2019/08/28 のログ
レナーテ > タバコを加えた姿が振り返れば、見た目と格好から宴にきた貴族だろうかと察する。
だが、その顔は何処か見覚えがある気がして……誰だろうかと顔には出さぬままに埋もれた記憶を掘り起こしていた。

「あまりそういうのは好きではない…というところですか?」

見た目とは裏腹に気さくな仕草に、柔和な微笑みを浮かべながら表情を緩める。
普段から貴族や王族には辛く当たられる事のほうが多い立場故に、そうでないだけでも少しは心身には優しいもの。
彼の趣味でするような楽しみの中には、似たような姿はないが……逆に、彼の身辺の人々からは気をつけろと言われていた可能性はあるだろう。
王族抱えの民間の軍組織であり、殆がミレー族で構成された奇妙な存在。
肩周りを包み、小さめな胸元の隆起を魅せるケープや、スカートに施された飾り刺繍。
それに浮かび上がる首輪を否定する紋が、その証拠である。

「……」

近づいた理由をいうよりも先に、彼の手にしたものから感じる匂いは、獣の特性を持つ自身には直ぐに分かった。
あまり良いものではない。
普段なら直ぐに抑えてしまうところだが……どうにも引っかかる。
見覚えのある姿をどうにか思い出そうと四苦八苦していたが、やっとその欠片を思い出し、ハッとしたように目を丸くする。

「……あまり身体に毒なものを口にすると、寄付された子供達が悲しみますよ?」

この国では性奴隷の温床ともなりえてしまう孤児院という存在に、金を送っていた貴族。
感謝の式典に呼ばれた際、彼もそこに名を連ねていたのを思い出す。
特に悪い噂はこちらとしては掴んでいない孤児院だったのもあれば、そんなところに慈悲を施す人が嗜むものではなかろう。
眉を顰め、苦笑いを浮かべながら小さな声で指摘するも、それが何かとは言わなかった。
その理由を自身が知るには、まだ彼を深く知らないのだから。

「申し遅れました、チェーンブレイカーのレナーテです。今日はパーティを催されているところが多いので、巡回していたところです」

自己紹介と共に軽く頭を下げてご挨拶を。
彼に近づいたのも、万が一危険な存在が入り込んでいた時に備えたこと。
よく見れば気づくが、腹部のコルセットの中央には、斜めに固定された革製のホルスターがあり、リボルバーの様なものが収まっている。

クロニア > 当然見知った顔ではない、見知った顔でも嗅いだ事の匂いでもないが、
記憶の代わりに何かが自分の中で警告の鐘を鳴らす。
なんだったか、誰だったか、と表情には決して思案している素振りを出さないが、
一先ず相手の顔を確りと見定め値踏みする為にバルコニーの手摺に肘をのせ、
のせた肘で手すりをおして、背中を預けるのを止めると軽く首を左右に捻りながら、
改めて余計なお世話を並べる主の方を向き、相手と向き合った後に
また気だるそうにバルコニーの手摺の背をあずける。

「飯は冷めてる、酒は温い、話が長くて誰もが虎視眈々と懐を狙っている、それの何が楽しいよチェーンブレイカーのお嬢ちゃん。」

ああ、チェーンブレイカーそうだそんな名前だった。
正面から対峙すれば相手の足先から、頭の天辺まで、
まあ弄くり甲斐のあるお胸をしているのはさておき、
彼女の装備と装飾とその組織の前でぴんときた。
確か父親が遊びを咎める際に出していた特長と名前と合致する。

あれには気をつけろ
遊びを続けるならアレには関わるな
面倒ごとは止めてくれ
………諸々。

だと、すれば此方の素性は表側だけでもバレているだろう。
めんどくさい、パーティーよりもめんどくさい事に遭遇したと、聞かれるだろうに舌打を打つのだった。

「ああ、ちなみにコイツは巷で流行の疲れが飛ぶような毒消しの類だよ、宜しければアンタも1本どうだい?おっと、オレの名は知っていると思うが、グロニアだ。正式な場でないからグロニアで覚えてもらえれば結構。」

この国の代表的な暗部の一つ孤児院。
無論善意だけで運営されている孤児院もあろう、だがしかし
そんな善意だけではない、金のなる木として孤児たちを育てる、
そんな孤児院は山ほどあって、自分の名義で寄付しているのは善意のほうと言えるだろう。

