2022/10/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 夜の礼拝堂は特に静かだ。

銀髪の壮年男性は習慣からくる仕草か、音もなく扉を開け、後ろ手に閉めた。
室内を見渡すが、人影はない。やや意外そうな顔をするも、そういうこともあるかと思いなおし、手近な長椅子へと腰掛ける。
椅子に背を預けると、祭壇が視線に入る。男は目を細めて、軽く鼻で笑った。首からさげたホーリーシンボルが小さく、音をたてた。

ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > ───決められたいつもの時間に修道女が赴く場所。

それは、そこがどこであってもおそらくは変わらないことではあったのだが。


「─────ん、………?」

扉を開けて、祈りの灯が潰えていないかを確認するように滑らせる視線が来訪者の背中をとらえた。
僅かの間を挟んで、少し音を立てて扉を閉ざした。

「……こんばんは、祈りにいらしたのですか?」

ありきたりな言葉だが、ほかにどう問いかけていいかを女は知らない。

ヴァン > 背後で扉が開く音、そしてかけられる声。
ゆっくりと立ち上がると、振り返った。椅子から離れ、女に近づいていく。

「ただいま…………いや、マーシュさんに会いに来た。外出していてもこの時間なら戻ってきてるだろうと思ってね」

普段と変わらない態度。前回この場に来た時は最初、少しだけ距離をとっていた。
服装や髪からみるに、一度自宅へ戻って身支度を整えてからこの場所を訪れたようだ。
男は肩掛け鞄を開けると、中からいくつかの小物を取り出した。

「使わずに済んだから、返すよ。あぁ、あとダイラスで売ってたから、これ。夜眠る前にでも」

修道女から10日ほど前に受け取った気付け薬と軟膏の容器と共に、小瓶を渡す。どうやら蒸留酒のようだ。

マーシュ > さしあたって祭壇の灯火に問題はないことを、視界の中に捉えつつ。
立ち上がった影が近づいてくるのを、佇んだまま見守って。

かけられた言葉に、静かに頭を下げる。

「お帰りなさいませ、何事も………なかったなら何よりです」

先日とは違いボロボロのよれよれ、ということはなさそうだ。
怪我をしたとしても、治癒術を使いこなすのであれば、治してしまうのだろうから、目に見えて何かがあった、というものは己の目には見受けられることもないのかもしれないが。

それでも、無事であったのならば安堵に弛んだ声音が零れ。
己に会いに、という言葉には首を傾けた。
たしかに己の日々の行動は把握しやすいだろうが───。

「それはなによりです。……?」

己の渡した薬の容器がそのまま帰ってくるのなら、元のように装束の隠しにでもしまい込む。
けれど一つ増えている小瓶に不思議そうな目を向けた。

「………お酒ですか?」

耳に覚えのある港湾都市の名を耳にしながら、小瓶の色形を確かめるように手の中で弄ぶ。

ヴァン > 「前回も思ったが、若手の訓練だけじゃなく、俺自身にもいい経験になったよ。
最盛期には及ばないが、昔の勘を少し取り戻した気がする」

名が知れているとはいえ、男が最前線にいたのは10年も前のこと。身体を鍛えていても、なまりはする。
男の外見に変化はない。自身の傷は文字通り舐めれば治る男にとって、大半の肉体的な損傷は意味をなさないだろう。
酒についての不思議そうな視線と声には、軽く頷いた。

「この前、『ザ・タバーン』に来てくれた時。色々あって結局あまり飲めなかっただろう?」

陶器製の小瓶ゆえ中身を直接見れないが、ジンのようだ。文字が書かれており、それなりの規模で流通している品に見受けられる。
色々、と言った時にはやや男は視線を逸らしてみせた後、何かを思い出したのか一歩近づく。
右腕を女の左肩の上から、左腕は右脇の下からそれぞれ背中に回し、ぎゅ、と抱き寄せた。互いの頬を軽く重ねる。
二度、背中を掌で軽くぽんぽんと叩くと、左右を逆にして同じようにしてみせる。その後、男は離れようとはしなかった。

マーシュ > 「そうですか……、ヴァン様にとっていい経験になったのなら───、幸いではないかと」

表情や、怪我はなくとも疲労の陰りはないかを確認するような目を向けながら。
渡された小瓶の中身についての言葉に小さく唇を笑みの形に緩め。

「であれば───眠る前に少し戴ますね」

陶器製の小瓶の手触りを楽しみながら、相手の言葉で中身の推察は付いた。
酒類の銘に詳しくはないが、小瓶に刻印されているのが醸造所の名前なのだろう。

色々、については女にとっても思い当たることはある。悪戯っぽく小さく笑っていたのだが──

「────、…っ!?」

距離が狭まり、背中に腕が廻る。
抱き寄せる動きに抵抗はしなかったが、少々驚きに固まったまま。
頬が合わせられるのにくすぐったそうに身じろいで、視線を彷徨わせたのちに臥せる。

