2021/12/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 一見、図書室の様なこの部屋は、王城の資料室である。
言わば、王城の知の中枢――とまでは行かないが、少なくともそこに近い位置にある。
そんな場所に、明らかにこの場に似つかわしくない、蒼い闘牛士服の男が、大量の資料を広げて書き物をしていた。

「あー、クソ。目がしばしばするな……。
やっぱ、慣れない事はするもんじゃないな」

彼の名は、クレス・ローベルク。
この国では知られた名門である、『ローベルク家』の放蕩息子である。
本来であれば、例え出奔していなくても、この場に入れる身分ではないが……今回は別。
とある王族のコネで、『アドバイザー』としてこの場に入れてもらっている。

「(やれやれ。仕方ないとはいえ……やっぱり、この仕事量はきっついな。
魔物退治のノウハウ"だけ"なら、そこらの将軍にも敗けるつもりはないけど、それを纏めて筆記するとなるとこんなに面倒なんてな……)」

とはいえ、そう。これは仕方のないことである。
彼が求める情報の為には、仕方がない。
周囲に誰もいない事を確認すると、男の目つきが鋭くなる。
するり、と広げられた資料の下から本を取り出すと、素早く捲る。
これは、本来彼が閲覧を許されていない資料――国軍の実験的軍事計画についての資料だ。

「(下手をすれば捕まりかねないからな――素早く見て、素早く戻す。
とにかく、スピードが命だ)」

探すのは、ただ一つ。
とある王族から教えてもらった、不穏な計画について。
その内容は知らないが、その計画にローベルク家が関わっているという時点で。
彼は、この件を調べると決めた。

「(最悪の場合、"最悪のこと"が起こりかねないからな――
あの家だけは、油断がならない)」

クレス・ローベルク > とはいえ。
こんなことをするのは、これが初めてではない。
というより、これは半ば見逃されていると言っても良いだろう。
何せ、国が本気でクレスが望まない『何か』をしようと思えば、最早手は出せないのだから。

「(だから、今犯してるリスクは何の意味もないリスク――それは解ってる。解っているけれど)」

腹の底に沈殿する、虚しさに似た感情を押し殺しつつ、ローベルクが関与している計画を探す。
幸いと言うべきか、紙の質が良いので、捲るにはさして困らない。
戦闘で培われた反射神経は、一ページ三秒ぐらいのペースでの超高速の読解を可能とする。
傍目からはパラパラと見ている程度に見える筈だ。

「(ローベルク家、ローベルク家……と。ん、これ……か?)」

その中から、目的のページを見つけ、止めた。
後は、内容を読むだけ――これもさして時間はかからない。
そう、何かトラブルでも起きない限りは。

クレス・ローベルク > 「(……何だ。ただの戦争正装[ウォーシード]の商取引の打診じゃないか)」

戦争正装[ウォーシード]
それは、有体に言えば魔法の鎧の一種である。
但し、通常の魔法の鎧と違い、これは完全に魔法のみで防御能力を発揮する。

当然、こんな便利な代物が易々と作れるわけもない。
作製には、天才魔術師と呼ばれるレベルの魔力制御技術が必要になる。
その為、規格化や量産はほぼ不可能とさえ言われていたが――ローベルク家は、例外的にその技術を持っている。

「(んー……?まあ、確かに戦術的にはかなり有用な技術なんだけど。
政治的な悪影響が強すぎるって事で、本格採用はまずされない筈なんだけどなあ)」

有体に言うと見た目が最悪すぎる。
布鎧ですらない、ただの布服一枚だけ着せられて、魔物や他国の軍と戦う兵士。
そんなもの、本人はともかく周囲が良く思わない。
かといって、鎧の下に使うには流石にコストが高い。
なので、一部の変わり者や、指揮を上げる慰安要員の為に少数を納品する程度だったのだが……。

「にしちゃ数が多いな……?」

と、ぽつりと声が漏れた。
尤も、漏れた所で、特に問題はない。
ただの独り言として処理される――はずである。

クレス・ローベルク > 「(まあ、やや不自然だけど……少なくとも、俺が恐れてた事態にはなってなかったと思いたい。
恐らくだけど、これは戦略的な理由のはずだ)」

軍政や戦略の話になると、どうしても男にはついていけない領域になる。
元々が、英雄――つまり、戦術的行動だけで戦略を動かすことを想定された存在である。
勿論、軍事的な知識も基本は頭に入っているが、だからといって応用できるほどの知見はない。

「(そろそろ、潮時だしね)」

結果としては骨折り損だったが、しかし骨折り損で良かったとも言える。
万が一――億が一、ローベルク家の秘奥とも言える『戦争仮装[ウォー・マスカレード]』や『英雄促成栽培マニュアル』などが国の手に渡れば、どんな事になるか予測もつかない。

幾ら何でも、そんな馬鹿な真似をするほど、ローベルク家も阿呆ではないはずだが。

「(まあ、何にせよ。要件は済んだ。後は――仕事だけかあ)」

今回のギャラは、この部屋に入る権利と相殺されている為、此処からはロハである。
溜息をつきつつ、男は次の仕事に取り掛かるのだった。

ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」からクレス・ローベルクさんが去りました。