但し孤児を美味しく育てるためではない、寄付をエサに孤児院で働く聖職者を狙ってだ。

孤児を育てるのに金なんて幾らでも必要であるし、
見返りを出せない孤児院が子供達以外で支払う方法はそんなにない。

一番ばれ難く美味しいところを吸ってるわけだが勿論、
美味しい果実を育てる為に今度自費で孤児院を建設する予定であり、その噂くらいは聞こえているかもしれない。

さてさて、言葉の宣言どおり彼女にも味わっていただく為に、自分の手で握りこんでいた掌を開いて「毒なモノ」を口に咥えなおすと、ポケットに手を突っ込んで指先でケースから1本見た目だけは煙草と変わらぬソレを引っ張り出すと、咥えるほうを向けて彼女に差し出す。

普通に考えれば貴族の誘いを断ることは難しいだろう。
だが聞き覚えのある組織が彼女の騙りで無ければ断るだろう、
断れば更に強くでる心算であるが、ひとまずはゆるい誘い。

火を点さなければ薄荷に似た香りの何かってだけだが、
これは火をつけると一気に危くなる。

興奮作用も酩酊作用もあるどころか、慣れていないモノが吸えば腰を抜かすくらいに酩酊効果が作用し、
吸いつつければ記憶が飛ぶ、それに恐ろしいのは依存性。

コレに耐性があるか吸う時にコツを掴まないと、じわりじわりと止められなくなる。

視線は試すように彼女の唇を見つめ、へらりと軽薄そうに再び笑う
重そうなコルセットを見れば簡単に手出しできない相手だとわかっているから、
ちょっと絡め手で遊んでやろうと。

レナーテ > 金色の丸い瞳が一際目立つ童顔を、更に幼く見せてしまう大きな丸いレンズの眼鏡姿。
少し遠視気味という程度だったので、瓶底の様な分厚いものでもないが、レンズの縁取りが大きい分に目元を幼くする。
茶系の髪もよく見れば三毛猫の様な色の入り混じった髪をしており、焦げ茶と薄茶が所々で切り替わっていた。
それを二房の緩い三つ編みに整えており、子供っぽさはあるが友人達は優等生と、悪戯好きな共は委員長と揶揄してからかう事もある顔立ち。
戦仕事とはいえ、体は女性らしさのあるもの。
華奢なくびれと、控えめながらも三角形の存在主張の大きい乳房は、服越しでも丸みを帯びたラインを描く。
臀部は筋が張り巡らされたのもあるが、柔らかさも乗っかったのもあって胸元より大きく見えるかも知れない。
そんな姿が、彼の少し乱暴な物言いに苦笑いを浮かべると、困ったように眉を顰めていた。

「宴というより、それだと腹の探り合いですね。想像してたのとは違いました」

美酒美食で贅を尽くし、己の力を見せつけるための無駄金の場所とまでは言わなかったが。
仕事柄、そういうところにはよく招かれていた分、そちらの想像が強かったのだろう。
ごめんなさいと言いたげに苦笑いを浮かべていたが、舌打ちに何故か笑みを見せていた。

「私は賊を討つ仕事で見て回ってるだけですから、とやかく言うつもりはないです。でも、支援してくれた方が体を壊したとなれば、子供達が悲しみますから程々に」

タバコについて言及されると思ったのだろうと思い違いながら、緩く頭を振った。
恐らく、彼にも多少なり裏はあるのだと思うが……それでも、子供に手を出さぬだけマシだろう。
事実、自ら孤児院を立てるというところを立派とは思えど、疑念が取れないわけではない。
組合長もあまり気を許すなとは言っていたが……こうして目にした彼は、そこまで悪人とは思えなかった。

「グロニアさんですね。えっと……では一つだけ」

彼の薦めに言いよどんだのは、体を壊さぬためというのもあるが、一番断りづらい方法だったからだ。
乱暴に来るなら、こちらは組合長である王族の傘の下にいる分、自衛の反撃も面倒にならない。
だが、善意で薦められてしまったタバコはその逆、断って喧嘩になれば自分だけでなく、組合長にも迷惑がかかってしまう。
今は代理な部分もあり、組織の株を下げるような行動もできず、目を伏せて僅かに指先が彷徨った後、苦笑いを浮かべながら受け取った。
不慣れな手付きで口にくわえると、先端に火を灯して煙を吸い込んでいく。
先程よりも強まる危険な香りに、冷静を保とうとはしていたが……身体に染み込むような毒素の力は想定よりも強かった。

