2022/09/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 「午後の教官は俺が担当する。『図書館の聖騎士』だ」
皆が昼飯を食い終わった頃のこと。王城の練兵場、その端っこで行われる神殿騎士団の訓練風景。簡素な防具を身に纏い整列する騎士達。
主教の関係者は王城にも多く、彼等を護る騎士もそれなりの数がいる。護る能力と意思には疑問符がつくが、そういう体面になっている。
悪逆非道で有名な神殿騎士団の獣共であっても、恐怖は感じるらしい。教官が近づくと、その周囲にいる男達が身を固くする。
教官は漆黒のクォータースタッフを肩にとんとんとあてながら、整列する者たちの間を悠々と巡る。
教官――ヴァンは、先日受け取った手紙を思い返した。図書館への出向を一時中断し、各地にいる後進育成の命令。
まずは王城常駐の部隊を揉んでやれとの団長直々の一筆。強く教育すれば騎士達はヴァンを嫌い、憎むだろうが、その分強くなる。
はみ出し者にはお似合いの仕事だ。そうやって一層男は孤立する。
先程も部隊長であるやや年下の聖騎士に挨拶をしたが、不安混じりの忌々しげな表情が帰ってくるだけだった。
男の装いは普段と少し違う。やや厚手の上着とズボン。奇妙な模様のバンダナはいつものことだが、広げて髪全体を覆うようにしている。
「暴力はそれを上回る暴力によって容易に正当性が失われる。
まっとうに生きるか、強くなるか。二つに一つ。……俺達には実質一つだ」
男は冗談を言うが、笑う者はいない。何をされるかわからないからだ。
無造作に棒で一人の騎士の後頭部を打つ。不幸な騎士はうめき声と共に座り込んだ。
■ヴァン > 「上の者が冗談を言ったらつまならかろうがお世辞でも笑うものだ。実家で礼儀作法として学んだろ?
だが次男三男の貴様等に帰る家はない。この騎士団が貴様等の家であり、そして墓場だ」
足音を響かせながら騎士達の間を歩く。理不尽な恐怖で支配するのは単純だが効果的だ。
その状態で統率を維持するのは困難だが、それは男の仕事ではない。
スタッフの端を握り、天高く掲げる。すぅ、と息を吸ってから、全体に聞こえるように声を出す。
「二人。二人までは男前にしてよいと、団長から許可を得ている」
低く、だがはっきりと響く言葉。周囲に一層の緊張が走る。男前とは傷跡のある顔を示す隠語。
後頭部を打たれた男は違う。まだ枠は二人分残っている。
騎士達が抱くのは、何がトリガーとなるかわからない、理不尽への恐怖と憎悪。
何人かは自分以外の誰かが犠牲になればいいと、同僚の失敗を祈る。
石突で規則的に地面を突きながら、男は再び整列した者達の間を巡る。訓練前の精神集中。
はたして教官役の男の気をそらすような女神は現れるのだろうか。
ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 今日は新しい教官が神殿所属の騎士たちを鍛えるらしい、と耳の早い修道女たちの言葉を耳に入れてはいた。
彼等とは基本的に職掌が違う、というのもあってさほど興味はなかったのだが。
練兵場そばの回廊を歩みながら、そんな彼らが訓練しているという一角に見るともなしに視線を向けて。
────見慣れてはいるが、見慣れない。そんな違和感にふと立ち止まる。
「あれ、は───」
王城で姿を見ることのなかった知己の姿に双眸を瞠る。
普段図書館でしか見ない姿だったから意外、というのもあったが。
改めて本当に神殿騎士だったのだな、と妙な納得を得た姿だった。
■ヴァン > 緊張から逃れるためか、教官から目を逸らす者も出てくる。
早速一人目か、と思いつつもつられるように視線の先を伺うと、修道女の姿。
「ん…………? まずは教本通り、型の訓練だ。二人一組、一本づつ攻守交替すること。俺が戻ってきた時にさぼってるなよ」
手短に指示を下すと、修道女へと向かいだす。
緊張しきっていた面持ちの騎士達が安堵するのが見て取れた。
牽制するように一度石突で地面を強く叩くが、短時間でも教官が不在なのは心の底から安心するらしい。
足早に女のもとへ向かうと、右手を軽くあげて挨拶した。
「やぁ。しばらく図書館勤めから離れることになった」
■マーシュ > あちらもこちらを認めたのか、近づいてくる姿に若干身構えるのは、普段あまり騎士たちと関わらないためだったが。
