2018/10/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城2」にジュスタンさんが現れました。
■ジュスタン > ――コツ、コツ、と廊下に響き渡る足音は重く、しかし、決して鈍重ではない。
腰に剣を提げた白銀の騎士は輝く金色の髪を靡かせ、真っ直ぐに前を向いて進む。
何者かの侵入があったという報告はまだない。
同僚の中には適当に仕事をしている者もいるし、緊急事態も起こっていない日常任務であればそれでも十分と考えることも出来る。
だが、騎士は一欠片の気の緩みもなく真剣な面持ちで廊下を歩き続ける。
鋭い視線は時折物陰へと向けられ、わずかな気配にはさらに緊張の糸が張り詰める。
「……異常なし。」
もちろん何が起こるというわけでもない。
だが、騎士は己の任務を忠実に果たし続ける。
ご案内:「王都マグメール 王城2」にレナーテさんが現れました。
■レナーテ > 派出所がある部屋に面した廊下、その片隅に二人の少女が居た。
頭にはベレー帽、胸元まですっぽり覆うケープを羽織り、白いブラウスに黒のハイウェストスカートに焦げ茶色のショートブーツと、兵士とも貴族王族ともつかぬ姿。
そんな少女が向かい合いながらヒソヒソと言葉をかわしあうと、軽く辺りを一瞥してからケープの中から何かを取り出し、ごそごそと交換し合う。
誰がどう見ても、怪しさ満載の取引現場を繰り広げる中、その二人を追って、自身もドアを開き、廊下へと姿を現す。
「……またですか」
そんな二人の背後から静かに近づき、ぽんと肩に掌を重ねると、油切れの機械のように少女は振り返る。
顔面蒼白の後、猫のように逃げ出す二人は派出所の中へと飛び込んでいき、勢いよくドアが閉まる。
バタンッ!と空気を震わす扉を見やりながら、げんなりとした様子でため息を吐く自身の手には、二人から取り上げたブツらしきものが乗っている。
ベージュ色の大きい包み、何やら文字が刻まれているが、薄れてよく見えないそれを。
■ジュスタン > 順調に見回りを続けていると、ふと二人の少女が何やら密会している現場に遭遇する。
何をしているのかと暫し注意を向けていると何やらこそこそと交換しあう様子。
子供同士のことだ、何もない……はずだが、それで終わらせるわけにもあいかない。
コツ、コツ、と足音を響かせ近寄っていくと別の少女が現れ何やら揉めた後に部屋の中へと消えてしまった。
「失礼、私は近衛騎士団所属ジュスティン・エンフィールド。
そちらの包みの中身を改めさせて頂いても?」
残った少女の前で片膝を折り目線を合わせ、胸の前に片手を置いて語りかける。
丁寧で真面目さを感じさせる言葉遣いながらも極力威圧感は与えぬよう優しい口調を心掛け、じっと真っ直ぐ少女を見つめる。
■レナーテ > 士気を上げるものが、時折こういう変な要素を引っ張り込むのはどうにかしなければならない。
そう思いながら、自身も部屋へと戻ろうとすると、近づく足音に今更に気づいた。
そちらへと振り返れば、先程の少女達よりは大人びたとも、真面目そうとも言えるメガネをした落ち着いた表情が、彼を見上げる。
だが、彼の格好をみやり、少しだけ顔色が曇っていくも……礼儀正しいご挨拶ともに、片膝を突く彼にぱちぱちと金色を瞬かせる。
「いえ……ご丁寧にありがとうございます。私はレナート・ヘヒト、チェーンブレイカーの秘書を務めています」
釣られるように、真面目な返答をしながらも薄っすらとほほ笑みを浮かべながら名前を告げる。
国と軍事の契約を結んでいる組織というぐらいは、師団絡みで耳にしたことはあるかどうかだが。
そして、続くお願いに、内心そう来るだろうなと察して履いたが、暫しの間包みと彼の間を視線が往復する。
何やら迷っている様子だったが、小さくため息を吐きながら眉をひそめると、彼へとそれを差し出した。
「どうぞ、でも開けると長く持ちませんので……」
渋々とその包みを差し出すと、紙の包みとはだいぶ異なる。
革の様な厚みと、光沢、肌触りも綺麗に鞣した革に近いが、それよりも柔らかい。
何より、ぴっちりと中身と張り付くように密閉されており、大きさの割にも軽い。
ただ、彼を一番困惑させるかも知れないのは、表面に入れられた薄くなった文字だろう。
『携帯食料01 ピラフ』と書かれた、怪しさとは程遠い文字が。
■ジュスタン > チェーンブレイカー……確か零師団絡みか……。
少女の身元を確認しながらその後ろの扉を見上げる。
万が一踏み入ることになれば問題にはなろう……が、目の前の証拠品を改めた結果そうなっても致し方ない。
「ありがとう、レナート嬢。
では、失礼します。」
少女の微笑みを受け、躊躇いと共に差し出された包みを慎重に受け取る。
外装を確かめれば鞣し革のような手触り。
そして、刻まれた文字……レーションの類か。
だが、偽装の可能性もある、見た目通りの物であった場合は申し訳ないと思うが職務上改めないわけにもいかない。
不真面目な者、あるいは世間慣れした者であればこの時点で問題なしと判断するだろうが……。