────じわりと合わせた頬が熱を持つのが自覚できた。
そのまま離れないのであればそんな熱の変化も伝わっていくのかもしれない。

「ええと───、ヴァン様?」

ヴァン > 視線を向けられると、軽く首を傾げる。
遠出をしていた影響はやはりあるのだろう、多少疲労が溜まっている様子が伺える。とはいえ、前回ほどではなさそうだ。
小瓶を眺める様子には、やや満足そうだ。最初はスプーンくらいの量にするか、混ぜるといいと助言をする。

頬から熱が伝わってくる。やや顔を動かし、重なるのは互いの首筋へと変わる。
女の存在を感じ取るように目を閉じて、柔らかいハグを続ける。
問うような声色には、少し戸惑ったような表情をしてみせる。やや抱擁を解いて、正面から顔を見つめる。

「ん…………違ってたか? 前、戻ってきたらやってほしい事とマーシュさんが言っていた気がするんだが。
あの時はだいぶ酔っていたからな……俺が思い違いをしていたのなら、すまない」

自分の勘違いを誤魔化すように、照れ笑いをうかべる。本当にうろ覚えなのか、真意を隠しているのか。いつも通りの顔。
女が本当に言った言葉は、その場の雰囲気も影響していたかもしれない。
言葉を曲解したかのような男の行動は、女が発言を撤回できるようはからった、ある意味優しさ――あるいは、意地悪さ。
真実を口にするか、そのまま流してしまうか。具体的な内容を聞き返すのも一つの手だろう。

マーシュ > 助言に対しては、素直に従うことになるだろう。
そもそも己の生活に酒類はあまり馴染みがないのもある。

「─────」

抱きしめられるままの、まんじりともしない時間。
抱き返すべきなのか、等、埒もないことが浮かんで消えたのだが───。


「……………………………」

ごく真面目、な、あるいは、それとわかっていての言葉なのだとしたら。
………特に変調もない、いたって普通の顔は、彼が今素面であることを示している。

「ぅ………」

彼があの時酔っていたのは事実ではあるのだけれど────。
意地が悪すぎやしないだろうかと表情が若干歪む。
きゅ、と唇を食んで、少し離れた距離の顔を見やる。

怒っているわけではないのだけれど、否、どんな表情を浮かべるべきかを迷っている。

「………、そう……ですね。貴方はだいぶ酔っていらした。」

状況を反芻するように告げてから。
…………そして彼は覚えているのだろうか。己の誓願を。

少しかかとを上げてつま先を伸ばす。
相手の耳元にそっと唇を寄せて───。

マーシュ > おそらくは彼に届くだけの声量で小さく言葉を紡ぐと、伸ばしたつま先を元に戻して床につける。わずかにそらした視線と、頬が熱を孕んでいるのはもう隠しようもない。
ヴァン > 唇を噛んだ姿に、一瞬嫌な考えが浮かぶ。
普段恥ずかしがり屋の女が勇気を出して言ったのだとしたら。
男が女の言葉を真面目に受け取っていない、という見方もできる。流石にそれは本意ではないが、もう遅い。

耳元に寄せられる顔、平静を装って男も軽く背を曲げて。
紡がれた言葉を聴くと、ぞくりと背を震わせた。その振動は、抱き寄せていた相手にもしっかり伝わっただろう。
酒に酔っていた時は鈍っていた感覚も、素面で、しかも耳元で言われると衝撃は強いらしい。少しだけ、顔が赤い。
しばらく耳元での言葉を反芻していたが、かかとが床についた音で我に返ると顔を見遣る。確かに承ったとばかりにこくこくと頷いた。

「じゃあ……そうだな。マーシュさん、二日続けて休むことってできる?
買い物をしたり、食事をしたり。あと、そうそう。最近、南の方から本を仕入れてね。
部屋の隅に本が積まれてたのは見……あの時はそんな雰囲気ではなかったか。ともあれ、それを読んだりして過ごせないかな」

二日、という言葉。夜も一緒にいると言外に伝える。
発した言葉のスムーズさから、今思いついたことではなく、前々から考えていたらしいことがわかる。

マーシュ > 「─────」

酔っていた、という言い訳を潰えさせたが、けれど今の己にはこれが限界、というよりは。
………少々刺激が強くはあった。
それがどうやら相手にも同じだったことに少しだけ、留飲を下げはしたのだけれど。

僅かに呆けた様な間ののちにただ頷く姿に、ならばいいです、と居住まいを正していたのだが。


「………祭事がないのであれば、許可が下りれば問題はないかと。」

相手の申し出にしばし考えてから、頷いた。
流れるように告げられる言葉はまるで今すぐの思い付きではないようだったので、何某か思うところが相手にもあるのかもしれない。

物欲に乏しいところはあるが興味がないわけではない。
新しい本、との言葉に吸い寄せられるように瞬いた。

図書館を経由しない、ということであれば、彼個人の所有だろう。
それがどのようなものかは知る由もない。先日は確かにそんな余裕はなかったのを記憶している。

言外の意味に気が付いて、少し気恥しそうに瞼をおろしてから。

「………ゆっくり話を伺えるのは嬉しいですね」

先頃から忙しそうにしていたのを知っているだけに、少しはにかんだ笑みを浮かべた。