彼であれば問題はないのは重々承知しているのだ。
彼が離れて、整列している騎士たちの訓練は大丈夫なのだろうかとも思うが、素人目には滞りなく訓練が続けられているようには見えた。
木剣なりの打ち合う鈍い音を聞きながら。
挨拶に対して修道女は静かに頭を下げる。
顔を上げると少し表情を緩め。
「王城にいらっしゃるとは思いませんでしたので、驚きました」
ただ、出向の場所が変わる、というのは己にもありうることなのでその言葉で納得したように頷いたが。
■ヴァン > 「あぁ。王族・貴族に騎士達と、俺が会いたくない連中ばかりなんだが……
上からの命令は絶対なのが宮仕えの辛い所だな」
バンダナの形を変えているのも、多少変装のつもりだろうか。
訓練中の騎士達は時々、型と型との合間に遠くの回廊にいる教官に視線を向ける。
規則的に配置された柱のため、男が誰と話しているかは判り辛い。服装からして修道女だとはわかっても、
若いのか年老いているのか、背が高いのか低いのかすらわからない。
「一週間くらいかな?王都だけでなく、神聖都市やら何やら色々と出張することになりそうだ。
辻馬車組合の飛竜を使う許可も出ているから、夜は王都に戻れそうだが……」
肩を竦めてみせる。武器を振るうのは男にとっては身体に染みついた動きだが、好きかどうかは別らしい。
■マーシュ > 「そうですね、私もいつ別の場所に出向になるかはわかりませんが……王都であれば城よりは城下の方が幾分気は楽ですし」
いつもより髪型、というよりはバンダナの巻き方が変わっていることを軽く指差しで示しつつ。
ちょうど柱の陰で会話することになったのは、相手の気遣いなのかな、とも思うが、遠く時折こちらを伺っているらしい視線に時折こちらも視線を向けて。
「聖都にも、ですか。それはにわかにお忙しい」
己にとっては、一応の故郷。懐かしくないといえば流石に嘘にはなる。たとえどのような清濁を併せのむ場所だとしても。
「騎士様なのですし、そちらが本来なのではないでしょうか?」
司書としての活動を熱心にしていたのを鑑みると、彼はそちらの方が好ましそうではあったが───。
■ヴァン > 「あぁ……そうか。マーシュさんは王都へは出向で来てるのだったか。
聖都は必要ないと思うんだが……魔族の国との境、タナール砦が魔族におとされて、まだ奪還できてないらしい。
一部の心配性が今更主教の軍備不足について騒ぎ立ててるそうだ」
やれやれとばかりに苦笑してみせる。
時折練兵場に視線を向けるが、真面目に訓練をやっているようだった。
「もうマーシュさんも知ってると思うが、神殿騎士団は掃きだめでね。色々なことにだらしない連中が多いんだ。
こうやって叩き直すのも悪かないが、きりがない。……図書館の方がさぼれるしね」
にっと冗談ぽくわらう。こうやって話している今もさぼりになるだろう。
男が真面目に仕事をしている姿は、意外と珍しいのかもしれない。
■マーシュ > 「はい、私はもともと聖都にいましたので。───私にはそういった軍略のようなものは疎いですが。今のうちに備えておきたいのではないでしょうか?」
そんな会話の合間も、訓練の様子を気にかけている視線を追いかける。
礼拝堂は王城の中でも外廷に位置する場所に多い。
時折聞こえてくる不穏な話題は、耳にしないわけではない。
「…………ヴァンさ、………ん、がさぼらないようにではないでしょうか」
名を呼ぶのに不自然に開いた間は、普段であれば様、と呼んでいただろうから。
先日の約束を思い出して軌道修正を図った結果。
己が邪魔をせずに、彼に真面目に仕事をしてもらう方がいいのかもしれないですね、と冗談めかして言葉をつづけた。
■ヴァン > 「王国の騎士団か、異端審問庁のエージェントに任せた方がいいと思うがね……」
訓練風景を一瞥するが、冒険者を徴兵した方がまだマシといえた。大半の騎士は肩書のために入団する。
先程バンダナを示されたので思い出したか、スタッフを手にする。
「このバンダナの巻き方は、故郷の棒術の達人がしてたやり方を真似たんだ。
これも、その達人が使ってたもののレプリカさ」
黒いクォータースタッフを握ると魔力を籠める。途端に棒は三節棍へと変わった。
マーシュから何歩か離れると、ぶつからないようにゆっくりと三節棍を振る。
舞踊のようにくるくると回すが、元々が木製、鎧を来た相手には効果が薄いだろう。