「けほっ……」

小さく咳き込みながら口からタバコを離すも、まるで悪酒を煽ったように景色が歪んだ。
金色の瞳が昇天を失い、ふらっと身体が揺れ、たたらを踏んでから尻もちを着いてしまう。
身体が求める強烈な煙への欲求は、鼓動を強烈なほどに早め、暴れさせ、呼吸が小刻みに乱れる。
全力疾走の後の様な短い呼吸を繰り返し、うっすらと上気した頬と困惑に濡れる瞳。
小さく身体を震わせ、白い手もタバコを落とさないように必死に掴んでいるせいか、振動が伝わるかのように揺れていた。
彼に目を向ける様子もなく、自らの身体を御するので精一杯だった。

クロニア > ――品定めと。
差し出したご禁制の危い煙草に似たそれを差し出したら素直に受け取り、
美味そうな可愛い唇に咥えて、火を点す姿を透き通るような青い眼で見つめ、折角なのでゆっくりとその二種の茶色が交じり合う何処ぞで見かけた猫を思い出させる髪、
その綺麗に編まれた二房の髪を引き回せば楽しそうであるし、
よく眺めてみれば中々に壊し甲斐のある可愛い顔立ち、
幼さが少し残るがこの手の愛らしい系の顔が苦痛と屈辱と
女の色に染まるところを眺めるのも嫌いじゃない。
腰のラインから想像するに尻も大きめか、胸元はまあ及第点、もう少しボリュームが欲しいが、
飼いならすならこれくらいが見栄えもいいだろう。

と、まだ其処まで落す心算はないのに予定立てる自分に僅か苦笑いを口元に浮かべて、自分の中では視線の先でご禁制のそれに手を出した少女の身体にそれが巡る様子を眺め、自分は吸わずに掌で握りつぶして、ポケットにそれをしまいケースに戻す。

吸った者の特有の表情である瞳の焦点を失った顔。
まあ、そんな表情をすればそうするよな、と懐から、銀色のプレートを取り出す是もいつも持ち歩いているモノ。

「行き成り火を点すってのはお勧めしないんだが、まあ吸ってしまったものは仕方ねぇよな。うん、じゃあご禁制の薬を吸ってるチェーンブレイカーの隊員さんを撮影しておこうか、希少だからな。」

信用してくれたから危いものにも手を出してくれた。
その善意に優しさに思わず涙ぐみそうに……ならない、
その無用心な愚かさと危さに感謝しながら銀板に指を滑らせると、
その煙草を咥えて薄っすらと頬を染めた顔で必死に煙草を掴んでいる姿を何枚か撮影をしてから、懐に仕舞いこむ。

「慌てなくても、終わったらまた1本くれてやるからさ、ゆっくりと吸いなよ?オレって優しいだろ、だって是で仲間だからな?」

――言葉を理解出来るだろうか、しゃがみ込んでへらりと軽薄そうに笑いながら告げる言葉は共犯者に彼女が堕ちた事を自覚させる言葉。

たとえ薬を抜く術が合ったとしても、彼女がそれを吸った事実は消えない、
たとえ彼女が否定しても……だ。

「ほら、どうせなら手摺のほうに来て城下の景色を見ながら吸えよ、最高だぞ……。」

孤児院のシスターに手を出す術が寄付であるなら。
組織に属するような人間を落すには組織に居られなくするような、
居場所を奪うような罠である。

この堕ちる原因を作った煙草に似たそれを受け取った理由だって、
組織の面子というのを汚さぬためであろう、まあその為にバレたら其処に
居られぬ毒を服用してしまっているが、だ。

まあまさか火をつけるとは思ってなかったが万事問題なし。
彼女にそっと彼女が吸っているそれに似た香りが残る手を差し出して、バルコニーの手摺のほうへと誘う事にする。

もし、手に手が重ねれば彼女を立たせて、言葉通りバルコニーまでエスコートし、夜景を見ながら薬を愉しませてあげようと。

レナーテ > (「思っていたよりキツイ……ですね」)

