2016/11/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 格闘教練場」にフォークさんが現れました。
■フォーク > 「はい、皆さん。いいですか~」
日雇いで格闘技の指導をしているフォーク・ルースは指導する兵士たちに、猫撫で声で呼びかける。
「最後にこれから一人ずつ、私と組手をしてもらいます。皆さんは優秀な生徒さんたちばかりなので
逆に私の方がやられてしまうかもしれませんが、何とぞお手柔らかに……」
まず一人目の兵士が前に出てきた。どことなく怯えたような顔になっている。
それもそのはず。本日教えている兵士たちは、ほぼ全員が貴族の子弟ばかりだ。本来なら戦場に出る必要もない連中だ。
しかし「いざという時は戦場に出ますよ」と国に忠誠心を示すために、形ばかりの戦闘訓練をする必要がある。
そんな「いざ」がやってくることも当分はないのは皆知っている。だからやる気も皆無だ。
(でも、それなりに頑張ってもらわんと、俺の飯の食い上げなのよね)
指導員の男としては、多少甘やかしてでも訓練に参加をしてもらわなければならない。
「さあ、どうぞ!」
兵士が拳を繰り出してきた。甘い拳だ。
受け止める。
二発目
払い落とす。
三発目。
軽くいなす。脇のガードを緩めた。
四発目。男の脇腹にヒットした。
男は大げさに巨体を揺らし、尻もちをついてみせる。
「あいたたた……ううん、君の拳は鍛え続ければ鉄も砕くぞ、頑張りなさい」
生徒は誇らしげに教練場を去っていった。
こんなのを最後の一人まで続けるのである。
男のストレスは、いかばかりであろうか。
■フォーク > (我ながら、ちょいと芝居がすぎるかな)
内心、苦笑いをする男。
基本的に武術を指導する教官は、相手が貴族だろうが王族だろうが特別扱いはしない。
特別待遇は、実際に戦場に立った際の命取りになるからだ。
貴族や王族の子弟は甘やかされている事が多いので、むしろ一般兵士よりも過酷な調練を積ませる必要がある。
それは男もわかっている。しかしどうしても踏みとどまってしまうのである。
(あの時みたいになっちゃいかんからなあ……)
フォーク・ルースは数年前、別の土地でやはり有力者の子弟たちに格闘技の調練を依頼されたことがあった。
張り切った男は、その子弟たちに『傭兵流』の調練を行ったのである。
翌日、誰も調練には参加しなかった。
翌々日、男はお払い箱になったのである。要は厳しすぎたのだ。
(厳しいだけじゃ、人はついて来ないってことだな)
貴族の子弟とヌルい組手をしながら、そんなことを考える。
一人ひとり、素質も性格も違う。そこを汲んで適切に教えるのが指導員の役目だ。
こんな連中にでも、鍛えればものになりそうなのもいる。
そういった逸材を見つけるのもまた愉しいのだ。
■フォーク > 「ふー、疲れた」
指導を終えた男。最後に調練場を出て、鍵を締める。
気を遣うのは、体を動かすよりも疲労感が強い。
「どれせっかく王城に入ったんだ。少し見て廻るか」
と、城の中をぶらつくのである。
ご案内:「王都マグメール 格闘教練場」からフォークさんが去りました。