2017/02/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城2」にフロンスさんが現れました。
フロンス > 「……それで、ちゃんと取引はできたんだよね?…あ、馬鹿…!声はもっと落として…」

雲間から覗く月明かりが辺りを静かに照らす頃、王城の広い応接間では、王族に主催した様々な決め事のためのサロンが開かれていた。豪華な調度品で飾られたサロンで、様々な談話を繰り広げている貴族たちの輪から外れて、窓際に背中を預ける少年は、僅かに隙間風で揺れるカーテンで仕切られた向こう側に独り言のようにぼそぼそと語り掛ける。

そして、自分と同じ声が普段の明るい調子で返そうとしてくると、それを少年は慌てて窘めながら貴族たちの輪へと心配そうに目線を向けた。幸い、談話に夢中な貴族たちは窓際に注意を払うものもおらず、警備のためにいる騎士たちも入り口を固めるばかりで気にも留めておらず、少年は人知れず小さくため息を吐いた。

「はぁ…それじゃあ、ここは僕が出ておくから、もう好きにしてきていいよ…けど忘れる前に司祭との会話は正確に書き起こしてね…特に君は忘れっぽいんだから…」

普段にも増して、ぼそぼそと陰気な態度でカーテンを隔てた窓の向こう側にいる片割れへと語り掛けながら、カーテンへと手を差し入れて窓の鍵を静かに締める。
それきり、窓の向こうにあった気配もなくなった。サロンは侵入者が入りづらいように高い地上階の応接間で行われていたが、常識が通用しない片割れは来た時と同じようにその高さをものともせず暗がりの街へと繰り出していったことだろう。
少年はまた一つため息を吐くと、近くを通りかかるボーイに酒の代わりに水を求めながら、ケープの裾を弄りつつ周囲へと目線を向けた。

フロンス > 話している内容に耳をすませば、軍への予算がどうだとか、ミレー族の奴隷がどうだとか、貴族同士の見識を深める目的で集まったはずのサロンは、もはやすでに各々の享楽のために腹を探り合うものに変貌していた。
少年はボーイが持ってきた清水が満たされたグラスを受け取ると、それをわずかに口に含みながらその様子を眺めていた。

「……まぁ、僕もそっちの方がありがたいけど」

未だ短い生の中で、そのほとんどを異質な世界で過ごした少年にとっては、欲望のままに繰り広げられる話し合いは好ましく感じられる。そして、少年もその輪へと入っていくために歩を進めていく。

「ええ、そういった類のものはとても要望が多いもので…。すでに我がピルラ家に魔法薬の用意があります…」

貴族たちの話は、政敵を陥れる企みに変わっていた。勿論、その名は誰も挙げることなくぼかされていたが、この場にいる貴族たちの派閥には通じていた。少年の家であるピルラ家もその派閥に属しており、その魔法薬の技術を医療のためではない別の目的のために用いていることも公然の秘密である。
多くの場合、証拠を残さず穏便に行われる企みには、ピルラ家の魔法薬が寄与していたのだという。そして今回も、そのための魔法薬を求められているようだった。
少年は頷きながら、どこか醒めた気持ちで自信ありげでもなく、投げやりな態度で応えていく。ここにいる貴族たちは、たかが15の若造の少年を見てはいない。その少年が簒奪した家名すら、見えてはいないだろう。求められているのはその魔法薬だけだった。何一つ従うことのないまま今生の別れとなった父の教えに、魔法薬の技術は断固として秘するべきという理由が、なんとなく少年にも理解ができて。

フロンス > 「では、これは飲物に混ぜて使うものですので、くれぐれも外気に触れさせないでください…」

その後、企みの相談はまとまり、少年は持ち込んだ魔法薬を渡して取引を成立させた。その魔法薬がどんな結果をもたらすかはもはや少年の興味をひくことではなく、その後も続く享楽の限りを尽くす談話に付き合い切れないとばかりに去っていくが、それを気に留める者もいない。
少年が屋敷で片割れが戻るのを待つ間は、いつも以上に待ち遠しい時間となった。

ご案内:「王都マグメール 王城2」からフロンスさんが去りました。