彼自身が口にしていた分、それほど強烈ではないだろうと思っていたのは誤算だったらしい。
身体を毒される中、プレートを向けられながら聞こえた言葉に、帽子の中の耳が小さく跳ねる。
自身の失態を取ろうとする瞬間、夏日の様な熱気が通り過ぎていくが、それが何を意味しているかは彼が写真を検める時に分かるだろう。
なにせ写真いっぱいに、燃え盛る炎しか刻まれていないのだから。
普段なら毒素を焼き払うための方法をすぐに使えるのだが、今それをすると自身が焼き焦げそうである。
余裕を取り戻すまでと呼吸を整えながら、続く言葉には小さく頭を振って否定しつつ、魔力を灯した掌で先端だけを指先で握って灯火を消していった。

「いえ……身体に合わないみたいなので……結構、です」

あの頃と同じだと自身に言い聞かせ、欲求を僅かな理性で押しつぶす。
牢獄に入れられていた頃の、媚毒漬けにされ、理性を狂わされて本能に振り回されたときと同じ。
そう言い聞かせても体は素直なもので、動ける様子はまったくない。
差し出される手を小さい手で力いっぱい握ると、見た目よりも重たい全重がその腕に掛かるだろう。
張り巡らされた筋の量と、可愛らしい戦装束の重さ、そして腹部に携えた銃。
フラフラになりながら立ち上がると、より掛かるようにバルコニーの手すりに項垂れたが、それが精一杯の強がり。
手品のように手の中で握り込んで消し去ったタバコは無く、開かれた両手をだらりとさせながら朦朧と夜の景色を眺めると、崩れるように振り返る。

「何がしたいんですか……貴方は」

善行とは真逆の仕打ち、彼がまっさらな白ではないのは分かっているが、互いに衝突することに利が無い。
彼の考えが分からず、朦朧としながら浮かんだ思いだけをそのまま吐き出した。
同時にずるりと手すりに寄りかかりながらズリ落ち、再び座り込んでしまうわけだが。

クロニア > 銀板に写る結果は後で現像した際にでも判るが、一瞬手ごたえの無さは感じていた。
が、だからと言ってじゃあ何も写りませんでした!ごめんなさい、何て格好悪い事は出来ない。

――誤算。
彼女が魔力を操るタイプの人間だと想像していなかった。
表面上だけの妄想に浸ってた自分が悪いのだが、何度目だったか、
軽く舌打をすると折角の極上のそれが彼女の手で消滅していくのを眺め、また舌打ち。

「そうかいそうかい、合わないなら仕方ねぇな……。」

折角差し出した手も予定外となるなら引っ込めてやろうかと思ったが、
その前に掌にかかる重たい彼女の装備を含めた体重に苦笑いを浮かべて何とか堪えると、視線の先の彼女がバルコニーの手摺のほうへと、ゾンビの如く……原因は自分であるが、幽鬼の如くな姿で歩く様子に自分も後を追うようについていき。

「……何が、そうだなー思ったより美味そうだから薬漬けにして、それをエサにオレの傍女とかメイドにしてやろうかなって。それ吸いながらやると大抵の人間は嵌るんだけどな、其処まで届かなかったか……。」

失敗した作戦を後生大事に隠しておく趣味は無い。
なのでまるで昼食のメニューを公表するかの軽さで、
目的を吐き出すと手摺に寄りかかりずりおちて座り込む、
その前にしゃがみ込んで、両手を伸ばして今度は束ねている二つの編みこんでいる髪に触れて、
掴んで握り締めようと。

「ん、吸っちまったもんはアレだけどな。ぬけるまで休める場所までご案内しましょうか?城には腐るほど部屋はあるし。」

さて、どうする?と言わんばかりに瞳を覗きこむ。
まだ幾分力の無さそうな金色の瞳を欲望を隠しもしない眼で見つめて、尋ねる。

レナーテ > 銃は銃であれど、魔法銃という魔法を早打ちするに特化した代物。
彼がそこを知らずか見落としていた結果とは言え、内心かなり肝を冷やしていた。
最初の失敗を踏んだのはこちらなのだから、彼が爪を見誤ったのは不幸中の幸いに過ぎない。
逃げ出すかと思ったが、どっしりと構えてこちらへ視線を向ける様子には、貴族にしては気骨がある方だと思え、何故か薄っすらと笑っていた。

