2020/09/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」にマレクさんが現れました。
マレク > 王城の中庭。酒が飲み交わされ、雌が鳴き交わす淫らな宴が行われている最中、眼帯で左目を覆った1人の男が生垣の傍にある長椅子に身を沈めていた。

「……来ましたね」

ワインの入ったグラスを手にした男は、紫色の妖しげな光を放つランタンと、その下でまぐわう肥えた貴族とやせ細った少女娼婦を眺めつつ口を開いた。すると、生け垣の中で何かが蠢く。

「先日の軍議について、お話しします」

グラスに口を付け、生け垣に目を向けないまま言葉を続ける。魔族の密偵であるこの男は、当然ながら独りでは働けない。彼が見聞きしたものを北方の本国へ持ち帰るパートナーが必要である。今その、言うなれば「繋ぎの者」と会っているのだった。

マレク > 「まず、何よりもはっきりしているのは、対魔族の戦線が軽視されているということです」

グラスを揺らしながら、酒精を口にした男が熱い息を吐き出す。混入させた幻覚剤、催淫剤の味を誤魔化すため、今宵供されたワインは酷く甘い。頭が痛くなってきそうだ。

「シェンヤンとの争いが激化したわけではありません。王族や、彼らに近しい貴族が危ぶんでいるのは東です。血の旅団ですよ。アスピダが陥ちたでしょう?あれがまだまだ続きそうなのです」

クッ、と喉を鳴らした男が嘲笑を浮かべる。血の旅団を率いているのは、マグメール王国には過ぎたるほどの忠臣、能臣にして清廉潔白を地で行くほどの勇将……だった。騎士や平民からの人望厚きクシフォス・ガウルスが王侯貴族に目をつけられ、無謀な戦いへ送り込まれることが無ければ、魔族の軍勢はタナール砦に近付くことさえ出来なかったかもしれない。この国を牛耳る者達の愚かさを思い出し、もう一度笑う。

マレク > 「あの難攻不落な城塞都市が旅団の手にある限り、国内に安全な場所などない。貴族たちは自分達の資産が危険に曝されているものだから、軍と物資の流れを捻じ曲げ、是が非でもアスピダを奪還しようと目論んでいるのです。まるで上手くいっていませんが」

酷薄な笑みを浮かべた男は、量の減っていないグラスをゆっくりと回す。貴族に素早く呼応する騎士や軍人というのは、利にはさといが本分を疎かにしがち。根回しや蹴落とし合いには強いが、戦場での働きは今一つなのだ。

「今や王都の魔導院までもが総動員され、アスピダ攻略の新兵器を開発しているそうです。優先順位がよくわかると思いませんか。ひょっとすると、我々はもう北の隣人程度に思われているのかもしれませんよ?」

自嘲した男は、雲に半分覆われた月を片目で見上げた。

マレク > 「つまり、言いたいのは……攻めるなら今ということです」

そう言って、初めて生垣に目をやる。しかし次の瞬間、弾かれたように笑い出した。酔って噴水に放尿しようとしていた肥満体の老貴族が、マレクに照れ笑いを見せつつ場を離れていく。

「ええ、ええ。分かっています。分を弁えろ……でしょう?そもそも、この地を奪う気があるのですか? 我が君は。200年前の大英断を下されたあの御方は、何処へ行ったのでしょうね」

視線を戻し、老貴族に微笑を返した眼帯の男が溜息をついた。

マレク > 「まあ密偵風情が愚痴っていても仕方のないこと。かくなる上は、更に踏み込んだ方法で祖国に貢献するとしましょう」

そう言うや否や、生け垣の葉が散った。不可視の物体が左側から突き出たが、男は眼帯で視界を塞がれているにも関わらず、一瞬でそれを掴み取る。

「私に勝てるとお思いですか? この状況ならば、勝算があるとでもお考えですか?」

肉体に施した偽装とアイオーンの加護の残滓によって、男の力は大きく制限されている。だがそれでも、男は笑みを崩さなかった。やがて、生け垣の中の蠢動が消え去る。

マレク > 「……ご心配なく。私の計画を知れば、きっと気に入ります」

ベンチから立ち上がった男は、緑のダブレットの裾を払って乱痴気騒ぎに背を向け、立ち去る。

「魔族も人間もない。大勢が、喜んでくれるでしょう」

ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」からマレクさんが去りました。