一方で、今訓練をしている騎士達がつける厚手の布程度には遠心力の乗ったそれは十分な威力を誇る。
「……あぁ、いつも通りの呼び方でいいよ。特別な呼び方をしてくれるのは歓迎だが、君に無理をしてもらいたくはない。
どうかな……あいつら、君のことを厄介者を引き受けた女神か何かだと思ってるだろう」
軌道修正は耳聡く逃さなかったが、呼び方については考えを改めたらしい。
真面目に仕事をのくだりでは、騎士達を指さす。おそらく、それは事実だろう。
■マーシュ > 「そう言うものですか?皆さま熱心そうに見えますが」
あまり個人個人との付き合いはないため、遠目に見えている姿しかわからない。
それが今隣にいる教官の仕事ぶりの結果なら、それは正しく作用しているということなのだろう。
彼の上司の采配は間違ってはいないということだろうが。
「………!」
何の変哲もない、杖術用のスタッフだと思っていたのだが、魔力を帯びるとその形を変えるのに目を瞠った。
見慣れない動きは舞のようで、目を取られる。
打撃武器だから、その威力は素材によるのだろうが、訓練用と言えど、当たり所が悪ければ木製でも十分凶器だろう。
武具とは皆そういうものなのだろうが──。
「ん………。そうおっしゃっていただけると少し気が楽になりますね。」
では無理のない時にでも、と言葉を添えた。
「………、そういうものなのでしょうか。……彼らと仲良く、とは申しませんが…、あまり無茶なさいませんように?」
己がするだけ無駄とはわかっているのだが、それでも僅かな心配を乗せた声音は、友人としてのそれ。
■ヴァン > 「教官の俺の視界内だからね。怖い上司がいなくなりゃさぼる。……俺も人のことを言えないか」
自分を棚にあげたような発言になってしまい、思わず視線を逸らす。
再度魔力を籠めるとスタッフへと戻る。
「東の国では農民が鉄製の武器を持てないために訓練したり、衛兵が捕縛用に棒術を学ぶらしい。
三節棍は扱いが難しいから使う人は少ないそうだ。
無茶はするつもりはないが……今の立ち位置がかなり特殊だからね」
彼女なりに自分のことを慮っての言葉とは理解しつつも、どうしようもないことだと笑う。
ふと何かを思い出したのか、からかうような笑みを浮かべる。
「そうそう、宿題はちゃんとやってるかい?……正直に答えてほしい」
■マーシュ > 「そうさせているのが私ですので、なんとも」
肯定も否定もしかねると困ったように眉尻を下げる。
ただ少し、興味をそそられたのか、スタッフになったそれに触れてもいいですか?と物珍しそうな目を向けている。
「東というと、シェンヤンのような?……そうですね、美しい動きでしたが、間違うと自分にもあたってしまいそうです」
己の言葉に、どこか諦観をにじませた笑みを浮かべるのに、それ以上の言葉は諦めた。何より、彼の方がそういったことには慣れているのだからそれ以上を重ねることもないだろう。
ただ─────
からかうような笑みとともに問われた言葉にぎくりと体を強張らせた。
「…………………………………………………」
正直に、と重ねられると、小さく唸る。
僅かに目線をそらして俯くと──
「ま、まだ、です」
ぽそぽそと小さな声音で、返事を返した。
■ヴァン > クォータースタッフを女へと渡す。それなりの太さのオーク材でできているようだ。
両端に金属がつけられている。振るってみてもいいようにやや離れて。
「そうそう。シェンヤンや、その更に東の国だそうな。あぁ、俺も習いたての頃は自分の後頭部をうったりもした……」
あらゆる武器を習熟しようとしていた時期のことを思い出し、遠い目をする。
続けた言葉に対して強張る身体と共に、長い沈黙。
男の目が細くなる。笑みはそのまま。
「正直でよろしい。マーシュさんは俺と違って大半が共同生活だから、宿題をする時間や場所が限られるのは仕方ない。
機会がないことを責めはしないよ。図書館勤務に戻るまであと一週間、それだけあれば大丈夫だろう?」
相変わらずからかうように。更に何か思いついたのか、騎士団を一瞥すると悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「マーシュさん、ちょっとこのあたりに立って。で、手をこう、差し出すようにしてもらってもいい?」
まだ敬称をつけているので、不埒なことではないだろう。