「では、開けさせて頂きます。」
至極真面目な表情を崩さぬまま、包みに指を掛け慎重に開く。
■レナーテ > 扉には、チェーンブレイカー派出所と書かれた看板が、妙に可愛らしい模様入りで揺れている。
年頃の少女ばかりの組織らしいといえば、それらしい可愛い物好きの一面がにじみ出ていた。
樹脂で作られたパックを丁寧に受け取ると、刻印を確かめる様子を、何処と無く不安そうに見上げている。
それなりに察しがいい者なら、食い物かと終わるか、理由を問いかけてくるぐらいだろうと。
しかし、目の前の彼は思いの外真面目…過ぎる、タイプのようで。
開くという答えに、嗚呼と残念そうに唇が開いていく。
「どうぞ……」
としか言いようがない。
これで怪しい薬を持っていただの言われても、大変な始末にある。
首を少し傾けながら、項垂れると同時にパックが静かに開かれていく。
その瞬間、密閉されていた香りが一気に立ち込め、彼の備考に届くだろう。
――鶏肉の旨味をたっぷりと凝縮した、美味そうなピラフの香りが。
「……私達の組織で、一番それが人気がありまして……多分、当番か何かを変わって貰う代わりに、それを譲る譲らないという話……だと思います。あとで揉めるから辞めるようにといっていたんですが…」
独自の瞬間冷凍で水分を抜かれた、カラカラの食材がぎっしりと詰まっており、米と肉、刻まれた無数の野菜が入り混じっているのが見えるだろう。
もちろん、中をどうかき混ぜても、漁っても食べ物以外はなにも詰まっていない。
そして、その説明する最中、居た堪れない恥ずかしさに襲われると、スカートの中でしっぽを丸めながら、俯いていく。
顔を隠すように両手で覆いながらも、隠しきれない首筋や頬の端には、はっきりと朱色が浮かんでいた。
■ジュスタン > 包みを開いた瞬間立ち込める芳ばしい匂い。
冷たいながらもただ冷めただけではない独特の手触り。
なるほど、このような技術があるのかと内心感心しつつ、白銀の冷たい指先で米の一粒一粒をかき混ぜ中身を確かめる。
怪しい物は何もない。
だが、ここまでしてしまってはもう食べられた物ではないだろう。
それでも丁寧に包みを戻し、静かに視線を上げ少女の瞳を眼鏡越しにじっと見つめる。
「失礼しました。
特に問題はないようです。」
申し訳ないと言えば申し訳ない、が、あくまで職務の上の確認。
王城の中で怪しい取引を行った少女たちの落ち度と断ずることが出来るだろう。
「証拠品としてこちらは頂いても?
代わりに先程の少女達をディナーへとお誘いしたいのですが。
もっともこちらのピラフより美味……とは限りませんが。
もちろん、レナート嬢もよろしければご一緒に。」
せっかくのピラフがダメになったと聞けば少女達はきっと落胆するだろう。
故に真っ直ぐと少女を見つめたまま、控えめに。
もっとも少女達の団欒を邪魔するつもりはなく、店を手配するだけに留めるつもり。
■レナーテ > 中身をどれだけ確かめても、旨味の香りと共に、時折黒胡椒の刺激ある香りがあふれるだけ。
「いえ……ありがとうございます」
彼も仕事なのだから、仕方ないことだと思いつつ小さく頷く。
身内の恥をこうも晒された恨みは、あとで二人にきっちり摂らせるとしようと思いながら、スカートの中で丸まった尻尾が不機嫌そうにゆらゆらと踊る。
「えぇ、どうぞ……他に必要があれば、言っていただければ準備しますので……」
どちらにしろ、開封してしまえば長持ちはしない。
彼女達には涙をのんでもらおうと頷くと、続く言葉を耳にしつつ少しずつ俯いていき……内容を理解した瞬間にあわあわとしながら顔を上げた。
改めて重なる視線はまっすぐなのもあり、隠れた耳の内側まで赤くしながら、金色の瞳孔を震わす。
「ぁ、え……っと、その、あの娘達もまだ……そういう、年頃では、ない……ですし、その……私、も……えっと……」
散々犯されたことも、体を求められたこともあるが、丁寧に誘われたことは殆ど無い。
自分達だけでという言葉のないそれに、意味を取り違えてしまえば、先程までの冷静さを完全に失っていく。
視線が重なるほどに、その目から逃げれなくなり、落ち着きなく指先がスカートの布地をきゅっとつまんでいく。
■ジュスタン > 慌てた様子で真っ赤に染まる少女の顔をじっと見つめたまま、一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
遠慮……しているのだろうか。
だが、可憐な唇から漏れる途切れ途切れの言葉をじっと反芻する。
なるほど、そういうことか……。
「勿論、無理にとは申しませんし、何なら保護者の方もご一緒に。
それと無骨な男が一緒では落ち着いて食事も出来ないでしょう。
皆様だけで楽しんでいただければ。
勿論、可憐な淑女と親しくなりたくないといえば嘘になりますが。」
下心があると勘ぐっているのだろう。
それを払拭しようと初めて口元を綻ばせ、爽やかな微笑みを浮かべ精一杯のジョークを添える。