2023/07/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
メイラ・ダンタリオ >  
 王都マグメール 王城の午後 半端な小雨
 応接室にて


   『襲撃されたと聞いている。』


 目の前にいる、中年差し掛かる頬の彫りの鋭さ
 樽まぬ肌は引き締めにより、皮が重力に逆らっている。
 王城内故 儀礼的でもない限り鎧を纏うのは配備されている兵のみ
 王族貴族構わず、内部で働く者は飾り驕ったものからシンプルなものまでいるだろう。
 その中で鎧を脱いだだけに止めるような動きやすさを重視している目の前の御仁に対したメイラ。

 本人は、何食わぬ顔で応接室のソファに腰を下ろし、持ち込んでいる整備用の砥石粉と油
 それで愛刀の手入れをしながらむしろ笑みすら浮かべている。
 目の前の一人は、メイラが現在アスピダに赴かない理由を知っている一人
 いわば、群れて動いて殺しまわるメイラと同じ穴の狢 その一人と言うべきか。


   「王城内で勝手に嫌われて勝手に憧れを抱かれる。
    勝手ですわねぇ、どこまでも。」


 ポン、ポンと手入れをする綿の先に塗された砥石粉で刀身を半円を刻んで振れていく様子。
 口元には息がかからないように折りたたんだ半紙を挟んでいるのが見えた。
 愛刀の妖刀足る刀身の照りはいくつもの層が細かく見え、照かるようにされた安っぽいそれではない
 自然体の鋼の反射というものは、どこまでも吸い付くように瞳を向かわせる。


   「といえど、わたくし個人が狙われるなど何十年も前から当たり前でしょう?」

 
 ク、ククク、と半紙で挟む手元の刀身 鍔元から切っ先に至るまで
 余分な粉が除かれ油が落ちていく。
 黒石目のざらついた鉄拵えの鞘に、刀身が静かに収まり、鞘の中で滞空する手ごたえ。
 パチンッと納まったそれに対し、大脇差も同様に手入れを終えながら腰に収まる頃には
 半紙は静かに唇から外されただろう。


   「メイド風情に化けた暗殺者の一人や二人 寧ろ懐かしく思いますわ。
    お前がやっかみを抱いているのは、今更嗾けるなど貴族よりも王族の可能性が高いせいでしょう?」


 そう 今更貴族がメイラに嗾けるなどありえない。
 いる事でのうざさよりも、居る事での恩恵が勝る
 領地を守るためには領民は犠牲になることも吝かではない
 しかし国を守るためには貴族が騎士という肩書きを引き連れて失っていく。
 それを何度も少なく防いでいるのは、戦いたがりの馬鹿に数えられる者しかいないのだ。


   『…、…。』 


 王族相手では、ただの武人貴族では何も言えない
 メイラのようなただ一人に固執した馬鹿にしか通用しない理であり
 それをいまさら真似をしようものなら、どうされても文句は言えない。


 「わたくし達はタナールやアスピダだというのに、王族の継承争いに入れてほしくないですわね。
  それより―――あの執事 皆殺しと腹上死にさせましたなどと。」


 肩をすくめて、柄を撫でる。
 メイラや武人のような巻き込まれる形の者からすれば 今や王城内も敵地の匂いを香らせるのだろう
 ピリッとした空気が消えていない。