「……こんなの吸ってたら、いつか壊れますよ…?」

なれているのかもしれないが、これは確実に体に悪いものだ。
身を滅ぼすような真似をする彼に、窘めるような言葉を投げかけながら苦笑いを浮かべるが、それも力ない。
不意に掛かる掌は、逃すまいと言うように三つ編みを握りしめてくる。
まだ彼にとって、自身は価値のある存在なのだろうと思いながらも、ぼやける金色をゆっくりと細めた。
薄っすらと赤く染まる頬と合わされば、欲望に蕩けるかのように力ない。

「昔……そういうのに沈められたことがありますから。侍女とかメイドにするには……使い物にならない方法だと……思いますけど」

悪びれる様子もない彼に小さく溜息をこぼせば、変わらぬ表情で途絶えながらも吐き出す。
三つ編みの髪も、纏められているとは言え肌に伝わる感触は絹糸のようになめらかで、さらりと肌を撫で返す。
意味深な問いかけには、困ったように笑っていたが雄々しい瞳に目を細めつつ、なぜかすんなりと頷いた。

「……組織と家で喧嘩にならないのと、私達にも利が来るなら…いいですよ。悪い人ですが……嫌いな悪い人では、ないです」

普段嫌う貴族なら、追い詰められたら言い訳と共に逃げ出す。
彼は悪びれることもなく、さも当たり前のように思いを吐き出して未だに求めてくる。
やり方さえ間違っていなければ、嫌う類の人間ではなかった。
だからこそ、熱気帯びた湿っぽい吐息を溢れさせながら、彼の香りの中で微笑んでみせる。
小首をかしげると、揺れる髪からは最初と変わらぬ甘酸っぱい柑橘の香りを零しながら。

クロニア > 掌にも指先にも屋敷で商人から無理やり取り寄せた布よりも何よりも極上の触感を感じる。
それが彼女の服でもなければ柔肌でもなく彼女の編みこんだ髪だと言うからたまらない。

手綱の如く二束の極上の三つ編みを握りながら、軽く掌で編んでいる彼女の髪を揉み、
時折ゆるく引っ張って遊びながら、何とも手元に置いておきたくなるこの少女を眺め、
軽薄な笑みを再びへらっと。

「ハァ、手つきかよ。じゃあ教育も何も済んでんだな……。」

と、人により侮蔑の言葉と聞えるだろう。
興味を失った、価値の無い人間を表す言葉に聞えるかもしれない。

が、逆。
それだけ仕込まれて今も薬を跳ね除ける何かがあるなら、
それこそ試し甲斐があると、嬲り甲斐があると……。
蕩けるような力ない瞳がそそる彼女であるが、微笑まで向けてくる姿に興味が判らないわけがないだろう。

「じゃあそういう技術も期待して構わないんだな、それに是だけコイツに耐性があれば吸わせながらやっても壊れないし、最高じゃねぇか……なあオレのメイドにならない?」

一度言葉は此処で切り、甘酸っぱい柑橘系の香りを胸一杯に吸いながら、顔を寄せて唇を重ねるのではなく彼女の熱を帯びた頬を舌肉でぺろりと舐めあげて、そのまま耳元で言葉を続ける。

「……まあ政治的に難しいことは親父が何とかするだろ、利、は……なんだメイドになってくれてる間の給料は払うぞ、なんせ普通の奴じゃ試せないことも試せそうだし。」

無茶苦茶なことを言ってのけると、彼女の身体を軽々とではなく重々と抱きかかえる。

片腕は相手の背中から胸の辺りまで通して、指先を伸ばしてその膨らみまで届くか伸ばし、もう片腕は両脚を束ねるように膝裏に通して――お姫様抱っこと言う奴で。

連れて行くにしても王城にある空いている寝室の一つ。
だが今夜はそこに彼女の放り投げて、代わりにメイドになる気があるならおいでと名刺を置いて立ち去るだろう。

金箔の貼られた成金趣味の名刺。
其処にはフルネームと屋敷の住所が書いてある。

後日尋ねてくるか来ないかは期待して待ちはするが、不透明。

まあ今夜一夜だけでも楽しかったから良いかと、欠伸をしながら王城から立ち去るのであった。

ご案内:「王都マグメール 王城:バルコニー」からクロニアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城:バルコニー」からレナーテさんが去りました。