2016/01/17 のログ
■ツァリエル > 手のひらを壁に叩きつけられればびくりと怯えた様に肩をすくませる。
だがそこで弱弱しく振る舞う様子は見えない。
じっとヴァイルの眼を覗き込んでゆっくりと息を吸い込み少しずつ自分の言いたいことを口にする。
「……僕の願いは、あなたのものになることです。
だから、あなたが僕の振りなんかしなくてもいい。
僕自身があなたの共犯者になります。
そうしたら、あなたに僕が持てるもののすべてを差し上げます。
……それでどうでしょうか」
随分と分の悪い願いであり、取引慣れしていない願いではあったが
ツァリエルが心の底から願うのはそれしかなかった。
別に砂漠の中に埋もれた砂金の一粒も王位も地位もいらなかった。
この孤独な魔物と共に在れたらそれだけでよかったのだった。
■ヴァイル > 礼拝堂に少しの間沈黙が降りた。
ツァリエルの姿をとったヴァイルの靴が床に滑るかすかな音。
「そんなものが願いか。
――つまりは、おれの傀儡となる、ということだぞ、それは」
吐き出された声はつとめて平坦なものだった。
いつのまにかヴァイルの姿は、彼自身の少年のものへと戻っている。
壁に手をついた姿勢をやめ、数歩離れて背を向ける。
「教えてやろう、ツァリエル。
願いというのは、待っていても与えられない。
求めて、足掻いて、泥にまみれて――ようやく、つかめるものだ」
忠言のようにそう言う。
表情は見えないが、どこか満足気なものが、声に滲んでいた。
一度ツァリエルが瞬きをすれば、その合間に、魔族の姿は失せる。
「――その願い、聞き届けたり」
遅れて、誰もいないはずのその空間から、その言葉が響く。
それっきりだった。
■ツァリエル > てっきり一笑に付されるかと思っていたが、ヴァイルはそうはしなかった。
「傀儡でも自ら操られる人を選べるのなら、僕はヴァイルさんがいい」
そう言い切ってほぅと息を深々とはいた。
このまま馬鹿にされて自分を切り刻まれても自分の思いは伝えられた。
相手が願いなど一切聞き届けなくとも別に仕方ないと思っていたが──。
一瞬ののち姿が掻き消えたヴァイルに礼拝堂の中を首をめぐらせて探す。
だが彼の姿は見えず、残された言葉の意味をようやく理解して
へたへたとその場に膝をついた。
ああこれでやっと同じところに立てたのだと、胸の内に喜びが満ちたのだった。
ご案内:「王城内 とある一室」からツァリエルさんが去りました。
ご案内:「王城内 とある一室」からヴァイルさんが去りました。