2018/10/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 講堂」にレナーテさんが現れました。
レナーテ > 戦いが終わっても、次の戦いが待っていると言わんばかりに、仕事は重なっていく。
今宵は秘書として、組合長代理の仕事を熟すべくこの場へと招集されていた。
とはいえ呼び出し主は、大体は普段は祟り神を前にだんまりを決める無能な貴族達ばかりなのだが。
ずらっと椅子に座り、列をなす彼等を普段のすまし顔で見やりながら、誰から口を開くかと様子を見る。

『先日の戦、何故砦からひいたのだ! あのまま籠城戦をしていれば、突撃してきた仮面の将を討ち取れたであろう!』

早速一人が喚くように抗議を始めるが、最初に来るのはそれだろうと既に想定はついていた。
撤退後、こちらの軍勢を集落へ回収した後、王城へと報告を入れたのだが、その後の偵察で将軍が引いていたことがわかったからだ。
すぐに後詰めの軍が砦を抑えたものの、暫くの合間主のいない砦となっている。
もしもそこで残っていれば、そういわれるのはそこから想定されていた事で、表情一つ動かない。

「仮にあそこで耐えていた場合ですが、最悪の場合全滅、良くても半数を失って撤退することになっていたでしょう。理由としては、こちらの頭数と装備の特性によるものです」

そう告げると、壁に立てかけられていた何かを手に取る。
布に包まれていたそれをテーブルの上へと転がし、布が剥がれていく。
顕になったのは、自身が使う魔法銃ではなく、銃士隊で一般的に支給されている魔法銃だ。
それを見たところで、貴族達は何がいいたいとにらみつけるだけだが、証拠を見せるように銃を手に取れば、銃口を天井へと向ける。
魔力を注げば、青白い魔法陣が銃口に浮かび上がり、一瞬彼等がどよめくが気にしない。
だが、浮かんでいた陣は次第にバチバチとショートするような音を響かせ、切れかけたランプのように陣を薄れさせて明滅させていた。

「これはこちらで通常に運用される装備の一つ、魔法銃です。簡単に言えば、銃の形をした魔法の杖と思っていただけると、分かりやすいかと思います。普通の魔法と違い、瞬時に魔法を放つことを目的とした装備です」

説明を重ねながら魔力を注ぐのを止めていくと、銃口を彼等に向けないように横に流しながら下へ向け、ボルトを引いていく。
金具の留め金を順序どおりに解除していくと、銃身、被筒等が外れていき、薬室部分が抜き出された。
ピンを抜いてカバーが取り払われると、内部を彼等へと見せつけていく。
複雑な回路の様に刻み込まれた術式が、魔力のエネルギーに焼ききれて焦げ付いたズタズタの状態。
酷使された結果に、彼等の声の音が僅かに変わっていく。

「こうなるとメンテナンスをしなければ使えません。予備の装備も多くは持ち込めません。主装備を欠いて籠城しても、戦力は半減以下です」

故にあれが限界だったと証拠を突きつければ、余程理にかなった言葉が並ばなければひっくり返しようもないだろう。
そもそも、組合長が居ないタイミングで呼び出したのも、ただの嫌がらせというところだろうか。
小娘に綺麗に言い返されて、彼等もいい顔をするはずもないが。

レナーテ > 『だが、戦いにおいて損失は止む得ぬことであろう? 何故多少の被害も容認せんのだ』

恐らく、他の師団や傭兵達以上に損失を避けているであろう。
それを追求するならば、内心は小さく溜息でもつきたいところだが、今は我慢して抑え込む。

「お言葉ですが、こちらの戦闘要員一人に対して、どれだけコストが掛かっているかご存知でしょうか?」

たかがミレーの奴隷種族にコストだの価値だのと、そんな事を言いたげに嘲笑を浮かべるあたり、自分達に掛かるコストが分かっていないようだ。
今度ばかりは小さく溜息が溢れるが、直ぐに普段の顔に戻しつつ、鞄の中から記録水晶を取り出す。

「ではこちらを御覧ください」

そう告げると、魔力を流し込み、そこから浮かび上がる映像が宙に映し出される。
今後の訓練方式についての相談をする際の資料として収めていたものだが、彼等に見せるにはちょうどいいだろう。
1週間目と銘打たれた映像は、ひたすらの基礎訓練から始まる。
組合内の荷物を担いで走り回り、倉庫から荷馬車まで長い距離を幾度も往復するのもあれば、揺れる船の船倉から倉庫までアップダウンを繰り返しながら荷物を運ぶ。
兵站の作業の手伝いを兼ねながらも、今度は敷地内のアスレチックをノンストップで走り続け、乗り越えては走る。
その最中に映る少女達の顔は、意識らしい意識を感じぬ朦朧とした様子だが、それでも走るのも動くのも辞めようとしない。
初日の夕暮れは、顔から地面に突っ伏して、痙攣する程に疲れ果てる少女が多いが、最終日にはぐったりと座り込む程度まで基礎体力を底上げしていく。
だが、ここからが地獄であり、貴族達の表情が凍りつく。

『…ぅ……ぁ』
『ふぇ……』

二週目、限界線突破と銘打たれた訓練は地獄と称するに値する。
先日のメニューは更に密度を上げ、休む暇もなく走り回り、運び周り、障害を乗り越える。
だが、夕暮れになっても、夜になっても、明け方になっても止まらない。
一睡もせずに動き回される少女達は、死んだ魚のような目をしながらも、膝を震わせ走る。

『ぉ、おい。そちらは奴隷扱いをしないのではなかったのか?』
「はい、しておりません。これはギリギリまで追い込んで、極限状態に触れておくための訓練です。様子を見つつ、途中で数時間の睡眠を摂らせますが、あくまで事故防止程度です」

組合長曰く、最前線で最も生き残るのは地獄を経験したものだけだという。
極限状態でも動ける者、音を上げない者が自分の戦友として生き残ったケースが多く、技量だけの兵士はメンタルから折れてあっさり死ぬことも多かったのだとか。
雪を降らせる事のできる鳥の力を用い、冷たい雨風を振らせながら、その中でも動き回らさせられる。
唇を紫にしながら、ガタガタ震えまわりながら動く姿は、肉体労働の奴隷かそれ以上か。
普段なら彼等も目にするであろう光景だが、涼しい顔で訓練と見せられれば、不意打ちだったことだろう。

「この訓練で耐えられた者は、魔力と武器の適性を確かめた後、各々の隊へ所属するための訓練に入ります。大体、これで通過するのは多いときで7割、少ないと3割を下回ります」

不合格者は、改めて再訓練を受けるか、訓練の必要のない仕事へ配属されるかとなる。
兵士の基礎訓練としてみるならば、過剰な訓練内容に講堂は気味が悪いほどに静まり返った。