。果たしてそれに値する魔王が今いるのか」
それを嘲笑することもなく、淡々と牢獄の中を歩きながら語る。
熱くなるわけでも、それこそ世間話をするかのような気楽さを持ち。
カタリ、と木製の杖を牢獄の壁へと置いた。
使用された淫具がそこら中にあるのを老人は見て、今度こそ嘲笑を漏らす。
「魔王と名乗る者は多数いるが、貴様の求める魔王はいるのだろうか。
まだそれに見合うだけの魔王や受け継げるだけの力を持つ魔族はいないのではないのかね?
あるいはすでにそのような称号など魔族の誰も求めていないのかもしれんな?」
くっくっ、とその声には、確かな嘲笑の色を込められていた。
それは彼女に向けてではなく、その称号への侮蔑のようなもので。
「すでに魔族の間でも時代遅れ、あるいは忘れられた称号なのではないか?―――貴様も含めて」
■グルゴレト > 「……何が言いたい」
老人の言わんとすること
それが理解らぬわけではない
が、それを問う真意を伺うことができず、女は重苦しくそう口にする
「我が主が、称号と共に我を捨て去ったとでも?」
嘲笑う老人に向け、銀の瞳が鋭さを増す
強き魔王が戴く、生ける宝冠
それこそがこの魔族の全てであり、存在理由でもある
「それは我が主への侮辱にも他ならない。
我を冠する王は健在だ。…そうに決まっている」
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > 「いやなに、見捨てたとは言っておらぬとも。いや、そうかもしれぬなぁ?」
魔族である彼女が、鋭い瞳をこちらに向けている。
しかし老人はそれを受けてなお言葉を続ける。
「存外、どんな形であれ、人間なぞに負けた魔族など、要らぬとでも思われたんじゃないか?」
どこか強がるような、いや、実際そう信じているし。
それに対して絶対な自信や自尊心を持つ彼女に、叩きつけるように言葉を続ける。
例え彼女が今なお言葉を荒げて、怒気を孕んだ声をしても。
彼女がその今残っている力を、僅かでも発揮しようとしても構わずに。
「貴様の主は、果たしてそれほど慈悲深い。もしくは情け深いのか?
……すでにこの国の貴族王族の”便器”になり下がった女を、迎え入れる度量などあるものかねぇ」
■グルゴレト > 「───!!」
ガシャン
再び鎖が軋み、大きな音を立てる
女が右腕を振りかざし、その鋭い爪を以て男を肉塊に変えようとしたことは瞭然としていた
結果として枷と、繋がれた鎖に阻まれそれは成らなかった、が
「我への侮蔑は聞き飽きた…。いくらも嘲るがいい
──しかし我が主への侮辱は、聞き捨てなるものか!!」
その表情にあからさまな怒りを滲ませ、女が吠える
忌々しい枷と、壁に縛り付けるその鎖を悔しげに睨みつけ、尚も腕を振り翳さんと何度も鎖を鳴らす
沈黙に閉ざされた地下牢獄に、女の怒号が響き渡っていた
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > 怒り、叫ぶ彼女の姿を見てなおも男は嘲笑う。
それは彼女を怒らせるため?あるいは、彼女の心を知るため?
「では、そう叫ぶ貴様は貴様の主への絶対の忠誠が変わることはないと。
聞き捨てならないとは言うが、今の貴様に何ができる?」
枷があるからこうして彼女に強がれる……というわけではない。
決して彼女を侮るわけでもなく、その言葉をさらに重ねて。
「現実を見て見ろ。数年ほどたつが未だに貴様の主は助けになど来ることはない。
この地が如何に特別な守護があろうと、それを為しには来ない。
貴様は見捨てられたと同義なのではないか?」
そう言いながら、彼女の右腕を
自らのその暗闇に包まれていた左腕―――真っ赤な血と闇のような黒に染められた腕。
5本の人間の腕に似ても似つかない歪でグロテスクな腕が掴む。
ピシ、ピシ、とその腕の枷と、鎖を”彼女の腕ごと”握り潰していく。
「さぁ、振るってみろ。それが出来るか?出来ないのが今の貴様の姿にすぎぬ。
そしてそんな貴様を助けになど来る主は、未だいないことの証明ではないのか!」
気がつけば、腰を曲げていた老人は直立して、身長差から彼女を軽く見下ろす形になる。
■グルゴレト > 「変わるものか。老人の嘲りで忠誠を見紛う程愚かであるつもりはない…」
見捨てられたなどと、心にも思わぬ
時間の流れなど、永命たる者には関係のないもの
その間に人は育ち、老い、死ぬのだろうが
その程度の時間の経過程度で揺らぐ忠誠心ではなかった
「──、ッ、ぐ…!?」
その強き光を秘めた、白銀の瞳が苦痛に歪み細められる
右腕をその枷ごと、圧し潰そうとする…旧神の加護の下、その力に抗うことなど当然出来る筈もない
厭な音を立て軋む自身の右腕と、更に降りかかる罵倒の言葉に表情を歪め、老人を睨めあげる
「我に出来ることなど、信じること、だけだ…。
く、く…人間の尺度で物を語るな、老獪。魔王の考えなど、矮小が推し量るべくもない…!」
■ジュリアス=カルネテル・マリウス > 睨み付けられ、愉し気に目を細める老人は、すぐにその腕を彼女から離した。
パラ、パラ、とその真っ赤で真っ黒な腕から、ひび割れた枷の破片が落ちる。
「そうか。ならば安心した」
そのまま、左腕を自らのロングコートの中へと戻していく。
同時に、その老人の肩へと鴉達が多数泊まっていた。
……鴉達はみな、愉し気にその様子をただ見ていた。
「信じる者は救われるなどというつもりはないが。
そうして変わらぬ心を持ち続けられている貴様は気高いのだろうよ。
―――貴様がいづれ救われる時より、先にこの国の方が崩壊する方が速そうだがな」
非情とも言える言葉を告げながら、白いコートを揺らしながら木製の杖を手に取り、腰を曲げる。
「また来る。その時に多少、遊ぶとしよう。ここに来る醜き者達のように、な」
カツ、カツ、とそのまま背中を向け、奥へと歩き始めて。
――彼女の枷についた僅かな罅を見て見ぬふりをしながら。
■グルゴレト > 「グ、ッ…ぅ」
癒えるといえど苦痛を感じぬわけではない
枷と共に砕けかけた右腕は、鎖に吊られるようにだらりと力を失くす
「……ハァ…、…っ、歓迎は、しないぞ」
背を向ける、おそらくは人外に身を転じているのであろう老人
その背に銀の視線を向けながら、投げかけられた言葉が頭の中で反響する
いずれ救われる時より───
この国が崩壊するほうが速い───
「………」
己を気高いと評した男の言葉が妙に頭の中に残りつつ
牢獄の最奥、魔神の幽閉された部屋は再び沈黙と薄闇に沈んでゆくのだった
ご案内:「王城地下牢・最奥の牢獄」からグルゴレトさんが去りました。
ご案内:「王城地下牢・最奥の牢獄」からジュリアス=カルネテル・マリウスさんが去りました。